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Shank<br>英:Shank (SH3 and multiple ankyrin repeat domains protein)<br>同義語:ProSAP (Proline-rich synapse-associated protein), CortBP (Cortactin-binding protein), Somatostatin receptor-interacting protein (SSTRIP), GKAP/SAPAP-interacting protein, SPANK, Synamon&nbsp;<br><br>&nbsp;Shankは、多くの蛋白質と相互作用する2000個以上のアミノ酸からなる巨大な足場蛋白質である.選択的スプライシングによりさまざまな遺伝子産物が得られるが、最も長いものはアンキリンリピート、SH3ドメイン、PDZドメイン、プロリンリッチ配列、SAMドメインからなる.それぞれのドメインが相互作用する蛋白質を持つので、結合蛋白質は多岐にわたる.自閉症との関連が指摘されている. <br><br>  
<div align="right">
<font size="+1">林 真理子</font><br>
''慶應義塾大学 医学部''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年5月28日 原稿完成日:2012年6月6日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br>
</div>


== Shankの構造  ==
{{PBB|geneid=50944}} {{PBB|geneid=22941}} {{PBB|geneid=85358}}


<br>図1 Shank ドメイン構造と選択的スプライシング産物 <br><br>Shankには異なった遺伝子にコードされるShank1、2、3がある.Shankのドメイン構造はアミノ端から、アンキリンリピート、SH3 (Src homology 3)ドメイン、PDZ (PSD-95, Dlg, Zo-1)ドメイン、1000残基以上に及ぶプロリン、セリン、グリシンに富む配列、SAM (Sterile alpha motif)からなる(図1).選択的スプライシングにより、アンキリンリピートやSH3ドメイン、SAMドメインを欠くものもある.
英:Shank (SH3 and multiple ankyrin repeat domains protein)  


サブタイプ毎の別名は、
同義語:ProSAP (Proline-rich synapse-associated protein), CortBP (Cortactin-binding protein), Somatostatin receptor-interacting protein (SSTRIP), GKAP/SAPAP-interacting protein, SPANK, Synamon&nbsp;


Shank1=GKAP/SAPAP-interacting protein=SPANK-1=SSTRIP=Synamon
{{box|text=
 Shankは、2000個以上の[[wikipedia:ja:アミノ酸|アミノ酸]]からなる巨大な[[足場タンパク質]]である。[[wikipedia:ja:選択的スプライシング|選択的スプライシング]]によりさまざまな遺伝子産物が得られるが、最も長いものは[[アンキリンリピート]]、[[SH3ドメイン|SH3 (Src homology 3)ドメイン]]、[[PDZドメイン|PDZ (<u>P</u>SD-95, <u>D</u>lg, <u>Z</u>o-1)ドメイン]]、プロリンリッチ配列、[[SAMドメイン|SAM (Sterile alpha motif)ドメイン]]からなる。それぞれのドメインが相互作用するタンパク質を持つので、結合タンパク質は多岐にわたる。[[自閉症]]との関連が指摘されている。 
}}


Shank2=CortBP1=ProSAP1=SPANK-3
== 構造  ==


Shank3=ProSAP2=SPANK-2<br>となる.
 Shankには異なった遺伝子にコードされるShank1、2、3がある。Shankのドメイン構造はアミノ端から、アンキリンリピート、SH3ドメイン、PDZドメイン、1000残基以上に及ぶプロリン、セリン、グリシンに富む配列、SAMからなる(図1)。選択的スプライシングにより、アンキリンリピートやSH3ドメイン、SAMドメインを欠くものもある。


<br>
サブタイプ毎の別名は、


== Shankの発現  ==
*Shank1 = GKAP/SAPAP-interacting protein = SPANK-1 = Somatostatin receptor-interacting protein (SSTRIP) = Synamon
*Shank2 = CortBP1 (Cortactin-binding protein 1) = ProSAP1 (Proline-rich synapse-associated protein 1) = SPANK-3
*Shank3 = ProSAP2 = SPANK-2


いずれのサブタイプも脳に広範に発現している.細胞レベルでは、シナプス後部、特にシナプス後肥厚(PSD)に多く分布している.
[[Image:Shank.png|thumb|center|250px|<b>図1.Shank ドメイン構造と選択的スプライシング産物</b><br />Ank:アンキリンリピート<br />SH3:SH3ドメイン<br />PDZ:PDZドメイン<br />Pro rich:プロリンリッチ配列<br />SAM:SAMドメイン]]


脳以外では、Shank2は腎臓、肝臓に、Shank3は心臓、精巣にも発現している.<ref><pubmed>10506216</pubmed></ref>
== 発現  ==


