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ここではごく限られた例につき、簡単に述べることにする。詳しくはそれぞれの文献を参照のこと。 | ここではごく限られた例につき、簡単に述べることにする。詳しくはそれぞれの文献を参照のこと。 | ||
=== | === ショウジョウバエ=== | ||
[[Image:辞典05.jpg|thumb|250px|'''図5.ショウジョウバエの体節筋への神経細胞の投射'''<br>ショウジョウバエの体節筋はステレオティピックな形態を示す[[wikipedia:JA:筋肉|筋肉]]のセットからなる。それぞれの筋に投射する神経細胞(RP1, 2, 3, 4, 5a, 6/7b, 8a, aCC)は神経管内に存在しそこから軸索を伸長するが、軸索は途中特異的な神経束を形成し(赤丸)、また途中の様々な特定の部位で(赤丸)束から分かれてそれぞれの特異的な標的である筋肉に投射する。それぞれの特定の部位で様々な分子機構が関与している事が明らかにされつつある。]] | [[Image:辞典05.jpg|thumb|250px|'''図5.ショウジョウバエの体節筋への神経細胞の投射'''<br>ショウジョウバエの体節筋はステレオティピックな形態を示す[[wikipedia:JA:筋肉|筋肉]]のセットからなる。それぞれの筋に投射する神経細胞(RP1, 2, 3, 4, 5a, 6/7b, 8a, aCC)は神経管内に存在しそこから軸索を伸長するが、軸索は途中特異的な神経束を形成し(赤丸)、また途中の様々な特定の部位で(赤丸)束から分かれてそれぞれの特異的な標的である筋肉に投射する。それぞれの特定の部位で様々な分子機構が関与している事が明らかにされつつある。]] | ||
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またショウジョウバエの嗅覚系等の情報を受けるキノコ体(Mushroom body)ヘの標的認識についても研究が進められている。これにはマウスで明らかにされている様なトポグラフィックなマッピングの機構も関与しているようである<ref><pubmed>20554703</pubmed></ref>。 | またショウジョウバエの嗅覚系等の情報を受けるキノコ体(Mushroom body)ヘの標的認識についても研究が進められている。これにはマウスで明らかにされている様なトポグラフィックなマッピングの機構も関与しているようである<ref><pubmed>20554703</pubmed></ref>。 | ||
=== | === 脊椎動物の視覚系、嗅覚系 === | ||
Sperryの流れを汲み、視覚系において標的認識がどうなっているかは精力的に研究が進められてきた。網膜内でのトポグラフィックな情報が[[視蓋]]/[[上丘]]、[[外側膝状体]]、そして視覚野において保存される必要があり、それを支える分子群が同定されている。代表的なものは[[Eph受容体]]-[[エフリン]]システムである<ref><pubmed>20880989</pubmed></ref>。また、坂野らによってマウスの嗅覚系におけるトポグラフィックな情報を担った[[セマフォリン]]-[[ニューロピリン]]システムによる標的認識の機構が明らかにされている<ref><pubmed>21469960</pubmed></ref>。これらについては[[トポグラフィックマッピング#嗅覚系|トポグラフィックマッピング]]の項を参照。 | Sperryの流れを汲み、視覚系において標的認識がどうなっているかは精力的に研究が進められてきた。網膜内でのトポグラフィックな情報が[[視蓋]]/[[上丘]]、[[外側膝状体]]、そして視覚野において保存される必要があり、それを支える分子群が同定されている。代表的なものは[[Eph受容体]]-[[エフリン]]システムである<ref><pubmed>20880989</pubmed></ref>。また、坂野らによってマウスの嗅覚系におけるトポグラフィックな情報を担った[[セマフォリン]]-[[ニューロピリン]]システムによる標的認識の機構が明らかにされている<ref><pubmed>21469960</pubmed></ref>。これらについては[[トポグラフィックマッピング#嗅覚系|トポグラフィックマッピング]]の項を参照。 | ||
=== | === 大脳皮質領域=== | ||
[[Image:辞典06.jpg|thumb|250px|''' | [[Image:辞典06.jpg|thumb|250px|'''図6 大脳皮質での領域特異的な標的認識'''<br>マウスのE14の脳において、[[体性感覚]]の情報は[[体性感覚野]]へ(SM)また、辺縁系からの情報は辺縁系皮質領域へ(PR)、それぞれ投射する。PRの領域には[[LAMP]]という細胞接着因子が発現している。この時期にLAMP陽性の皮質領域を感覚野へ移植すると辺縁系からの線維は移植された感覚野へ投射する様になる。]] | ||
