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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0068001 上田 善文]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0068001 上田 善文]</font><[[br]]>
''金沢医科大学 血液免疫内科学''<br>
''金沢医科大学 血液免疫内科学''<br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀]</font><br>
''独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター''<br>
''独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター''<br>
DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2013年9月18日 原稿完成日:2013年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年9月18日 原稿完成日:2014年4月7日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br>
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 ''κ''はドナーとアクセプターの相互分子配向である。多くの場合、正確に求める事は困難であるため、しばしば''κ''<sup>2</sup> =2/3 と仮定される。この値は、両方の色素が自由に回転しており、励起状態の間は等方的に配向していると考えられる場合に得られる。色素が固定されている場合や自由に回転することができないような場合、''κ''<sup>2</sup> =2/3 とは仮定できない。''Q<sub>0</sub>''はアクセプターが無い場合のドナーの蛍光[[wj:量子収率|量子収率]]、''n''は媒体の[[wj:屈折率|屈折率]](水、25 °Cの場合、1.3342)、''N<sub>A</sub>''は[[wj:アボガドロ数|アボガドロ数]]である。これらの定数を当てはめると、''κ''より前の部分は、8.786 x 10<sup>11</sup> mol L<sup>-1</sup> cm nm<sup>2</sup>となる<ref><pubmed> 10964438</pubmed>但しこの論文にはミスプリが有り、p. 439で''κ''<sup>2</sup> とすべき所を、''κ''としている。</ref>。
 ''κ''はドナーとアクセプターの相互分子配向である。多くの場合、正確に求める事は困難であるため、しばしば''κ''<sup>2</sup> =2/3 と仮定される。この値は、両方の色素が自由に回転しており、励起状態の間は等方的に配向していると考えられる場合に得られる。色素が固定されている場合や自由に回転することができないような場合、''κ''<sup>2</sup> =2/3 とは仮定できない。''Q<sub>0</sub>''はアクセプターが無い場合のドナーの蛍光[[wj:量子収率|量子収率]]、''n''は媒体の[[wj:屈折率|屈折率]](水、25 °Cの場合、1.3342)、''N<sub>A</sub>''は[[wj:アボガドロ数|アボガドロ数]]である。これらの定数を当てはめると、''κ''より前の部分は、8.786 x 10<sup>11</sup> mol L<sup>-1</sup> cm nm<sup>2</sup>となる<ref><[[pubmed]]> 10964438</pubmed>但しこの論文にはミスプリが有り、p. 439で''κ''<sup>2</sup> とすべき所を、''κ''としている。</ref>。


 ''R<sub>0</sub>''を用いると、FRET効率''E''は次のように表す事が出来る。
 ''R<sub>0</sub>''を用いると、FRET効率''E''は次のように表す事が出来る。
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===プローブの分解に伴うFRETの変化を検出するプローブ===
===プローブの分解に伴うFRETの変化を検出するプローブ===
 この原理は、FRETプローブの最も初期に導入されたデザインである(図5A)。プロテアーゼによって分解される配列の両端にドナーとアクセプターを連結する。プロテアーゼによって、この配列が分解されるとドナーとアクセプターの間に起きていたFRETが解消されることによって、プロテアーゼの活性を評価する。例として、[[wj:第X因子|第X因子]]、[[wikipedia:ja:カスパーゼ|カスパーゼ]]などの[[wikipedia:ja:プロテアーゼ|プロテアーゼ]]活性のプローブが挙げられる<ref name=ref5><pubmed>8707050</pubmed></ref> <ref name=ref6><pubmed>9518501</pubmed></ref> <ref name=ref7><pubmed>12409609</pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed>21637712</pubmed></ref> <ref name=ref9><pubmed>17946841</pubmed></ref>。このプローブのデザインの短所としては、反応が不可逆的であるために、一つの実験系で何度も測定することが困難であることである。
 この原理は、FRETプローブの最も初期に導入されたデザインである(図5A)。プロテアーゼによって分解される配列の両端にドナーとアクセプターを連結する。プロテアーゼによって、この配列が分解されるとドナーとアクセプターの間に起きていたFRETが解消されることによって、プロテアーゼの活性を評価する。例として、[[wj:第X因子|第X因子]]、[[カスパーゼ]]などの[[プロテアーゼ]]活性のプローブが挙げられる<ref name=ref5><pubmed>8707050</pubmed></ref> <ref name=ref6><pubmed>9518501</pubmed></ref> <ref name=ref7><pubmed>12409609</pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed>21637712</pubmed></ref> <ref name=ref9><pubmed>17946841</pubmed></ref>。このプローブのデザインの短所としては、反応が不可逆的であるために、一つの実験系で何度も測定することが困難であることである。


