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= 概要  =
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 Nogoは脊椎動物の中枢神経の軸索伸長の阻害効果をもち、軸索損傷後の再生を阻害する分子であると考えられている。Nogo-A蛋白内には2つの軸索伸張阻害作用を有する蛋白ドメインがあり(Δ20とNogo-66)、軸索伸長阻害のみならず、軸索の先端の成長円錐を虚脱させる作用を持っている。動物実験によりNogo-Aあるいはその下流のシグナルを阻害することにより、神経損傷時における神経軸索の再生を促すことが示されてきた。このことから軸索が損傷を受け、その再生ができないことにより重度の後遺障害が残る脊髄損傷や多発性硬化症のような脱髄疾患における軸索再生治療への期待がかけられている。また、病態時のみならず、脳内の学習と記憶のプロセスを強化する課程において重要な役割を果たすことが分かっている。 <br>
 Nogoは脊椎動物の中枢神経の軸索伸長の阻害効果をもち、軸索損傷後の再生を阻害する分子であると考えられている。Nogo-A蛋白内には2つの軸索伸張阻害作用を有する蛋白ドメインがあり(Δ20とNogo-66)、軸索伸長阻害のみならず、軸索の先端の成長円錐を虚脱させる作用を持っている。動物実験によりNogo-Aあるいはその下流のシグナルを阻害することにより、神経損傷時における神経軸索の再生を促すことが示されてきた。このことから軸索が損傷を受け、その再生ができないことにより重度の後遺障害が残る脊髄損傷や多発性硬化症のような脱髄疾患における軸索再生治療への期待がかけられている。また、病態時のみならず、脳内の学習と記憶のプロセスを強化する課程において重要な役割を果たすことが分かっている。 <br>  


[[Image:Nogo 一次構造.jpg|frame|right|250px|(図1)Nogo蛋白の一次構造]]  
[[Image:Nogo 一次構造.jpg|frame|right|250px|(図1)Nogo蛋白の一次構造]]  
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=== <span style="font-weight: bold;">成体神経細胞に対する軸索伸展阻害作用</span>  ===
=== <span style="font-weight: bold;">成体神経細胞に対する軸索伸展阻害作用</span>  ===


==== <span style="font-weight: bold;" />ミエリン由来軸索伸展阻害分子の作用とは ====
==== ミエリン由来軸索伸展阻害分子の作用とは ====


 今からおよそ80年前のスペインの神経学者Ramon y Cajal、その後のAguayoらの実験により、神経細胞自体には再生する力があり、神経細胞を取り巻く環境が再生に適していないのではないかと考えられるようになる。その候補分子の一つとして、ミエリンが神経突起の伸展を抑制することが報告されたことから、ミエリンの中に再生を阻害し
 今からおよそ80年前のスペインの神経学者Ramon y Cajal、その後のAguayoらの実験により、神経細胞自体には再生する力があり、神経細胞を取り巻く環境が再生に適していないのではないかと考えられるようになる。その候補分子の一つとして、ミエリンが神経突起の伸展を抑制することが報告されたことから、ミエリンの中に再生を阻害し  


[[Image:Nogo signal.jpg|frame|right|500px]]
[[Image:Nogo signal.jpg|frame|right|500px]]  


ている分子が存在していると考えられた。そして、Schwabらにより、ミエリンの各フラクションに対する抗体が作成され、IN-1抗体が発見さ
ている分子が存在していると考えられた。そして、Schwabらにより、ミエリンの各フラクションに対する抗体が作成され、IN-1抗体が発見さ  


れる。IN-1はミエリンの作用を打ち消し、また、IN-1抗体を脊髄損傷させたラットに投与すると、軸索再生と運動機能の回復が認められることが報告された。<br> IN-1抗体の認識するペプチド配列をもとに、目的の蛋白がクローニングされ、3つのグループによって同時に報告された。Nogoと名付けられたこの蛋白はその配列情報から2回膜貫通構造をもっていると考えられ、培養神経細胞に対して突起伸展抑制作用をもっていた。Nogoは選択的スプライシングによって3つの長さの異なる蛋白が作られる。このうち最も長いNogo-Aには再生阻害に働く2つのドメインが存在する。アミノ端のΔ20ドメインが重要と考えているグループと膜貫通領域に挟まれる66個のアミノ酸からなるペプチド部分(Nogo-66)が重要と考えているグループに分かれているが、一般的に、Nogoの作用を指すのは、Nogo-66の作用である場合が多い。
れる。IN-1はミエリンの作用を打ち消し、また、IN-1抗体を脊髄損傷させたラットに投与すると、軸索再生と運動機能の回復が認められることが報告された。<br> IN-1抗体の認識するペプチド配列をもとに、目的の蛋白がクローニングされ、3つのグループによって同時に報告された。Nogoと名付けられたこの蛋白はその配列情報から2回膜貫通構造をもっていると考えられ、培養神経細胞に対して突起伸展抑制作用をもっていた。Nogoは選択的スプライシングによって3つの長さの異なる蛋白が作られる。このうち最も長いNogo-Aには再生阻害に働く2つのドメインが存在する。アミノ端のΔ20ドメインが重要と考えているグループと膜貫通領域に挟まれる66個のアミノ酸からなるペプチド部分(Nogo-66)が重要と考えているグループに分かれているが、一般的に、Nogoの作用を指すのは、Nogo-66の作用である場合が多い。  


