「健忘症候群」の版間の差分

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 1990年代以降に盛んになった[[脳賦活化実験]]の結果から、ワーキングメモリー、なかでも中央実行系には、[[前頭前野]](Brodmann 9,10,46野)の関与が想定されている。ワーキングメモリー仮説は、記憶が単に事物を保存するための容れ物ではなく、注意や意識などを含むダイナミックな活動であることに研究者の目を向けさせた。しかし、Bladdeleyのモデルでは短期記憶が障害されているにも関らず長期記憶は保たれている症例の存在を説明できない。また、複雑なヒトの認知メカニズムをこのモデルだけで解釈するのは不可能である。現在のところ、ワーキングメモリーは機能的観念の域を超えてはいない。  
 1990年代以降に盛んになった[[脳賦活化実験]]の結果から、ワーキングメモリー、なかでも中央実行系には、[[前頭前野]](Brodmann 9,10,46野)の関与が想定されている。ワーキングメモリー仮説は、記憶が単に事物を保存するための容れ物ではなく、注意や意識などを含むダイナミックな活動であることに研究者の目を向けさせた。しかし、Bladdeleyのモデルでは短期記憶が障害されているにも関らず長期記憶は保たれている症例の存在を説明できない。また、複雑なヒトの認知メカニズムをこのモデルだけで解釈するのは不可能である。現在のところ、ワーキングメモリーは機能的観念の域を超えてはいない。  


 これまで述べてきた記憶はすべて、過去の事柄に関する記憶である。しかし、われわれの日常生活では「この原稿の締め切りは3月末だ」というように、未来に起こる事象について憶えていることが求められる。これを展望記憶という。3月末の締め切りという知識・情報を保持し続けるという意味で、記憶の一種と解釈される。[[展望記憶]]には実行機能が関与すると考えられる。
 これまで述べてきた記憶はすべて、過去の事柄に関する記憶である。しかし、われわれの日常生活では「この原稿の締め切りは3月末だ」というように、未来に起こる事象について憶えていることが求められる。これを展望記憶という。3月末の締め切りという知識・情報を保持し続けるという意味で、記憶の一種と解釈される。[[展望記憶]]には[[実行機能]]が関与すると考えられる。


 神経心理学では、脳損傷や発症を起点とした時間的流れにより、記憶障害を分類することがある。[[前向性健忘]]は受傷・発症以降に生じた出来事を記憶できなくなること、[[逆行性健忘]]は受傷・発症前の出来事を想起できなくなることを表す。記憶障害の患者は一般に両者を合併している。逆行性健忘の及ぶ時間的幅は、数分にとどまることもあれば数十年にも及ぶこともあり、症例により異なる。受傷・発症に近い出来事ほど忘却されやすく、遠いものほど保たれる傾向がある。これを記憶の時間的勾配と呼ぶ。  
 神経心理学では、脳損傷や発症を起点とした時間的流れにより、記憶障害を分類することがある。[[前向性健忘]]は受傷・発症以降に生じた出来事を記憶できなくなること、[[逆行性健忘]]は受傷・発症前の出来事を想起できなくなることを表す。記憶障害の患者は一般に両者を合併している。逆行性健忘の及ぶ時間的幅は、数分にとどまることもあれば数十年にも及ぶこともあり、症例により異なる。受傷・発症に近い出来事ほど忘却されやすく、遠いものほど保たれる傾向がある。これを記憶の時間的勾配と呼ぶ。  

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