「電気穿孔法」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
3行目: 3行目:
同義語:エレクトロポレーション  
同義語:エレクトロポレーション  


[[Image:図1−電気穿孔法.jpg|thumb|right|250px|'''図1 生体内電気穿孔法'''<br>子宮をピンセット型電極で挟み、マウス胎仔脳へ電気パルスを与える<ref name="ref1"><pubmed>11784059</pubmed></ref>。]]
[[Image:図1−電気穿孔法.jpg|thumb|right|250px|'''図1.生体内電気穿孔法'''<br>子宮をピンセット型電極で挟み、マウス胎仔脳へ電気パルスを与える<ref name="ref1"><pubmed>11784059</pubmed></ref>。]]


[[Image:図2−電気穿孔法.jpg|thumb|right|400px|'''図2 マウス脳の電気穿孔の例'''<br>生後5日の大脳皮質。A 胎生13.5日に''DsRed-mito''を導入、B 胎生15.5日に''EYFP''を導入、C 胎生13.5日に''Ds-Red-mito''と胎生15.5日に''EYFP''の2回の電気穿孔で遺伝子導入<ref name="ref2"><pubmed>15750183</pubmed></ref>。]]
[[Image:図2−電気穿孔法.jpg|thumb|right|400px|'''図2.マウス脳の電気穿孔の例'''<br>生後5日の大脳皮質。A 胎生13.5日に''DsRed-mito''を導入、B 胎生15.5日に''EYFP''を導入、C 胎生13.5日に''Ds-Red-mito''と胎生15.5日に''EYFP''の2回の電気穿孔で遺伝子導入<ref name="ref2"><pubmed>15750183</pubmed></ref>。]]


 電気穿孔法とは、電気パルスで細胞膜の透過性を上げることにより、DNAなどの分子を真核生物や原核生物の細胞に導入する方法である。高い導入効率が容易に得られるため、多くの種類の細胞に用いられる。培養細胞のみならず、マウスなどの胎仔に利用できる生体内電気穿孔法(in vivo electroporation)が確立され、遺伝子の解析が個体レベルで飛躍的に進んでいる。  
 電気穿孔法とは、電気パルスで細胞膜の透過性を上げることにより、DNAなどの分子を真核生物や原核生物の細胞に導入する方法である。高い導入効率が容易に得られるため、多くの種類の細胞に用いられる。培養細胞のみならず、マウスなどの胎仔に利用できる生体内電気穿孔法(in vivo electroporation)が確立され、遺伝子の解析が個体レベルで飛躍的に進んでいる。  
19行目: 19行目:
== 適用例と手法  ==
== 適用例と手法  ==


 DNAやRNAなどの核酸を培養細胞や胎仔内の細胞など広く様々な細胞に導入するために使われる。実験系は、導入される細胞が培養細胞などの単離された細胞か生体内もしくは組織内の細胞かで2つに大別される。 膜を透過できない抗がん剤などの薬剤を細胞へ入れる方法としても検討されている。電気パルスは細胞融合にも用いられる。 
 DNAやRNAなどの核酸を培養細胞や胎仔内の細胞など広く様々な細胞に導入するために使われる。実験系は、導入される細胞が培養細胞などの単離された細胞か生体内もしくは組織内の細胞かで2つに大別される。膜を透過できない抗がん剤などの薬剤を細胞へ入れる方法としても検討されている。電気パルスは細胞融合にも用いられる。 


=== 単離細胞の電気穿孔法  ===
=== 単離細胞の電気穿孔法  ===
25行目: 25行目:
 培養皿や生体組織などから単離した細胞の懸濁液を核酸とともにキュベットに入れ、浮遊状態で電気パルスを与える。通常、高電圧で単一の減衰波パルスを用い、Bio-Rad社のジーンパルサーなどの装置が使われる。過去の多くのデータがあり、業者のプロトコールに従い、遺伝子導入を容易に行えるのが利点である。高い導入効率を得ようとすると、細胞の生存率が下がる点が欠点となる。
 培養皿や生体組織などから単離した細胞の懸濁液を核酸とともにキュベットに入れ、浮遊状態で電気パルスを与える。通常、高電圧で単一の減衰波パルスを用い、Bio-Rad社のジーンパルサーなどの装置が使われる。過去の多くのデータがあり、業者のプロトコールに従い、遺伝子導入を容易に行えるのが利点である。高い導入効率を得ようとすると、細胞の生存率が下がる点が欠点となる。


 動物細胞は500 microF, 240 Vなど、大腸菌では25 microF, 2000 Vなどの条件が用いられる。<
 動物細胞は500 microF, 240 Vなど、大腸菌では25 microF, 2000 Vなどの条件が用いられる。


