水道周囲灰白質

2012年8月7日 (火) 09:43時点におけるYoshimasakoyama (トーク | 投稿記録)による版

中脳周囲灰白質 (periaqueductal gray)

解剖

第三脳室と第四脳室を結ぶ中脳水道を取り巻く細胞集団。水道周囲灰白質ともいう。中脳周囲灰白質の正中腹側部には、吻側からDarkschewisch核、Edinger-Westphal核 (エディンガー・ウェストファル核)(動眼神経副核)、動眼神経核、滑車神経核などが続く。その尾側にはセロトニン作動性ニューロンを豊富に含む背側縫線核が、腹外側部にはアセチルコリン作動性ニューロンを多く含む外背側被蓋核が拡がる。


線維連絡

求心性投射 大脳辺縁系(海馬、扁桃体)、視床下部、不確帯、分界条床核、脚傍核などから、情動や自律神経系の変化に伴う入力を受ける。上丘、下丘、脳幹網様体、三叉神経脊髄路核、脊髄などからは、感覚性の入力を受ける。(ラット、ネコ、ウサギなどは)一次運動野からの入力も受ける。興奮性入力としては、グルタミン酸作動性ニューロンが多いが、視床下部の結節乳頭核からは、ヒスタミン作動性、外側部からはオレキシン作動性ニューロンが投射する。脳幹網様体からは、青斑核を始め、いくつかのニューロン群(A1、A2、A5)から、ノルアドレナリン作動性入力を、C1、C2ニューロン群からアドレナリン作動性入力を、縫線核群からはセロトニン作動性入力を、外背側被蓋核や脚橋被蓋核からアセチルコリン作動性入力を受ける。

遠心性投射 視床下部、不確帯、脳幹網様体、上丘、外側脚傍核、縫線核群、脊髄などに投射する。さまざまな情報を統合して、適切な行動様式発現のための情報を脳幹網様体(おもに延髄)や脊髄に送る。また、これらの領域からは、いずれも求心性投射を受けており、密接な相互連絡が形成されている。

おもな神経伝達物質

PAGのニューロンは、以下のような物質を神経伝達物質/神経修飾物質として、含有する。 グルタミン酸、アスパラギン酸 GABA、グリシン エンケファリン、ダイノルフィン、サブスタンスP、コレシストキニン、ニューロテンシン、コルチコトロピン放出ペプチド(CRF)、ガストリン放出ペプチド(GRP)、ニューロメディンB、ガラニン、LHRH、ACTH、一酸化窒素(NO)


痛覚抑制作用

PAGから視床に投射する上行性抑制系と延髄に投射する下行性抑制系がある。上行性抑制系としては、背側縫線核からのセロトニン作動性ニューロンが、視床の腹側基底核群や髄板内核に投射し、痛覚の伝達を抑制している。 下行性抑制系は、背内側部(dmPAG)、腹外側部(vmPAG)から吻側延髄腹内側部 (rostroventromedial medulla; RVM) に投射する。主にグルタミン酸作動性であり、その一部は、ニューロテンシン(NT)を伝達物質にもつ[1]。RVMには、セロトニン作動性ニューロンを含む大縫線核(Raphe Magnus: RMn)、非セロトニン作動性の巨大細胞網様核、傍巨大細胞網様核などが存在し、これらのニューロンが、脊髄後核の痛覚受容ニューロンを抑制する。PAGからの下行性抑制系は、RVMの脊髄投射ニューロンを活性化することによって、痛覚抑制を引き起こす。 これらのPAGニューロンは、PAG内のGABA作動性ニューロンの抑制を受けている[2]。視床下部から投射するβエンドルフィン作動性ニューロン、PAG内のエンケファリン作動性ニューロンなどのオピエート系は、このGABA作動性ニューロンを抑制することにより、痛覚抑制を引き起こす[3]。オピエート系と独立に、エンドカンナビノイド系も、このGABA作動性ニューロンの作用(GABA放出)を抑えることにより、痛覚抑制を引き起こすと考えられている。 たとえば、PAG内のニューロテンシン作動性ニューロンは、RMnに投射するグルタミン酸作動性ニューロンに興奮性に作用する[2]。一方、エンドカンナビノイドを介して、このニューロンへのGABA放出を抑制している[4]。サブスタンスP、コレシストキニンも、ニューロテンシンと同様のメカニズムで、痛覚抑制に関与する[5]


