9,444
回編集
Yoshihirokubo (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
細編集の要約なし |
||
1行目: | 1行目: | ||
英:ion | 英:ion channel 独: Ionenkanal 仏: canal ionique | ||
イオンチャネルとは、形質膜あるいは内膜系に存在する、イオンを透過させる役割を持つ膜タンパク質である。生体膜を構成する脂質二重膜はイオンをほとんど透過しないため、イオンを膜の内外に透過させるために生体機能に必須のタンパク質であり、バクテリアから高等動物まで、あらゆる細胞に発現している。イオン透過路に存在する[[イオン選択性フィルター]]により、通ることのできるイオンの種類、あるいは大きさが決まっている。したがって[[カリウムチャネル]]など、透過するイオンの種類によって分類することが可能である。また[[ゲート]]によっても分類が可能で、膜電位に依存して開閉する[[電位依存性チャネル]]や、リガンドが結合することによって開く[[リガンド依存性イオンチャネル]](イオンチャネル型受容体)、機械刺激受容チャネルなどが存在する。神経回路の活動、筋収縮、[[感覚]など、イオンが関わるあらゆる生理機能に深く関与している。 | イオンチャネルとは、形質膜あるいは内膜系に存在する、イオンを透過させる役割を持つ膜タンパク質である。生体膜を構成する脂質二重膜はイオンをほとんど透過しないため、イオンを膜の内外に透過させるために生体機能に必須のタンパク質であり、バクテリアから高等動物まで、あらゆる細胞に発現している。イオン透過路に存在する[[イオン選択性フィルター]]により、通ることのできるイオンの種類、あるいは大きさが決まっている。したがって[[カリウムチャネル]]など、透過するイオンの種類によって分類することが可能である。また[[ゲート]]によっても分類が可能で、膜電位に依存して開閉する[[電位依存性チャネル]]や、リガンドが結合することによって開く[[リガンド依存性イオンチャネル]](イオンチャネル型受容体)、機械刺激受容チャネルなどが存在する。神経回路の活動、筋収縮、[[感覚]]など、イオンが関わるあらゆる生理機能に深く関与している。 | ||
==イオンチャネルとは== | ==イオンチャネルとは== | ||
[[Image:Kv1.2.png| | [[Image:Kv1.2.png|300px|thumb|right|'''図1.電位依存性[[カリウムチャネル]]の構造(pdb:2R9R)'''<br>紫の球はカリウムイオン。]] | ||
イオンチャネルは、形質膜や細胞内膜系に存在する膜タンパク質である。イオンは脂質二重膜をほとんど透過しないため、細胞内外にイオンを輸送するためにイオンチャネルが必要になる。イオン透過路を有し、濃度と電位の勾配に従ってイオンを流出入させる機能を持つ。イオン透過路は通常[[ゲート]]を有し、膜電位やリガンドなどの刺激により開閉する。透過させるイオンの種類や、[[ゲート]]の種類、トポロジー(何回膜を貫通しているか)などによって分類される。[[神経細胞]]における[[活動電位]]の発生、筋収縮、[[神経伝達物質]]の放出、ホルモン等の分泌、[[感覚]]など、イオンが関わるありとあらゆる生理現象を担う重要な膜タンパク質である。 | |||
==イオンチャネル研究の歴史== | ==イオンチャネル研究の歴史== | ||
11行目: | 13行目: | ||
==イオンチャネルの構造とファミリー== | ==イオンチャネルの構造とファミリー== | ||
イオンチャネルは、通すイオンの種類やリガンドの種類などによって命名・分類されている。また分子構造(トポロジー)などからも分類される。 | イオンチャネルは、通すイオンの種類やリガンドの種類などによって命名・分類されている。また分子構造(トポロジー)などからも分類される。 | ||
===[[電位依存性チャネル]]ファミリー=== | ===[[電位依存性チャネル]]ファミリー=== | ||
====電位依存性[[カリウムチャネル]]==== | ====電位依存性[[カリウムチャネル]]==== | ||
