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英語名:γ-aminobutyric acid
英語名:γ-aminobutyric acid 独:γ-Aminobuttersäure 仏:acide γ-aminobutyrique
 
同義語:γ-アミノ酪酸


{{box|text= GABAとは、主に[[脳幹]]よりも吻側の[[中枢神経系]]の[[抑制性シナプス]]伝達を担う[[アミノ酸]]である。[[イオンチャネル]]型の[[GABAA受容体|GABA<sub>A</sub>受容体]]、[[GABAC受容体|GABA<sub>C</sub>受容体]]、ならびに[[Gタンパク質共役型受容体]]である[[GABAB受容体|GABA<sub>B</sub>受容体]]に作用することで、神経細胞の活動性を低下させる。}}
{{box|text= GABAとは、主に[[脳幹]]よりも吻側の[[中枢神経系]]の[[抑制性シナプス]]伝達を担う[[アミノ酸]]である。[[イオンチャネル]]型の[[GABAA受容体|GABA<sub>A</sub>受容体]]、[[GABAC受容体|GABA<sub>C</sub>受容体]]、ならびに[[Gタンパク質共役型受容体]]である[[GABAB受容体|GABA<sub>B</sub>受容体]]に作用することで、神経細胞の活動性を低下させる。}}


== GABAとは==
== GABAとは==
 GABAは、[[wikipedia:ja:イモ|イモ]]などの植物に含まれるアミノ酸として古くから知られていたが、1950年代になって、林髞らにより脳にGABAを注入すると抑制作用を示すことが明らかにされ<ref name=ref4><pubmed>13590228</pubmed></ref>、1966年には大塚正徳らが、ザリガニの[[神経筋接合部]]においてGABAが刺激に応じて放出されることを証明し、GABAの[[抑制性伝達物質]]としての同定に寄与した<ref name=ref5><pubmed>5230136</pubmed></ref>。その後、1967年にKrnjevicとSchwartzがGABAが抑制性神経伝達物質であると証明し<ref name=ref6><pubmed>6031164</pubmed></ref>、今日では、[[wikipedia:ja:哺乳動物|哺乳動物]]の[[中枢神経系]]において、GABAが抑制性伝達物質であることは広く認識されている。もちろん、GABAは中枢神経系以外にも、さまざまな非神経組織に存在して、その組織特有の生理機能を有していると考えられている。  
 &gamma;-アミノ酪酸 (&gamma;-aminobutyric acid, GABA)は、[[wikipedia:ja:イモ|イモ]]などの植物に含まれるアミノ酸として古くから知られていたが、1950年代になって、[[wj:林髞|林髞]]らにより脳にGABAを注入すると抑制作用を示すことが明らかにされ<ref name=ref4><pubmed>13590228</pubmed></ref>、1966年には[[wj:大塚正徳|大塚正徳]]らが、[[wj:ザリガニ|ザリガニ]]の[[神経筋接合部]]においてGABAが刺激に応じて放出されることを証明し、GABAの[[抑制性伝達物質]]としての同定に寄与した<ref name=ref5><pubmed>5230136</pubmed></ref>。その後、1967年に[[w:Krešimir Krnjević|Krnjevic]]とSchwartzがGABAが抑制性神経伝達物質であると証明し<ref name=ref6><pubmed>6031164</pubmed></ref>、今日では、[[wikipedia:ja:哺乳動物|哺乳動物]]の[[中枢神経系]]において、GABAが抑制性伝達物質であることは広く認識されている。もちろん、GABAは中枢神経系以外にも、さまざまな非神経組織に存在して、その組織特有の生理機能を有していると考えられている。  


==生合成==
==生合成==
 GABAの生合成に関しては、脳内では主に、[[グルタミン酸デカルボキシラーゼ]](glutamic acid decarboxylase; GAD)による脱炭酸によって、[[グルタミン酸]]から産生される<ref name=ref7><pubmed>2069816</pubmed></ref>。このGADには、 分子量が 65300と66600の2つのアイソフォーム([[GAD65]]と[[GAD67]])が知られており、どちらも同一の抑制性神経細胞に存在するが、GAD67が[[細胞質]]全体に存在するのに対してGAD65は[[神経終末]]部に豊富に存在することから<ref name=ref8><pubmed>8126575</pubmed></ref>、GAD65が抑制性シナプス伝達を担うGABA合成に関与すると考えられている<ref name=ref9><pubmed>9871412</pubmed></ref>。
 脳内では主に、[[グルタミン酸デカルボキシラーゼ]](glutamic acid decarboxylase; GAD)による脱炭酸によって、[[グルタミン酸]]から産生される<ref name=ref7><pubmed>2069816</pubmed></ref>。このGADには、 分子量が 65300と66600の2つのアイソフォーム([[GAD65]]と[[GAD67]])が知られており、どちらも同一の抑制性神経細胞に存在するが、GAD67が[[細胞質]]全体に存在するのに対してGAD65は[[神経終末]]部に豊富に存在することから<ref name=ref8><pubmed>8126575</pubmed></ref>、GAD65が抑制性シナプス伝達を担うGABA合成に関与すると考えられている<ref name=ref9><pubmed>9871412</pubmed></ref>。


