MPTP

提供:脳科学辞典
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MPTP
Identifiers
28289-54-5 YesY
ChEBI
ChEMBL ChEMBL24172 YesY
ChemSpider 1346 YesY
EC-number [1]
280
Jmol-3D images Image
KEGG C04599
MeSH 1-Methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine
PubChem 1388
Properties
Molar mass 173.25 g/mol
Melting point 39 °C (102 °F; 312 K)
Boiling point
slightly soluable
危険性
特記なき場合、データは常温(25 °C)・常圧(100 kPa)におけるものである。

IUPAC名:1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine

 MPTPとは、ドーパミン作動性ニューロンを変性脱落させる神経毒。実験動物に投与し、パーキンソン病モデルを作成するために用いられる。

発見の経緯

図 MPTPの代謝

 疾患モデルを作成するため、長年、パーキンソン病を発症させる神経毒の探索が続いていたが、良い候補は見つかっていなかった。しかし、以下のような皮肉な事件によりMPTPが「発見」されることになった。

 麻薬常習者の大学院生が、合成ヘロインである1-methyl-4-phenyl-propionoxy-piperidine (MPPP)を自宅の実験室で合成し、自分で注射していたところ、1976年、重篤なパーキンソン病を発症した。ある時から、合成段階でいくつかの手抜きをしたため、副生成物質が混入したためと思われる。症状は典型的なパーキンソン病で、L-ドーパが著効を示した。その後、麻薬過剰摂取で死亡したため剖検したところ、黒質細胞脱落、レビー小体陽性など病理的にもパーキンソン病であった。しかし原因物質を特定するまでには至らず、この報告は注目されなかった[1]

 その後、1982年、北カリフォルニアで4人の若い麻薬常習者が、新しい合成ヘロインを入手し連用したところ、重度の無動を示すパーキンソン病を発症した。この合成ヘロインを分析したところMPTPが発見され、これを実験動物(サル)に投与したところ、パーキンソン病様症状を呈したため、MPTPが原因物質として確定した[2][3]

作用機序

 MPTPが脳内に入ると、グリア細胞内でモノアミン酸化酵素B (MAO-B)によって酸化されMPP+になり、これがドーパミン作動性ニューロンに取り込まれ、ミトコンドリアの代謝を阻害するため、細胞が変性すると考えられる(図)。

意義

 このMPTPの「発見」により、ドーパミン作動性ニューロンが変性・脱落するメカニズムの解明が進んだ。また、主に霊長類にMPTPを投与しパーキンソン病モデルを作成することにより、パーキンソン病の病態の解明[4]定位脳手術脳深部刺激療法(DBS)などの治療法の開発[5]などにつながった。さらには、パーキンソン病の原因として、内在性・外来性のMPTP類似物質、例えば除草剤などによる原因説も復興した。

毒性

 ヒトを含む霊長類は感受性が高く、ラットは低く、マウスネコは、その中間の感受性を示す。MPTPが揮発性・脂溶性であることから、皮膚呼吸器などから吸収され易く血液脳関門も通過し易い、さらに動物に投与した場合、一部、代謝されないまま排泄されるなど、取り扱いに注意を要する
[6]

関連語

外部リンク

参考文献

  1. Davis, G.C., Williams, A.C., Markey, S.P., Ebert, M.H., Caine, E.D., Reichert, C.M., & Kopin, I.J. (1979).
    Chronic Parkinsonism secondary to intravenous injection of meperidine analogues. Psychiatry research, 1(3), 249-54. [PubMed:298352] [WorldCat] [DOI]
  2. Langston, J.W., Ballard, P., Tetrud, J.W., & Irwin, I. (1983).
    Chronic Parkinsonism in humans due to a product of meperidine-analog synthesis. Science (New York, N.Y.), 219(4587), 979-80. [PubMed:6823561] [WorldCat] [DOI]
  3. J William Langston, Jon Palfreman
    The Case of the Frozen Addicts 309 pp.
    New York, Pantheon, 1996
  4. DeLong, M.R. (1990).
    Primate models of movement disorders of basal ganglia origin. Trends in neurosciences, 13(7), 281-5. [PubMed:1695404] [WorldCat] [DOI]
  5. Bergman, H., Wichmann, T., & DeLong, M.R. (1990).
    Reversal of experimental parkinsonism by lesions of the subthalamic nucleus. Science (New York, N.Y.), 249(4975), 1436-8. [PubMed:2402638] [WorldCat] [DOI]
  6. Przedborski, S., Jackson-Lewis, V., Naini, A.B., Jakowec, M., Petzinger, G., Miller, R., & Akram, M. (2001).
    The parkinsonian toxin 1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine (MPTP): a technical review of its utility and safety. Journal of neurochemistry, 76(5), 1265-74. [PubMed:11238711] [WorldCat] [DOI]


(執筆者:南部篤 担当編集委員:伊佐正)