「外傷後ストレス障害」の版間の差分

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 外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder:PTSD)とは危うく死ぬまたは重症を負うような出来事を強い恐怖、無力感、戦慄と共に経験もしくは目撃すること(トラウマ体験)で起きる障害である。 PTSDは殺人、傷害、強姦などの犯罪被害、交通事故、地震、津波、火事などの自然災害、戦争やテロなど様々な原因で起こることが知られている。診断にはにアメリカ精神医学会(American Psychiatric Association:APA)のDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition, Text Revision&nbsp;(DSM‐Ⅳ‐TR)が用いられることが多い。 <br>
 外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder:PTSD)とは危うく死ぬまたは重症を負うような出来事を強い恐怖、無力感、戦慄と共に経験もしくは目撃すること(トラウマ体験)で起きる障害である。 診断にはにアメリカ精神医学会(American Psychiatric Association:APA)のDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition, Text Revision&nbsp;(DSM‐Ⅳ‐TR)が用いられることが多い。  


 症状は再体験、回避、過覚醒の3つの症状クラスターに大別される。再体験にはフラッシュバック、悪夢、身体生理反応など、回避には記憶を想起させる場所、物事、状況への回避、感情麻痺など、過覚醒には睡眠障害、集中困難、物音などへの過敏反応などが含まれる。DSM‐Ⅳ‐TRに示される再体験症状1項目以上、回避症状3項目以上、過覚醒症状2項目以上が1ヶ月以上持続し、著しい苦痛か社会的な機能の障害を伴うとPTSDと診断される。
 症状評価は自記式質問紙法と構造化面接法があり、対象人数、面接可能時間などを考慮して評価方法を決定するべきである。


 PTSDは記憶の消去との関連が想定されており、それを支持する生物学的変化が報告されている。
 <br> 治療は大きく精神療法と薬物療法に大別される。ランダム化比較試験で有効性を証明されてガイドラインで推奨されている精神療法に長時間暴露法(Prolonged Exposure: PE療法)を用いた認知行動療法、眼球運動による脱感作と最処理法(Eye Movement Desensitization and Reprocessing: EMDR)がある。その他、家族療法、芸術療法、精神分析などの治療も実施されている。薬物治療はsertraline、paroxetine、fluoxetineといったランダム化比較試験で有効性が認められた選択的セロトニン再取り込阻害薬(selective serotonine reuptake inhibitor:SSRI)が第一選択に推奨されている。


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 アメリカにおいて行われた調査では生涯有病率は男性5.0%、女性10.4%だった。トラウマ体験の違いによりPTSD発症率に差があること、他の精神障害が合併しやすいことが知られている。&nbsp;  
 
 PTSDの治療は大きく薬物治療と精神療法に大別される。有効性が認められて<strike>SSRIが</strike>薬物療法の第一選択となっている。精神療法には長時間暴露法(Prolonged Exposure: PE療法)を用いた認知行動療法、眼球運動による脱感作と最処理法(Eye Movement Desensitization and Reprocessing: EMDR)、家族療法、芸術療法、精神分析などがある。英国国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Clinical Excellence: NICE)のガイドラインでは第一選択としてPEかEMDRを推奨している。
 
 アメリカにおいて行われた調査では(参考文献)、生涯有病率は %とされている。
 
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== &nbsp;PTSDとは&nbsp;  ==
== &nbsp;PTSDとは&nbsp;  ==
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  外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder:PTSD)とは危うく死ぬまたは重症を負うような出来事を強い恐怖、無力感、戦慄と共に経験もしくは目撃すること(トラウマ体験)で起きる障害である。 PTSDは殺人、傷害、強姦などの犯罪被害、交通事故、地震、津波、火事などの自然災害、戦争やテロなど様々な原因で起こることが知られている。診断にはにアメリカ精神医学会(American Psychiatric Association)のDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition, Text Revision (DSM‐Ⅳ‐TR)が用いられることが多い(表1)。&nbsp;&nbsp;  
  外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder:PTSD)とは危うく死ぬまたは重症を負うような出来事を強い恐怖、無力感、戦慄と共に経験もしくは目撃すること(トラウマ体験)で起きる障害である。 PTSDは殺人、傷害、強姦などの犯罪被害、交通事故、地震、津波、火事などの自然災害、戦争やテロなど様々な原因で起こることが知られている。診断にはにアメリカ精神医学会(American Psychiatric Association)のDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition, Text Revision (DSM‐Ⅳ‐TR)が用いられることが多い(表1)。&nbsp;&nbsp;  