== Shankの機能  ==
 Shank1, [http://mouse.brain-map.org/gene/show/84192 Shank2], [http://mouse.brain-map.org/gene/show/37264 Shank3]いずれのサブタイプも脳に広範に発現している。細胞レベルでは、[[シナプス後部]]、特に[[シナプス後肥厚部]]に多く分布している。


Shankを神経細胞に過剰発現するとスパインの肥大化が起こり、特にShank結合蛋白質であるHomerとの共発現はスパインのを更なる肥大化を引き起こす.さらに、本来、スパインを持たない抑制性の小脳顆粒細胞にShankを導入すると、 NMDA型やAMPA型のグルタミン酸受容体をもつ樹状突起棘を形成するようになる. <ref><pubmed>15814786</pubmed></ref>
 脳以外では、Shank2は[[wikipedia:ja:腎臓|腎臓]]、[[wikipedia:ja:肝臓|肝臓]]に、Shank3は[[wikipedia:ja:心臓|心臓]]、[[wikipedia:ja:精巣|精巣]]にも発現している<ref><pubmed>10506216</pubmed></ref>


Shank分子間のドメイン間相互作用によりオリゴマーを形成するShankと、両端に2つずつのリガンド結合部位をもつ逆平行4量体を形成するHomerは互いに架橋して、高次のネットワーク構造を形成することから、このShankとHomerの高次複合体がPSDの骨格となると考えられる.
== 機能  ==


図2 Shank PDZ ドメインによるダイマー形成とGKAPとの相互作用  <ref><pubmed>12954649</pubmed></ref>  
 Shankを神経細胞に過剰発現すると[[スパイン]]の肥大化が起こり、特にShank結合タンパク質である[[Homer]]との共発現はスパインのを更なる肥大化を引き起こす<ref><pubmed>11498055</pubmed></ref>。 さらに、本来、スパインを持たない[[小脳]][[顆粒細胞]]にShankを導入すると、 [[NMDA型グルタミン酸受容体]]や[[AMPA型グルタミン酸受容体]]をもつスパインを形成するようになる<ref><pubmed>15814786</pubmed></ref>。


図3 Shank PDZ ドメインとbetaPIXとの相互作用  <ref><pubmed>20117114</pubmed></ref> 図4 Shank SAM ドメインの結晶構造 <ref><pubmed>16439662</pubmed></ref>  
 Shank分子間のドメイン間相互作用によりオリゴマーを形成するShankと、両端に2つずつのリガンド結合部位をもつ逆平行4量体を形成するHomerは互いに架橋して、高次のネットワーク構造を形成する。このShankとHomerの高次複合体がシナプス後肥厚部の骨格となると考えられる<ref><pubmed>19345194</pubmed></ref>


神経細胞に発現することで、スパイン形成を誘導し、また、スパインサイズを大きくする。結合タンパク質Homerとの共発現でこの作用はさらに顕著になる。 このようなスパイン形成における機能は、Shank自身がSAMドメインを介してポリマーを形成すること、また、Homerとの相互作用によりポリマーを形成することで、構造的な役割を担うことで説明できる。
== 分子内・分子間相互作用  ==


== Shankの分子内・分子間相互作用  ==
 Shank分子内、あるいはShank分子間の相互作用としては、アンキリンリピートとSH3ドメインが相互作用する<ref><pubmed>15496675</pubmed></ref>ほか、PDZドメインはホモ二量体を<ref name="ref2"><pubmed>12954649</pubmed></ref>、SAMドメインは多量体を<ref name="ref3"><pubmed>16439662</pubmed></ref> 形成する。このPDZドメインによるホモ二量体形成には、PDZドメイン本来のタンパク質結合部位は関与しないので、二量体を形成しても、他のPDZリガンドは結合できる(図2)。一方、結晶化されたSAMドメインは一周6分子の螺旋状ポリマーを形成しており(図3)、更にこの螺旋が側面で会合して、Zn<sup>2+</sup>イオンに依存性の二次元の広がりをもつシートを形成する。