 GABAの合成に関しては、[[wikipedia:ja:TCAサイクル|TCAサイクル]]の[[wikipedia:ja:α-ケトグルタル酸|α-ケトグルタル酸]]からグルタミン酸を経由してGABAが合成される経路がある<ref name=ref10><pubmed>10412025</pubmed></ref>。また、神経終末部では、細胞外から[[グルタミン酸輸送体]]により、グルタミン酸が取り込まれてGAD65によりGABAが合成される。GABAの分解過程では、GABAは[[GABA transaminase]]により[[コハク酸セミアルデヒド]]となり、その後酸化されて[[コハク酸]]となりTCAサイクルに入る。
 GABAの合成に関しては、[[wikipedia:ja:TCAサイクル|TCAサイクル]]の[[wikipedia:ja:α-ケトグルタル酸|α-ケトグルタル酸]]からグルタミン酸を経由してGABAが合成される経路がある<ref name=ref10><pubmed>10412025</pubmed></ref>。また、神経終末部では、細胞外から[[グルタミン酸輸送体]]により、グルタミン酸が取り込まれてGAD65によりGABAが合成される。GABAの分解過程では、GABAは[[GABAアミノ基転移酵素]]により[[コハク酸セミアルデヒド]]となり、その後酸化されて[[コハク酸]]となりTCAサイクルに入る。


 [[神経終末]]部でGAD65により新たに作られたGABAは、[[小胞型抑制性アミノ酸運搬体]]([[VIAAT]]、[[VGAT]]とも呼ばれる)により[[シナプス小胞]]内へ充填され、神経終末部から放出される<ref name=ref11><pubmed>9349821</pubmed></ref> <ref name=ref12><pubmed>9395291</pubmed></ref>。  
 [[神経終末]]部でGAD65により新たに作られたGABAは、[[小胞型抑制性アミノ酸トランスポーター]]([[VIAAT]]、[[VGAT]]とも呼ばれる)により[[シナプス小胞]]内へ充填され、神経終末部から放出される<ref name=ref11><pubmed>9349821</pubmed></ref> <ref name=ref12><pubmed>9395291</pubmed></ref>。  


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==機能==
==機能==
 GABAは、[[GABAA受容体|GABA<sub>A</sub>受容体]]、[[GABAB受容体|GABA<sub>B</sub>受容体]]、[[GABAC受容体|GABA<sub>C</sub>受容体]]の3種の受容体に作用することによってその生理機能を発揮する<ref name=ref13><pubmed>10637650</pubmed></ref>。GABA<sub>A</sub>とGABA<sub>B</sub>受容体は中枢神経系に広く分布し、GABA<sub>C</sub>受容体は成熟[[wikipedia:ja:脊椎動物|脊椎動物]]ではほぼ[[網膜]]のみに限局して分布する。GABA<sub>A</sub>とGABA<sub>C</sub>受容体は[[イオンチャネル型受容体]]で、Clイオンを主に透過させる。GABA<sub>A</sub>受容体はαサブユニット、βサブユニット、γサブユニット、δサブユニット、εサブユニットなどによって構成される五量体であるが、脳部位によってサブユニットの発現が異なっている。また、構成サブユニットの違いにより薬物に対する感受性も異なる。GABA<sub>C</sub>受容体は ρサブユニットで形成される五量体であり、GABA<sub>A</sub>受容体を抑制する[[ビククリン]]に感受性がないなど、GABA<sub>A</sub>受容体とは薬物感受性がかなり異なっている<ref name=ref13 />。GABA<sub>A</sub>受容体は[[ゲフィリン]]という足場タンパク質によりシナプス部位に維持される<ref name=ref14><pubmed>24552784</pubmed></ref>。  
 GABAは、[[GABAA受容体|GABA<sub>A</sub>受容体]]、[[GABAB受容体|GABA<sub>B</sub>受容体]]、[[GABAC受容体|GABA<sub>C</sub>受容体]]の3種の受容体に作用することによってその生理機能を発揮する<ref name=ref13><pubmed>10637650</pubmed></ref>。GABA<sub>A</sub>とGABA<sub>B</sub>受容体は中枢神経系に広く分布し、GABA<sub>C</sub>受容体は成熟[[wikipedia:ja:脊椎動物|脊椎動物]]ではほぼ[[網膜]]のみに限局して分布する。
 
