「トポグラフィックマッピング」の版間の差分

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==== 外側膝状体-大脳皮質視覚野投射 ====
==== 外側膝状体-大脳皮質視覚野投射 ====


 [[外側膝状体]]と大脳皮質の視覚野でもトポグラフィックマップは形成されているがその分子メカニズムは視蓋/上丘ほどは明らかにされていない。ここで一つ注意しておきたいのは上記のニワトリの系は両眼視をする系ではないということである。したがって、Eph-エフリンによる化学親和のメカニズムは対側に投射する軸索に当てはまるものである。マウスではヒトほど顕著ではないものの、両眼視をすることができ、したがって外側膝状体では対側の眼からの軸索の投射する場所と同側の眼からの軸索の投射する場所が存在し、結果として同じ視野フィールドからの情報が同じ側の視覚中枢に集束することになる。この場合、対側からの投射についてはニワトリと同じ様なメカニズムが当てはまると考えられるが、同側からの投射については対側と同じメカニズム(Eph-エフリン)が働くのかそれとも全く異なったメカニズムなのかについてはあまりわかっていない。また、マウスにおいては同側の投射は最初は領域内にある程度広がっているが発達の段階で最終的な標的に集束することが知られているが、この集束する過程には神経活動依存性のメカニズムが働いていることは明らかにされている(またこの過程に何らかの形でEph-エフリンが関与していることも示されている<ref><pubmed>16025107</pubmed></ref>)。ヒトでは50%の投射が同側からであり、したがって上記で推測される対側の投射のメカニズム以外に、同側のトポグラフィックマッピングのメカニズム及び同側と対側の情報の統合のメカニズムが何らかの形で必要である。  
 [[外側膝状体]]と大脳皮質の視覚野でもトポグラフィックマップは形成されているがその分子メカニズムは視蓋/上丘ほどは明らかにされていない。ここで一つ注意しておきたいのは上記のニワトリの系は両眼視をする系ではないということである。したがって、Eph-エフリンによる化学親和のメカニズムは対側に投射する軸索に当てはまるものである。マウスでは5%くらいの網膜からの投射が同側で、したがって外側膝状体では対側の眼からの軸索の投射する場所と同側の眼からの軸索の投射する場所が存在し、結果として同じ視野フィールドからの情報が同じ側の視覚中枢に集束することになり、ヒトほど顕著ではないものの両眼視をすることができる。この場合、対側からの投射についてはニワトリと同じ様なメカニズムが当てはまると考えられるが、同側からの投射については対側と同じメカニズム(Eph-エフリン)が働くのかそれとも全く異なったメカニズムなのかについてはあまりわかっていない。また、マウスにおいては同側の投射は最初は領域内にある程度広がっているが発達の段階で最終的な標的に集束することが知られているが、この集束する過程には神経活動依存性のメカニズムが働いていることは明らかにされている(またこの過程に何らかの形でEph-エフリンが関与していることも示されている<ref><pubmed>16025107</pubmed></ref>)。ヒトでは50%の投射が同側からであり、したがって上記で推測される対側の投射のメカニズム以外に、同側のトポグラフィックマッピングのメカニズム及び同側と対側の情報の統合のメカニズムが何らかの形で必要である。  


 一方、外側膝状体と大脳皮質の視覚野の系でよく研究されているのはこれらの視覚中枢における右目と左目から投射を受けている部位の交互なストライプ状の配置である。大脳皮質においてはこのストライプ状にならんだカラムを[[優位視覚性円柱]] ocular dominance columnという。[[wikipedia:ja:ネコ|ネコ]]で片方の眼を視覚の発達段階に閉じることでこのストライプのサイズに変化を与えることができるのでこのカラム形成には神経活動依存的なメカニズムが関与していることと考えられる。  
 一方、外側膝状体と大脳皮質の視覚野の系でよく研究されているのはこれらの視覚中枢における右目と左目から投射を受けている部位の交互なストライプ状の配置である。大脳皮質においてはこのストライプ状にならんだカラムを[[優位視覚性円柱]] ocular dominance columnという。[[wikipedia:ja:ネコ|ネコ]]で片方の眼を視覚の発達段階に閉じることでこのストライプのサイズに変化を与えることができるのでこのカラム形成には神経活動依存的なメカニズムが関与していることと考えられる。  


