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==作用機序==
==作用機序==
 MPTPが脳内に入ると、[[アストログリア]]や[[ミクログリア]]内で[[モノアミン酸化酵素]]B (MAO-B)により酸化されMPP<sup>+</sup>となり、これが細胞外に放出された後、ドーパミン作動性ニューロンに取り込まれる。MPP<sup>+</sup>は[[ミトコンドリア]]内に取り込まれ、電子伝達系のcomplex Iを強力に阻害するため、エネルギー産生能の低下によって細胞が変性すると考えられている(図)。ドーパミン細胞の選択的障害については、MPP<sup>+</sup>がニューロメラニンと結合して毒性機構が増強するためと考えられている<ref name=ref4><pubmed>3091760</pubmed></ref>。
 MPTPが脳内に入ると、[[アストログリア]]や[[ミクログリア]]内で[[モノアミン酸化酵素]]B ([[MAO-B]])により酸化されMPP<sup>+</sup>となり、これが細胞外に放出された後、ドーパミン作動性ニューロンに取り込まれる。MPP<sup>+</sup>は[[ミトコンドリア]]内に取り込まれ、電子伝達系のcomplex Iを強力に阻害するため、エネルギー産生能の低下によって細胞が変性すると考えられている(図)。ドーパミン細胞の選択的障害については、MPP<sup>+</sup>がニューロメラニンと結合して毒性機構が増強するためと考えられている<ref name=ref4><pubmed>3091760</pubmed></ref>。


==意義==
==意義==
 このMPTPの「発見」により、ドーパミン作動性ニューロンが変性・脱落するメカニズムの解明が進んだ。また、主に[[wikipedia:ja:霊長類|霊長類]]にMPTPを投与しパーキンソン病モデルを作成することにより、パーキンソン病の病態の解明<ref name=ref4><pubmed>1695404</pubmed></ref>、[[定位脳手術]]や[[脳深部刺激療法]](DBS)などの治療法の開発<ref><pubmed>2402638</pubmed></ref>などにつながった。さらには、パーキンソン病の原因として、内在性・外来性のMPTP類似物質、例えば[[wikipedia:ja:除草剤|除草剤]]などによる原因説も復興した。またMPTPによるパーキンソンモデルサルはES細胞の移植治療研究に用いられ、症状の改善を認められiPS細胞を加えた移植治療の優れた前臨床研究モデルとして注目されている<br><ref><pubmed>23370347</pubmed></ref>。
 このMPTPの「発見」により、ドーパミン作動性ニューロンが変性・脱落するメカニズムの解明が進んだ。また、主に[[wikipedia:ja:霊長類|霊長類]]にMPTPを投与しパーキンソン病モデルを作成することにより、パーキンソン病の病態の解明<ref name=ref4><pubmed>1695404</pubmed></ref>、[[定位脳手術]]や[[脳深部刺激療法]](DBS)などの治療法の開発<ref><pubmed>2402638</pubmed></ref>などにつながった。さらには、パーキンソン病の原因として、内在性・外来性のMPTP類似物質、例えば[[wikipedia:ja:除草剤|除草剤]]などによる原因説も復興した。
 
 またMPTPによるパーキンソンモデルサルは[[ES細胞]]の移植治療研究に用いられ、症状の改善を認められ[[iPS細胞]]を加えた移植治療の優れた前臨床研究モデルとして注目されている<ref><pubmed>23370347</pubmed></ref>。


==毒性==
==毒性==
 ヒトを含む霊長類は感受性が高く、[[wikipedia:ja:ラット|ラット]]は低く、[[wikipedia:ja:マウス|マウス]]、[[wikipedia:ja:ネコ|ネコ]]は、その中間の感受性を示す。ラットでは、血液脳関門にMAO-Bが豊富に発現しているため、同部位でMPP<sup>+</sup>が産生されるが、MPP<sup>+</sup>は陰性荷電をしており血液脳関門を通過しにくいため、MPTPに感受性が低いと考えられている<br><ref><pubmed> 3495000 </pubmed></ref>。MPTPが揮発性・脂溶性であることから、[[wikipedia:ja:皮膚|皮膚]]、[[wikipedia:ja:呼吸器|呼吸器]]などから吸収され易く[[血液脳関門]]も通過し易い、さらに動物に投与した場合、一部、代謝されないまま排泄される。このため取り扱い時には使い捨て手袋を着用し、ドラフト内で操作すること、使用後や残分のMPTPは1%次亜塩素酸で消毒する(オートクレーブは揮発するため不可)など、取り扱いに注意を要する<br><ref><pubmed> 11238711</pubmed></ref>。
 ヒトを含む霊長類は感受性が高く、[[ラット]]は低く、[[マウス]]、[[ネコ]]は、その中間の感受性を示す。ラットでは、[[血液脳関門]]にMAO-Bが豊富に発現しているため、同部位でMPP<sup>+</sup>が産生されるが、MPP<sup>+</sup>は陰性荷電をしており血液脳関門を通過しにくいため、MPTPに感受性が低いと考えられている<ref><pubmed> 3495000 </pubmed></ref>
 
 MPTPが揮発性・脂溶性であることから、[[wikipedia:ja:皮膚|皮膚]]、[[wikipedia:ja:呼吸器|呼吸器]]などから吸収され易く血液脳関門も通過し易い、さらに動物に投与した場合、一部、代謝されないまま排泄される。このため取り扱い時には使い捨て手袋を着用し、[[wj:ドラフトチャンバー|ドラフトチャンバー]]内で操作すること、使用後や残分のMPTPは1%[[wj:次亜塩素酸|次亜塩素酸]]で消毒する([[wj:オートクレーブ|オートクレーブ]]は揮発するため不可)など、取り扱いに注意を要する<ref><pubmed> 11238711</pubmed></ref>。


==関連語==
==関連語==