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同義語:Evanescent Wave Microscopy<br/> | 同義語:Evanescent Wave Microscopy<br/> | ||
全反射蛍光顕微鏡は、細胞とカバーガラスとの接着面のごく近傍で起こる分子・細胞内器官の動態や基板表面における1分子[[wikipedia:ja:蛍光|蛍光]]の観察の際に広く用いられている蛍光顕微鏡である。この蛍光顕微鏡では、光が屈折率の異なる界面において全反射するときに反対側にわずかにしみ出す光([[wikipedia:ja:エバネッセント光|エバネッセント光]])を励起光として利用することで、界面のごく近傍のみが照明される。したがって、照明領域以外に存在する蛍光分子の励起を避け、背景光を極めて低減させることが可能となる。 | |||
== | ==細胞機能の可視化== | ||
現在までに、以下のような細胞機能等広い領域において全反射顕微鏡を用いた可視化が行われている。個々の具体例については、参考文献を参照のこと<ref><pubmed>19118676</pubmed></ref>。 | 現在までに、以下のような細胞機能等広い領域において全反射顕微鏡を用いた可視化が行われている。個々の具体例については、参考文献を参照のこと<ref><pubmed>19118676</pubmed></ref>。 | ||
*[[開口放出]](exocytosis) | *[[開口放出]](exocytosis)/[[エンドサイトーシス]] | ||
* | *[[細胞接着]]/[[細胞骨格]] | ||
* | *[[シグナル伝達]]([[Ca<sup>2+</sup>]]、[[cAMP]]など) | ||
== | ==原理と特徴== | ||
===全反射=== | ===全反射=== | ||
[[Image:TIRF_Fig1.png|thumb|'''図1 光の屈折と反射''']] | [[Image:TIRF_Fig1.png|thumb|'''図1 光の屈折と反射''']] | ||
[[wikipedia:ja:屈折率|屈折率]]の異なる2つの媒質(媒質1、媒質2)の界面に対し斜めに光を入射させると、屈折光と反射光が発生する。2つの媒質の屈折率をそれぞれn<sub>1</sub>、n<sub>2</sub>、入射角をθ<sub>1</sub>、屈折角をθ<sub>2</sub>としたとき、これらの間には[[wikipedia:ja:スネルの法則|スネルの法則]] <br/> | |||
::<math>\dfrac{\sin \theta_1}{\sin \theta_2} = \dfrac{n_2}{n_1}</math><br/> | ::<math>\dfrac{\sin \theta_1}{\sin \theta_2} = \dfrac{n_2}{n_1}</math><br/> | ||
が成立する(図1)。屈折角θ<sub>2</sub>が90°になるときの入射角を特に<b>臨界角(critical angle)</b>といい、<br/> | が成立する(図1)。屈折角θ<sub>2</sub>が90°になるときの入射角を特に<b>[[wikipedia:ja:臨界角|臨界角]](critical angle)</b>といい、<br/> | ||
::<math>\theta_C = \sin^{-1} \left( \dfrac{n_2}{n_1} \right)</math><br/> | ::<math>\theta_C = \sin^{-1} \left( \dfrac{n_2}{n_1} \right)</math><br/> | ||
で示される(ただしθ<sub>C</sub>:臨界角)。2つの媒質の屈折率がn<sub>1</sub>>n<sub>2</sub>を満たすとき、θ<sub>1</sub>>θ<sub>C</sub>の条件で光が入射すると、媒質2には光は透過せず、すべてが反射する。この現象が<b>全反射(total internal reflection)</b>である。ガラス(n<sub>1</sub>=1.52)と水(n<sub>2</sub>=1.33)の間における臨界角は約61°となる。 | で示される(ただしθ<sub>C</sub>:臨界角)。2つの媒質の屈折率がn<sub>1</sub>>n<sub>2</sub>を満たすとき、θ<sub>1</sub>>θ<sub>C</sub>の条件で光が入射すると、媒質2には光は透過せず、すべてが反射する。この現象が<b>全反射(total internal reflection)</b>である。ガラス(n<sub>1</sub>=1.52)と水(n<sub>2</sub>=1.33)の間における臨界角は約61°となる。 | ||
