「髄鞘」の版間の差分

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== 髄鞘とは  ==
== 髄鞘とは  ==


 髄鞘はmedullary sheathの訳語であり、[[Image:Takeshiyoshimura fig 1.jpg|thumb|right|200px|図1:髄鞘を形成するグリア細胞]]「髄質の神経線維が持っている鞘」のことである。英語名はmyelinがよく使われており、1854年にR. Virchow博士により発見され命名された<ref>'''Virchow R.'''<br>Über das ausgebreitete Vorkommen einer dem Nervenmark analogen Substanz in den tierischen Geweben.<br>''Virchows Arch. Pathol. Anat.'', 6, 562–572, 1854</ref>。髄鞘は脂質が主成分であるため、神経細胞の軸索を外部から電気的に遮断する絶縁体として機能する<ref>'''北村邦男'''<br>脳と神経 分子神経生物科学入門, 金子章道・河村光毅・植村慶一 編, ミエリン<br>''共立出版(東京)'', p. 216-224, 1999</ref><ref>'''石橋智子、馬場広子、池中一裕'''<br>脳神経科学, 伊藤正男 監修, 金澤一郎・篠田義一・廣川信隆・御子柴克彦・宮下保司 編集, ミエリンとミエリン形成<br>''三輪書店(東京)'', p. 117-127, 2003</ref><ref>'''渡辺雅彦'''<br>みる見るわかる 脳・神経科学入門講座 改訂版 前編<br>''羊土社(東京)'', 2008</ref>。髄鞘は脂質に富む細胞膜の多重層構造であるため白色に見える。脳や[[脊髄]]の切断面を観察すると、やや桃色を帯びた灰白色の部分([[灰白質]])と白色の部分(白質)を明瞭に区別することができる。灰白質は神経細胞の細胞体が密集した部分であり、これらの神経細胞から伸びた軸索が通る部分が白質である。白質には有髄神経線維が多く存在するため白色に見える。<br> 軸索は多数の髄鞘で隈無く覆われているわけではない。髄鞘の長さは0.1〜1 mm程度であり、髄鞘間には隙間がある。この隙間はランビエ絞輪と呼ばれる(図1)。軸索は神経細胞の細胞体の軸索小丘(axon hillock)に始まり、この場所と最初の髄鞘が現れる間の領域は軸索起始部(axon initial segment)と呼ばれる<ref><pubmed>20631711</pubmed></ref>。軸索起始部とランビエ絞輪は共に活動電位の発生に重要である。軸索起始部で最初の活動電位が生じ、それが隣のランビエ絞輪における活動電位を引き起こす。そして次々に隣のランビエ絞輪の活動電位が引き起こされ、活動電位が髄鞘で絶縁された部分を飛び越えていく。このような現象を跳躍伝導と呼ぶ。この様式は伝導速度を飛躍的に上げ、信号の減衰を防ぎ、長距離の信号伝達を可能にするだけでなく、興奮が軸索の狭い場所に限定されることにより代謝エネルギーの節約にも役立っている。<br>  
 髄鞘はmedullary sheathの訳語であり、[[Image:Takeshiyoshimura fig 1.jpg|thumb|right|250px|図1:髄鞘を形成するグリア細胞]]「髄質の神経線維が持っている鞘」のことである。英語名はmyelinがよく使われており、1854年にR. Virchow博士により発見され命名された<ref>'''Virchow R.'''<br>Über das ausgebreitete Vorkommen einer dem Nervenmark analogen Substanz in den tierischen Geweben.<br>''Virchows Arch. Pathol. Anat.'', 6, 562–572, 1854</ref>。髄鞘は脂質が主成分であるため、神経細胞の軸索を外部から電気的に遮断する絶縁体として機能する<ref>'''北村邦男'''<br>脳と神経 分子神経生物科学入門, 金子章道・河村光毅・植村慶一 編, ミエリン<br>''共立出版(東京)'', p. 216-224, 1999</ref><ref>'''石橋智子、馬場広子、池中一裕'''<br>脳神経科学, 伊藤正男 監修, 金澤一郎・篠田義一・廣川信隆・御子柴克彦・宮下保司 編集, ミエリンとミエリン形成<br>''三輪書店(東京)'', p. 117-127, 2003</ref><ref>'''渡辺雅彦'''<br>みる見るわかる 脳・神経科学入門講座 改訂版 前編<br>''羊土社(東京)'', 2008</ref>。髄鞘は脂質に富む細胞膜の多重層構造であるため白色に見える。脳や[[脊髄]]の切断面を観察すると、やや桃色を帯びた灰白色の部分([[灰白質]])と白色の部分(白質)を明瞭に区別することができる。灰白質は神経細胞の細胞体が密集した部分であり、これらの神経細胞から伸びた軸索が通る部分が白質である。白質には有髄神経線維が多く存在するため白色に見える。<br> 軸索は多数の髄鞘で隈無く覆われているわけではない。髄鞘の長さは0.1〜1 mm程度であり、髄鞘間には隙間がある。この隙間はランビエ絞輪と呼ばれる(図1)。軸索は神経細胞の細胞体の軸索小丘(axon hillock)に始まり、この場所と最初の髄鞘が現れる間の領域は軸索起始部(axon initial segment)と呼ばれる<ref><pubmed>20631711</pubmed></ref>。軸索起始部とランビエ絞輪は共に活動電位の発生に重要である。軸索起始部で最初の活動電位が生じ、それが隣のランビエ絞輪における活動電位を引き起こす。そして次々に隣のランビエ絞輪の活動電位が引き起こされ、活動電位が髄鞘で絶縁された部分を飛び越えていく。このような現象を跳躍伝導と呼ぶ。この様式は伝導速度を飛躍的に上げ、信号の減衰を防ぎ、長距離の信号伝達を可能にするだけでなく、興奮が軸索の狭い場所に限定されることにより代謝エネルギーの節約にも役立っている。<br>  