[[Image:Kchannel.jpg|300px|thumb|right|図2 電位依存性[[カリウムチャネル]] | [[Image:Kchannel.jpg|300px|thumb|right|'''図2. 電位依存性[[カリウムチャネル]]αサブユニットの構造'''<br>これが4つ集まって図1のような立体構造をとる。]] | ||
電位依存性[[カリウムチャネル]]は6回膜貫通型の膜タンパク質である(図2)。四つのαサブユニットが集まって一つのイオンチャネルが構成される。六つの膜貫通セグメント(S1~S6)のうち最初の四つ(S1~S4)は[[膜電位センサー]]ドメインと呼ばれ、細胞膜内外の電位差を感じるセンサーとして機能する。特にS4セグメントには正電荷を持つアミノ酸(主にアルギニン)が3アミノ酸おきに配置されており、この正電荷のクラスターが[[膜電位センサー]]としての中心的な役割を果たしている。残りの二つのセグメント(S5~S6)はポアドメインと呼ばれ、四つのサブユニットが集まってイオン透過路を構成する。S5-S6の間のループは特にPループと呼ばれ、[[イオン選択性フィルター]]としてカリウムイオンを選択的に透過させる機能を持っている。またS6セグメントは開閉の[[ゲート]]として働いていると考えられている。膜電位が脱分極すると、それを感知したS4セグメントが細胞外側に向かってスライドするような構造変化を起こす。その変化がS4-S5リンカーを通じてポアドメインに伝わり、S6セグメントの[[ゲート]]が開くと考えられている。 | |||
分子としては40種類程度の遺伝子が存在し、イオンチャネルの中でも最も大きなファミリーの一つである。Hodgkin-Huxleyの時代からもっともよく研究されているイオンチャネルファミリーの一つであり、結晶構造もすでに明らかにされている。機能を調節するための修飾サブユニット(βサブユニット)がいくつか知られている。 | 分子としては40種類程度の遺伝子が存在し、イオンチャネルの中でも最も大きなファミリーの一つである。Hodgkin-Huxleyの時代からもっともよく研究されているイオンチャネルファミリーの一つであり、結晶構造もすでに明らかにされている。機能を調節するための修飾サブユニット(βサブユニット)がいくつか知られている。 | ||
====電位依存性ナトリウムチャネル==== | ====電位依存性ナトリウムチャネル==== | ||
[[Image:Topology.jpg| | [[Image:Topology.jpg|300px|thumb|right|'''図3. さまざまなトポロジーのイオンチャネル''']] | ||
電位依存性[[ナトリウムチャネル]]は上述の電依存性[[カリウムチャネル]]と似た構造を持っているが、[[カリウムチャネル]]の3つのサブユニットが直列につながったような、24回膜貫通型のタンパク質である(図3)。それぞれドメインI~IVと呼ばれ、それぞれに[[膜電位センサー]]ドメインとポアドメインが含まれる。ヒトにはαサブユニットとしてNaV1.1~1.9まで9種類の遺伝子が存在し、さらに修飾サブユニットとしてβサブユニットが存在する。[[活動電位]]を起こす機能が有名で、Hodgkin-Huxleyの時代からよく研究されているチャネルファミリーの一つである。膜電位が脱分極すると、電位依存性[[カリウムチャネル]]と同様にS4セグメントが細胞外側に動くと考えられる。続いて[[ゲート]]が開いてナトリウムイオンを流入させ、細胞を脱分極させる。特徴的なのは、その後すぐに不活性化という状態に入ってしまい、その後一定時間活性化しなくなることである。この不活性化は[[活動電位]]を[[軸索]]に沿って一方向に進めるために重要な性質である。[[フグ毒]]として有名なテトロドトキシン(TTX)は電位依存性[[ナトリウムチャネル]]の阻害剤である。 | |||
====電位依存性[[カルシウムチャネル]]==== | ====電位依存性[[カルシウムチャネル]]==== | ||
