「TAR DNA-binding protein of 43 kDa」の版間の差分

 
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<font size="+1">[https://researchmap.jp/read0060974 野中 隆]</font><br>
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''東京都医学総合研究所・認知症プロジェクト''<br>
''東京都医学総合研究所・認知症プロジェクト''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2020年11月27日 原稿完成日:2020年1X月X日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2020年11月27日 原稿完成日:2021年1月8日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/kojiyamanaka 山中 宏二](名古屋大学 環境医学研究所 病態神経科学)
担当編集委員:[http://researchmap.jp/kojiyamanaka 山中 宏二](名古屋大学 環境医学研究所 病態神経科学)
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== 機能 ==
== 機能 ==
 TDP-43はGly-richドメインを含むC末端領域を介して他のRNA結合タンパク質と結合し、タンパク質複合体を形成することによってスプライシングの調節に作用する。例えば、上述のようにTDP-43はCFTRのエクソン9をスキップさせ、スプライシング抑制因子として機能する<ref name=Buratti2001b><pubmed>11285240</pubmed></ref>ことが判明した。またこのタンパク質は、ヒト[[ニューロフィラメント軽鎖]](hNFL)mRNAの安定化<ref name=Strong2011><pubmed>17481916</pubmed></ref>、[[cyclin-dependent kinase 6]]([[Cdk6]])の発現抑制<ref name=Ayala2008><pubmed>18305152</pubmed></ref>、[[survival of motor neuron 2]]遺伝子([[SMN2]])のエクソン7のスプライシング促進<ref name=Bose2008><pubmed>18703504</pubmed></ref> (10)などと関連することが報告されている。それ以外にも、[[マイクロRNA]]の生合成、[[長鎖ノンコーディングRNA]]との関与、[[ストレス顆粒]]の形成にも関連することが知られている。
 TDP-43はGly-richドメインを含むC末端領域を介して他のRNA結合タンパク質と結合し、タンパク質複合体を形成することによってスプライシングの調節に作用する。例えば、上述のようにTDP-43はCFTRのエクソン9をスキップさせ、スプライシング抑制因子として機能する<ref name=Buratti2001b><pubmed>11285240</pubmed></ref>ことが判明した。またこのタンパク質は、ヒト[[ニューロフィラメント軽鎖]](hNFL)[[mRNA]]の安定化<ref name=Strong2011><pubmed>17481916</pubmed></ref>、[[cyclin-dependent kinase 6]]([[Cdk6]])の発現抑制<ref name=Ayala2008><pubmed>18305152</pubmed></ref>、[[survival of motor neuron 2]]遺伝子([[SMN2]])のエクソン7のスプライシング促進<ref name=Bose2008><pubmed>18703504</pubmed></ref>などと関連することが報告されている。それ以外にも、[[マイクロRNA]]の生合成、[[長鎖ノンコーディングRNA]]との関与、[[ストレス顆粒]]の形成にも関連することが知られている。


 またTDP-43遺伝子欠損マウスの解析より胎生致死となることが報告され、[[哺乳類]]においてTDP-43は必須であることが判明した<ref name=Wu2010><pubmed>20014337</pubmed></ref><ref name=Sephton2010><pubmed>20040602</pubmed></ref><ref name=Kraemer2010><pubmed>20198480</pubmed></ref>。さらにTDP-43は自分自身でその発現量を厳密にコントロールしていることも明らかとなった。すなわちTDP-43が自身のmRNAの3'UTRに結合し,近傍の選択的スプライシングやpolyA付加を変化させることにより,自身の発現を制御していることが報告された<ref name=Polymenidou2011><pubmed>21358643</pubmed></ref><ref name=Ayala2011><pubmed>21131904</pubmed></ref><ref name=Avendanño-Vázquez2012><pubmed>22855830</pubmed></ref>。この制御機構の破綻とALSやFTLDの発症との関連性が注目されている。
 またTDP-43遺伝子欠損マウスの解析より胎生致死となることが報告され、[[哺乳類]]においてTDP-43は必須であることが判明した<ref name=Wu2010><pubmed>20014337</pubmed></ref><ref name=Sephton2010><pubmed>20040602</pubmed></ref><ref name=Kraemer2010><pubmed>20198480</pubmed></ref>。さらにTDP-43は自分自身でその発現量を厳密にコントロールしていることも明らかとなった。すなわちTDP-43が自身のmRNAの3'UTRに結合し,近傍の選択的スプライシングやpolyA付加を変化させることにより,自身の発現を制御していることが報告された<ref name=Polymenidou2011><pubmed>21358643</pubmed></ref><ref name=Ayala2011><pubmed>21131904</pubmed></ref><ref name=Avendanño-Vázquez2012><pubmed>22855830</pubmed></ref>。この制御機構の破綻とALSやFTLDの発症との関連性が注目されている。


[[ファイル:Yokota semantic dementia Fig4.jpg|サムネイル|400px|'''図2. TDP-43蓄積の代表的な病理サブタイプ'''<br>'''A.''' Type A病理。<br>'''B.''' Type B病理。<br>'''C.''' Type C病理。<br>いずれもリン酸化TDP-43免疫染色(pS409/410-2)で、スケールバーは30 μm。横田 修、小森憲治郎ら[[意味性認知症]]の項目より。]]
[[ファイル:Yokota semantic dementia Fig4.jpg|サムネイル|400px|'''図2. TDP-43蓄積の代表的な病理サブタイプ'''<br>'''A.''' Type A病理。<br>'''B.''' Type B病理。<br>'''C.''' Type C病理。<br>いずれもリン酸化TDP-43免疫染色(pS409/410-2)で、スケールバーは30 μm。横田 修、小森憲治郎ら[[意味性認知症]]の項目より。]]
== 発現 ==
== 発現 ==
 TDP-43はほとんどすべての細胞に発現する核タンパク質であり、[[核]]内にびまん性に局在している。患者脳ではこの正常の局在が失われ、核内の一部や[[細胞質]]、[[神経突起]]などに異常な[[翻訳後修飾]]([[リン酸化]]、[[ユビキチン]]化および断片化など)を受けた TDP-43が凝集体を形成し、それぞれ[[核内封入体]] (neuronal intranuclear inclusion: NII)、[[細胞内封入体]] (neuronal cytoplasmic inclusion: NCI)、[[変性神経突起]] (dystrophic neurite: DN)と呼ばれる。さらに神経細胞のみならず[[オリゴデンドロサイト]]の細胞質内にも凝集体を形成する。これらは[[グリア細胞質内封入体]] (glial cytoplasmic inclusion: GCI) と呼ばれ、その出現部位は多様である。
 TDP-43はほとんどすべての細胞に発現する核タンパク質であり、[[核]]内にびまん性に局在している。患者脳ではこの正常の局在が失われ、核内の一部や[[細胞質]]、[[神経突起]]などに異常な[[翻訳後修飾]]([[リン酸化]]、[[ユビキチン]]化および断片化など)を受けた TDP-43が凝集体を形成し、それぞれ[[核内封入体]] (neuronal intranuclear inclusion: NII)、[[細胞内封入体]] (neuronal cytoplasmic inclusion: NCI)、[[変性神経突起]] (dystrophic neurite: DN)と呼ばれる。さらに神経細胞のみならず[[オリゴデンドロサイト]]の細胞質内にも凝集体を形成する。これらは[[グリア細胞質内封入体]] (glial cytoplasmic inclusion: GCI) と呼ばれ、その出現部位は多様である。