「Zic」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
637 バイト追加 、 2016年3月31日 (木)
編集の要約なし
 
(2人の利用者による、間の6版が非表示)
1行目: 1行目:
<div align="right">   
<div align="right">   
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0081768 有賀 純]、畑山 実</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0081768 有賀 純*]、畑山 実</font><br>
''長崎大学大学院医歯薬学総合研究科''<br>
''長崎大学大学院医歯薬学総合研究科''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年2月8日 原稿完成日:2016年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年2月8日 原稿完成日:2016年3月29日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/fujiomurakami 村上 富士夫](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/fujiomurakami 村上 富士夫](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br>
 *corresponding author
</div>
</div>


17行目: 18行目:


 「[[システイン]]-Xn-システイン-Xn-[[ヒスチジン]]-Xn-ヒスチジン」のモチーフが5回繰り返すC2H2型の[[亜鉛フィンガードメイン|亜鉛(Zn)フィンガードメイン]]は全てのZicファミリータンパク質で保存されている。その他にN末の[[ZOCドメイン|ZOC(Zic-Opa conserved)ドメイン]]と[[ZFNCドメイン|ZFNC(Zinc finger N–terminus conserved)ドメイン]]が多くのZicファミリータンパク質で保存された構造として知られている(図)。各動物グループ(門)間における保存性の差異の存在が提唱されている<ref name=ref5 />。Zicファミリーの亜鉛フィンガードメインは[[Gliファミリー]]および[[Glisファミリー]]のものと類似しており、3グループを総称して、[[Gliスーパーファミリー|Gli(-Glis-Zic)スーパーファミリー]]と呼ぶこともある。
 「[[システイン]]-Xn-システイン-Xn-[[ヒスチジン]]-Xn-ヒスチジン」のモチーフが5回繰り返すC2H2型の[[亜鉛フィンガードメイン|亜鉛(Zn)フィンガードメイン]]は全てのZicファミリータンパク質で保存されている。その他にN末の[[ZOCドメイン|ZOC(Zic-Opa conserved)ドメイン]]と[[ZFNCドメイン|ZFNC(Zinc finger N–terminus conserved)ドメイン]]が多くのZicファミリータンパク質で保存された構造として知られている(図)。各動物グループ(門)間における保存性の差異の存在が提唱されている<ref name=ref5 />。Zicファミリーの亜鉛フィンガードメインは[[Gliファミリー]]および[[Glisファミリー]]のものと類似しており、3グループを総称して、[[Gliスーパーファミリー|Gli(-Glis-Zic)スーパーファミリー]]と呼ぶこともある。
{{Infobox protein family
| Symbol = zf-C2H2
| Name = C2H2型Zincフィンガー
| image = 2rpc.pdb
| width = 250
| caption =  ヒトZic3のZf-c2h2ドメイン。{{PDB2|2RPC}}による<ref><pubmed> 18716025 </pubmed></ref>。
| Pfam = PF00096
| Pfam_clan = CL0361
| InterPro = IPR007087
| SMART =
| PROSITE = PS00028
| MEROPS =
| SCOP =
| TCDB =
| OPM family =
| OPM protein =
}}


==分子機能==
==分子機能==
 亜鉛フィンガーを介して[[DNA]]と結合するほか、転写の[[共役因子]]、[[クロマチン再構成因子]]と結合して、遺伝子の発現を制御することが知られている。転写活性とは関係無しに非対称性分裂を制御する機序も報告されている<ref name=ref7><pubmed>20478299</pubmed></ref>。  
 亜鉛フィンガーを介して[[DNA]]と結合するほか、転写の[[共役因子]]、[[クロマチン再構成因子]]と結合して、遺伝子の発現を制御することが知られている。多数の下流標的遺伝子が報告されている。転写活性とは関係無しに非対称性分裂を制御する機序も報告されている<ref name=ref7><pubmed>20478299</pubmed></ref>。  