電依依存性[[ナトリウムチャネル]] | 電依依存性[[ナトリウムチャネル]]と同様、24回膜貫通型のタンパク質であり、さらにCaV1~3まで3種類のサブファミリーに分類される(ヒトの遺伝子としては10種類)。βサブユニット、α2δサブユニット、γサブユニットなど、複数種類の修飾サブユニットが存在する。脱分極により開き、[[カルシウム]]イオンを選択的に透過する。[[カルシウム]]イオンの生理的重要性ゆえに、[[神経伝達物質]]の放出、心筋や骨格筋の収縮、ホルモン分泌などさまざまな生理現象にとって非常に重要なイオンチャネルである。 | ||
====カルシウム活性化型カリウムチャネル==== | ====カルシウム活性化型カリウムチャネル==== | ||
25行目: | 35行目: | ||
====HCN & CNGチャネル==== | ====HCN & CNGチャネル==== | ||
HCN(Hyperpolarization-activated cyclic nucleotide-gated)チャネルは、細胞膜が過分極することで開く非選択的陽イオンチャネルである。電位依存性[[カリウムチャネル]] | HCN(Hyperpolarization-activated cyclic nucleotide-gated)チャネルは、細胞膜が過分極することで開く非選択的陽イオンチャネルである。電位依存性[[カリウムチャネル]]と同様に6回膜貫通型のαサブユニットが4つ集まって一つのイオンチャネルを構成する。他の[[電位依存性チャネル]]と同様脱分極によってS4セグメントが細胞外に向けて動くが、[[ゲート]]とのカップリングが他の[[電位依存性チャネル]]とは逆になっており、過分極で電位センサーが下がった位置に来ると[[ゲート]]が開く仕組みになっている<ref><pubmed>12397358</pubmed></ref>。同じファミリーに属するCNG(cyclic nucleotide-gated)チャネルは、S4セグメントを持つにも関わらず電位依存性をほとんど失っているが、細胞内の環状ヌクレオチド(cAMP、cGMP)で活性化される。同様にHCNチャネルも環状ヌクレオチドで活性化される。 | ||
====TRPチャネル==== | ====TRPチャネル==== | ||
31行目: | 41行目: | ||
====電位依存性プロトンチャネル==== | ====電位依存性プロトンチャネル==== | ||
2006年に発見された電位依存性プロトンチャネルは、電位依存性[[カリウムチャネル]]の[[膜電位センサー]]ドメイン(S1~S4)のみでポアドメイン(S5~S6) | 2006年に発見された電位依存性プロトンチャネルは、電位依存性[[カリウムチャネル]]の[[膜電位センサー]]ドメイン(S1~S4)のみでポアドメイン(S5~S6)を欠いたような構造の4回膜貫通型タンパク質である(図3)<ref><pubmed>16556803</pubmed></ref><ref><pubmed>16554753</pubmed></ref>。単体でプロトンを透過することができるが、二量体で機能していると考えられている。 | ||
===内向き整流性[[カリウムチャネル]] (2回膜貫通型)=== | ===内向き整流性[[カリウムチャネル]] (2回膜貫通型)=== | ||
内向き整流性[[カリウムチャネル]]は2回膜貫通型のポアドメインのみからなるイオンチャネルで、4つのαサブユニットで構成される四量体イオンチャネルである(図3) | 内向き整流性[[カリウムチャネル]]は2回膜貫通型のポアドメインのみからなるイオンチャネルで、4つのαサブユニットで構成される四量体イオンチャネルである(図3)。イオンチャネルとして初めて構造が明らかになったKcsAチャネルも2回膜貫通型のカリウムチャネルである。ファミリーには古典的な内向き整流性チャネルであるKir1, 2, 4, 5, 7と、[[GTP結合蛋白]]で活性化されるGIRK (Kir3)、ATP感受性カリウムチャネルを構成するKir6に大別される。[[静止膜電位]]の維持など、[[神経細胞]]や心筋などで重要な役割を果たしている。Kir6は膵臓β細胞でSURと複合体を構成し、細胞内ATPセンサーとしてインシュリンの放出に重要である。