 トポグラフィックマップの形成後はそれを変えることは難しいが、形成の前に脳の領域ごとに[[可塑性]]が持続する時期があり、それを[[臨界期]]と呼ぶ。この時期は神経活動依存的な修飾が可能な時期であり、この時期内での神経活動の変化は脳内でのマップのパターンを変えることができる。臨界期における神経活動の変化は上記の優位視覚性円柱(すなわちトポグラフィカルマップ)のパターンを変える(例えば右目と左目のカラムでサイズが変わる)(詳しくは[[臨界期]]及び[[優位視覚性円柱]]の項を参照)。  
 トポグラフィックマップの形成後はそれを変えることは難しいが、形成の前に脳の領域ごとに[[可塑性]]が持続する時期があり、それを[[臨界期]]と呼ぶ。この時期は神経活動依存的な修飾が可能な時期であり、この時期内での神経活動の変化は脳内でのマップのパターンを変えることができる。例えば、臨界期における神経活動の変化は上記の優位視覚性円柱(すなわちトポグラフィカルマップ)のパターンを変える(例えば右目と左目のカラムでサイズが変わる)(詳しくは[[臨界期]]及び[[優位視覚性円柱]]の項を参照)。  


=== 嗅覚系  ===
=== 嗅覚系  ===
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 嗅覚系においてもトポグラフィックマッピングが行われることが知られているが、坂野らのグループによる精力的な研究によりその詳細な分子メカニズムが明らかにされてきている。匂いは[[嗅覚受容体]]で感知されるが、一つの嗅上皮細胞は一種類の嗅覚受容体を発現している。しかしながら、同じ嗅覚受容体を発現する細胞の嗅上皮内における分布はバラバラであるので、同じ嗅覚受容体を発現する細胞からの情報は嗅球の中の同じ糸球体に収束する必要がある。嗅覚受容体はヒトでは約350種類、マウスでは約1000種類の嗅覚受容体が存在し、[[嗅球]]上に嗅覚受容体の数に対応した糸球体を素子とする2次元マップが形成される。  
 嗅覚系においてもトポグラフィックマッピングが行われることが知られているが、坂野らのグループによる精力的な研究によりその詳細な分子メカニズムが明らかにされてきている。匂いは[[嗅覚受容体]]で感知されるが、一つの嗅上皮細胞は一種類の嗅覚受容体を発現している。しかしながら、同じ嗅覚受容体を発現する細胞の嗅上皮内における分布はバラバラであるので、同じ嗅覚受容体を発現する細胞からの情報は嗅球の中の同じ糸球体に収束する必要がある。嗅覚受容体はヒトでは約350種類、マウスでは約1000種類の嗅覚受容体が存在し、[[嗅球]]上に嗅覚受容体の数に対応した糸球体を素子とする2次元マップが形成される。  