 [[hedgehog]]シグナル、[[Wnt]]シグナル、[[TGFβ]]シグナル、[[レチノイン酸]]シグナルなどの生体情報系と関係を持つことが知られている。[[wj:核|核]]に存在する場合が多いが、[[ヒト]][[wj:先天奇形|先天奇形]]の患者由来の変異体の一部は細胞内局在の異常を示す。
 [[hedgehog]]シグナル、[[Wnt]]シグナル、[[TGFβ]]シグナル、[[レチノイン酸]]シグナルなどの生体情報系と関係を持つことが知られている。[[wj:核|核]]に存在する場合が多いが、[[ヒト]][[wj:先天奇形|先天奇形]]の患者由来の変異体の一部は細胞内局在の異常を示す。
38行目: 56行目:


====小脳の発生====
====小脳の発生====
 ZIC1は[[小脳]][[虫部]]の形成障害を主徴とする[[Dandy-Walker症候群]]の原因遺伝子の1つである<ref name=ref13>'''有賀純'''<br>Dandy−Walker症候群<br>''Clinical Neuroscience'', 2015. 33: p. 397-401.</ref>。3q24-25欠失を伴う8症例において、ZIC1と[[ZIC4]]のヘテロ欠失が報告されている。Zic1, Zic2は発生過程の小脳において強い発現があり、それらの機能が失われたマウスでは小脳の形成異常が生じる。成熟個体の小脳では[[顆粒細胞]]にZic1,Zic2の強い発現があり、マーカーとして用いられることもある。
 ZIC1は[[小脳]][[虫部]]の形成障害を主徴とする[[Dandy-Walker症候群]]の原因遺伝子の1つである<ref name=ref13>'''有賀純'''<br>Dandy−Walker症候群<br>''Clinical Neuroscience'', 2015. 33: p. 397-401.</ref>。3q24-25欠失を伴う8症例において、ZIC1と[[ZIC4]]のヘテロ欠失が報告されている。Zic1, Zic2は発生過程の小脳において強い発現があり、それらの機能が失われたマウスでは小脳の形成異常が生じる。成熟個体の小脳では[[顆粒細胞]]にZic1,Zic2の強い発現があり、マーカーとして用いられることもある。"Zic"という遺伝子名は"ZInc-finger protein of the Cerebellum"の略に由来している<ref name=ref1 />。
 
 
====神経細胞のネットワーク形成====  
====神経細胞のネットワーク形成====  
57行目: 75行目:


====分節構造の形成====
====分節構造の形成====
 [[脊椎動物]]ではZicファミリーは体節に発現し、その形成と分化を制御する。ショウジョウバエとクモのOdd-pairedは体の[[前後軸]]に沿った分節の際に発現しており、分節形成に関与する<ref name=ref21><pubmed>21988916</pubmed></ref>。有爪動物(カギムシ)と環形動物(イトミミズ)でも分節構造の形成の際に発現する<ref name=ref22><pubmed>23880430</pubmed></ref> <ref name=ref23><pubmed>18810489</pubmed></ref>。
 [[脊椎動物]]ではZicファミリーは体節に発現し、その形成と分化を制御する。ショウジョウバエとクモのOdd-pairedは体の[[前後軸]]に沿った分節の際に発現しており、[[分節形成]]に関与する<ref name=ref21><pubmed>21988916</pubmed></ref>。[[wj:有爪動物|有爪動物]]([[wj:カギムシ|カギムシ]])と[[wj:環形動物|環形動物]]([[wj:イトミミズ|イトミミズ]])でも分節構造の形成の際に発現する<ref name=ref22><pubmed>23880430</pubmed></ref> <ref name=ref23><pubmed>18810489</pubmed></ref>。


