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<div align="right"> 
<font size="+1">[http://researchmap.jp/ygon901/ 權田 裕子]、[http://researchmap.jp/ctx 花嶋 かりな]</font><br>
''独立行政法人理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年9月17日 原稿完成日:2013年3月25日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noriko1128 大隅 典子](東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)<br>
</div>
英語名:Roundabout 英略語:robo (Drosophila), ROBO (Homo sapiens)
英語名:Roundabout 英略語:robo (Drosophila), ROBO (Homo sapiens)


同義語:roundabout (Drosophila), roundabout homolog (Mus musculus), roundabout, axon guidance receptor, homolog (Homo sapiens)
同義語:roundabout (Drosophila), roundabout homolog (Mus musculus), roundabout, axon guidance receptor, homolog (Homo sapiens)


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 Roboは膜貫通型[[受容体]]の1つであり、リガンドである[[Slit]]が結合することにより細胞内にシグナルを伝達する。[[wikipedia:ja:脊椎動物|脊椎]]・[[wikipedia:ja:無脊椎動物|無脊椎動物]]の[[中枢神経系]]の発生と発達過程において重要な役割を果たしており、[[軸索誘導]]、[[細胞移動]]、[[細胞接着]]、[[細胞極性]]や[[細胞骨格]]などの様々な現象を調節している。
 Roboは膜貫通型[[受容体]]の1つであり、リガンドである[[Slit]]が結合することにより細胞内にシグナルを伝達する。[[wikipedia:ja:脊椎動物|脊椎]]・[[wikipedia:ja:無脊椎動物|無脊椎動物]]の[[中枢神経系]]の発生と発達過程において重要な役割を果たしており、[[軸索誘導]]、[[細胞移動]]、[[細胞接着]]、[[細胞極性]]や[[細胞骨格]]などの様々な現象を調節している。
}}


==Roboとは==
==Roboとは==
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===Rhoファミリーを介したシグナル伝達===
===Rhoファミリーを介したシグナル伝達===


 ショウジョウバエではRoboのIgドメインにSlitのLRRドメインが結合すると、RhoGAP分子の1つである[[CrossGAP]] ([[CrGAP]])と相互作用することによりCrGAPを不活性化し、下流の[[Rac1]]の活性化により正中線の反発性軸索誘導を生じるシグナル伝達系が知られている<ref><pubmed> 15755809 </pubmed></ref>(図2 1-A)。また、ヒト由来培養細胞を用いた実験では、同様にRoboのIgドメインへのSlitの結合により、Roboの細胞内領域にあるCC3モチーフとsrGAP (SLIT-ROBO Rho-GTPase-activating protein)の相互作用が促進され、その結果、内在性GTPase 活性の増加による[[Cdc42]]の不活性化経路が知られている。この経路ではCdc42不活性化により、[[Arp2/3複合体]](アクチン関連タンパク質: actin related protein, Arp)とアクチン重合調節タンパク質である[[Neuronal Wiskott-Aldrich Syndrome protein]] ([[N-WASP]])の活性化がおさえられることで、アクチン重合が減少し、反発性の軸索誘導や細胞移動阻害を引き起こす<ref><pubmed> 11672528 </pubmed></ref>(図2 1-B)。<br>  
 ショウジョウバエではRoboのIgドメインにSlitのLRRドメインが結合すると、RhoGAPの1つである[[CrossGAP]] ([[CrGAP]])と相互作用することによりCrGAPを不活性化し、下流の[[Rac1]]の活性化により正中線の反発性軸索誘導を生じるシグナル伝達系が知られている<ref><pubmed> 15755809 </pubmed></ref>(図2 1-A)。また、ヒト由来培養細胞を用いた実験では、同様にRoboのIgドメインへのSlitの結合により、Roboの細胞内領域にあるCC3モチーフとsrGAP (SLIT-ROBO Rho-GTPase-activating protein)の相互作用が促進され、その結果、内在性GTPase 活性の増加による[[Cdc42]]の不活性化経路が知られている。この経路ではCdc42不活性化により、[[Arp2/3複合体]](アクチン関連タンパク質: actin related protein, Arp)とアクチン重合調節タンパク質である[[Neuronal Wiskott-Aldrich Syndrome protein]] ([[N-WASP]])の活性化がおさえられることで、アクチン重合が減少し、反発性の軸索誘導や細胞移動阻害を引き起こす<ref><pubmed> 11672528 </pubmed></ref>(図2 1-B)。<br>  


[[Image:Yukogonda_fig_2-1.jpg|thumb|300px|'''図2-1.Rhoファミリーを介した系''']]
[[Image:Yukogonda_fig_2-1.jpg|thumb|300px|'''図2-1.Rhoファミリーを介した系''']]
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===チロシンキナーゼAbelsonを介したシグナル伝達===
===チロシンキナーゼAbelsonを介したシグナル伝達===


