「エンドフェノタイプ」の版間の差分

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定義(理想的な精神障害の中間表現型の定義)<ref name="ref8">'''橋本亮太,武田雅俊'''<br>中間表現型<br>''精神医学キーワード事典 2011: 594-596</ref>。&nbsp; <br> {{-}} [[Image:Rhashimoto chart 0.jpg|left|500px]]  
定義(理想的な精神障害の中間表現型の定義)<ref name="ref8">'''橋本亮太,武田雅俊'''<br>中間表現型<br>''精神医学キーワード事典 2011: 594-596</ref>。&nbsp; <br> {{-}} [[Image:Rhashimoto chart 0.jpg|left|500px]]  


{{-}}  1986年にGershon &amp; Goldinが,最初に1),3),4),6)を定義した<ref name="ref1" />。その後1998年に,Leboyerらは5)を追加し<ref><pubmed>9530915</pubmed></ref>,さらに2006年にWeinbergerらは、2)を導入することで,疾患のあり/なしというような2分法ではなく,量的に測定可能な表現型を用いることで健常者においても測定でき,さらに中間表現型の関連を検出することが疾患との関連より統計学的に有利であることを示した<ref name="ref10"><pubmed>16988657</pubmed></ref>。  
{{-}}  1986年にGershon &amp; Goldinが,最初に1),3),4),6)を定義した<ref name="ref1" />。その後1998年に,Leboyerらは5)を追加し<ref><pubmed>9530915</pubmed></ref>,さらに2006年にWeinbergerらは,2)を導入することで,疾患のあり/なしというような2分法ではなく,量的に測定可能な表現型を用いることで健常者においても測定でき,さらに中間表現型の関連を検出することが疾患との関連より統計学的に有利であることを示した<ref name="ref10"><pubmed>16988657</pubmed></ref>。  


== 統合失調症  ==
== 統合失調症  ==
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=== 認知機能  ===
=== 認知機能  ===


 認知機能を測定する多数の検査がエンドフェノタイプとされており,最も多数の検討がなされてきている。認知機能検査は、認知機能のある領域を測定することを目的に作られているが,課題達成には主な領域以外の機能も用いる必要があることを知っておく必要がある。その中でも特に,効果サイズの大きいものを以下に述べる<ref><pubmed>16166612</pubmed></ref>。  
 認知機能を測定する多数の検査がエンドフェノタイプとされており,最も多数の検討がなされてきている。認知機能検査は,認知機能のある領域を測定することを目的に作られているが,課題達成には主な領域以外の機能も用いる必要があることを知っておく必要がある。その中でも特に,効果サイズの大きいものを以下に述べる<ref><pubmed>16166612</pubmed></ref>。  


*CPTのD’  
*CPTのD’  
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 精神障害のリスク遺伝子を見出すための一方法として中間表現型という概念が提唱されたが,その概念は徐々に拡大しており,遺伝子と量的に測定可能な神経生物学的な表現型との関連を検討することにより,その遺伝子の機能を見出すというように広く用いられるようになってきている(図2)<ref name="ref11" />。その結果,脳神経画像の分野ではimaging geneticsとして,神経心理学の分野ではneurocognitive geneticsとして発展してきている<ref>'''橋本亮太,大井一高,安田由華,吉田哲彦,武田雅俊'''<br>精神疾患の脳画像解析学と分子生物学の統合  中間表現型としての脳画像解析の現状と展望<br>''分子精神医学'':2007; 7: 214-221</ref>。&nbsp; 中間表現型と遺伝子の関連解析は,異分野の研究手法を用いて多数のサンプルサイズを必要とするため,この解析が可能な研究施設は少ないという問題点があるが,精神疾患を超えて神経科学の分野のトレンドとなることでこの問題が解決すると考えられ,今後の発展が期待される。  
 精神障害のリスク遺伝子を見出すための一方法として中間表現型という概念が提唱されたが,その概念は徐々に拡大しており,遺伝子と量的に測定可能な神経生物学的な表現型との関連を検討することにより,その遺伝子の機能を見出すというように広く用いられるようになってきている(図2)<ref name="ref11" />。その結果,脳神経画像の分野ではimaging geneticsとして,神経心理学の分野ではneurocognitive geneticsとして発展してきている<ref>'''橋本亮太,大井一高,安田由華,吉田哲彦,武田雅俊'''<br>精神疾患の脳画像解析学と分子生物学の統合  中間表現型としての脳画像解析の現状と展望<br>''分子精神医学'':2007; 7: 214-221</ref>。&nbsp; 中間表現型と遺伝子の関連解析は,異分野の研究手法を用いて多数のサンプルサイズを必要とするため,この解析が可能な研究施設は少ないという問題点があるが,精神疾患を超えて神経科学の分野のトレンドとなることでこの問題が解決すると考えられ,今後の発展が期待される。  


 中間表現型は統合失調症における定量的に測定できる神経生物学的な表現型であることから,いわゆる生物学的な診断マーカーとしての期待が持てる。一つ一つの中間表現型(例えば、記憶障害や脳構造異常)の感度と特異度は十分ではなく,未だ生物学的な診断マーカーは見つかっていない。しかし、統合失調症の病態のうち異なる遺伝子による異常を反映すると考えられる中間表現型の組み合わせを用いることにより、診断マーカーの開発につながることが期待されている(図2)<ref name="ref11" />。  
 中間表現型は統合失調症における定量的に測定できる神経生物学的な表現型であることから,いわゆる生物学的な診断マーカーとしての期待が持てる。一つ一つの中間表現型(例えば,記憶障害や脳構造異常)の感度と特異度は十分ではなく,未だ生物学的な診断マーカーは見つかっていない。しかし、統合失調症の病態のうち異なる遺伝子による異常を反映すると考えられる中間表現型の組み合わせを用いることにより,診断マーカーの開発につながることが期待されている(図2)<ref name="ref11" />。  