<br>Shank分子内、あるいはShank分子間の相互作用としては、アンキリンリピートとSH3ドメインが相互作用する ほか、PDZドメインはホモ二量体を、SAMドメインは多量体を 形成する.このPDZドメインによるホモ二量体形成には、PDZドメイン本来の蛋白質結合部位は関与しないので、二量体を形成しても、他のPDZリガンドは結合できる(図2).一方、結晶化されたSAMドメインは一周6分子の螺旋状ポリマーを形成しており(図3)、更にこの螺旋が側面で会合して、Zn2+イオンに依存性の二次元の広がりをもつシートを形成する.但し、SAMドメインの大きさはShank全長の3%にしか相当しないので、上流の長い配列も含めて大きなポリマーを形成できるかどうかは不明である.
 但し、SAMドメインの大きさはShank全長の3%にしか相当しないので、上流の長い配列も含めて大きなポリマーを形成できるかどうかは不明である。 <gallery widths="250px" heights="250px">
Image:1Q3P.jpg|'''図2 Shank PDZ ドメインによるダイマー形成とGKAPとの相互作用 PDB 1q3p'''<ref name="ref2" />
Image:Shank-SAM 2F44.png|'''図3 Shank SAM ドメインの結晶構造 PDB 2f44'''<ref name="ref3" />
</gallery>  


<br>
== Shankと相互作用するタンパク質  ==


== Shankと相互作用する蛋白質  ==
[[Image:3L4F.jpg|thumb|250px|図4 Shank PDZ ドメインとβPIXとの相互作用 PDB 3l4f <ref><pubmed>20117114</pubmed></ref> ]]


<br>
=== 受容体・膜タンパク質  ===


=== 受容体・膜蛋白質 ===
 いずれも、C末端(C-terminus)がShankのPDZドメインに結合する。


いずれも、カルボキシ端がShankのPDZドメインに結合する.<br> G protein-coupled alpha-latrotoxin receptor CL1 <ref><pubmed>10958799</pubmed></ref>  
*[[G protein-coupled α-latrotoxin receptor]] CL1<ref><pubmed>10958799</pubmed></ref>


Somatostatin receptor subtype 2 <ref><pubmed>10551867</pubmed></ref>  
*[[ソマトスタチン受容体]]サブタイプ2<ref><pubmed>10551867</pubmed></ref>


Na+/H+ exchanger 3 <ref><pubmed>16293618</pubmed></ref>  
*[[Na+/H+交換輸送体|Na<sup>+</sup>/H<sup>+</sup>交換輸送体]] 3<ref><pubmed>16293618</pubmed></ref>


Cystic fibrosis transmembrane conductance regulator <ref><pubmed>14679199</pubmed></ref>  
*[[嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子]] (Cystic fibrosis transmembrane conductance regulator, CFTR)<ref><pubmed>14679199</pubmed></ref>


GluA1 <ref><pubmed>16606358</pubmed></ref>&nbsp;
*[[AMPA型グルタミン酸受容体]][[GluA1]]サブユニット<ref><pubmed>16606358</pubmed></ref>


mGluR1,5 <ref><pubmed>10433269</pubmed></ref>&nbsp; これらは、Shankに結合するHomerとも相互作用する.
*[[代謝活性型グルタミン酸受容体]]サブユニット[[MGluR1|mGluR1]]、[[MGluR5|mGluR5]]<ref><pubmed>10433269</pubmed></ref>&nbsp; これらは、Shankに結合するHomerとも相互作用する。


GluR delta 2 <ref><pubmed>15207857</pubmed></ref>&nbsp;
*[[デルタ2型グルタミン酸受容体]][[GluD2]]<ref><pubmed>15207857</pubmed></ref>&nbsp;


=== シナプス足場蛋白質 ===
=== シナプス足場タンパク質 ===


DLGAP1/GKAP <ref><pubmed>10488079, <ref><pubmed>10433268 PDZ domain – C term GKAPのN末側にある14アミノ酸からなる繰り返し配列は、PSD-95、S-SCAM(synaptic scaffolding molecule)などのMAGUK(Membrane associated guanylate kinase)ファミリー蛋白質のグアニル酸キナーゼドメインに結合する.PSD-95はNMDA型グルタミン酸受容体に直接結合するほか、TARP (transmembrane AMPA receptor regulatory protein)を介してAMPA型グルタミン酸と相互作用する. fckLRHomer <ref><pubmed>10433269</pubmed></ref>&nbsp;
*[[DLGAP]]1/GKAP<ref><pubmed>10488079</pubmed></ref>


Homer&nbsp;
*Homer<ref><pubmed>10433269</pubmed></ref>


IRSp53 <ref><pubmed>12504591</pubmed></ref>&nbsp;
*[[IRSp53]]<ref><pubmed>12504591</pubmed></ref>


=== <span class="Apple-style-span" style="font-size: 13px; font-weight: normal; ">Sharpin&nbsp;<ref><pubmed>11178875</pubmed></ref>&nbsp;</span> ===
*[[Sharpin]]<ref><pubmed>11178875</pubmed></ref>


