「Jeffressモデル」の版間の差分

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 Jeffressモデルに相当する神経回路が実際の脳内に存在するのかどうかという問題は、さまざまな動物で調べられてきた<ref=ashida10><u>(編集部注)参考文献リンク先がありません</u>。[https://ja.wikipedia.org/wiki/メンフクロウ メンフクロウ] ([https://en.wikipedia.org/wiki/Barn_owl barn owl])を用いた神経解剖学実験および神経生理学実験では、聴性脳幹(auditory brainstem:脳深部に位置する[https://ja.wikipedia.org/wiki/橋_(脳) 脳幹]のうち聴覚に関連する部分)の層状核(nucleus laminaris: NL)と呼ばれる部位で、遅延線と同時性検出器による音源の場所コードが見つかった<ref=carr88><ref=carr90><u>(編集部注)2つの参考文献に対し、リンク先がありません。</u>('''図2上''')。メンフクロウの脳幹において、大細胞核(nucleus magnocellularis: NM)と呼ばれる部位から投射された軸索を伝わる活動電位は、層状核における細胞の位置によって到達時間が体系的に変化する('''図2左下''')。層状核細胞は、左右の大細胞核からの入力の同期の度合いに応じて活動電位の発生頻度が変化する<ref name=funabiki11><pubmed> 22031870 </pubmed></ref>。この仕組みにより、両耳間時差に対応する音源の位置がフクロウ層状核の活動頻度の高い細胞の位置へと変換される<ref name=carr15><pubmed> 26224776 </pubmed></ref>('''図2右下''')。層状核の出力は[[中脳]]の[[下丘]]へと送られ、数段階の処理を経て、音源の方向の脳内表現である「聴覚空間マップ(auditory space map)」が得られる<ref name=ashida15>'''Go Ashida'''<br>Barn owl and sound localization<br>''Acoust. Sci. & Tech.'' 36, 4 :2015 :doi 10.1250/ast.36.275</ref>。
 Jeffressモデルに相当する神経回路が実際の脳内に存在するのかどうかという問題は、さまざまな動物で調べられてきた<ref=ashida10><u>(編集部注)参考文献リンク先がありません</u>。


 これまでの研究では、メンフクロウのほか、ニワトリ<ref name=koppl08><pubmed> 18491165 </pubmed></ref>、エミュ<ref name=macleod06><pubmed> 16435285 </pubmed></ref>といった[[鳥類]]や、鳥類と近縁のワニ<ref name=carr09><pubmed>19553438</pubmed></ref>において、Jeffressモデルと整合的な神経回路が脳幹で発見されている。Jeffressによる当初の提案<ref name=jeffress/>では、伝達経路の長さの差によって遅延の度合いが異なると想定されていたが、実際には、軸索の太さや[[ランヴィエ絞輪]]の間隔など、複数の要因によって伝達速度が精密に調整されていることが分かっている
 メンフクロウ(barn owl)を用いた神経解剖学実験および神経生理学実験では、聴性脳幹(auditory brainstem:脳深部に位置する[https://ja.wikipedia.org/wiki/橋_(脳) 脳幹]のうち聴覚に関連する部分)の[[層状核]](nucleus laminaris: NL)と呼ばれる部位で、遅延線と同時性検出器による音源の場所コードが見つかった<ref=carr88><ref=carr90><u>(編集部注)2つの参考文献に対し、リンク先がありません。</u>('''図2上''')。
 
 メンフクロウの脳幹において、[[大細胞核]](nucleus magnocellularis: NM)と呼ばれる部位から投射された軸索を伝わる活動電位は、層状核における細胞の位置によって到達時間が体系的に変化する('''図2左下''')。層状核細胞は、左右の大細胞核からの入力の同期の度合いに応じて活動電位の発生頻度が変化する<ref name=funabiki11><pubmed> 22031870 </pubmed></ref>。この仕組みにより、両耳間時差に対応する音源の位置がフクロウ層状核の活動頻度の高い細胞の位置へと変換される<ref name=carr15><pubmed> 26224776 </pubmed></ref>('''図2右下''')。層状核の出力は[[中脳]]の[[下丘]]へと送られ、数段階の処理を経て、音源の方向の脳内表現である「聴覚空間マップ(auditory space map)」が得られる<ref name=ashida15>'''Go Ashida'''<br>Barn owl and sound localization<br>''Acoust. Sci. & Tech.'' 36, 4 :2015 :doi 10.1250/ast.36.275</ref>。
 
