「Jeffressモデル」の版間の差分

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 例えば音源が正面にある場合は、左右からの遅延線における伝達の遅れが等しくなる場所(図1上の中央の紫丸で示された同時性検出器)で、両側からの入力の同期が生じ、出力が最大となる。音源が別の場所にあるときは、別の位置にある検出器で入力の同期が生じる。もし音源が頭の右側にあるならば('''図1下''')、音波が右耳に早く届いた分だけ、右耳からの信号は遅延線を長く進み、結果的に太い矢印の位置で左右の入力タイミングが一致して、そこで検出器の出力が最大となる。
 例えば音源が正面にある場合は、左右からの遅延線における伝達の遅れが等しくなる場所(図1上の中央の紫丸で示された同時性検出器)で、両側からの入力の同期が生じ、出力が最大となる。音源が別の場所にあるときは、別の位置にある検出器で入力の同期が生じる。もし音源が頭の右側にあるならば('''図1下''')、音波が右耳に早く届いた分だけ、右耳からの信号は遅延線を長く進み、結果的に太い矢印の位置で左右の入力タイミングが一致して、そこで検出器の出力が最大となる。


 このような仕組みによって、「外部にある音源の位置(に対応する両耳間時差)」を「遅延線に沿って並んだ同時性検出器のうち出力最大となるものの位置」に対応づけるというのがJeffressモデルの骨子である。秒速1メートルの伝達速度を仮定すれば、1ミリメートルの遅延線で最大1ミリ秒の両耳間時差が補償でき、これは脳内でも実現可能なサイズだろうとJeffressは想定した<ref=jefffress />。
 このような仕組みによって、「外部にある音源の位置(に対応する両耳間時差)」を「遅延線に沿って並んだ同時性検出器のうち出力最大となるものの位置」に対応づけるというのがJeffressモデルの骨子である。秒速1メートルの伝達速度を仮定すれば、1ミリメートルの遅延線で最大1ミリ秒の両耳間時差が補償でき、これは脳内でも実現可能なサイズだろうとJeffressは想定した<ref=jefffress/>。


== Jeffressモデルの3要素 ==
== Jeffressモデルの3要素 ==
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 Jeffressモデルに相当する神経回路が実際の脳内に存在するのかどうかという問題は、さまざまな動物で調べられてきた<ref=ashida10>。[https://ja.wikipedia.org/wiki/メンフクロウ メンフクロウ] ([https://en.wikipedia.org/wiki/Barn_owl barn owl])を用いた神経解剖学実験および神経生理学実験では、聴性脳幹(auditory brainstem:脳深部に位置する[https://ja.wikipedia.org/wiki/橋_(脳) 脳幹]のうち聴覚に関連する部分)の層状核(nucleus laminaris: NL)と呼ばれる部位で、遅延線と同時性検出器による音源の場所コードが見つかった<ref=carr88><ref=carr90>('''図2上''')。メンフクロウの脳幹において、大細胞核(nucleus magnocellularis: NM)と呼ばれる部位から投射された軸索を伝わる活動電位は、層状核における細胞の位置によって到達時間が体系的に変化する('''図2左下''')。層状核細胞は、左右の大細胞核からの入力の同期の度合いに応じて活動電位の発生頻度が変化する<ref name=funabiki11><pubmed> 22031870 </pubmed></ref>。この仕組みにより、両耳間時差に対応する音源の位置がフクロウ層状核の活動頻度の高い細胞の位置へと変換される<ref name=carr15><pubmed> 26224776 </pubmed></ref>('''図2右下''')。層状核の出力は[[中脳]]の[[下丘]]へと送られ、数段階の処理を経て、音源の方向の脳内表現である「聴覚空間マップ(auditory space map)」が得られる<ref=ashida15><doi> 10.1250/ast.36.275 </doi></ref>。
 Jeffressモデルに相当する神経回路が実際の脳内に存在するのかどうかという問題は、さまざまな動物で調べられてきた<ref=ashida10><u>(編集部注)参考文献リンク先がありません</u>。[https://ja.wikipedia.org/wiki/メンフクロウ メンフクロウ] ([https://en.wikipedia.org/wiki/Barn_owl barn owl])を用いた神経解剖学実験および神経生理学実験では、聴性脳幹(auditory brainstem:脳深部に位置する[https://ja.wikipedia.org/wiki/橋_(脳) 脳幹]のうち聴覚に関連する部分)の層状核(nucleus laminaris: NL)と呼ばれる部位で、遅延線と同時性検出器による音源の場所コードが見つかった<ref=carr88/><ref=carr90/>('''図2上''')。メンフクロウの脳幹において、大細胞核(nucleus magnocellularis: NM)と呼ばれる部位から投射された軸索を伝わる活動電位は、層状核における細胞の位置によって到達時間が体系的に変化する('''図2左下''')。層状核細胞は、左右の大細胞核からの入力の同期の度合いに応じて活動電位の発生頻度が変化する<ref name=funabiki11><pubmed> 22031870 </pubmed></ref>。この仕組みにより、両耳間時差に対応する音源の位置がフクロウ層状核の活動頻度の高い細胞の位置へと変換される<ref name=carr15><pubmed> 26224776 </pubmed></ref>('''図2右下''')。層状核の出力は[[中脳]]の[[下丘]]へと送られ、数段階の処理を経て、音源の方向の脳内表現である「聴覚空間マップ(auditory space map)」が得られる<ref=ashida15><doi> 10.1250/ast.36.275 </doi></ref>。


 これまでの研究では、メンフクロウのほか、ニワトリ<ref name=koppl08><pubmed> 18491165 </pubmed></ref>、エミュ<ref name=macleod06><pubmed> 16435285 </pubmed></ref>といった[[鳥類]]や、鳥類と近縁のワニ<ref name=carr09><pubmed> 19553438 </pubmed></ref>において、Jeffressモデルと整合的な神経回路が脳幹で発見されている。Jeffressによる当初の提案<ref=jeffress />では、伝達経路の長さの差によって遅延の度合いが異なると想定されていたが、実際には、軸索の太さや[[ランヴィエ絞輪]]の間隔など、複数の要因によって伝達速度が精密に調整されていることが分かっている
 これまでの研究では、メンフクロウのほか、ニワトリ<ref name=koppl08><pubmed> 18491165 </pubmed></ref>、エミュ<ref name=macleod06><pubmed> 16435285 </pubmed></ref>といった[[鳥類]]や、鳥類と近縁のワニ<ref name=carr09><pubmed> 19553438 </pubmed></ref>において、Jeffressモデルと整合的な神経回路が脳幹で発見されている。Jeffressによる当初の提案<ref=jeffress/>では、伝達経路の長さの差によって遅延の度合いが異なると想定されていたが、実際には、軸索の太さや[[ランヴィエ絞輪]]の間隔など、複数の要因によって伝達速度が精密に調整されていることが分かっている
<ref name=seidl><pubmed> 23820043 </pubmed></ref><ref name=vonderschen><pubmed> 24726910 </pubmed></ref>。
<ref name=seidl><pubmed> 23820043 </pubmed></ref><ref name=vonderschen><pubmed> 24726910 </pubmed></ref>。