「嗅周野」の版間の差分

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英語名:perirhinal cortex  
英語名:perirhinal cortex  


嗅周野は海馬を頂点とする内側側頭葉記憶システムの入り口に相当し、高次感覚連合野から受け取った知覚情報を嗅内野を介して海馬に供給する一方で、想起により得られた記憶情報を高次感覚連合野に供給する。嗅周野は内側側頭葉記憶システムの関与する宣言的記憶の中でも特にオブジェクトに関する記憶機能と深く関わる。
嗅周野は海馬を頂点とする[[内側側頭葉記憶システム]]の入り口に相当し、[[高次感覚連合野]]から受け取った知覚情報を[[嗅内野]]を介して[[海馬]]に供給する一方で、想起により得られた記憶情報を高次感覚連合野に供給する。嗅周野は内側側頭葉記憶システムの関与する[[宣言的記憶]]の中でも特にオブジェクトに関する記憶機能と深く関わる。


同義語:嗅周皮質  
同義語:嗅周皮質  
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== 結合  ==
== 結合  ==


 嗅周野は様々な[[高次感覚連合野]]から知覚情報を受け取るが、サルではTE野からの[[視覚]]入力が多くを占める<ref><pubmed> 7890828 </pubmed></ref>。TE野は物体情報を処理する[[視覚腹側路]]の最終段階にあたり、[[オブジェクト情報]]をコードする。嗅周野はTE野からの視覚入力以外に、海馬傍皮質内のTF野や[[上側頭溝]](superior temporal sulcus)背側部といった複数の感覚モダリティーを処理する領域からの入力も受け取る。嗅周野が受け取った感覚情報が嗅内野を介して海馬に供給される一方で、海馬や嗅内野からの信号が逆行性に嗅周野に伝達される。高次感覚連合野や内側側頭葉領域以外では、嗅周野は[[眼窩前頭皮質]](orbitofrontal cortex)や[[島皮質]](insular cortex)、そして[[前帯状皮質]](anterior cingulate cortex)といった[[情動]]や[[報酬]]に関する領域とも結合を持つ。また、[[wikipedia:JA:サル|サル]]では感覚入力の大半は視覚連合野からの入力により占められるが、げっ歯類では[[嗅覚]]や[[体性感覚]]、[[聴覚]]といった視覚以外の入力の占める割合が高い。  
 嗅周野は様々な高次感覚連合野から知覚情報を受け取るが、サルではTE野からの[[視覚]]入力が多くを占める<ref><pubmed> 7890828 </pubmed></ref>。TE野は物体情報を処理する[[視覚腹側路]]の最終段階にあたり、[[オブジェクト情報]]をコードする。嗅周野はTE野からの視覚入力以外に、海馬傍皮質内のTF野や[[上側頭溝]](superior temporal sulcus)背側部といった複数の感覚モダリティーを処理する領域からの入力も受け取る。嗅周野が受け取った感覚情報が嗅内野を介して海馬に供給される一方で、海馬や嗅内野からの信号が逆行性に嗅周野に伝達される。高次感覚連合野や内側側頭葉領域以外では、嗅周野は[[眼窩前頭皮質]](orbitofrontal cortex)や[[島皮質]](insular cortex)、そして[[前帯状皮質]](anterior cingulate cortex)といった[[情動]]や[[報酬]]に関する領域とも結合を持つ。また、[[wikipedia:JA:サル|サル]]では感覚入力の大半は視覚連合野からの入力により占められるが、げっ歯類では[[嗅覚]]や[[体性感覚]]、[[聴覚]]といった視覚以外の入力の占める割合が高い。  


