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==質量分析計とは== | ==質量分析計とは== | ||
世界初の質量分析計は、約100年前に[[wikipedia:J._J._Thomson|J. J. Thomson]]により作られた放物線型質量分析計である。日本では質量分析計は大阪大学の緒方と浅田らにより1930年代に初めて作られた。質量分析計は1950年代まで主に原子質量の精密測定に用いられていたが、1960年代以降、有機化合物や生体高分子などをイオン化する方法が開発されたことにより、今日では様々な分野で必要不可欠な分析機器のひとつとなっている。<br> | 世界初の質量分析計は、約100年前に[[wikipedia:J._J._Thomson|J. J. Thomson]]により作られた放物線型質量分析計である。日本では質量分析計は大阪大学の緒方と浅田らにより1930年代に初めて作られた。質量分析計は1950年代まで主に原子質量の精密測定に用いられていたが、1960年代以降、有機化合物や生体高分子などをイオン化する方法が開発されたことにより、今日では様々な分野で必要不可欠な分析機器のひとつとなっている。<br> | ||
ペプチドや代謝物等の生体分子が測定可能となってから、脳科学を初めとする生命科学分野における質量分析計の利用は著明に増加してきた。2DE/MSやLC/MS/MSによるプロテオームプロファイル解析や疾患バイオマーカー探索に中心的な役割を果たしてきた。質量分析計はNMR、X線構造解析に比べ極めて高い感度を持つことから、脳組織だけでなく血液や脳脊髄液中の微量分子を試料とした解析にも多用されている<ref><pubmed>20971518</pubmed></ref>。対象分子は幅広く、ペプチドを初めとして<ref><pubmed>17901869</pubmed></ref><ref><pubmed>21649502</pubmed></ref>、グルタミン酸、GABA等のアミノ酸系神経伝達物質<ref><pubmed>18433876</pubmed></ref>や、モノアミン類<ref><pubmed>22512797</pubmed></ref>、アセチルコリン<ref><pubmed>19802332</pubmed></ref><ref><pubmed>22526660</pubmed></ref>等の神経伝達物質、[[wikipedia:Ja:環状アデノシン一リン酸|サイクリックAMP]]、[[wikipedia:Ja:環状グアノシン一リン酸|サイクリックGMP]]のような環状ヌクレオチド<ref><pubmed>22001223</pubmed></ref>の解析にも利用されてきた。 | |||
== イオン源の種類と動作原理 == | == イオン源の種類と動作原理 == | ||
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=== 化学イオン化法 === | === 化学イオン化法 === | ||
化学イオン化法(chemical ionization、CI法)では[[wikipedia:ja:メタン|メタン]]、[[wikipedia:ja:アンモニア|アンモニア]]等の反応ガスに[[wikipedia:ja:熱電子|熱電子]]を衝突させることで、あらかじめ反応ガスをイオン化する。このようにして生じた1次イオンがイオン分子反応で2次イオンを生じた後に、導入された気相の試料分子と反応し試料分子のイオン化をもたらす。 | 化学イオン化法(chemical ionization、CI法)では[[wikipedia:ja:メタン|メタン]]、[[wikipedia:ja:アンモニア|アンモニア]]等の反応ガスに[[wikipedia:ja:熱電子|熱電子]]を衝突させることで、あらかじめ反応ガスをイオン化する。このようにして生じた1次イオンがイオン分子反応で2次イオンを生じた後に、導入された気相の試料分子と反応し試料分子のイオン化をもたらす。 イオン化がソフトなためフラグメンテーションが起こりにくいことが長所である。試料を加熱気化する必要があるため、難揮発性分子や不安定な物質の測定が難しいことが欠点である。 | ||
=== 電子イオン化法 === | === 電子イオン化法 === | ||