情動行動

 PAGの背側および背外側部への電気刺激やグルタミン酸作動薬の投与によって、攻撃(aggression)、防御(defence)、威嚇(rage)などの反応が誘発される。その尾側の領域の刺激によって逃走反応(flighting)が、腹外側の刺激では、すくみ反応(freezing)が誘発される。防御反応には、排尿(micturition)、脱糞(defecation)、眼球突出(exophthlmus)などが伴うことがある。  情動の中枢とされる大脳辺縁系(海馬、扁桃体、中隔核)や分界条床核から直接に、あるいは視床下部を介して入力を受ける[6]。ネコでは、視床下部外側部からPAGへの入力は、攻撃反応を促進し、視床下部内側部からの入力は、防御/威嚇反応の促進、攻撃反応の抑制に関与する [7]。これらの入力系はNMDAレセプターを介したグルタミン酸作動性ニューロンが主であるが、視床下部内側部からは、サブスタンスP作動性ニューロンも、防御/威嚇反応の促進と、攻撃反応の抑制に関与する[8]。  扁桃体基底核群(basal complex)からは、グルタミン酸作動性ニューロンがPAGに直接に入力し、防衛/威嚇反応を促進する[7]。一方、扁桃体中心核(central amygdale)からはオピオイド作動性ニューロンが投射し、μレセプターを介して防御/威嚇反応を抑制する。[7]。扁桃体内側核(medial amygdala)からは、サブスタンスP作動性ニューロンが視床下部内側部に投射し、視床下部内側部―PAGの防御/威嚇反応の促進、攻撃行動の抑制に関与する[9]。ラットでは、doesal PAGへのセロトニンは5HT1Aレセプターを介して防御反応を抑制し[10]、マウスでは、dorsal PAGへのCRFが防御反応を促進する[11]。  情動行動の発現系は、他の行動の発現系と相互抑制の関係にあり、たとえば上記のように攻撃行動とそれに対する防御/威嚇反応は、PAGのレベルで拮抗関係にある。この抑制にはGABA作動性ニューロンが関与すると考えられている[12]。また、マウスでは、PAG吻外側部へのモルフィンの投与によって、生きた昆虫への狩猟行動(hunting)が促進し、育児行動が抑制される[13]。コレシストキニン(CCK)は、モルフィンの作用に拮抗的に働く[14]


自律神経系の変動(血圧、心拍の調節)

情動行動の発現に伴って、心拍、血圧の変動など、交感神経系の活性化が伴う。PAGの背側から背外側部への電気刺激、NMDA、ホモシステイン酸などのグルタミン酸作動薬によって、交感神経活動の上昇、血圧、心拍数の上昇などが誘発され[15][16]、PAG腹外側部への刺激によって、血圧、心拍数の低下が起こる[16]。
視床下部背内側核(dorsomedial hypothalamic nucleus: DMH)への電気刺激によって、腎交感神経活動や血圧の上昇が誘発されるが、これらの反応は、PAG背外側部へのエンドカンナビノイド(ECB)拮抗剤や、セロトニンの投与によって減弱する[17] したがって、DMHからPAGへの交感神経性入力はECBを介しており、セロトニンはPAGにおける自律神経系の亢進に抑制的に作用すると言える。


発声    PAGの外側からその外側の中脳網様体への電気刺激によって、種特異的な、さまざまな発声パターンが誘発される[18]。PAGは、辺縁系(前帯状皮質、中隔、偏桃体)や視床下部、視床正中部から、情動に伴う、あるいは随意性の発声の指令を受け、上丘、下丘、孤束核、三叉神経脊髄路核などから、感覚性入力を受ける。そして、これらの情報を統合して、延髄の後疑核(retroambiguus nucleus)に投射する[19]。後疑核は、発声筋を支配する種々の運動神経群(三叉神経核、顔面神経核、舌下神経核、擬核)に投射している。 PAGへの入力系は、主にグルタミン酸作動性であり、PAGニューロンは、この興奮性入力に加え、GABA作動性の抑制を持続的に受けている[20]。また、Glysine, opioidも抑制性の[21]、アセチルコリン、ヒスタミンは促進性の修飾作用を及ぼす[22]


呼吸

 外的、内的状態の変化によってさまざまな呼吸パターンが生じる。たとえば、危険からの逃避時には、浅呼吸(shallow breathing)、強度の運動時には頻呼吸(tachypnea)、酸素の供給が不十分なときや不安時にはあえぎ(gasping)が起こる。また、発声は、呼吸運動、特に呼吸の呼気相に密接に関連し、発声時には、呼吸様式の変化を伴う。  PAGは、辺縁系や前頭前野からの入力を受け、延髄の呼吸中枢の活動を調節することにより、状況に応じた適切な呼吸パターンの発現に関与している。

PAGのさまざまな領域をグルタミン作動薬(ホモシステイン酸)で刺激すると、さまざなな呼吸パターンが誘発される。例えば、dlPAGへの刺激によって、恐怖反応(fright)や逃走時(flight)に見られる頻呼吸(tachypnea)が誘発される。発声に関連するlPAG, vlPA を刺激すると、mews, hissesなどの発声に伴う呼吸様式の変化が誘発される[23]


性行動

PAGは、性行動の発現に中心的な役割を果たす内側視索前野(medial preoptic area: MPOA)から投射を受け、PAGから延髄巨大細胞核(nucleus gigantocellularis: nGi)への投射がオス、メスの性行動の発現に重要な役割を果たす。 MPOAからPAG、PAGからnGiへの投射ニューロンの多くは、ステロイドホルモン゙(エストロゲン、アンドロゲン)゙含有ニューロンであり、この系の活性化は、ステロイドホルモンに強く存する[24]。dPAGには末梢からの感覚情報も入力し、ここでMPOAからの促進性入力と感覚入力との統合が行われている。

オスでは、MPOAからPAGを介する経路が、陰茎勃起に関与している[25]。オスの性行動の発現には、MPOAから腹側被蓋、黒質、中脳網様核などへの経路が関与すると考えられている[26]。
メスでは視床下部腹内側核(VMH)からのdPAGへの投射が性行動(ロードシス)の促進系として働いている[27]。一方、外側中隔(LS)から腹側PAGへの経路は、lordosis の抑制系として作用する引用エラー: <ref> タグに対応する </ref> タグが不足しています。 PAGでは、さまざまな物質が、性行動の修飾に関与している。LHRH、プロラクチン、サブスタンスPは、促進的に[28],   [29], [30]、CRF,βエンドルフィンは、抑制的に作用する[31]


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