 最も単純なパルス作製装置は、コンデンサーに蓄電した電気をスィッチの切替でキュベット内に放出させる仕組みであり<ref name="ref10"><pubmed>21963197</pubmed></ref>、初期には研究室で自作された。  
 最も単純なパルス作製装置は、コンデンサーに蓄電した電気をスィッチの切替でキュベット内に放出させる仕組みであり<ref name="ref10"><pubmed>21963197</pubmed></ref>、初期には研究室で自作された。  
35行目: 35行目:
 生体内の細胞への電気穿孔は生体内電気穿孔法と呼ばれる。生体組織を取り出し体外培養の前などに行われる電気穿孔は生体外電気穿孔法(ex vivo electroporation)と呼ばれることもある。マウス胎仔の生体内電気穿孔法では、子宮の外からDNAなどを注入し、子宮の外側を電極で挟むことで電気穿孔する子宮内電気穿孔法(in utero electroporation)が一般的である。子宮内電気穿孔法を行った胎仔は子宮とともに母体に戻せば、生育でき出産も可能である<ref name="ref1"><pubmed>21963197</pubmed></ref>。一方、胎生12.5日以前では子宮の外から胎仔が見にくいなどの理由により、子宮壁を切開後にDNAなどを注入し、胎仔の入った卵黄囊を電極で挟み電気穿孔する子宮外電気穿孔法(exo utero electroporation)も用いられる<ref name="ref1"><pubmed>11784059</pubmed></ref><ref name="ref18"><pubmed>12657654</pubmed></ref>。子宮外電気穿孔法を施した胎仔は子宮壁を縫わずに母体に戻すことで生育可能であるが、出産後の仔マウスが必要な場合、母マウスは自力で出産できないため出産期に帝王切開を要する。
 生体内の細胞への電気穿孔は生体内電気穿孔法と呼ばれる。生体組織を取り出し体外培養の前などに行われる電気穿孔は生体外電気穿孔法(ex vivo electroporation)と呼ばれることもある。マウス胎仔の生体内電気穿孔法では、子宮の外からDNAなどを注入し、子宮の外側を電極で挟むことで電気穿孔する子宮内電気穿孔法(in utero electroporation)が一般的である。子宮内電気穿孔法を行った胎仔は子宮とともに母体に戻せば、生育でき出産も可能である<ref name="ref1"><pubmed>21963197</pubmed></ref>。一方、胎生12.5日以前では子宮の外から胎仔が見にくいなどの理由により、子宮壁を切開後にDNAなどを注入し、胎仔の入った卵黄囊を電極で挟み電気穿孔する子宮外電気穿孔法(exo utero electroporation)も用いられる<ref name="ref1"><pubmed>11784059</pubmed></ref><ref name="ref18"><pubmed>12657654</pubmed></ref>。子宮外電気穿孔法を施した胎仔は子宮壁を縫わずに母体に戻すことで生育可能であるが、出産後の仔マウスが必要な場合、母マウスは自力で出産できないため出産期に帝王切開を要する。


 脳室に注入された分子は、脳室から漏れ出なければ拡散による希釈が限定的であるため、脳室の周囲の細胞への導入は比較的容易である。胎生期の神経幹細胞は脳室に接しており、遺伝子導入の格好の標的となる。大脳などでは、発生の時期により神経幹細胞から生み出される神経細胞の種類が異なるため、時期を選ぶことにより特定の種類の神経細胞のみで遺伝子を発現することが可能となる<ref name="ref1"><pubmed>21963197</pubmed></ref><ref name="ref2"><pubmed>21963197</pubmed></ref>。同一の胎仔に異なる時期で2回電気穿孔することもできる<ref name="ref2"><pubmed>15750183</pubmed></ref>。生体内電気穿孔法で導入された遺伝子の発現は神経細胞で長期間続き<ref name="ref1"><pubmed>11784059</pubmed></ref>、遺伝子導入のほぼ4ヶ月後でも発現している<ref name="ref16"><pubmed>17406448</pubmed></ref>。
 脳室に注入された分子は、脳室から漏れ出なければ拡散による希釈が限定的であるため、脳室の周囲の細胞への導入は比較的容易である。胎生期の神経幹細胞は脳室に接しており、遺伝子導入の格好の標的となる。大脳などでは、発生の時期により神経幹細胞から生み出される神経細胞の種類が異なるため、時期を選ぶことにより特定の種類の神経細胞のみで遺伝子を発現することが可能となる<ref name="ref1"><pubmed>21963197</pubmed></ref><ref name="ref2"><pubmed>21963197</pubmed></ref>。同一の胎仔に異なる時期で2回電気穿孔することもできる<ref name="ref2"><pubmed>15750183</pubmed></ref>。生体内電気穿孔法で導入された遺伝子の発現は神経細胞で長期間続き<ref name="ref1"><pubmed>11784059</pubmed></ref>、遺伝子導入のほぼ4ヶ月後でも発現している<ref name="ref16"><pubmed>17406448</pubmed></ref>。


 電極には、マウス胎仔で多用されるピンセット型電極<ref name="ref1"><pubmed>11784059</pubmed></ref><ref name="ref15">'''Tetsuichiro Saito'''<br>Analysis of mammalian neuronal diversity using in vivo electroporation. ''The 607th National Institute of Genetics Colloquium, Mishima, Japan'':1999</ref><ref name="ref19"><pubmed>11301197</pubmed></ref>、ニワトリ胚などで使われるニードル電極<ref name="ref14"><pubmed>9016787</pubmed></ref>、導入部位を限定させるために核酸の注入針と電極を組み合わせた電極<ref name="ref20"><pubmed>12147134</pubmed></ref>などがある。
 電極には、マウス胎仔で多用されるピンセット型電極<ref name="ref1"><pubmed>11784059</pubmed></ref><ref name="ref15">'''Tetsuichiro Saito'''<br>Analysis of mammalian neuronal diversity using in vivo electroporation. ''The 607th National Institute of Genetics Colloquium, Mishima, Japan'':1999</ref><ref name="ref19"><pubmed>11301197</pubmed></ref>、ニワトリ胚などで使われるニードル電極<ref name="ref14"><pubmed>9016787</pubmed></ref>、導入部位を限定させるために核酸の注入針と電極を組み合わせた電極<ref name="ref20"><pubmed>12147134</pubmed></ref>などがある。

案内メニュー