かつて、[[wikipedia:Pasko Rakic|Pasko Rakic]]とDennis O'Learyの間で[[大脳皮質]]の発生に関して論争があった<ref><pubmed>22099452</pubmed></ref>。Protomap vs Protocortexと呼ばれたもので、端的に言えば[[大脳]]は領域ごとに発生の早い段階から遺伝的に決定されているという説と、そうではなくて大脳は他の神経細胞(領域)とつながったあとに領域ごとに差が出てくるという説である(文献御願いします)。Rakicの弟子であるPat Levittは、もし大脳皮質の領域が早い段階で決定されているならば、例えばある皮質領域に特異的にでている分子があるはずであると考え、それを探したところ[[辺縁系]]皮質領域に特異的にでている分子を得た。これは[[LAMP]]と呼ばれる細胞接着因子であるが、この分子の発現をマーカーとしてこれに皮質の移植の実験を組み合わせる事によって、辺縁系皮質領域は辺縁系からの線維を引き寄せる機構がある事が示されている(図6)<ref><pubmed>1570290</pubmed></ref>。この標的認識に関わる分子はLAMPそのものである可能性もある。 | かつて、[[wikipedia:Pasko Rakic|Pasko Rakic]]とDennis O'Learyの間で[[大脳皮質]]の発生に関して論争があった<ref><pubmed>22099452</pubmed></ref>。Protomap vs Protocortexと呼ばれたもので、端的に言えば[[大脳]]は領域ごとに発生の早い段階から遺伝的に決定されているという説と、そうではなくて大脳は他の神経細胞(領域)とつながったあとに領域ごとに差が出てくるという説である(文献御願いします)。Rakicの弟子であるPat Levittは、もし大脳皮質の領域が早い段階で決定されているならば、例えばある皮質領域に特異的にでている分子があるはずであると考え、それを探したところ[[辺縁系]]皮質領域に特異的にでている分子を得た。これは[[LAMP]]と呼ばれる細胞接着因子であるが、この分子の発現をマーカーとしてこれに皮質の移植の実験を組み合わせる事によって、辺縁系皮質領域は辺縁系からの線維を引き寄せる機構がある事が示されている(図6)<ref><pubmed>1570290</pubmed></ref>。この標的認識に関わる分子はLAMPそのものである可能性もある。 | ||
=== | === 神経細胞内での特定のコンパートメントへの標的認識=== | ||
[[Image:辞典07.jpg|thumb|250px|'''図7 小脳のプルキンエ細胞の細胞内コンパートメント特異的な投射'''<br>プルキンエ細胞は様々な介在ニューロンから投射を受けるが、そのシナプスの形成される場所は特異的な細胞内コンパートメントに形成される。バスケット細胞は軸索のイニシャルセグメント(AIS)にシナプスを形成するが、その形成には神経細胞接着因子である[[ニューロファシン]]のプルキンエ細胞内での濃度勾配様の局在が(ニューロファシンが軸索起始部のところに集中する)重要であることが明らかになっている。]] | [[Image:辞典07.jpg|thumb|250px|'''図7 小脳のプルキンエ細胞の細胞内コンパートメント特異的な投射'''<br>プルキンエ細胞は様々な介在ニューロンから投射を受けるが、そのシナプスの形成される場所は特異的な細胞内コンパートメントに形成される。バスケット細胞は軸索のイニシャルセグメント(AIS)にシナプスを形成するが、その形成には神経細胞接着因子である[[ニューロファシン]]のプルキンエ細胞内での濃度勾配様の局在が(ニューロファシンが軸索起始部のところに集中する)重要であることが明らかになっている。]] | ||
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大脳皮質や小脳皮質には様々な[[介在ニューロン]]が存在し、これら多様なもののそれぞれが錐体細胞やプルキンエ細胞の細胞内の特異的なコンパートメントにシナプスを形成することが知られている。例えば[[シャンデリア細胞]]は[[軸索起始部]]に、[[バスケット細胞]]は軸索の起始部や樹状突起側の細胞体のところに、[[マルチノッチ細胞]]は樹状突起の遠位部に、それぞれシナプスを形成する<ref><pubmed>22251963</pubmed></ref>。プルキンエ細胞の場合にはこれは細胞接着因子に依存しておこることが示されている(図7)<ref><pubmed>15479642</pubmed></ref>。 | 大脳皮質や小脳皮質には様々な[[介在ニューロン]]が存在し、これら多様なもののそれぞれが錐体細胞やプルキンエ細胞の細胞内の特異的なコンパートメントにシナプスを形成することが知られている。例えば[[シャンデリア細胞]]は[[軸索起始部]]に、[[バスケット細胞]]は軸索の起始部や樹状突起側の細胞体のところに、[[マルチノッチ細胞]]は樹状突起の遠位部に、それぞれシナプスを形成する<ref><pubmed>22251963</pubmed></ref>。プルキンエ細胞の場合にはこれは細胞接着因子に依存しておこることが示されている(図7)<ref><pubmed>15479642</pubmed></ref>。 | ||
=== | === 小脳=== | ||
