「Shank」の版間の差分

94 バイト追加 、 2012年5月27日 (日)
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
1行目: 1行目:
== Shank ==
== Shank ==


<br>英:Shank (SH3 and multiple ankyrin repeat domains protein)<br>同義語:ProSAP (Proline-rich synapse-associated protein), CortBP (Cortactin-binding protein), Somatostatin receptor-interacting protein (SSTRIP), GKAP/SAPAP-interacting protein, SPANK, Synamon&nbsp;<br><br>&nbsp;Shankは、多くの蛋白質と相互作用する2000個以上のアミノ酸からなる巨大な足場蛋白質である.選択的スプライシングによりさまざまな遺伝子産物が得られるが、最も長いものはアンキリンリピート、SH3ドメイン、PDZドメイン、プロリンリッチ配列、SAMドメインからなる.それぞれのドメインが相互作用する蛋白質を持つので、結合蛋白質は多岐にわたる.自閉症との関連が指摘されている. <br><br>  
<br>英:Shank (SH3 and multiple ankyrin repeat domains protein)<br>同義語:ProSAP (Proline-rich synapse-associated protein), CortBP (Cortactin-binding protein), Somatostatin receptor-interacting protein (SSTRIP), GKAP/SAPAP-interacting protein, SPANK, Synamon&nbsp;<br><br>&nbsp;Shankは、多くの蛋白質と相互作用する2000個以上のアミノ酸からなる巨大な足場蛋白質である.選択的スプライシングによりさまざまな遺伝子産物が得られるが、最も長いものはアンキリンリピート、SH3ドメイン、PDZドメイン、プロリンリッチ配列、SAMドメインからなる.それぞれのドメインが相互作用する蛋白質を持つので、結合蛋白質は多岐にわたる.自閉症との関連が指摘されている. <br><br>  
17行目: 17行目:
== Shankの発現  ==
== Shankの発現  ==


いずれのサブタイプも脳に広範に発現している.細胞レベルでは、シナプス後部、特にシナプス後肥厚(PSD)に多く分布している.  
いずれのサブタイプも脳に広範に発現している.細胞レベルでは、シナプス後部、特に[[シナプス後肥厚]]に多く分布している.  


脳以外では、Shank2は腎臓、肝臓に、Shank3は心臓、精巣にも発現している.<ref><pubmed>10506216</pubmed></ref>  
脳以外では、Shank2は腎臓、肝臓に、Shank3は心臓、精巣にも発現している.<ref><pubmed>10506216</pubmed></ref>  
23行目: 23行目:
== Shankの機能  ==
== Shankの機能  ==


Shankを神経細胞に過剰発現するとスパインの肥大化が起こり、特にShank結合蛋白質であるHomerとの共発現はスパインのを更なる肥大化を引き起こす.さらに、本来、スパインを持たない抑制性の小脳顆粒細胞にShankを導入すると、 NMDA型やAMPA型のグルタミン酸受容体をもつ樹状突起棘を形成するようになる. <ref><pubmed>15814786</pubmed></ref>.  
Shankを神経細胞に過剰発現するとスパインの肥大化が起こり、特にShank結合蛋白質であるHomerとの共発現はスパインのを更なる肥大化を引き起こす.<ref><pubmed>11498055</pubmed></ref> さらに、本来、スパインを持たない抑制性の小脳顆粒細胞にShankを導入すると、 NMDA型やAMPA型のグルタミン酸受容体をもつスパインを形成するようになる. <ref><pubmed>15814786</pubmed></ref>.  


Shank分子間のドメイン間相互作用によりオリゴマーを形成するShankと、両端に2つずつのリガンド結合部位をもつ逆平行4量体を形成するHomerは互いに架橋して、高次のネットワーク構造を形成する.このShankとHomerの高次複合体がPSDの骨格となると考えられる. <ref><pubmed>19345194</pubmed></ref>  
Shank分子間のドメイン間相互作用によりオリゴマーを形成するShankと、両端に2つずつのリガンド結合部位をもつ逆平行4量体を形成するHomerは互いに架橋して、高次のネットワーク構造を形成する.このShankとHomerの高次複合体がシナプス後肥厚の骨格となると考えられる. <ref><pubmed>19345194</pubmed></ref>  