=== <span class="Apple-style-span" style="font-size: 13px; font-weight: normal; " />低分子量GTP結合蛋白質を制御する蛋白質 ===
=== 低分子量GTP結合タンパク質を制御するタンパク質 ===


IRSp53&nbsp;
*IRSp53


βPIX <ref><pubmed>12626503</pubmed></ref>&nbsp;
*[[ΒPIX|ΒetaPIX]]<ref><pubmed>12626503</pubmed></ref>&nbsp;


ProSAPiP1&nbsp;<ref><pubmed>16522626</pubmed></ref>&nbsp;
*[[ProSAPiP1]]<ref><pubmed>16522626</pubmed></ref>


=== アクチン結合蛋白質 ===
=== [[アクチン]]結合タンパク質 ===


IRSp53
*IRSp53


Cortactin <ref><pubmed>10433268</pubmed></ref> , <ref><pubmed>9742101</pubmed></ref>&nbsp;
*[[コータクチン]]<ref><pubmed>10433268</pubmed></ref> <ref><pubmed>9742101</pubmed></ref>


Abp1 <ref><pubmed>15014124</pubmed></ref>&nbsp;
*[[Abp1]]<ref><pubmed>15014124</pubmed></ref>


Spectrin-alpha <ref><pubmed>11509555</pubmed></ref>&nbsp;
*[[スペクトリンα]]<ref><pubmed>11509555</pubmed></ref>


=== その他の蛋白質 ===
=== その他のタンパク質 ===


Phospholipse beta 3 <ref><pubmed>15632121</pubmed></ref>&nbsp;
*[[ホスホリパーゼC]]β3<ref><pubmed>15632121</pubmed></ref>&nbsp;
*[[ダイナミン]]2<ref><pubmed>11583995</pubmed></ref><br>
*[[Dendrite arborization and synapse maturation 1]] (Dasm1)<ref><pubmed>15340156</pubmed></ref>&nbsp;


Multimerization of SAM <ref><pubmed>10433268</pubmed></ref><br>
== Shank遺伝子の異常  ==


Dynamin 2 <ref><pubmed>11583995</pubmed></ref><br>
 自閉症との関連については、ヒトにおけるShank3の変異が最初に報告されたが<ref><pubmed>17173049</pubmed></ref>、その後、Shank2<ref><pubmed>20531469</pubmed></ref>, Shank1<ref><pubmed>22503632</pubmed></ref>についても報告されている。[[Phelan–McDermid 症候群]]は染色体22q13部位の欠失によるもので、Shank3 の異常が原因の一つと考えられている。また、Shank2、Shank3の[[ノックアウトマウス]]は社会的相互作用の欠如や過剰な毛繕いなど自閉症様の表現型を呈する<ref><pubmed>21423165</pubmed></ref> <ref><pubmed>22699620</pubmed></ref> <ref><pubmed>22699619</pubmed></ref>。さらに、自閉症患者にみられるShank3のC末の欠失変異体は、優性にShank3の[[プロテアーゼ]]分解を促進して、シナプスの形成を阻害する<ref><pubmed>21565394</pubmed></ref>。&nbsp;  
 
Dendrite arborization and synapse maturation 1 (Dasm1) <ref><pubmed>15340156</pubmed></ref>&nbsp;
 
<br>
 
== Shank遺伝子の異常  ==


自閉症との関連については、Shank3の変異が最初に報告されたが、<ref><pubmed>17173049</pubmed></ref>、その後、Shank2 <ref><pubmed>20531469</pubmed></ref>, Shank1 <ref><pubmed>22503632</pubmed></ref>についても報告されている。Phelan–McDermid 症候群は染色体22q13部位の欠失によるもので、Shank3 の異常が原因の一つと考えられている.また、Shank3のノックアウトマウスは社会的相互作用の欠如や過剰な毛繕いなど自閉症様の表現型を呈する<ref><pubmed>21423165</pubmed></ref>。さらに、自閉症患者にみられるShank3のC末の欠失変異体は、優性にShank3のプロテアーゼ分解を促進して、シナプスの形成を阻害する<ref><pubmed>21565394</pubmed></ref>。&nbsp;
== 関連項目  ==


関連項目 (関連する項目を記入して下さい。現在のところ、脳科学辞典の項目として存在しなくても構いません。)
*[[シナプス後肥厚部]]
*[[自閉症]]


参考文献 <references />
== 参考文献 ==


(執筆者:林 真理子、担当編集委員:柚崎 通介)
<references />