「健忘症候群」の版間の差分

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 [[ワーキングメモリー]]は、時間的区分では短期記憶から近時記憶の一部を含む。われわれは日常生活で、情報を単に保持するのではなく、保持した情報にいろいろな処理を加える。もっとも単純な例は繰り上がりのある計算である。15+17を行う時、まず一の位の5+7=12を行い、十の位への繰り上がりを記憶しつつ十の位の1+1=2を行い、さらにそこに繰り上がった分の1を加え3を導く。あるいは会話などでも、直前の話の内容を記憶しそれに基づいて自分の話を組み立てる。このようにワーキングメモリーとは、記憶と情報処理機能を併せ持った概念である。
 [[ワーキングメモリー]]は、時間的区分では短期記憶から近時記憶の一部を含む。われわれは日常生活で、情報を単に保持するのではなく、保持した情報にいろいろな処理を加える。もっとも単純な例は繰り上がりのある計算である。15+17を行う時、まず一の位の5+7=12を行い、十の位への繰り上がりを記憶しつつ十の位の1+1=2を行い、さらにそこに繰り上がった分の1を加え3を導く。あるいは会話などでも、直前の話の内容を記憶しそれに基づいて自分の話を組み立てる。このようにワーキングメモリーとは、記憶と情報処理機能を併せ持った概念である。


 ワーキングメモリーのモデルとして、Baddely<ref name=ref8><pubmed>11058819</pubmed></ref>のモデルが有名である(図4)。音韻ループは、会話や文章の理解などの際に言語的な情報を一時的に保持するものである。視空間記銘メモは、視覚イメージなど言語化できない情報を一時的に保持するもので、黒板やホワイトボードに譬えられる。[[中央実行系]]とは、音韻ループと視空間記銘メモの活動を調整し、仕事を割り振り、情報の流れを統御する。2000年に新たに加えられたエピソードバッファは、音韻ループや視空間記銘メモの情報を統合したり、意味に関する情報を担うとともに、長期記憶へのアクセスを可能とする。
 ワーキングメモリーのモデルとして、Baddely<ref name=ref8><pubmed>11058819</pubmed></ref>のモデルが有名である(図4)。[[音韻ループ]]は、会話や文章の理解などの際に言語的な情報を一時的に保持するものである。視空間記銘メモは、視覚イメージなど言語化できない情報を一時的に保持するもので、黒板やホワイトボードに譬えられる。[[中央実行系]]とは、音韻ループと視空間記銘メモの活動を調整し、仕事を割り振り、情報の流れを統御する。2000年に新たに加えられたエピソードバッファは、音韻ループや視空間記銘メモの情報を統合したり、意味に関する情報を担うとともに、長期記憶へのアクセスを可能とする。


 1990年代以降に盛んになった[[脳賦活化実験]]の結果から、ワーキングメモリー、なかでも中央実行系には、[[前頭前野]](Brodmann 9,10,46野)の関与が想定されている。ワーキングメモリー仮説は、記憶が単に事物を保存するための容れ物ではなく、注意や意識などを含むダイナミックな活動であることに研究者の目を向けさせた。しかし、Bladdeleyのモデルでは短期記憶が障害されているにも関らず長期記憶は保たれている症例の存在を説明できない。また、複雑なヒトの認知メカニズムをこのモデルだけで解釈するのは不可能である。現在のところ、ワーキングメモリーは機能的観念の域を超えてはいない。  
 1990年代以降に盛んになった[[脳賦活化実験]]の結果から、ワーキングメモリー、なかでも中央実行系には、[[前頭前野]](Brodmann 9,10,46野)の関与が想定されている。ワーキングメモリー仮説は、記憶が単に事物を保存するための容れ物ではなく、注意や意識などを含むダイナミックな活動であることに研究者の目を向けさせた。しかし、Bladdeleyのモデルでは短期記憶が障害されているにも関らず長期記憶は保たれている症例の存在を説明できない。また、複雑なヒトの認知メカニズムをこのモデルだけで解釈するのは不可能である。現在のところ、ワーキングメモリーは機能的観念の域を超えてはいない。  

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