方位選択性

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方位選択性とは

 ある特定の傾きをもった線分や物体の輪郭にのみ応答する視覚ニューロンの特徴選択性を方位選択性と呼ぶ。方位選択性は多くの初期視覚皮質ニューロンが持つ重要な特徴選択性であり、方位選択性を有する視覚ニューロンは自然画像や視覚イメージ中のエッジの傾き情報を抽出する役割を担っていると考えられている。現時点では刺激方位選択性を有する視覚ニューロンは大脳皮質一次視覚野(V1)において初めて生じるとする仮説が支持されているが、このモデルに対する反論も報告されている(要文献)。  V1ニューロンの方位選択性に関する研究はHubelとWieselによってネコとサルを用いた研究から始り、その歴史的経緯からネコとサルを被験動物とした研究結果の蓄積がなされている。近年では齧歯類のV1ニューロンも方位選択性を示すことが確認されており、ネコ、サルとの方位選択性形成メカニズムの違いに関する研究が盛んに行われている(要文献)。

V1ニューロンの方位選択性形成メカニズムのモデル

 多くのV1ニューロンは刺激方位選択性を示すことが知られている。ネコ及び齧歯類では入力層である4層に存在するニューロンの多くも方位選択性を示すが、ニホンザルなどの霊長類では4層では同心円状の受容野を持ち方位選択性を示さない、もしくは非常に弱い選択性を示すニューロンが多く存在する。また齧歯類のV1で観察される方位選択性はネコやサルの方位選択性とその形成メカニズムが大きく異なる可能性が示唆されている(要文献)。以下ではネコV1における方位選択性形成のメカニズムについて論じる。  V1の主たる入力源である外側膝状体(lateral geniculate nucelus; LGN)の中継細胞は中心周辺拮抗型同心円状の受容野構造を有し、方位選択性は極めて弱いことが知られている。LGN中継細胞軸索週末はV1入力層に投射しており、数十のLGNニューロンが1つのV1ニューロンと結合を有すると考えられている。V1ニューロンに投射するLGN中継細胞は、その受容野中心がある特定の方位にむかって少しずつ異なる位置にあり、その結果としてV1入力層で多く観察される単純型細胞は特定方位に伸びたサブリージョンを持つ。このようなLGNからV1への投射のパタンによって、V1ニューロンの方位選択性が形成されるという考え方をフィードフォワードモデルと呼ぶ。  HubelとWieselによって提唱されたフィードフォワードモデルは、その後多くの研究によって検証され、幾つかの問題点が指摘されている。代表的な問題点として以下の2つが挙げられる。1)V1ニューロンの方位選択性の程度は刺激の輝度コントラストによらず一定であるというコントラスト普変性が実験的に確認されているが、フィードフォワードモデルはこの現象を説明できない。2)V1ニューロンの受容野内に最適方位に傾いた線分とその直交方位に傾いた線分を同時に提示すると応答が大きく減弱する(cross-orientation inhibition)が、フィードフォワードモデルはこの現象を説明できないこと。 これらの現象は、方位選択性の形成には皮質内抑制性メカニズムの関与が必要である可能性を示唆している。しかし、入力層に位置するV1ニューロンのEPSPを皮質冷却下で計測した実験から、冷却条件下EPSPは振幅が低下するが、方位選択性は通常条件下と遜色ないことが報告されている。皮質冷却条件下ではV1内興奮性投射は抑えられており、EPSPはLGNからの入力そのものを反映していると考えることができる。したがって、V1ニューロンに対するLGNニューロンからの興奮性投射そのものが方位選択性をもっており、皮質内抑制はV1ニューロンの方位選択性を増強する役割を担っていると考えらている。 さらにV1ニューロンの膜電位とスパイク応答の間には非線形な関係があることや、刺激と無関係なノイズによってスパイク発射閾値がコントロールされていることを加味することで、V1ニューロンの法い選択性のコントラスト不変性やcross-orientation inhibitionが説明可能であることが報告されていおり、現時点ではフィードフォワードモデルに若干の改変を加えた改変版フィードフォワードモデルが大筋で支持されているといえる。

(編集途中です)