===二分子間相互作用を利用したFRETプローブ===
===二分子間相互作用を利用したFRETプローブ===
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| [[ストレス活性化プロテインキナーゼ3]] ([[Stress-Activated Protein Kinase Kinase Kinase]], [[stress-activated protein kinase 3]], [[SAP3K]]) || || 2009 || F || <ref><pubmed>19737916</pubmed></ref>
| [[ストレス活性化プロテインキナーゼ3]] ([[Stress-Activated Protein Kinase Kinase Kinase]], [[stress-activated protein kinase 3]], [[SAP3K]]) || || 2009 || F || <ref><pubmed>19737916</pubmed></ref>
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| [[細胞死関連タンパク質キナーゼ]] ([[death associated protein kinase 1]], [[DAPK1]]) ||DAPK1(334)-F40|| 2011 || D || <ref name=ref21506563 />
| [[細胞死関連タンパク質キナーゼ]] ([[death associated protein kinase 1]], [[DAPK1]]) ||DAPK1(334)-[[F4]]0|| 2011 || D || <ref name=ref21506563 />
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| [[ホスファターゼ]] || [[カルシニューリン]] ||CaNAR1|| 2008, 2013 || D || <ref name=ref23602566 /><ref name=ref12 />
| [[ホスファターゼ]] || [[カルシニューリン]] ||CaNAR1|| 2008, 2013 || D || <ref name=ref23602566 /><ref name=ref12 />
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| [[Rac]] ||Raichu-[[Rac1]]|| 2004 || E || <ref name=ref14570905><pubmed>14570905</pubmed></ref>
| [[Rac]] ||Raichu-[[Rac1]]|| 2004 || E || <ref name=ref14570905><pubmed>14570905</pubmed></ref>
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| [[Rab5]] ||Raichu-Rab5|| 2008 || E || <ref><pubmed>18385674</pubmed></ref>
| [[Rab5]] ||Raichu-[[Rab]]5|| 2008 || E || <ref><pubmed>18385674</pubmed></ref>
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| [[Rho]] ||Raichu-RhoA|| 2003, 2011 || B, E || <ref name=ref21423166><pubmed>21423166</pubmed></ref> <ref><pubmed> 12860967</pubmed></ref>
| [[Rho]] ||Raichu-RhoA|| 2003, 2011 || B, E || <ref name=ref21423166><pubmed>21423166</pubmed></ref> <ref><pubmed> 12860967</pubmed></ref>
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 ところが通常用いられる蛍光色素では5-10 nm程度の範囲まででFRETが観察されるのに対し、抗体自体が15 nmの大きさを持っている。また抗体のヒンジ部分で自由に折れ曲がる事が可能である。しかも2個の抗体を用いる。これらを考慮に入れると、目的とする分子の構造変化や相互作用が起こっていてもFRETが検出できない可能性がある。逆に仮にFRETが起きたとしても目的とするタンパク質が本当に相互作用しているかの実証とはならない。確実に言えるのは二つの抗原部位が数十nm以内に存在するという事実だけである。その為、タンパク質の構造変化を見るような実験には用いるのは難しい。また、免疫染色である為、固定したサンプルを用いなければならない。
 ところが通常用いられる蛍光色素では5-10 nm程度の範囲まででFRETが観察されるのに対し、抗体自体が15 nmの大きさを持っている。また抗体のヒンジ部分で自由に折れ曲がる事が可能である。しかも2個の抗体を用いる。これらを考慮に入れると、目的とする分子の構造変化や相互作用が起こっていてもFRETが検出できない可能性がある。逆に仮にFRETが起きたとしても目的とするタンパク質が本当に相互作用しているかの実証とはならない。確実に言えるのは二つの抗原部位が数十nm以内に存在するという事実だけである。その為、タンパク質の構造変化を見るような実験には用いるのは難しい。また、免疫染色である為、固定したサンプルを用いなければならない。