<span class="Apple-style-span" style="font-size: 15px; font-weight: bold; ">受容体と細胞内シグナル</span>
受容体と細胞内シグナル  


  StrittmatterらはNogo-66の受容体Nogo受容体NgRを同定した。NgRは細胞内ドメインをもたないGPIアンカー型蛋白であり、Nogo-66に対し高親和性を示すことが分かった。Nogo受容体はGPIアンカー型蛋白であり、細胞内ドメインを持っていない。したがってNogo受容体は神経細胞内にシグナルを伝達することができない。その後、そのシグナル伝達の受容体が、神経栄養因子の受容体であるp75受容体であることが証明された<ref><pubmed> 12422217</pubmed></ref>。また、その細胞内へのシグナルはRho/ROCK経路を介した、細胞骨格制御であると報告されている。<br> しかしながらp75/Nogo受容体のみでは、ある種の細胞ではリガンドで刺激してもRhoが活性化しない。そこでLingo-1がp75/Nogo受容体コンポーネントとして重要と報告され、p75/Nogo受容体/Lingo-1という受容体複合によりRhoが活性化されて、軸索伸展が阻止されるという基本モデルが完成した(図2左側)<ref><pubmed> 14966521</pubmed></ref>。<br><span class="Apple-style-span" style="font-size: 13px; font-weight: normal; "> さらに最近になって、Tessier-Lavigneのグループは、Nogo-66に対する受容体をスクリーニングし、NgRと共に、leukocyte immunoglobulin (Ig)-like recep- tor B2 (LILRB2)を発見した。これは、マウスのpaired immunoglobulin-like receptor B(PirB)のオルソログに当たる。PirBとNgRの両方を阻害することにより、ミエリンや、Nogo-66の軸索伸展阻害作用のほぼ完全な消失が証明された。<ref><pubmed> 18988857  </pubmed></ref></span>
  StrittmatterらはNogo-66の受容体Nogo受容体NgRを同定した。NgRは細胞内ドメインをもたないGPIアンカー型蛋白であり、Nogo-66に対し高親和性を示すことが分かった。Nogo受容体はGPIアンカー型蛋白であり、細胞内ドメインを持っていない。したがってNogo受容体は神経細胞内にシグナルを伝達することができない。その後、そのシグナル伝達の受容体が、神経栄養因子の受容体であるp75受容体であることが証明された<ref><pubmed> 12422217</pubmed></ref>。また、その細胞内へのシグナルはRho/ROCK経路を介した、細胞骨格制御であると報告されている。<br> しかしながらp75/Nogo受容体のみでは、ある種の細胞ではリガンドで刺激してもRhoが活性化しない。そこでLingo-1がp75/Nogo受容体コンポーネントとして重要と報告され、p75/Nogo受容体/Lingo-1という受容体複合によりRhoが活性化されて、軸索伸展が阻止されるという基本モデルが完成した(図2左側)<ref><pubmed> 14966521</pubmed></ref>。<br> さらに最近になって、Tessier-Lavigneのグループは、Nogo-66に対する受容体をスクリーニングし、NgRと共に、leukocyte immunoglobulin (Ig)-like recep- tor B2 (LILRB2)を発見した。これは、マウスのpaired immunoglobulin-like receptor B(PirB)のオルソログに当たる。PirBとNgRの両方を阻害することにより、ミエリンや、Nogo-66の軸索伸展阻害作用のほぼ完全な消失が証明された。<ref><pubmed> 18988857  </pubmed></ref>  


 現在PirBの想定されるシグナル伝達機構は、SHP1/2と結合し、その脱リン酸化機構を介してTrkBのシグナルを制御するというものなど、現在報告が増えてきている。<ref><pubmed> 21364532</pubmed></ref> 
 現在PirBの想定されるシグナル伝達機構は、SHP1/2と結合し、その脱リン酸化機構を介してTrkBのシグナルを制御するというものなど、現在報告が増えてきている。<ref><pubmed> 21364532</pubmed></ref>   


==== ミエリン由来軸索伸展阻害因子のin vivoにおける作用 ====
==== ミエリン由来軸索伸展阻害因子のin vivoにおける作用 ====


 Nogoはin vivoで、再生阻害蛋白として働くのか?という問いに対しては、中和抗体(IN-1)や、阻害ペプチド(NEP1-40)によって証明されてきていた。しかし、Nogoのノックアウトマウスを3つのグループが独自に作成し、脊髄損傷後の軸索再生を評価したが、その結果は食い違っている。
 Nogoはin vivoで、再生阻害蛋白として働くのか?という問いに対しては、中和抗体(IN-1)や、阻害ペプチド(NEP1-40)によって証明されてきていた。しかし、Nogoのノックアウトマウスを3つのグループが独自に作成し、脊髄損傷後の軸索再生を評価したが、その結果は食い違っている。  


 また、最近になり、主要な再生阻害因子(MAG,Nogo,OMgp)のトリプルノックアウトマウスにおいても、脊髄損傷モデルが作成されたが、再生の促進が認められないと報告された。<br><br>
 また、最近になり、主要な再生阻害因子(MAG,Nogo,OMgp)のトリプルノックアウトマウスにおいても、脊髄損傷モデルが作成されたが、再生の促進が認められないと報告された。<br><br>  


=== その他の機能  ===
=== その他の機能  ===
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