 動物モデルの研究への応用可能性も今後期待される分野である。現在、精神疾患の診断は,多くを患者本人の主観的体験の陳述と行動の観察に頼っている。特に,幻聴や妄想といった症状は,動物で定義することは不可能である。動物でも定量可能なエンドフェノタイプを用いることで,こうした問題を克服できる可能性がある。実際に,統合失調症においてはプレパルス抑制の障害をヒトとモデル動物の双方に用いて研究がなされている。
 動物モデルの研究への応用可能性も今後期待される分野である。現在、精神疾患の診断は,多くを患者本人の主観的体験の陳述と行動の観察に頼っている。特に,幻聴や妄想といった症状は,動物で定義することは不可能である。動物でも定量可能なエンドフェノタイプを用いることで,こうした問題を克服できる可能性がある。実際に,統合失調症においてはプレパルス抑制の障害をヒトとモデル動物の双方に用いて研究がなされている。  


 エンドフェノタイプ(中間表現型)は,定義上あくまでもヒトにおける表現型であるが,脳神経科学研究の領域にその概念が広がることにより,新たな意味を獲得しつつある。例えば,動物や細胞レベルにおける分子レベルのフェノタイプを精神疾患のエンドフェノタイプや中間表現型として,病態解明を目指す研究が行われ始めている。これは,現時点においてはテクニカルタームの誤用ということになるかもしれない。しかし,テクニカルタームは研究の進展とともに新たな概念を獲得して発展していくものであることから,この研究分野が今後,生物精神医学研究の中心的な研究手法から脳神経科学研究の中心的な研究になることが期待される。  
 エンドフェノタイプ(中間表現型)は,定義上あくまでもヒトにおける表現型であるが,脳神経科学研究の領域にその概念が広がることにより,新たな意味を獲得しつつある。例えば,動物や細胞レベルにおける分子レベルのフェノタイプを精神疾患のエンドフェノタイプや中間表現型として,病態解明を目指す研究が行われ始めている。これは,現時点においてはテクニカルタームの誤用ということになるかもしれない。しかし,テクニカルタームは研究の進展とともに新たな概念を獲得して発展していくものであることから,この研究分野が今後,生物精神医学研究の中心的な研究手法から脳神経科学研究の中心的な研究になることが期待される。  
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=== 今後の課題&nbsp;  ===
=== 今後の課題&nbsp;  ===


 第一の課題は,解析手法の多様性とサンプル収集の困難さである。通常の基礎研究では,一つの分野の専門家でよく,臨床研究では2領域(例:精神医学と遺伝学)となるが,中間表現型解析は,3領域(例:精神医学,遺伝学,脳神経画像学)が必要となる。多分野を理解し統合することのできる研究者が,それぞれの専門家と協力するという体制をつくる必要があることが困難であるといえる。中間表現型研究は、ただ統合失調症と健常者のゲノムサンプルだけを集めればよい関連研究とは違い,サンプル収集が難しくゆえに時間がかかり,比較的少数のサンプルしか集められない。但し,本邦では,ヒト脳表現型コンソーシアムが多数のサンプルを収集してデータの提供や共同研究を行なっている<ref name="ref7" />。  
 第一の課題は,解析手法の多様性とサンプル収集の困難さである。通常の基礎研究では,一つの分野の専門家でよく,臨床研究では2領域(例:精神医学と遺伝学)となるが,中間表現型解析は,3領域(例:精神医学,遺伝学,脳神経画像学)が必要となる。多分野を理解し統合することのできる研究者が,それぞれの専門家と協力するという体制をつくる必要があることが困難であるといえる。中間表現型研究は,ただ統合失調症と健常者のゲノムサンプルだけを集めればよい関連研究とは違い,サンプル収集が難しくゆえに時間がかかり,比較的少数のサンプルしか集められない。但し,本邦では,ヒト脳表現型コンソーシアムが多数のサンプルを収集してデータの提供や共同研究を行なっている<ref name="ref7" />。  


 次は統合失調症のリスク遺伝子を見出す方法論的な問題点である。中間表現型の遺伝率は30-60%であり,統合失調症そのものの遺伝率(約80%)より低いことが知られている。このことは,中間表現型と一つ一つの遺伝子の関連が疾患に対する関連より強いとされることや量的な表現型であるため統計的なパワーが増すことによるメリットを打ち消す可能性がある。現時点では,これらの両方を考慮した上でどちらがより有用であるかについてのデータはなく,結論が出ていない。  
 次は統合失調症のリスク遺伝子を見出す方法論的な問題点である。中間表現型の遺伝率は30-60%であり,統合失調症そのものの遺伝率(約80%)より低いことが知られている。このことは,中間表現型と一つ一つの遺伝子の関連が疾患に対する関連より強いとされることや量的な表現型であるため統計的なパワーが増すことによるメリットを打ち消す可能性がある。現時点では,これらの両方を考慮した上でどちらがより有用であるかについてのデータはなく,結論が出ていない。  
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