 しかし、最近intrabodyなどと呼ばれる希望するタンパク質と特異的に結合するタンパク質配列をデザインする方法が開発されつつある<ref name=ref23836932 ><pubmed> 23836932 </pubmed></ref>
 しかし、最近intrabody、nanobody、FingRなどと呼ばれる希望するタンパク質と特異的に結合する小型のタンパク質配列をデザインする方法が開発されつつある<ref name=ref23836932 ><pubmed> 23836932 </pubmed></ref><ref name=ref23791193><pubmed> 23791193 </pubmed></ref><ref name=ref24005308 ><pubmed> 24005308 </pubmed></ref><ref name=ref16053141 ><pubmed>  16053141 </pubmed></ref>。これを用いると、任意の分子に結合する、抗体よりも小型で、かつ遺伝子によってコードされる蛍光ラベルが可能となるであろう。このような方法を用いる事により、GFP融合タンパクによらない、内在性のタンパク質の相互作用を検出できる可能性がある。
<ref name=ref23791193><pubmed> 23791193 </pubmed></ref><ref name=ref24005308 ><pubmed> 24005308 </pubmed></ref>。これを用いると、任意の分子に結合する、抗体よりも小型で、かつ遺伝子によってコードされる蛍光ラベルが可能となるであろう。このような方法を用いる事により、GFP融合タンパクによらない、内在性のタンパク質の相互作用を検出できる可能性がある。


==神経科学分野への応用例 ==
==神経科学分野への応用例 ==
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 一方、[[樹状突起]][[スパイン]])の形態を制御する[[アクチン]]の重合を可視化するためのFRETプローブが開発され、アクチンの重合が長期増強現象に伴い引き起こされる事、またそれが長期間維持される事が示された<ref name=ref10 />。その調節の上流にある[[Rho族低分子量Gタンパク質]][[Cdc42]]、[[RhoA]]の活性も同様に維持される事が判った<ref name=ref19295602 /> <ref><pubmed>18556515</pubmed></ref> <ref name=ref21423166 />。  
 一方、[[樹状突起]][[スパイン]])の形態を制御する[[アクチン]]の重合を可視化するためのFRETプローブが開発され、アクチンの重合が長期増強現象に伴い引き起こされる事、またそれが長期間維持される事が示された<ref name=ref10 />。その調節の上流にある[[Rho族低分子量Gタンパク質]][[Cdc42]]、[[RhoA]]の活性も同様に維持される事が判った<ref name=ref19295602 /> <ref><pubmed>18556515</pubmed></ref> <ref name=ref21423166 />。  


 個体においてもFRET測定法が導入されている。神経回路ネットワークにおける[[シナプス]]の役割を解明する目的で、[[フェレット]]の[[大脳皮質]][[視覚野]]にCaMKIIプローブを発現し、[[片眼剥奪]]によって、神経回路ネットワークに変化を起こした時のCaMKIIの活性化の変化を観測している<ref><pubmed>22160721</pubmed></ref>。また、神経活動をモニターする膜電位プローブを開発し[[マウス]]の[[洞毛]]刺激の投射先である[[体性感覚野]][[バレル皮質]]での入力特異的な神経の活性化を観察している<ref><pubmed>20622860</pubmed></ref>。
 個体においてもFRET測定法が導入されている。神経回路ネットワークにおける[[シナプス]]の役割を解明する目的で、[[フェレット]]の[[大脳皮質]][[視覚野]]にCaMKIIプローブを発現し、[[片眼剥奪]]によって、神経回路ネットワークに変化を起こした時のCaMKIIの活性化の変化を観測している<ref><pubmed>22160721</pubmed></ref>。また、神経活動をモニターする膜電位プローブを開発し[[マウス]]の[[洞毛]](ヒゲ)刺激の投射先である[[体性感覚野]][[バレル皮質]]での入力特異的な神経の活性化を観察している<ref><pubmed>20622860</pubmed></ref>。


 病態との関係では、神経細胞内のカルシウム濃度を測定するために、[[オレゴングリーンBAPTA]]の蛍光寿命の変化から、カルシウム濃度を測定し、[[アストロサイト]]でのカルシウム濃度が、[[アルツハイマー病]]モデル[[マウス]]と正常マウスで異なることが報告されている<ref><pubmed>19251629</pubmed></ref>。
 病態との関係では、神経細胞内のカルシウム濃度を測定するために、[[オレゴングリーンBAPTA]]の蛍光寿命の変化から、カルシウム濃度を測定し、[[アストロサイト]]でのカルシウム濃度が、[[アルツハイマー病]]モデル[[マウス]]と正常マウスで異なることが報告されている<ref><pubmed>19251629</pubmed></ref>。


 Homo-FRETも応用されている。CaMKIIは12量体を形成しているが、異方性の変化を基に、その構造中に二量体の単位が存在し、活性化に伴う二量体同士の位置関係が変化することが明らかにされている<ref><pubmed>19339497</pubmed></ref>。  
 Homo-FRETも応用されている。CaMKIIは12量体を形成しているが、異方性の変化を基に、その構造中に二量体の単位が存在し、活性化に伴う二量体同士の位置関係が変化することが明らかにされている<ref><pubmed>19339497</pubmed></ref>。


== 将来展望  ==
== 将来展望  ==

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