「RNA干渉」の版間の差分

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===miRNA===
===miRNA===


 動物や植物に限らず多くの生物はmiRNAを発現する<ref name=ref.7><pubmed>11081512</pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed>14744438</pubmed></ref>。miRNAは恒常的であるが、各miRNAの発現は個体において時空間的に調節されている。
 動物や植物に限らず多くの生物はmiRNAを発現する<ref name=ref7><pubmed>11081512</pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed>14744438</pubmed></ref>。miRNAは恒常的であるが、各miRNAの発現は個体において時空間的に調節されている。


 ゲノム上に位置するmiRNA遺伝子から発現したmiRNA転写産物は一本鎖RNAであるが、ヘアピン構造をとることを特徴とする<ref name=ref9><pubmed>21245828</pubmed></ref> <ref name=ref10><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed></pubmed></ref>。核でまずRNaseIIIドメインをもったDroshaによって第一次プロセシングを受け細胞質へ移行する。細胞質ではDicerによって第二次プロセシングを受け、二本鎖miRNAとして切り出される。その後1本鎖となったmiRNAは、siRNAと同様にArgonauteタンパク質と結合することによってmiRISCを形成する。哺乳動物のmiRNAの場合、標的mRNAへの対合にはシード配列とよばれる5’末端から2~7塩基が関わる。つまり、siRNAと異なり、標的RNAとの対合がmiRNAの5’末端から10塩基目と11塩基目まで及ばないため、Argonauteタンパク質は標的RNAを切断する事が出来ない。miRISC にはGW182タンパク質を介してRNA分解酵素が結合するが、これら因子の助けを借りて、miRISCは標的RNAの不安定性を導く。標的mRNAの翻訳を阻害することも知られる。つまり、siRNAとmiRNAでは標的RNAの発現抑制の分子メカニズムが異なることを特徴とする。
 ゲノム上に位置するmiRNA遺伝子から発現したmiRNA転写産物は一本鎖RNAであるが、ヘアピン構造をとることを特徴とする<ref name=ref9><pubmed>21245828</pubmed></ref> <ref name=ref10><pubmed>20661255</pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed>   21116305</pubmed></ref>。核でまずRNaseIIIドメインをもったDroshaによって第一次プロセシングを受け細胞質へ移行する。細胞質ではDicerによって第二次プロセシングを受け、二本鎖miRNAとして切り出される。その後1本鎖となったmiRNAは、siRNAと同様にArgonauteタンパク質と結合することによってmiRISCを形成する。哺乳動物のmiRNAの場合、標的mRNAへの対合にはシード配列とよばれる5’末端から2~7塩基が関わる。つまり、siRNAと異なり、標的RNAとの対合がmiRNAの5’末端から10塩基目と11塩基目まで及ばないため、Argonauteタンパク質は標的RNAを切断する事が出来ない。miRISC にはGW182タンパク質を介してRNA分解酵素が結合するが、これら因子の助けを借りて、miRISCは標的RNAの不安定性を導く。標的mRNAの翻訳を阻害することも知られる。つまり、siRNAとmiRNAでは標的RNAの発現抑制の分子メカニズムが異なることを特徴とする。


=== PIWI interacting RNA ===
=== PIWI interacting RNA ===


 PIWI interacting RNA(piRNA)とよばれる内在性小分子RNAがある。これは生殖組織特異的に発現する小分子RNAで、やはり生殖組織特異的に発現するArgonauteタンパク質群(これをPIWIタンパク質と称する)と特異的に結合することによってpiRISCを形成する。piRNAの多くはpiRNAクラスターとよばれる遺伝子間領域から発現する一本鎖非コードRNAを前駆体とし、Dicer非依存的に発現する<ref name=ref12><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref13><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref14><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref15><pubmed></pubmed></ref>。piRNAはトランスポゾンに対してアンチセンスである場合が多く、それらはトランスポゾンの発現抑制に関わる。トランスポゾンはゲノム損傷の原因となるため、次世代にゲノム情報を伝搬する生殖組織はこれを抑える独自の仕組みを獲得したと考えられる。細胞質局在型piRISCは、標的RNA(トランスポゾン転写産物)を切断することによってその発現を抑制するが、核局在型piRISCは転写レベルでトランスポゾンを抑制すると考えられている。piRNA生合成およびpiRISCによる転写レベルでのトランスポゾン発現抑制の分子メカニズムは未だ不明な点を多く残す。
 PIWI interacting RNA(piRNA)とよばれる内在性小分子RNAがある。これは生殖組織特異的に発現する小分子RNAで、やはり生殖組織特異的に発現するArgonauteタンパク質群(これをPIWIタンパク質と称する)と特異的に結合することによってpiRISCを形成する。piRNAの多くはpiRNAクラスターとよばれる遺伝子間領域から発現する一本鎖非コードRNAを前駆体とし、Dicer非依存的に発現する<ref name=ref12><pubmed>19239887</pubmed></ref> <ref name=ref13><pubmed>19575643</pubmed></ref> <ref name=ref14><pubmed>21427766</pubmed></ref> <ref name=ref15><pubmed>23124062</pubmed></ref>。piRNAはトランスポゾンに対してアンチセンスである場合が多く、それらはトランスポゾンの発現抑制に関わる。トランスポゾンはゲノム損傷の原因となるため、次世代にゲノム情報を伝搬する生殖組織はこれを抑える独自の仕組みを獲得したと考えられる。細胞質局在型piRISCは、標的RNA(トランスポゾン転写産物)を切断することによってその発現を抑制するが、核局在型piRISCは転写レベルでトランスポゾンを抑制すると考えられている。piRNA生合成およびpiRISCによる転写レベルでのトランスポゾン発現抑制の分子メカニズムは未だ不明な点を多く残す。


==疾患との関わり==
==疾患との関わり==


 miRNAは生体内で様々な遺伝子の発現を制御する。ヒトの場合、約6割の遺伝子がmiRNAの制御下にあると見積もられている<ref name=ref16><pubmed></pubmed></ref>。miRNAの発現や機能に異常が生じると、その下流に位置する標的遺伝子の発現も異常となり、これが原因で癌などの疾患を導きだすことが知られている。肺がんの発症との関連が唱われているmiRNAにlet-7やmiR-17-92クラスターがある<ref name=ref6 />。miRNAの発現量をバイオマーカーとして診断に用いる試みもある<ref name=ref17><pubmed></pubmed></ref>。
 miRNAは生体内で様々な遺伝子の発現を制御する。ヒトの場合、約6割の遺伝子がmiRNAの制御下にあると見積もられている<ref name=ref16><pubmed>18955434</pubmed></ref>。miRNAの発現や機能に異常が生じると、その下流に位置する標的遺伝子の発現も異常となり、これが原因で癌などの疾患を導きだすことが知られている。肺がんの発症との関連が唱われているmiRNAにlet-7やmiR-17-92クラスターがある<ref name=ref6 />。miRNAの発現量をバイオマーカーとして診断に用いる試みもある<ref name=ref17><pubmed>23026890</pubmed></ref>。


==関連項目==
==関連項目==