[[Image:辞典08.jpg|thumb|250px|'''図8 小脳への下オリーブ核からの投射'''<br>延髄の下オリーブ核(右側)にはSC1/DM-GRASP/BEN/ALCAM陽性のところ(黒色)と陰性のところがある。これらSC1/DM-GRASP/BEN/ALCAM陽性の領域の神経細胞はSC1/DM-GRASP/BEN/ALCAM陽性のプルキンエ細胞の存在する小脳皮質領域(左側、黒色)に投射する。SC1/DM-GRASP/BEN/ALCAM陽性の領域は小脳皮質においては矢状断面に沿ったストライプ状に配列している。]] | [[Image:辞典08.jpg|thumb|250px|'''図8 小脳への下オリーブ核からの投射'''<br>延髄の下オリーブ核(右側)にはSC1/DM-GRASP/BEN/ALCAM陽性のところ(黒色)と陰性のところがある。これらSC1/DM-GRASP/BEN/ALCAM陽性の領域の神経細胞はSC1/DM-GRASP/BEN/ALCAM陽性のプルキンエ細胞の存在する小脳皮質領域(左側、黒色)に投射する。SC1/DM-GRASP/BEN/ALCAM陽性の領域は小脳皮質においては矢状断面に沿ったストライプ状に配列している。]] | ||
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[[小脳の神経回路]]については昔から精力的に研究が行われてきた。小脳に入ってくる2つの主な入力は延髄の下オリーブ核からの登上線維と橋の橋核からの苔状線維であるが、この2つは前者がプルキンエ細胞、後者が[[顆粒細胞]]とそれぞれ標的が異なる(文献御願いします)。これらの線維が小脳皮質の発達に伴ってどうやって小脳皮質まできて、どういう発達過程を示すかについては詳細な記載がされているが(例えばConstantino SoteloやCarol Masonら)(文献御願いします)、これらの標的認識が分子レベルでどうなっているかについてはまだ明らかになっていない(一つの登上線維が一つのプルキンエ細胞とシナプスを作るようになるリファイメントの過程については日本の狩野らの仕事により分子機構が明らかにされてきている)。 | [[小脳の神経回路]]については昔から精力的に研究が行われてきた。小脳に入ってくる2つの主な入力は延髄の下オリーブ核からの登上線維と橋の橋核からの苔状線維であるが、この2つは前者がプルキンエ細胞、後者が[[顆粒細胞]]とそれぞれ標的が異なる(文献御願いします)。これらの線維が小脳皮質の発達に伴ってどうやって小脳皮質まできて、どういう発達過程を示すかについては詳細な記載がされているが(例えばConstantino SoteloやCarol Masonら)(文献御願いします)、これらの標的認識が分子レベルでどうなっているかについてはまだ明らかになっていない(一つの登上線維が一つのプルキンエ細胞とシナプスを作るようになるリファイメントの過程については日本の狩野らの仕事により分子機構が明らかにされてきている)。 | ||
Constantine | Constantine Soteloは登上線維のプルキンエ細胞ヘの標的認識に関わる分子に非常に興味を持っていて、彼は小脳のプルキンエ細胞は矢状断面でグループを作り、それに下オリーブ核からの登上線維がトポグラフィックに標的認識することに注目、小脳で矢状断面に沿ったストライプ状に発現する細胞接着因子を探した。そのうちの一つが細胞接着因子の[[Activated leukocyte cell adhesion molecule]] (ALCAMあるいはSC1/DM-GRASP/BEN)である。しかしながら、この分子が登上線維とプルキンエ細胞のマッチングに関与しているかどうかの検証はなされていない(図8)<ref><pubmed>8627367</pubmed></ref>。 | ||
=== | === 脊髄運動神経=== | ||
[[Image:辞典09.jpg|thumb|250px|'''図9 脊髄の運動神経細胞の四肢筋への投射'''<br>脊髄内の運動神経カラムはその支配する四肢筋の位置により、外側群(緑色)と内側群(黄色)に分かれる。運動神経細胞の軸索は神経束を形成し脊髄から出るが四肢へ入るところで四肢の内側にある筋群(medial LMC)と外側にある筋群(lateral LMC)に投射するものでその投射方向が分かれる。この過程には図に示されているような様々な分子機構が関与していることが明らかにされてきている。eAs: ephrinAs, Npn2: neuropilin2 ]] | [[Image:辞典09.jpg|thumb|250px|'''図9 脊髄の運動神経細胞の四肢筋への投射'''<br>脊髄内の運動神経カラムはその支配する四肢筋の位置により、外側群(緑色)と内側群(黄色)に分かれる。運動神経細胞の軸索は神経束を形成し脊髄から出るが四肢へ入るところで四肢の内側にある筋群(medial LMC)と外側にある筋群(lateral LMC)に投射するものでその投射方向が分かれる。この過程には図に示されているような様々な分子機構が関与していることが明らかにされてきている。eAs: ephrinAs, Npn2: neuropilin2 ]] |