=== GABA<sub>A</sub>とGABA<sub>C</sub>受容体を介した機能 ===
 
 GABA<sub>A</sub>とGABA<sub>C</sub>受容体は[[イオンチャネル型受容体]]で、[[wj:塩化物イオン|塩化物イオン]] (Cl<sup>-</sup>イオン)を主に透過させる。GABA<sub>A</sub>受容体はαサブユニット、βサブユニット、γサブユニット、δサブユニット、εサブユニットなどによって構成される五量体であるが、脳部位によってサブユニットの発現が異なっている。また、構成サブユニットの違いにより薬物に対する感受性も異なる。GABA<sub>C</sub>受容体は ρサブユニットで形成される五量体であり、GABA<sub>A</sub>受容体を抑制する[[ビククリン]]に感受性がないなど、GABA<sub>A</sub>受容体とは薬物感受性がかなり異なっている<ref name=ref13 />。GABA<sub>A</sub>受容体は[[ゲフィリン]]という足場タンパク質によりシナプス部位に維持される<ref name=ref14><pubmed>24552784</pubmed></ref>。
 
 GABA<sub>A</sub>およびGABA<sub>C</sub>受容体を介した抑制効果は、神経細胞内の塩化物イオン濃度により変化する。通常、成熟期の神経細胞内塩化物イオン濃度は低く保たれており、塩化物イオンの[[平衡電位]]は[[静止電位]]よりも[[過分極]]側にあるため、GABA<sub>A</sub>受容体およびGABA<sub>C</sub>受容体の応答は過分極性である。しかし、発達期においてGABAは[[脱分極]]作用(興奮性作用)を示すことがある。これは、細胞内から塩化物イオンを排出する役割を担うトランスポーターの機能や発現が、成熟期の神経細胞と異なるためである<ref name=ref15><pubmed>11371348</pubmed></ref> <ref name=ref16><pubmed>14741396</pubmed></ref>。


 GABA<sub>A</sub>およびGABA<sub>C</sub>受容体を介した抑制効果は、神経細胞内のCl濃度により変化する。通常、成熟期の神経細胞内Cl濃度は低く保たれており、Clの[[平衡電位]]は[[静止電位]]よりも[[過分極]]側にあるため、GABA<sub>A</sub>受容体およびGABA<sub>C</sub>受容体の応答は過分極性である。しかし、発達期においてGABAは[[脱分極]]作用(興奮性作用)を示すことがある。これは、細胞内からClを排出する役割を担うトランスポーターの機能や発現が、成熟期の神経細胞と異なるためである<ref name=ref15><pubmed>11371348</pubmed></ref> <ref name=ref16><pubmed>14741396</pubmed></ref>。
=== GABA<sub>B</sub>受容体を介した機能 ===


 GABA<sub>B</sub>受容体は、GABA<sub>B1</sub>およびGABA<sub>B2</sub>サブユニットからなる[[代謝型受容体]]で、GABAはGABA<sub>B1</sub>受容体に結合し、GABA<sub>B2</sub>受容体は[[Gi/oタンパク質]]を活性化する。GABA<sub>B</sub>受容体の生理機能としては、[[K+チャネル|K<sup>+</sup>チャネル]]の活性化、[[Ca2+チャネル|Ca<sup>2+</sup>チャネル]]の抑制、[[アデニル酸シクラーゼ]]の抑制などの作用がある<ref name=ref17><pubmed>24575041</pubmed></ref>。
 GABA<sub>B</sub>受容体は、GABA<sub>B1</sub>およびGABA<sub>B2</sub>サブユニットからなる[[代謝型受容体]]で、GABAはGABA<sub>B1</sub>受容体に結合し、GABA<sub>B2</sub>受容体は[[Gi/oタンパク質]]を活性化する。GABA<sub>B</sub>受容体の生理機能としては、[[K+チャネル|K<sup>+</sup>チャネル]]の活性化、[[Ca2+チャネル|Ca<sup>2+</sup>チャネル]]の抑制、[[アデニル酸シクラーゼ]]の抑制などの作用がある<ref name=ref17><pubmed>24575041</pubmed></ref>。