 ニワトリの[[網膜]]神経細胞を用いた実験では、Roboによる[[β-カテニン]]を介した1) [[カドへリン]]接着性の減少、2) 転写持続、を担う経路が知られている<ref><pubmed> 12360290</pubmed></ref> <ref><pubmed>17618275</pubmed></ref>。この系ではRoboへのSlitの結合により、[[Cables]]が[[Abelson]] ([[Abl]])に結合して、その後、Cablesは[[p35]]を介してβ-カテニンに結合していた[[Cdk5]](N-カドへリン-β-カテニン-p35-Cdk5複合体)と結合し、さらにβ-カテニンと結合する。この複合体では、Ablによるβ-カテニンの[[チロシンリン酸化]]によりβ-カテニン- N-カドへリンの親和性が低下し、N-カドへリンを介した接着性が消失する。[[リン酸化]]されたβ-カテニンは[[核]]内へと移行し、[[転写因子]][[Tcf]]/[[Lef]]と結合することで、転写を活性化する(図2 2-A)。
 ニワトリの[[網膜]]神経細胞を用いた実験では、Roboによる[[β-カテニン]]を介した1) [[カドヘリン]]接着性の減少、2) 転写持続、を担う経路が知られている<ref><pubmed> 12360290</pubmed></ref> <ref><pubmed>17618275</pubmed></ref>。この系ではRoboへのSlitの結合により、[[Cables]]が[[Abelson]] ([[Abl]])に結合して、その後、Cablesは[[p35]]を介してβ-カテニンに結合していた[[Cdk5]](N-カドへリン-β-カテニン-p35-Cdk5複合体)と結合し、さらにβ-カテニンと結合する。この複合体では、Ablによるβ-カテニンの[[チロシンリン酸化]]によりβ-カテニン- N-カドへリンの親和性が低下し、N-カドへリンを介した接着性が消失する。[[リン酸化]]されたβ-カテニンは[[核]]内へと移行し、[[転写因子]][[Tcf]]/[[Lef]]と結合することで、転写を活性化する(図2 2-A)。


 一方ショウジョウバエでは、Roboの細胞内領域のCC3モチーフにAblが結合することでRoboをリン酸化し、Robo下流シグナルを阻害する経路も知られている。Ablの基質である[[Ena]]はRoboの細胞内領域のCC1,CC2に結合し、[[キャッピングタンパク質]]のF-[[アクチン]]への結合を調節することで細胞移動や反発性軸索誘導の一部を担うことが知られており、両者が相補的な役割を果たすことで反発性の軸索誘導を調節する<ref><pubmed>10892742</pubmed></ref> <ref><pubmed>12086607</pubmed></ref>(図2 2-B)。
 一方ショウジョウバエでは、Roboの細胞内領域のCC3モチーフにAblが結合することでRoboをリン酸化し、Robo下流シグナルを阻害する経路も知られている。Ablの基質である[[Ena]]はRoboの細胞内領域のCC1,CC2に結合し、[[キャッピングタンパク質]]のF-[[アクチン]]への結合を調節することで細胞移動や反発性軸索誘導の一部を担うことが知られており、両者が相補的な役割を果たすことで反発性の軸索誘導を調節する<ref><pubmed>10892742</pubmed></ref> <ref><pubmed>12086607</pubmed></ref>(図2 2-B)。
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===細胞移動===
===細胞移動===


 [[脳スライス]]を用いた実験やノックアウトマウスの解析より、Roboは脳の様々な神経細胞集団の移動を制御することが明らかになってきた。特に[[大脳皮質]]では複数のRoboホモログの発現が知られており、抑制性の[[介在ニューロン]]<ref name=ref20 /> <ref name=ref21 /> <ref name=ref22 /> <ref><pubmed>10433260</pubmed></ref>と興奮性の[[錐体細胞]]<ref><pubmed>22123939</pubmed></ref> <ref name=ref33><pubmed>22661412</pubmed></ref>の双方の移動を制御する。このうちマウス大脳皮質の錐体細胞に発現しているRobo1とRobo4は、胎生期の錐体神経細胞の[[中間帯]]から[[皮質版]]への[[放射状移動]]を正に制御し、またRobo1は神経細胞が[[辺縁帯]]直下まで移動した後のインサイド・アウトの層形成にも関わっている<ref name=ref33 />。一方成体脳でも、Robo2, Robo3を発現する[[アストロサイト]]のトンネルを[[側脳室]]前方[[上衣下層]](SVZ)で産生された新生神経細胞がSlit1を分泌しながら維持することで 、嗅球への選択的な高速移動を制御することがマウスで報告されている<ref><pubmed>20670830</pubmed></ref>。
 [[脳スライス]]を用いた実験やノックアウトマウスの解析より、Roboは脳の様々な神経細胞集団の移動を制御することが明らかになってきた。特に[[大脳皮質]]では複数のRoboホモログの発現が知られており、抑制性の[[介在ニューロン]]<ref name=ref20 /> <ref name=ref21 /> <ref name=ref22 /> <ref><pubmed>10433260</pubmed></ref>と興奮性の[[錐体細胞]]<ref><pubmed>22123939</pubmed></ref> <ref name=ref33><pubmed>22661412</pubmed></ref>の双方の移動を制御する。このうちマウス大脳皮質の錐体細胞に発現しているRobo1とRobo4は、胎生期の錐体神経細胞の[[中間帯]]から[[皮質板]]への[[放射状移動]]を正に制御し、またRobo1は神経細胞が[[辺縁帯]]直下まで移動した後のインサイド・アウトの層形成にも関わっている<ref name=ref33 />。一方成体脳でも、Robo2, Robo3を発現する[[アストロサイト]]のトンネルを[[側脳室]]前方[[上衣下層]](SVZ)で産生された新生神経細胞がSlit1を分泌しながら維持することで 、嗅球への選択的な高速移動を制御することがマウスで報告されている<ref><pubmed>20670830</pubmed></ref>。


===細胞骨格===
===細胞骨格===
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==関連語==
==関連語==


*[[スリット(Slit)]]
*[[スリット]]([[Slit]])
*[[軸索ガイダンス分子]]
*[[軸索ガイダンス分子]]


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<references />
<references />
(担当者:權田裕子、花嶋かりな 担当編集委員:大隅典子)

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