 症状は再体験、回避・精神麻痺、過覚醒の3つの症状クラスターに大別される。再体験にはフラッシュバック、悪夢、身体生理反応など、回避には記憶を想起させる場所、物事、状況への回避、感情麻痺など、過覚醒には睡眠障害、集中困難、物音などへの過敏反応などが含まれる。DSM‐Ⅳ‐TRに示される再体験症状1項目以上、回避症状3項目以上、過覚醒症状2項目以上が1ヶ月以上持続し、著しい苦痛か社会的な機能の障害を伴うとPTSDと診断される。  
 症状は再体験、回避・精神麻痺、過覚醒の3つの症状クラスターに大別される。再体験にはフラッシュバック、悪夢、身体生理反応など、回避には記憶を想起させる場所、物事、状況への回避、感情麻痺など、過覚醒には睡眠障害、集中困難、物音などへの過敏反応などが含まれる。DSM‐Ⅳ‐TRに示される再体験症状1項目以上、回避症状3項目以上、過覚醒症状2項目以上が1ヶ月以上持続し、著しい苦痛か社会的な機能の障害を伴うとPTSDと診断される。
 
<br>1860年から80年にかけてイギリスのエリクソンは鉄道事故後の精神神経症状に鉄道脊髄症として、器質的な原因による障害として報告した。ドイツのオッペンハイムも同様に器質的原因を想定した報告を1889年に行った。その一方で1885年にイギリスのペイジは症状は心理的原因によるものと反論している。1915年にマイヤースによりshell shockと名付けられた症状は、第一次世界大戦に従軍した兵士2000人以上を対象とした研究の結果、最終的に心理的原因と結論付けられた。こうして、器質的原因から心理的原因が想定されるようになった。<br> <br> 心理的原因とされるに従い、症状は疾病利得により生じると考えられるようになった。1879年にリグラーにより賠償神経症という用語が提唱され、ドイツ、イギリスでも詐病説が強まる結果となった。<br>


==  &nbsp;症状と診断  ==
==  &nbsp;症状と診断  ==
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== &nbsp;疫学  ==
== &nbsp;疫学  ==
<pre>==疫学==</pre>  
<pre>==疫学==</pre>  
1995年にKesslerらが行った全米疫学調査ではPTSDの生涯有病率は男性5.0%、女性10.4%、現在有病率は男性1.5%、女性3.0%だった。また、性暴力などの犯罪被害者のPTSD発症率が自然災害被災者よりも高いことが示された<ref><pubmed>7492257</ref>。(ケスラーの図を入れるか。)
1995年にKesslerらが行った全米疫学調査ではPTSDの生涯有病率は男性5.0%、女性10.4%、現在有病率は男性1.5%、女性3.0%だった。また、性暴力などの犯罪被害者のPTSD発症率が自然災害被災者よりも高いことが示された<ref><pubmed>7492257</ref>。(ケスラーの図を入れるか。)  
   
 
=== 併存障害  ===
=== 併存障害  ===
<pre>===併存障害===</pre>  
<pre>===併存障害===</pre>  
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=== 遺伝子研究  ===
=== 遺伝子研究  ===
<pre>===遺伝子研究===</pre>  
<pre>===遺伝子研究===</pre>  
恐怖条件づけの消去現象とNMDA受容体、GABA受容体、BDNFなど分子レベルの因子と関連があることが知られており、さらに遺伝子レベルでの関連についても研究されている。しかし、現時点でPTSDに決定的な影響を与える遺伝子は同定されていない。遺伝子研究についてはgene-by-environment interactionの観点からも研究がおこなわれており、糖質コルチコイド受容体の関連遺伝子であるFKBP5の4つの多形のうち1つが幼少期の被虐待歴のある者でPTSDのリスクを上昇させるという報告がある<ref><pubmed>18349090</ref>。
恐怖条件づけの消去現象とNMDA受容体、GABA受容体、BDNFなど分子レベルの因子と関連があることが知られており、さらに遺伝子レベルでの関連についても研究されている。しかし、現時点でPTSDに決定的な影響を与える遺伝子は同定されていない。遺伝子研究についてはgene-by-environment interactionの観点からも研究がおこなわれており、糖質コルチコイド受容体の関連遺伝子であるFKBP5の4つの多形のうち1つが幼少期の被虐待歴のある者でPTSDのリスクを上昇させるという報告がある<ref><pubmed>18349090</ref>。  


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<pre>==関連項目==</pre>  
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