「前頭前野」の版間の差分

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サイズ変更なし 、 2012年6月29日 (金)
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要約:前頭前野は人を人たらしめ,思考や創造性を担う脳の最高中枢であると考えられている。前頭前野は系統発生的に人で最もよく発達した脳部位であるとともに,個体発生的には最も遅く成熟する脳部位である。一方老化に伴って最も早く機能低下が起こる部位の一つでもある。この脳部位はワーキングメモリー、反応抑制、行動の切り替え、プラニング、推論などの認知・実行機能を担っている。また、高次な情動・動機づけ機能とそれに基づく意思決定過程も担っている。さらに社会的行動、葛藤の解決や報酬に基づく選択など、多様な機能に関係している。  
要約:前頭前野は人を人たらしめ,思考や創造性を担う脳の最高中枢であると考えられている。前頭前野は系統発生的に人で最もよく発達した脳部位であるとともに,個体発生的には最も遅く成熟する脳部位である。一方老化に伴って最も早く機能低下が起こる部位の一つでもある。この脳部位はワーキングメモリー、反応抑制、行動の切り替え、プラニング、推論などの認知・実行機能を担っている。また、高次な情動・動機づけ機能とそれに基づく意思決定過程も担っている。さらに社会的行動、葛藤の解決や報酬に基づく選択など、多様な機能に関係している。  
== 前頭前野のなりたち  ==
[[Image:前頭前野図1.jpg|thumb|right|487x326px|図-1: ヒトの大脳前頭前野の外側面(外側から見える面)、内側面(大脳を左右に二分して現れる面)と眼窩面(下から見える面)。図中の数字はブロードマンの領野。]]  
[[Image:前頭前野図1.jpg|thumb|right|487x326px|図-1: ヒトの大脳前頭前野の外側面(外側から見える面)、内側面(大脳を左右に二分して現れる面)と眼窩面(下から見える面)。図中の数字はブロードマンの領野。]]  
== 前頭前野のなりたち  ==
人の大脳で感覚野、運動野には属さない部位を連合野association areaと呼ぶ。脳の後方の頭頂葉、側頭葉に位置する連合野として頭頂連合野parietal association area、側頭連合野 temporal association areaがある。前方の前頭葉frontal lobeに位置する連合野は前頭前野と呼ばれる。なお、前頭前野そのものを前頭葉と呼ぶこともある。またこの部位は前頭連合野、前頭前皮質とも呼ばれる。さらにこの脳部位はその第Ⅳ層に顆粒状の細胞が密に存在するという特徴から前頭顆粒皮質と呼ばれることもある。  前頭前野には、側頭連合野、頭項連合野などの後連合野からの入力があり、ほとんどあらゆる感覚刺激に関して高次な処理を受けた情報が集まっている。また、背内側核を中心とした視床、帯状回や海馬、扁桃核などの辺縁系、それに視床下部、中脳網様体などからも線維連絡を受けており、動機づけや覚醒状態に関する情報の入力もある。なお、前頭前野とこれらの部位の線維連絡は一方通行ではなく、双方向に認められる。さらに前頭前野は、前頭葉内に位置し、運動性連合野である運動前野と補足運動野、それに大脳基底核basal gangliaの尾状核、被殻、淡蒼球などとも相互に線維連絡がある。 この脳部位の大脳に占める割合は、系統発生的phylogeneticに進化した哺乳動物ほど大きくなっており、ネコで3.5%、イヌで7%、サルで11.5%、チンパンジーで17%であるのに対し、ヒトでは29%を占めるに至っている。人は他の動物に比べて脳そのものも大きくなっているので、前頭前野が人ではいかに大きくなっているのかがわかる。個体発生的ontogeneticにも、前頭前野は成熟が最も遅い脳部位の1つにあげられる。逆に前頭前野は老化に伴って最も早く機能低下の起こる部位としても知られている。つまり前頭前野がその機能を十全に発揮できる期間は人生の中でかなり限られている。 