 嗅球の中での嗅上皮細胞の軸索の配置は前後軸及び背側腹側の軸で決定されているが、背側腹側の軸での配列は嗅上皮内での配置によって決定される。前後軸に関してはどの嗅覚受容体が発現されているかによって産生される[[CAMP]]の量が変わり、これによって[[Sema3A]]/[[Neuropilin1]]のカウンターバランスを示す濃度勾配が[[嗅上皮細胞]]の軸索内に発生し、これによって標的にたどり着く前に軸索がソーティングされることによって、前後軸のどこに軸索が到着するかが決定される。背側腹側に関しては、まず、嗅上皮内での[[Robo2]]の濃度勾配と嗅球内での[[Slit1]]の濃度勾配よってパイオニア軸索の嗅球での配置が背側に決定され、その後、嗅上皮細胞の軸索内での[[Sema3F]]/[[Neuropilin2]]のカウンターバランスを示す濃度勾配によって嗅球内での背側腹側の位置が決まる。つまり、後から到着する軸索は先に到着した背側の軸索が発現するSema3Fによってより腹側に配置される(図5)。嗅覚の場合に特徴的なのは、軸索ー軸索の相互作用が非常に重要な役割を果たしていることである。 これはSperryのモデルとは少し異なり、嗅覚系では軸索間で自律的に制御されているということを示しており、また、嗅球がなくてもある程度トポグラフィックマップが形成されるという事実とも合致する。視覚系においては位置情報以外は(網膜のどこからくるか以外は)それぞれの軸索で同じ情報が伝えられているが、嗅覚系では違う嗅覚受容体の情報がそれぞれの軸索によって伝えられているところが異なるのかもしれない(ただし、視覚においても方向性を認識する網膜神経細胞があり、その細胞の場合のトポグラフィックマッピング及び情報処理のロジックについてはあまり明らかにされていない)。
 嗅球の中での嗅上皮細胞の軸索の配置は前後軸及び背側腹側の軸で決定されているが、背側腹側の軸での配列は嗅上皮内での配置によって決定される。前後軸に関してはどの嗅覚受容体が発現されているかによって産生される[[CAMP]]の量が変わり、これによって[[Sema3A]]/[[Neuropilin1]]のカウンターバランスを示す濃度勾配が[[嗅上皮細胞]]の軸索内に発生し、これによって標的にたどり着く前に軸索がソーティングされることによって、前後軸のどこに軸索が到着するかが決定される。背側腹側に関しては、まず、嗅上皮内での[[Robo2]]の濃度勾配と嗅球内での[[Slit1]]の濃度勾配よってパイオニア軸索の嗅球での配置が背側に決定され、その後、嗅上皮細胞の軸索内での[[Sema3F]]/[[Neuropilin2]]のカウンターバランスを示す濃度勾配によって嗅球内での背側腹側の位置が決まる。つまり、後から到着する軸索は先に到着した背側の軸索が発現するSema3Fによってより腹側に配置される(図5)。嗅覚の場合に特徴的なのは、軸索ー軸索の相互作用が非常に重要な役割を果たしていることである。 これはSperryのモデルとは少し異なり、嗅覚系では軸索間で自律的に制御されているということを示しており、また、嗅球がなくてもある程度トポグラフィックマップが形成されるという事実とも合致する。視覚系においては位置情報以外は(網膜のどこからくるか以外は)それぞれの軸索で同じ情報が伝えられているが、嗅覚系では違う嗅覚受容体の情報がそれぞれの軸索によって伝えられているところが異なるのかもしれない(ただし、視覚においても方向性に反応する網膜神経細胞があり、その細胞の場合のトポグラフィックマッピング及び位置情報の処理の方法についてはあまり明らかにされていない)。


 こういった過程で軸索が標的位置に到達しシナプスを形成したあと、嗅覚系でも視覚系と同様に神経活動依存的なリファインメントがおこる(隣同士の[[糸球体]]がきっちりとセグレゲートする)。この過程においては神経活動依存的にホモフィリック結合をする[[細胞接着因子]][[Kirrel]]2/3と接着依存性の反発因子である[[EphA5]]-[[EphrinA5]]がやはり濃度勾配を呈する形で発現し、それによって糸球体が相互にセグレゲートする(図3)<ref><pubmed>21469960</pubmed></ref>。  
 こういった過程で軸索が標的位置に到達しシナプスを形成したあと、嗅覚系でも視覚系と同様に神経活動依存的なリファインメントがおこる(隣同士の[[糸球体]]がきっちりとセグレゲートする)。この過程においては神経活動依存的にホモフィリック結合をする[[細胞接着因子]][[Kirrel]]2/3と接着依存性の反発因子である[[EphA5]]-[[EphrinA5]]がやはり濃度勾配を呈する形で発現し、それによって糸球体が相互にセグレゲートする(図3)<ref><pubmed>21469960</pubmed></ref>。  
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=== その他  ===
=== その他  ===


 その他、[[聴覚]]系(音の周波数情報)、[[体性感覚]]系(身体における位置情報、特にマウスやラットの髭と[[バレル皮質]]の系)、[[味覚]]系(違う味覚物質を感受する受容体からの情報)、及び運動系(身体における位置情報)などのトポグラフィックマップが研究されている。  
 その他、[[聴覚]]系(音の周波数情報)、[[体性感覚]]系(身体における位置情報、例えばマウスやラットの髭と[[バレル皮質]]の系)、[[味覚]]系(違う味覚物質を感受する受容体からの情報)、及び運動系(身体における位置情報)などのトポグラフィックマップが研究されている。  


== 関連項目  ==
== 関連項目  ==
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