====骨格系の形態形成====
====骨格系の形態形成====
 Zic1、Zic2、Zic3、またはZic5を欠損するマウスでは、[[wj:脊椎|脊椎]]・[[wj:椎弓|椎弓]]、[[wj:肋骨|肋骨]]、[[wj:顎骨|顎骨]]、四肢骨の形態異常が認められる。[[wj:硬骨魚類|硬骨魚類]]の[[wj:尾びれ|尾びれ]]の[[背腹軸]]に沿った非対称性の成り立ちにZic1、Zic4が関わり<ref name=ref24><pubmed>22386310</pubmed></ref>、体節を背側化するスイッチとしての役割を果たす<ref name=ref25><pubmed>23462471</pubmed></ref>。椎弓の形成においてはZic1と[[Gli3]]が協調的に働き、肢芽の形態形成においてはZic3とGli3が拮抗的に働くことが示されている<ref name=ref26><pubmed>22234993</pubmed></ref>
 Zic1、Zic2、Zic3、またはZic5を欠損するマウスでは、[[wj:脊椎|脊椎]]・[[wj:椎弓|椎弓]]、[[wj:肋骨|肋骨]]、[[wj:顎骨|顎骨]]、四肢骨の形態異常が認められる。[[wj:硬骨魚類|硬骨魚類]]の[[wj:尾びれ|尾びれ]]の[[背腹軸]]に沿った非対称性の成り立ちにZic1、Zic4が関わり<ref name=ref24><pubmed>22386310</pubmed></ref>、体節を背側化するスイッチとしての役割を果たす<ref name=ref25><pubmed>23462471</pubmed></ref>。椎弓の形成においてはZic1と[[Gli3]]が協調的に働き、肢芽の形態形成においてはZic3とGli3が拮抗的に働くことが示されている<ref name=ref26><pubmed>22234993</pubmed></ref>。ヒトZIC3とVACTERL症候群(脊椎奇形、肛門直腸奇形、心奇形、気管食道瘻、腎奇形、四肢欠陥などが合併する先天奇形)の関連が報告されている。


====筋肉系の分化====
====筋肉系の分化====
87行目: 105行目:
|-
|-
|Zic2
|Zic2
|全前脳症([[HPE5]](<u>編集部コメント:HPE5については本文では触れられていないようです</u>)、前脳正中部形成異常)<br>近視<ref name=ref36><pubmed>23396134</pubmed></ref> <ref name=ref37><pubmed>    24150758</pubmed></ref>
|全前脳症(前脳正中部形成異常)<br>近視<ref name=ref36><pubmed>23396134</pubmed></ref> <ref name=ref37><pubmed>    24150758</pubmed></ref>
|全前脳症・二分脊椎症様奇形<br>中軸・四肢骨格系形成の異常<br>筋肉発生の異常<br>大脳層構造の異常<br>視交叉での神経走向の異常<br>認知機能・社会行動の異常<br>髄膜の形成不全
|全前脳症・二分脊椎症様奇形<br>中軸・四肢骨格系形成の異常<br>筋肉発生の異常<br>大脳層構造の異常<br>視交叉での神経走向の異常<br>認知機能・社会行動の異常<br>髄膜の形成不全
|-
|-
93行目: 111行目:
|内臓左右不定位症<br>(situs ambiguous, heterotaxy)<br>
|内臓左右不定位症<br>(situs ambiguous, heterotaxy)<br>
心奇形(内臓の左右位置異常と関係したもの、完全大動脈転位、両大血管右室起始症など)<br>
心奇形(内臓の左右位置異常と関係したもの、完全大動脈転位、両大血管右室起始症など)<br>
[[VACTERL症候群]]<u>編集部コメント:VACTERL症候群については本文では触れられていないようです</u>)(脊椎奇形、肛門直腸奇形、心奇形、気管食道瘻、腎奇形、<br>四肢欠陥などが合併する先天奇形)<ref name=ref38><pubmed>26294094</pubmed></ref>
[[VACTERL症候群]](脊椎奇形、肛門直腸奇形、心奇形、気管食道瘻、腎奇形、<br>四肢欠陥などが合併する先天奇形)<ref name=ref38><pubmed>26294094</pubmed></ref>
|尾の屈曲、脊椎の形成異常<br>神経管奇形<br>左右軸形成の異常<br>小脳形成の異常<br>[[動眼]]調節機能の異常<br>筋緊張度の低下<br>
|尾の屈曲、脊椎の形成異常<br>神経管奇形<br>左右軸形成の異常<br>小脳形成の異常<br>[[動眼]]調節機能の異常<br>筋緊張度の低下<br>
|-
|-

案内メニュー