電子イオン化法(electron ionization, EI法)は、運動エネルギーを持った電子(熱電子)を気相中の分子に照射することでイオン化を行う技術である。[[wikipedia:ja:ガスクロマトグラフィー|ガスクロマトグラフィー]] | 電子イオン化法(electron ionization, EI法)は、運動エネルギーを持った電子(熱電子)を気相中の分子に照射することでイオン化を行う技術である。[[wikipedia:ja:ガスクロマトグラフィー|ガスクロマトグラフィー]]MSのイオン化法として用いられている。試料を加熱し気化させることが必要であるため難揮発性の物質の解析が難しく、また試料がフラグメンテーションしやすいため分子量の大きい物質は解析困難であることが欠点である。非イオン性の低分子量[[wikipedia:ja:有機化合物|有機化合物]]の分析のための技術として用いられている。 | ||
=== 高速原子衝撃法 === | === 高速原子衝撃法 === | ||
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==質量分析計を応用した分析技術== | ==質量分析計を応用した分析技術== | ||
=== | ===2次元電気泳動質量分析法 (2DE/MS)=== | ||
2次元電気泳動によりタンパク質を分離し、個々のタンパク質を質量分析計を用いて同定する方法である。脳科学を含む生命科学全般で多用されてきたが、分離能やスループット性の欠如等の問題を持っている。現在のプロテオーム解析ではLC/MS/MSが使われることが多い。 | |||
===液相クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC/MS/MS)=== | |||
質量分析計に液相クロマトグラフィー装置を接続し、溶液試料を解析する手法がエキソウクロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)である。さらに、1回の測定で2段階以上の質量分析を組み合せる技術であるタンデムMSと組み合わせることにより、液相クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC/MS/MS)が開発された。LC/MS/MSにより特定の’’m/z’’の分子を選択しフラグメント化することができるため、夾雑物の影響を抑えた構造解析が可能である。 | |||
プロテオーム解析において、蛋白質混合溶液をプロテアーゼ処理し、得られたペプチド断片混合液をLC/MS/MSに供し、データベース検索により質量情報からペプチドを同定し、さらにそのペプチドが由来したタンパク質を同定する手法であるショットガン法が利用されてきた。 | |||
===イメージング質量分析法、質量顕微鏡法=== | ===イメージング質量分析法、質量顕微鏡法=== | ||
イメージング質量分析法とは、固体試料上の各点で直接分子のイオン化と質量分析を行うことで、分子を可視化する技術である。固体試料切片に対しレーザーによる二次元走査を行い、イオン化された分子を質量分析する。得られた質量スペクトルを再構成することにより、任意のm/zの分子の試料内分布情報を得ることができる。MADLI法の登場により、イメージング質量分析法は生体分子のイメージングに広く用いられるようになった。現在では顕微鏡レベルと言ってよい空間解像度での測定が可能となっており、肉眼解像度(100 μm)を超える解像度を持つイメージング質量分析法は特に質量顕微鏡法と呼ばれる<ref><pubmed>21109523</pubmed></ref>。乳児神経軸索性ジストロフィーモデルマウスにおけるシナプス構成分子の可視化を初めとして、脳科学における質量顕微鏡法の利用は増えている<ref><pubmed>21813701</pubmed></ref>。 | イメージング質量分析法とは、固体試料上の各点で直接分子のイオン化と質量分析を行うことで、分子を可視化する技術である。固体試料切片に対しレーザーによる二次元走査を行い、イオン化された分子を質量分析する。得られた質量スペクトルを再構成することにより、任意のm/zの分子の試料内分布情報を得ることができる。MADLI法の登場により、イメージング質量分析法は生体分子のイメージングに広く用いられるようになった。現在では顕微鏡レベルと言ってよい空間解像度での測定が可能となっており、肉眼解像度(100 μm)を超える解像度を持つイメージング質量分析法は特に質量顕微鏡法と呼ばれる<ref><pubmed>21109523</pubmed></ref>。乳児神経軸索性ジストロフィーモデルマウスにおけるシナプス構成分子の可視化を初めとして、脳科学における質量顕微鏡法の利用は増えている<ref><pubmed>21813701</pubmed></ref>。 |
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