== Shankの分子内・分子間相互作用  ==
== Shankの分子内・分子間相互作用  ==
31行目: 31行目:
<br>Shank分子内、あるいはShank分子間の相互作用としては、アンキリンリピートとSH3ドメインが相互作用する <ref><pubmed>15496675</pubmed></ref>ほか、PDZドメインはホモ二量体を<ref name="ref2"><pubmed>12954649</pubmed></ref>、SAMドメインは多量体を<ref name="ref3"><pubmed>16439662</pubmed></ref> 形成する.このPDZドメインによるホモ二量体形成には、PDZドメイン本来の蛋白質結合部位は関与しないので、二量体を形成しても、他のPDZリガンドは結合できる(図2).一方、結晶化されたSAMドメインは一周6分子の螺旋状ポリマーを形成しており(図3)、更にこの螺旋が側面で会合して、Zn2+イオンに依存性の二次元の広がりをもつシートを形成する.<br> 但し、SAMドメインの大きさはShank全長の3%にしか相当しないので、上流の長い配列も含めて大きなポリマーを形成できるかどうかは不明である.  
<br>Shank分子内、あるいはShank分子間の相互作用としては、アンキリンリピートとSH3ドメインが相互作用する <ref><pubmed>15496675</pubmed></ref>ほか、PDZドメインはホモ二量体を<ref name="ref2"><pubmed>12954649</pubmed></ref>、SAMドメインは多量体を<ref name="ref3"><pubmed>16439662</pubmed></ref> 形成する.このPDZドメインによるホモ二量体形成には、PDZドメイン本来の蛋白質結合部位は関与しないので、二量体を形成しても、他のPDZリガンドは結合できる(図2).一方、結晶化されたSAMドメインは一周6分子の螺旋状ポリマーを形成しており(図3)、更にこの螺旋が側面で会合して、Zn2+イオンに依存性の二次元の広がりをもつシートを形成する.<br> 但し、SAMドメインの大きさはShank全長の3%にしか相当しないので、上流の長い配列も含めて大きなポリマーを形成できるかどうかは不明である.  


[[Image:1Q3P.jpg|frame|right|250px|図2 Shank PDZ ドメインによるダイマー形成とGKAPとの相互作用]]
[[Image:1Q3P.jpg|frame|right|250px|図2 Shank PDZ ドメインによるダイマー形成とGKAPとの相互作用]]  


図2 Shank PDZ ドメインによるダイマー形成とGKAPとの相互作用 <ref name="ref2" />  
図2 Shank PDZ ドメインによるダイマー形成とGKAPとの相互作用 <ref name="ref2" />  


図3 Shank SAM ドメインの結晶構造 <ref name="ref3" />[[Image:Shank-SAM_2F44.png|frame|right|250px|図3 Shank SAMドメインの結晶構造]]  
図3 Shank SAM ドメインの結晶構造 <ref name="ref3" />[[Image:Shank-SAM 2F44.png|frame|right|250px|図3 Shank SAMドメインの結晶構造]]  


<br>  
<br>  
79行目: 79行目:
[[Image:3L4F.jpg|frame|right|250px|図4 Shank PDZ ドメインとbetaPIXとの相互作用]]  <ref><pubmed>20117114</pubmed></ref>  
[[Image:3L4F.jpg|frame|right|250px|図4 Shank PDZ ドメインとbetaPIXとの相互作用]]  <ref><pubmed>20117114</pubmed></ref>  


=== アクチン結合蛋白質 ===
=== [[アクチン]]結合蛋白質 ===


IRSp53  
IRSp53  
101行目: 101行目:
== Shank遺伝子の異常  ==
== Shank遺伝子の異常  ==


自閉症との関連については、Shank3の変異が最初に報告されたが、<ref><pubmed>17173049</pubmed></ref>、その後、Shank2 <ref><pubmed>20531469</pubmed></ref>, Shank1 <ref><pubmed>22503632</pubmed></ref>についても報告されている。Phelan–McDermid 症候群は染色体22q13部位の欠失によるもので、Shank3 の異常が原因の一つと考えられている.また、Shank3のノックアウトマウスは社会的相互作用の欠如や過剰な毛繕いなど自閉症様の表現型を呈する<ref><pubmed>21423165</pubmed></ref>。さらに、自閉症患者にみられるShank3のC末の欠失変異体は、優性にShank3のプロテアーゼ分解を促進して、シナプスの形成を阻害する<ref><pubmed>21565394</pubmed></ref>。&nbsp;  
[[自閉症]]との関連については、Shank3の変異が最初に報告されたが、<ref><pubmed>17173049</pubmed></ref>、その後、Shank2 <ref><pubmed>20531469</pubmed></ref>, Shank1 <ref><pubmed>22503632</pubmed></ref>についても報告されている。Phelan–McDermid 症候群は染色体22q13部位の欠失によるもので、Shank3 の異常が原因の一つと考えられている.また、Shank3のノックアウトマウスは社会的相互作用の欠如や過剰な毛繕いなど自閉症様の表現型を呈する<ref><pubmed>21423165</pubmed></ref>。さらに、自閉症患者にみられるShank3のC末の欠失変異体は、優性にShank3のプロテアーゼ分解を促進して、シナプスの形成を阻害する<ref><pubmed>21565394</pubmed></ref>。&nbsp;  


関連項目
関連項目  
シナプス後肥厚
自閉症


参考文献 <references />  
参考文献 <references />  


(執筆者:林 真理子、担当編集委員:柚崎 通介)
(執筆者:林 真理子、担当編集委員:柚崎 通介)
56

回編集