 これまでの研究では、メンフクロウのほか、[[wj:ニワトリ|ニワトリ]]<ref name=koppl08><pubmed> 18491165 </pubmed></ref>、[[wj:エミュー|エミュー]]<ref name=macleod06><pubmed> 16435285 </pubmed></ref>といった[[鳥類]]や、鳥類と近縁の[[wj:ワニ|ワニ]]<ref name=carr09><pubmed>19553438</pubmed></ref>において、Jeffressモデルと整合的な神経回路が脳幹で発見されている。Jeffressによる当初の提案<ref name=jeffress/>では、伝達経路の長さの差によって遅延の度合いが異なると想定されていたが、実際には、[[軸索]]の太さや[[ランヴィエ絞輪]]の間隔など、複数の要因によって伝達速度が精密に調整されていることが分かっている
<ref name=seidl><pubmed> 23820043 </pubmed></ref><ref name=vonderschen><pubmed> 24726910 </pubmed></ref>。
<ref name=seidl><pubmed> 23820043 </pubmed></ref><ref name=vonderschen><pubmed> 24726910 </pubmed></ref>。


 鳥類と異なり、[[哺乳類]]での事情はやや複雑である。哺乳類の聴性脳幹では、上オリーブ複合体([https://en.wikipedia.org/wiki/Superior_olivary_complex superior olivary complex])に含まれる[[内側上オリーブ核]](medial superior olive: MSO)において、両耳間時差に依存して活動電位の発生頻度を変える細胞が存在することが知られていた<ref name=goldberg><pubmed> 5810617 </pubmed></ref>。しかし、その土台となる神経回路がJeffressモデルの3要素を満たすかどうかは不明であった。その後、ネコを使ったMSOからの電気生理記録では、同時性検出と場所コードを支持する結果が得られ<ref name=yinchan><pubmed> 2213127 </pubmed></ref>、また解剖学的には遅延線を示唆する結果が報告された<ref name=smith><pubmed>8509501</pubmed></ref><ref name=karino><pubmed> 21414923 </pubmed></ref>。
 鳥類と異なり、[[哺乳類]]での事情はやや複雑である。哺乳類の聴性脳幹では、[[上オリーブ複合体]]([https://en.wikipedia.org/wiki/Superior_olivary_complex superior olivary complex])に含まれる[[内側上オリーブ核]](medial superior olive: MSO)において、両耳間時差に依存して活動電位の発生頻度を変える細胞が存在することが知られていた<ref name=goldberg><pubmed> 5810617 </pubmed></ref>。しかし、その土台となる神経回路がJeffressモデルの3要素を満たすかどうかは不明であった。その後、[[ネコ]]を使った内側上オリーブ核(からの電気生理記録では、同時性検出と場所コードを支持する結果が得られ<ref name=yinchan><pubmed> 2213127 </pubmed></ref>、また解剖学的には遅延線を示唆する結果が報告された<ref name=smith><pubmed>8509501</pubmed></ref><ref name=karino><pubmed> 21414923 </pubmed></ref>。


 一方で、[https://ja.wikipedia.org/wiki/スナネズミ スナネズミ]の神経活動を記録した電気生理学実験では、MSOでの同時性検出は支持されたものの、場所コードは見られなかった<ref name=brand><pubmed>12037566</pubmed></ref><ref name=pecka><pubmed>18596166</pubmed></ref>。これらの研究では、自然な状況で経験されうる両耳間時差を超えた大きな時間差に対して、活動電位発生頻度が最大となるようなMSO細胞が多く発見された。これはむしろ場所コードを否定する証拠として認識されている。このように、Jeffressモデルがどの程度当てはまるのか、哺乳類の種によって異なった結果が得られている。ヒトの脳内において、両耳間時差がどのような仕組みで検出・[[知覚]]されているのかについては、まだよく分かっていない。
 一方で、[https://ja.wikipedia.org/wiki/スナネズミ スナネズミ]の神経活動を記録した電気生理学実験では、内側上オリーブ核(での同時性検出は支持されたものの、場所コードは見られなかった<ref name=brand><pubmed>12037566</pubmed></ref><ref name=pecka><pubmed>18596166</pubmed></ref>。これらの研究では、自然な状況で経験されうる両耳間時差を超えた大きな時間差に対して、活動電位発生頻度が最大となるような内側上オリーブ核(細胞が多く発見された。これはむしろ場所コードを否定する証拠として認識されている。このように、Jeffressモデルがどの程度当てはまるのか、哺乳類の種によって異なった結果が得られている。ヒトの脳内において、両耳間時差がどのような仕組みで検出・[[知覚]]されているのかについては、まだよく分かっていない。


== 名称および用語 ==
== 名称および用語 ==