「Signal Transducers and Activator of Transcription 3」の版間の差分

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== 神経系での働き③:てんかん発作誘導性神経細胞死における神経保護作用 ==
== 神経系での働き③:てんかん発作誘導性神経細胞死における神経保護作用 ==


 生体マウスにおいて興奮性アミノ酸の一種、カイニン酸kainic acid (KA)投与によるてんかん誘導に際し、抗てんかん薬として知られるcarbamazepine (CBZ)を投与すると、海馬のCA3領域においてニューロン死の割合がKA投与のみの個体に比べ、低いことが分かった。また、KA+CBZ投与マウスのCA3ニューロンにおいて、STAT3の発現レベルがmRNA、タンパク質どちらにおいても上昇しており、活性化を表すリン酸化STAT3の増加も見られている。加えて、神経保護タンパク質として知られているB-cell lymphoma-extra large (Bcl-xl) もまた、KA+CBZ投与マウスのCA3ニューロン内で発現レベルが高まっている上、STAT3とSTAT1のヘテロ二量体がBcl-xl遺伝子に直接結合し、発現制御を行う<ref><pubmed> 8390097 </pubmed></ref>という報告から、CBZのシグナルを受けてJAK/STAT3経路が活性化し、Bcl-xlなどの高アポトーシス分子の発現を誘導することで、てんかんによるニューロン死への保護効果が上昇することが示唆されている<ref name="ref2" />。
 生体マウスにおいて興奮性アミノ酸の一種、カイニン酸kainic acid (KA)投与によるてんかん誘導に際し、抗てんかん薬として知られるcarbamazepine (CBZ)を投与すると、海馬のCA3領域においてニューロン死の割合がKA投与のみの個体に比べ、低いことが分かった。また、KA+CBZ投与マウスのCA3ニューロンにおいて、STAT3の発現レベルがmRNA、タンパク質どちら においても上昇しており、活性化を表すリン酸化STAT3の増加も見られている。加えて、神経保護タンパク質として知られているB-cell lymphoma-extra large (Bcl-xl) もまた、KA+CBZ投与マウスのCA3ニューロン内で発現レベルが高まっている上、STAT3とSTAT1のヘテロ二量体がBcl-xl遺伝子に直接結合し、発現制御を行う<ref><pubmed> 8390097 </pubmed></ref>という報告から、CBZのシグナルを受けてJAK/STAT3経路が活性化し、Bcl-xlなどの高アポトーシス分子の発現を誘導することで、てんかんによるニューロン死への保護効果が上昇することが示唆されている<ref name="ref2" />。
 炎症性サイトカインである腫瘍壊死因子tumor necrosis factor-α (TNF-α)は神経疾患、または炎症反応中の脳で、神経細胞毒性を持ち<ref><pubmed> 7507336 </pubmed></ref>、高濃度添加によりニューロン死が観察された。
 対して、インスリン様成長因子insulin-like growth factor-1 (IGF-1)は頭部外傷など、脳内の炎症反応により多量に発現し、神経保護を行う<ref><pubmed> 9246719 </pubmed></ref><ref><pubmed> 14568359 </pubmed></ref>。
 そして、IGF-1はTNF-α添加により誘導されるニューロン死を阻害することが明らかになった。この神経保護効果は、JAK/STAT3経路がIGF-1により活性化し、STAT3とSTAT1のヘテロ二量体がサイトカイン抑制シグナル分子supressors of cytokine signaling 3 (SOCS-3)の発現を促進することで、SOCS-3のフィードバック制御によりTNF-αシグナルを抑制し神経細胞死を阻害するためだと考えられる<ref name="ref3" />。
 