== 機能  ==
== 機能  ==


 嗅周野は高次感覚連合野と[[内側側頭葉記憶システム]]の中間点に位置する<ref name="refsq" />。この点は嗅周野の機能を考える上で重要であり、実際、嗅周野は内側側頭葉記憶システムの一員として記憶機能に従事するという説と、高次感覚連合野の最終段階としてより高次の知覚処理に従事するという説<ref><pubmed> 17636546 </pubmed></ref>があり論争が続いている。知覚と記憶のどちらの側に位置づけるにしろ、嗅周野は[[エピソード記憶]]に関連する神経情報の主要経路の一つとして、主にオブジェクトに関する情報を高次感覚連合野から受け取り、嗅内野を介して海馬に供給するとともに、海馬からの出力を高次感覚連合野に逆行性に伝達する。
 嗅周野は高次感覚連合野と内側側頭葉記憶システムの中間点に位置する<ref name="refsq" />。この点は嗅周野の機能を考える上で重要であり、実際、嗅周野は内側側頭葉記憶システムの一員として記憶機能に従事するという説と、高次感覚連合野の最終段階としてより高次の知覚処理に従事するという説<ref><pubmed> 17636546 </pubmed></ref>があり論争が続いている。知覚と記憶のどちらの側に位置づけるにしろ、嗅周野は[[エピソード記憶]]に関連する神経情報の主要経路の一つとして、主にオブジェクトに関する情報を高次感覚連合野から受け取り、嗅内野を介して海馬に供給するとともに、海馬からの出力を高次感覚連合野に逆行性に伝達する。


 嗅周野はエピソード記憶に関わる情報の連絡路としてだけでなく、それ自身が[[連合記憶]]に関係し、異なるオブジェクト間での関連付けや<ref name="refna"><pubmed> 12684473 </pubmed></ref>、オブジェクトと報酬情報の間の関連付け<ref><pubmed> 10712488 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 16793883 </pubmed></ref>に寄与することが知られている。例えば2つの任意の視覚図形(仮に図形AとB)をペアとして学習を行うと、[[対符号化細胞]](pair-coding neuron)<ref><pubmed> 1944594  </pubmed></ref> と呼ばれる図形の組み合わせを表現する(図形Aと図形Bの両方に選択的な反応を示す)ニューロン群が嗅周野に多数出現する<ref name="refna" />。嗅周野はまた、ある対象を知っているかどうかの判断にも寄与すると考えられている。これについては、嗅周野と海馬の間の機能分担に関する論争がある。ある対象を過去に経験したこととする[[再認]](recognition)の過程には、その対象を知っている(気がする)場合([[familiarity]])と、その対象についての具体的な情報を想起する場合([[recollection]])の2つの要素が重なり合う。このとき、嗅周野は知っているかどうかに寄与するのに対して海馬は想起に寄与するという説<ref><pubmed> 17417939 </pubmed></ref>がある一方で、それぞれの領域が両方の要素に寄与するという説<ref><pubmed> 21481629 </pubmed></ref>がある。  
 嗅周野はエピソード記憶に関わる情報の連絡路としてだけでなく、それ自身が[[連合記憶]]に関係し、異なるオブジェクト間での関連付けや<ref name="refna"><pubmed> 12684473 </pubmed></ref>、オブジェクトと報酬情報の間の関連付け<ref><pubmed> 10712488 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 16793883 </pubmed></ref>に寄与することが知られている。例えば2つの任意の視覚図形(仮に図形AとB)をペアとして学習を行うと、[[対符号化細胞]](pair-coding neuron)<ref><pubmed> 1944594  </pubmed></ref> と呼ばれる図形の組み合わせを表現する(図形Aと図形Bの両方に選択的な反応を示す)ニューロン群が嗅周野に多数出現する<ref name="refna" />。嗅周野はまた、ある対象を知っているかどうかの判断にも寄与すると考えられている。これについては、嗅周野と海馬の間の機能分担に関する論争がある。ある対象を過去に経験したこととする[[再認]](recognition)の過程には、その対象を知っている(気がする)場合([[familiarity]])と、その対象についての具体的な情報を想起する場合([[recollection]])の2つの要素が重なり合う。このとき、嗅周野は知っているかどうかに寄与するのに対して海馬は想起に寄与するという説<ref><pubmed> 17417939 </pubmed></ref>がある一方で、それぞれの領域が両方の要素に寄与するという説<ref><pubmed> 21481629 </pubmed></ref>がある。  
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