前頭前野は認知・実行機能cognitive/executive functionと情動・動機づけ機能emotional/motivational functionを併せもっている。前頭前野は図1に示すように大きく外側部 lateral、内側部 medial、眼窩部 orbital(前頭眼窩野:orbitofrontal cortex)に分けられる。外側部はワーキングメモリー、反応抑制、行動の切り替え、プラニング、推論などの認知・実行機能を主に担っている。眼窩部は情動・動機づけ機能とそれに基づく意思決定過程に重要な役割を果たしている。前帯状皮質を含む内側部は社会的行動を支えるとともに、葛藤の解決や報酬に基づく選択など、多様な機能に関係している。前頭前野は全体として「定型的反応様式では対応できないような状況において、認知的、動機づけ状況を把握し、それに対して適切な判断を行い、行動を適応的に組織化する」というような役割を果たしている。ここでは前頭前野の外側部の機能を中心に述べることにする。  
人の大脳で感覚野、運動野には属さない部位を連合野association areaと呼ぶ。脳の後方の頭頂葉、側頭葉に位置する連合野として頭頂連合野parietal association area、側頭連合野 temporal association areaがある。前方の前頭葉frontal lobeに位置する連合野は前頭前野と呼ばれる。なお、前頭前野そのものを前頭葉と呼ぶこともある。またこの部位は前頭連合野、前頭前皮質とも呼ばれる。さらにこの脳部位はその第Ⅳ層に顆粒状の細胞が密に存在するという特徴から前頭顆粒皮質と呼ばれることもある。  前頭前野には、側頭連合野、頭項連合野などの後連合野からの入力があり、ほとんどあらゆる感覚刺激に関して高次な処理を受けた情報が集まっている。また、背内側核を中心とした視床、帯状回や海馬、扁桃核などの辺縁系、それに視床下部、中脳網様体などからも線維連絡を受けており、動機づけや覚醒状態に関する情報の入力もある。なお、前頭前野とこれらの部位の線維連絡は一方通行ではなく、双方向に認められる。さらに前頭前野は、前頭葉内に位置し、運動性連合野である運動前野と補足運動野、それに大脳基底核basal gangliaの尾状核、被殻、淡蒼球などとも相互に線維連絡がある。 この脳部位の大脳に占める割合は、系統発生的phylogeneticに進化した哺乳動物ほど大きくなっており、ネコで3.5%、イヌで7%、サルで11.5%、チンパンジーで17%であるのに対し、ヒトでは29%を占めるに至っている。人は他の動物に比べて脳そのものも大きくなっているので、前頭前野が人ではいかに大きくなっているのかがわかる。個体発生的ontogeneticにも、前頭前野は成熟が最も遅い脳部位の1つにあげられる。逆に前頭前野は老化に伴って最も早く機能低下の起こる部位としても知られている。つまり前頭前野がその機能を十全に発揮できる期間は人生の中でかなり限られている。 前頭前野は認知・実行機能cognitive/executive functionと情動・動機づけ機能emotional/motivational functionを併せもっている。前頭前野は図1に示すように大きく外側部 lateral、内側部 medial、眼窩部 orbital(前頭眼窩野:orbitofrontal cortex)に分けられる。外側部はワーキングメモリー、反応抑制、行動の切り替え、プラニング、推論などの認知・実行機能を主に担っている。眼窩部は情動・動機づけ機能とそれに基づく意思決定過程に重要な役割を果たしている。前帯状皮質を含む内側部は社会的行動を支えるとともに、葛藤の解決や報酬に基づく選択など、多様な機能に関係している。前頭前野は全体として「定型的反応様式では対応できないような状況において、認知的、動機づけ状況を把握し、それに対して適切な判断を行い、行動を適応的に組織化する」というような役割を果たしている。ここでは前頭前野の外側部の機能を中心に述べることにする。  


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