== 神経系での働き④:脊髄損傷時の反応性アストロサイト分化誘導 ==
== 神経系での働き④:脊髄損傷時の反応性アストロサイト分化誘導 ==


 脊髄に損傷が起こると炎症反応が発生し、損傷部周辺の細胞は炎症性サイトカインを多量に分泌する。これらの刺激により損傷部周辺でGFAP強陽性となる反応性アストロサイトの出現が観察される<ref><pubmed> 9989494 </pubmed></ref>。反応性アストロサイトは集合しグリア瘢痕を形成する<ref><pubmed> 12578228 </pubmed></ref>。グリア瘢痕は損傷部の物理的な防壁となり、損傷部を外部環境刺激から守ることで中枢神経系を再統合する役割を持つ<ref><pubmed> 9724451 </pubmed></ref>。しかし、グリア瘢痕は、Chondroitin sulfate proteoglycans (CSPGs) などの軸索伸長阻害因子を分泌し、損傷部周辺ニューロンの軸索再伸長を阻害するため、神経軸索再生が抑制される<ref><pubmed> 12626698 </pubmed></ref>。
 脊髄に損傷が起こると炎症反応が発生し、損傷部周辺の細胞は炎症性サイトカインを多量に分泌する。これらの刺激により損傷部周辺でGFAP強陽性となる反応性アストロサイトの出現が観察される<ref><pubmed> 9989494 </pubmed></ref>。反応性アストロサイトは集合しグリア瘢痕を形成する<ref><pubmed> 12578228 </pubmed></ref>。グリア瘢痕は損傷部の物理的な防壁となり、損傷部を外部環境刺激から守ることで中枢神経系を再統合する役割を持つ<ref><pubmed> 9724451 </pubmed></ref>。しかし、グリア瘢痕は、Chondroitin sulfate proteoglycans (CSPGs) などの軸索伸長阻害因子を分泌し、損傷部周辺ニューロンの軸索再伸長を阻害するため、神経軸索再生が抑制される<ref><pubmed> 12626698 </pubmed></ref>。
 軸索損傷を起こしたマウスへ、IL-6ファミリー受容体の機能を阻害する分子IL-6 receptor monoclonal antibody (MR16-1)を添加すると、損傷部の反応性アストロサイトの数が減少し、神経機能の回復が観察された。これらのことからIL-6ファミリーサイトカイン刺激によるJAK/STAT3経路の活性化によって、反応性アストロサイトの分化が誘導されることが示唆された<ref name><pubmed> 15048924 </pubmed></ref>。
 軸索損傷を起こしたマウスへ、IL-6ファミリー受容体の機能を阻害する分子IL-6 receptor monoclonal antibody (MR16-1)を添加すると、損傷部の反応性アストロサイトの数が減少し、神経機能の回復が観察された。
 
また、アストロサイト特異的にSTAT3遺伝子を欠損させたマウスに脊髄損傷を起こしても、反応性アストロサイトが出現せず、グリア瘢痕が形成できない<ref><pubmed> 18614693 </pubmed></ref>。
== 神経系での働き⑤:ニューロンの生存制御 ==
これらのことからIL-6ファミリーサイトカイン刺激によるJAK/STAT3経路の活性化によって、反応性アストロサイトの分化が誘導されることが示唆された<ref name><pubmed> 15048924 </pubmed></ref>。
 
 炎症性サイトカインである腫瘍壊死因子tumor necrosis factor-α (TNF-α)は神経疾患、または炎症反応中の脳で、神経細胞毒性を持つ<ref><pubmed> 7507336 </pubmed></ref>。TNF-αの高濃度添加によりニューロン死が観察された。インスリン様成長因子insulin-like growth factor-1 (IGF-1)は頭部外傷など、脳内の炎症反応により多量に発現し、神経保護を行う<ref><pubmed> 9246719 </pubmed></ref><ref><pubmed> 14568359 </pubmed></ref>。IGF-1はTNF-α添加により誘導されるニューロン死を阻害することが明らかになった。
 この神経保護効果は、JAK/STAT3経路がIGF-1により活性化し、STAT3とSTAT1のヘテロ二量体がサイトカイン抑制シグナル分子supressors of cytokine signaling 3 (SOCS-3)の発現を促進することで、SOCS-3のフィードバック制御によりTNF-αシグナルを抑制し神経細胞死を阻害するためだと考えられる<ref name="ref3" />。


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