体部位再現

2015年2月3日 (火) 17:38時点におけるTfuruya (トーク | 投稿記録)による版

田岡 三希
独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター
DOI:10.14931/bsd.3835 原稿受付日:2013年5月15日 原稿完成日:2015年2月3日
担当編集委員:藤田 一郎(大阪大学 大学院生命機能研究科)

英語名:somatotopy 独:Somatotopik 仏:somatotopie

同義語:体部位局在

 身体を構成する特定の体部位の再現が中枢神経系の特定の領域と1対1に対応する場合、体部位再現がある、という。大脳皮質第一次体性感覚野第一次運動野第二次体性感覚野高次運動野に存在する。第一次体性感覚野では、手や顔、口が実際の体部位よりも大きく、広い面積を占めている一方で体幹などは小さくなっている。対象物に接触し、識別に関わる体部位は、触覚受容器の密度も高く、再現される脳領域も広くなる。

体部位再現とは

 
図1 ヒト感覚野(左)、運動野(右)における体部位再現
原図は文献[1]による。

 身体を構成する特定の体部位の再現が中枢神経系の特定の領域と1対1に対応する場合、体部位再現がある、という。大脳皮質第一次体性感覚野や第一次運動野の体部位再現が典型的な例としてあげられる。ヒトマカクサルの第一次体性感覚野を例にすると、この感覚野中心溝に沿って内外側方向に帯状に広がっている。その最内側には反対側の足の刺激に応じるニューロンが存在する。これを「足の再現」(foot representation)という。この領域から外側に移動していくと下肢近位部、体幹、頭頸部、上肢近位部、手指と再現する体部位が実際の体部位の配置に従って移動していく。手指再現領域の更に外側には顔面、口腔が再現される。これに基づき、体部位を脳表に配置した図を体部位再現図という(図1)。

 体部位再現図ではカナダの脳外科医ワイルダー・ペンフィールドらによるホムンクルスが有名である[2]。第一次体性感覚野の体部位再現図では、手や顔、口が実際の体部位よりも大きく、広い面積を占めている一方で体幹などは小さくなっている。このように対象物に接触し、その識別に関わる体部位は、触覚受容器の密度も高く、再現される脳領域も広くなると考えられている。

感覚野

 ペンフィールドは、てんかん患者の手術に先立ち、脳表に電気刺激を加えた時、患者にどのような感覚が生じたかを丹念に調べることで第一次体性感覚野の体部位再現図を作成した。最近のブレインイメージングの手法では、実際に体表に刺激を加えたり、末梢神経を電気刺激したときの活動する脳領域を調べることで、体部位再現の研究が行われている。

 実験動物を使用した体部位再現の研究では、大脳皮質の神経細胞の活動を記録しながら、身体に体性感覚刺激を加え、刺激によって神経細胞の活動を惹起する体部位を調べることで行われる。Kaasらにより、種々の霊長類で体部位再現図が明らかにされた。Kaasらの研究によるとマカクサルの一次体性感覚野を構成するブロードマンの脳地図3野1野2野にはそれぞれ独立した体部位再現が存在するという[3]

運動野

 運動野においては、ペンフィールドが行った方法と同様に脳を電気刺激し、どの体部位に運動が引き起こされたか、で体部位再現が研究されてきた。ペンフィールド[2]は中心溝の前方の領域に第一次体性感覚野とほぼ並行した体部位再現が存在することを明らかにした。Woolseyらはマカクサルの脳に電極を刺入し、電気刺激よって引き起こされた筋肉の収縮を観察し、第一次運動野の体部位再現を明らかにした[4]。これらの実験は、大脳皮質の第一次運動野に身体部位特異性がある事を明らかにした点で重要である。しかし、マカクサルを使った詳細な電気刺激実験では、特定の部位が一つの筋肉と1対1に必ずしも対応しているわけではないこと、個々の筋肉もしくは関節の再現が整然と配置されておらず、ある筋肉に対応する脳部位は離れた場所に複数存在することなどが明らかになった[5]

他の大脳皮質領域

 第一次体性感覚野と第一次運動野以外にも体部位再現が存在する大脳皮質領域が報告されている。ヒトやマカクサルでは一次体性感覚野の外側のシルヴィウス裂に埋もれている第二次体性感覚野では、前方に頭部の再現領域が有り、その後方に向かって上肢、下肢が再現されている。Krubitzer らの電気生理学実験[6]やBurtonらの第一次体性感覚野との神経連絡を調べた実験[7]から第二次体性感覚野には互いに鏡像関係に配置された2つの再現図が存在するという説が有力となった。マカクサルを使った研究では補足運動野などの高次運動野でも体部位再現が存在することが報告されている。高次運動野では、一般に一次運動野に比べ、身体部位を動かすためには大きな電流が必要なこと、また、同時に複数の関節が動く傾向が大きいことなどの違いがあるという。

関連項目

参考文献

  1. Penfield, W. & Rasmussen, T.
    The Cerebral Cortex of Man (1950).
    Macmillan, New York.
  2. 2.0 2.1 Penfield W, Boldrey E
    Somatic motor and sensory representation in the cerebral cortex of man as studied by electrical stimulation.
    Brain 60: 389-443, 1937
  3. Pons, T.P., Garraghty, P.E., Cusick, C.G., & Kaas, J.H. (1985).
    The somatotopic organization of area 2 in macaque monkeys. The Journal of comparative neurology, 241(4), 445-66. [PubMed:4078042] [WorldCat] [DOI]
  4. WOOLSEY, C.N., SETTLAGE, P.H., MEYER, D.R., SENCER, W., PINTO HAMUY, T., & TRAVIS, A.M. (1952).
    Patterns of localization in precentral and "supplementary" motor areas and their relation to the concept of a premotor area. Research publications - Association for Research in Nervous and Mental Disease, 30, 238-64. [PubMed:12983675] [WorldCat]
  5. Sato, K.C., & Tanji, J. (1989).
    Digit-muscle responses evoked from multiple intracortical foci in monkey precentral motor cortex. Journal of neurophysiology, 62(4), 959-70. [PubMed:2681562] [WorldCat] [DOI]
  6. Krubitzer, L., Clarey, J., Tweedale, R., Elston, G., & Calford, M. (1995).
    A redefinition of somatosensory areas in the lateral sulcus of macaque monkeys. The Journal of neuroscience : the official journal of the Society for Neuroscience, 15(5 Pt 2), 3821-39. [PubMed:7751949] [WorldCat]
  7. Burton, H., Fabri, M., & Alloway, K. (1995).
    Cortical areas within the lateral sulcus connected to cutaneous representations in areas 3b and 1: a revised interpretation of the second somatosensory area in macaque monkeys. The Journal of comparative neurology, 355(4), 539-62. [PubMed:7636030] [WorldCat] [DOI]