== <br>髄鞘を形成する細胞  ==
== <br>髄鞘を形成する細胞  ==


 髄鞘を形成しているのはグリア細胞であり、[[Image:Takeshiyoshimura fig 2.jpg|thumb|right|300px|図2:髄鞘形成]]中枢神経系の髄鞘はオリゴデンドロサイト、末梢神経系の髄鞘はシュワン細胞によって形成される(図1)。中枢神経系では1つのオリゴデンドロサイトが複数の突起を出し、突起毎に1本の軸索を認識して何重にも軸索を取り囲んだ後、細胞質成分を押し出して密な膜構造(髄鞘)を形成する(図2)。それに対して、末梢神経系ではシュワン細胞そのものが軸索を取り囲む。1つのシュワン細胞は軸索束を取り囲んだ後、1本の軸索を選別して、その1本の軸索で髄鞘を形成する<ref><pubmed>22192173</pubmed></ref>。末梢神経系の髄鞘ではシュワン細胞の細胞質が髄鞘の中に取り残された部分(シュミット・ランターマンの切痕)がある(図3:図1の破線部分を長軸方向に切った模式図)。<br> 中枢神経系のランビエ絞輪にはアストロサイトが突起を伸ばして接触しているが、末梢神経系ではシュワン細胞の微小突起が覆っている。また、末梢神経系の髄鞘は基底膜で覆われているが、中枢神経系の髄鞘にはそれが見られない。  
 髄鞘を形成しているのはグリア細胞であり、[[Image:Takeshiyoshimura fig 2.jpg|thumb|right|250px|図2:髄鞘形成]]中枢神経系の髄鞘はオリゴデンドロサイト、末梢神経系の髄鞘はシュワン細胞によって形成される(図1)。中枢神経系では1つのオリゴデンドロサイトが複数の突起を出し、突起毎に1本の軸索を認識して何重にも軸索を取り囲んだ後、細胞質成分を押し出して密な膜構造(髄鞘)を形成する(図2)。それに対して、末梢神経系ではシュワン細胞そのものが軸索を取り囲む。1つのシュワン細胞は軸索束を取り囲んだ後、1本の軸索を選別して、その1本の軸索で髄鞘を形成する<ref><pubmed>22192173</pubmed></ref>。末梢神経系の髄鞘ではシュワン細胞の細胞質が髄鞘の中に取り残された部分(シュミット・ランターマンの切痕)がある(図3:図1の破線部分を長軸方向に切った模式図)。<br> 中枢神経系のランビエ絞輪にはアストロサイトが突起を伸ばして接触しているが、末梢神経系ではシュワン細胞の微小突起が覆っている。また、末梢神経系の髄鞘は基底膜で覆われているが、中枢神経系の髄鞘にはそれが見られない。  


== <br>髄鞘を構成する成分と髄鞘の構造  ==
== <br>髄鞘を構成する成分と髄鞘の構造  ==
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