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で示される。(ただし、I(z): 全反射面からの距離zにおけるエバネッセント光強度、I<sub>0</sub>: 全反射面における光の強度、d: 光の強度が1/eとなる界面からの距離、λ: 入射光の波長)。たとえばガラス(n<sub>1</sub>=1.52)と水(n<sub>2</sub>=1.33)の間に形成されたエバネッセント光がしみ出す深さdは、励起光として可視光を用いた場合にはおよそ50–200 nmとなる。 | で示される。(ただし、I(z): 全反射面からの距離zにおけるエバネッセント光強度、I<sub>0</sub>: 全反射面における光の強度、d: 光の強度が1/eとなる界面からの距離、λ: 入射光の波長)。たとえばガラス(n<sub>1</sub>=1.52)と水(n<sub>2</sub>=1.33)の間に形成されたエバネッセント光がしみ出す深さdは、励起光として可視光を用いた場合にはおよそ50–200 nmとなる。 | ||
=== | ===特徴=== | ||
上に示したように、エバネッセント光強度は界面から遠ざかるにつれて急速に減衰する。また、エバネッセント光強度は、界面において最大で入射光の約4倍に強くなる<ref>'''鶴田匡夫'''<br/>応用光学I<br/>''培風館'':1990</ref>。したがって、界面のごく近傍に存在する蛍光分子のみを効率的に励起できる一方で背景光となる深部に存在する蛍光分子の励起は少なく、高いコントラストで蛍光を観察することが可能となる。 | 上に示したように、エバネッセント光強度は界面から遠ざかるにつれて急速に減衰する。また、エバネッセント光強度は、界面において最大で入射光の約4倍に強くなる<ref>'''鶴田匡夫'''<br/>応用光学I<br/>''培風館'':1990</ref>。したがって、界面のごく近傍に存在する蛍光分子のみを効率的に励起できる一方で背景光となる深部に存在する蛍光分子の励起は少なく、高いコントラストで蛍光を観察することが可能となる。 | ||
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[[Image:TIRF_Fig3.png|thumb|'''図3 励起方式''']] | [[Image:TIRF_Fig3.png|thumb|'''図3 励起方式''']] | ||
== | ==装置構成== | ||
全反射蛍光顕微鏡は、基本的には通常の[[wikipedia:ja:蛍光顕微鏡|蛍光顕微鏡]]と同様に[[wikipedia:ja:顕微鏡|顕微鏡]]本体と励起光源・検出器([[wikipedia:ja:CCDカメラ|CCDカメラ]])から構成され、ここに全反射を実現するための光学系を組み込むことによって構築可能である。各顕微鏡メーカーからもシステムとして市販されている。励起光源にはレーザー光が広く用いられるが、[[wikipedia:ja:水銀ランプ|水銀ランプ]]や[[wikipedia:ja:キセノンランプ|キセノンランプ]]などの[[wikipedia:ja:アーク光源|アーク光源]]でも実現可能である。 | |||
===励起方式=== | ===励起方式=== | ||
50行目: | 50行目: | ||
*臨界角以上の角度での照射<br/> | *臨界角以上の角度での照射<br/> | ||
*試料の均一な照明<br/> | *試料の均一な照明<br/> | ||
対物レンズ式全反射蛍光顕微鏡においてこれらの条件を満たすためには、励起光を対物レンズの後焦点面の辺縁部へと集光すれば良い。「辺縁部」とは、具体的には対物レンズ中心軸からの距離が試料の屈折率で決まるd<sub>n2</sub> | 対物レンズ式全反射蛍光顕微鏡においてこれらの条件を満たすためには、励起光を対物レンズの後焦点面の辺縁部へと集光すれば良い。「辺縁部」とは、具体的には対物レンズ中心軸からの距離が試料の屈折率で決まるd<sub>n2</sub>と対物レンズの[[wikipedia:ja:開口数|開口数]](Numerical Aperture; NA)で決まるd<sub>NA</sub>の間、である(図4)。このため、この方式の全反射蛍光顕微鏡で用いられる対物レンズは、開口数が試料の屈折率よりも大きいものであることが必須である。各顕微鏡メーカーから1.65/1.49/1.45といった高い開口数を持つ対物レンズが市販されており、目的に応じてこれらの対物レンズを選択すると良い。 | ||
==参考文献== | ==参考文献== |