Kir2をはじめとする内向き整流性カリウムチャネルは、[[膜電位センサー]]に相当するドメインを有していないが、細胞内のMg<sup>2+</sup>やスペルミンなどのポリアミンによって、細胞の内側から膜電位依存的にブロックされる。この機構により過分極時にはカリウムイオンを細胞外から細胞内に向けて流すが、脱分極時にはこれらのブロックにより細胞外へのカリウムイオンの流出を抑える。結果的に細胞の内側にカリウムイオンが流れやすい“内向き整流性”の性質を持つことになる。GIRK1(Kir3.1)とKir2.2の結晶構造がこれまでに明らかになっている<ref><pubmed>12507423</pubmed></ref><ref><pubmed>20019282</pubmed></ref><ref><pubmed>21874019</pubmed></ref>。 | ||
===Two poreチャネル(4回膜貫通型)=== | ===Two poreチャネル(4回膜貫通型)=== | ||
Two- | Two-poreチャネルは2回膜貫通型のイオンチャネルが2つ直列につながったような、4回膜貫通型のイオンチャネルである(図3)。2つのPループを持つことからTwo-poreチャネルと呼ばれるが、二量体で構成されるこのイオンチャネルは一つのイオン透過路を持つ。リークチャネルとも呼ばれ、[[静止膜電位]]の形成などに寄与していると考えられる。最近結晶構造も明らかになった<ref><pubmed>22282804</pubmed></ref><ref><pubmed>22282805</pubmed></ref>。 | ||
===酸感受性イオンチャネルと上皮型ナトリウムチャネル=== | ===酸感受性イオンチャネルと上皮型ナトリウムチャネル=== | ||
43行目: | 53行目: | ||
===[[塩素チャネル]]=== | ===[[塩素チャネル]]=== | ||
ClCチャネルはクロライドイオンを通すイオンチャネルで、二量体のイオンチャネルだが、それぞれのサブユニットにイオン透過路があるので、1つのイオンチャネルに2つのポアが存在することになる。CFTRチャネルはcAMPを加水分解することで作動する[[塩素チャネル]]で、嚢胞性線維症の原因遺伝子として有名である。構造上はABC[[トランスポーター]]に属する。 | |||
===[[リガンド依存性チャネル]]=== | ===[[リガンド依存性チャネル]]=== | ||
53行目: | 63行目: | ||
====P2X受容体==== | ====P2X受容体==== | ||
P2X受容体は細胞外のATPをリガンドとして活性化される[[リガンド依存性チャネル]] | P2X受容体は細胞外のATPをリガンドとして活性化される[[リガンド依存性チャネル]]である。2回膜貫通型で、3量体で構成される。ナトリウムイオン等を透過させる非選択性陽イオンチャネルであるが、ATPで長時間活性化させるとNMDGなどの大きな陽イオンも透過させることができるようにポアサイズが大きくなるという、特異なポアの性質を持つ。 | ||
===細胞内膜系イオンチャネル=== | ===細胞内膜系イオンチャネル=== | ||
63行目: | 73行目: | ||
====TRICチャネル==== | ====TRICチャネル==== | ||
上記2種のカルシウム放出チャネルによってカルシウムイオンが小胞体から放出される際、カウンターイオンとして小胞体に陽イオンが流入する必要がある。そのカウンターイオンを流入させる一過の陽イオン透過性のイオンチャネルであり、小胞体や核膜に発現している<ref><pubmed>17611541</pubmed></ref>。 | |||
===コネキシン=== | ===コネキシン=== | ||
84行目: | 94行目: | ||
*[[リガンド依存性チャネル]] | *[[リガンド依存性チャネル]] | ||
== 参考文献 == | |||
<references /> | <references /> | ||
(執筆者:中條浩一、久保義弘 担当編集委員:尾藤晴彦) | (執筆者:中條浩一、久保義弘 担当編集委員:尾藤晴彦) |