「抗うつ薬」の版間の差分

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 抗うつ薬とは、[[うつ病]]・[[うつ状態]]を改善させる効果をもつ薬剤である。うつ病の病態生理は解明されておらず、抗うつ薬は偶然の契機によって発見された。その後、抗うつ薬は、その分子構造や薬理作用を手がかりに、試行錯誤されることにより開発がすすめられ、抗うつ薬の薬理作用は、うつ病の原因解明の手がかりにもなっている。  
 抗うつ薬とは、[[うつ病]]・[[うつ状態]]を改善させる効果をもつ薬剤である。うつ病の病態生理は解明されておらず、抗うつ薬は偶然の契機によって発見された。その後、抗うつ薬は、その分子構造や薬理作用を手がかりに、試行錯誤されることにより開発がすすめられ、抗うつ薬の薬理作用は、うつ病の原因解明の手がかりにもなっている。  


 現在使用されている抗うつ薬は、[[モノアミン酸化酵素]] (monoamine oxidase, MAO)を阻害することにより[[シナプス間隙]]の[[神経伝達物質]]である[[モノアミン]]を増加させる[[MAO阻害薬]]、モノアミンの[[トランスポーター]]を阻害することによりモノアミンを増加させる[[三環系抗うつ薬]]、[[四環系抗うつ薬]]、[[選択的セロトニン再取り込み阻害薬]] (selective serotonin reuptake inhibitors, SSRI)、[[セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬]] (serotonin & norepinephrine reuptake inhibitors, SNRI)、モノアミンの遊離を促進させることによりモノアミンを増加させる[[ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬]] (noradrenergic and specific serotonergic antidepressant, NaSSA)に大別される。  
 現在使用されている抗うつ薬は、[[モノアミン酸化酵素]] (monoamine oxidase, MAO)を阻害することにより[[シナプス間隙]]の[[神経伝達物質]]である[[モノアミン]]を増加させる[[MAO阻害薬]]、モノアミンの[[トランスポーター]]を阻害することによりモノアミンを増加させる[[三環系抗うつ薬]]、[[四環系抗うつ薬]]、[[選択的セロトニン再取り込み阻害薬]] (selective serotonin reuptake inhibitors, SSRI)、[[セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬]] (serotonin & norepinephrine reuptake inhibitors, SNRI)、四環系抗うつ薬から派生したものの、モノアミンの遊離を促進させることによりモノアミンを増加させる特徴も持つ[[ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬]] (noradrenergic and specific serotonergic antidepressant, NaSSA)に大別される。  


== 歴史  ==
== 歴史  ==


 1950年代、[[wikipedia:ja:抗結核薬|抗結核薬]]の[[イプロニアジド]] (iproniazid)が使用された結核患者の中に、気分高揚や過活動を呈する患者がみられ、その後、同剤に抗うつ効果をあることが明らかになった。イプロニアジドが、MAOを阻害する薬理作用を有していたため、同様の薬理作用を持つMAO阻害薬が、抗うつ薬として開発されていった。三環系抗うつ薬の[[イミプラミン]] (imipramine)は、抗精神病作用を有する[[フェノチアジン]]系の薬剤として開発されていたが、治験段階で抗うつ効果があることが偶然発見され、その後、イミプラミンに、[[ノルアドレナリン]]や[[セロトニン]]トランスポーターの阻害作用があることが判明し、それを契機に三環系抗うつ薬が開発されていった。その後、セロトニンやノルアドレナリントランスポーターへの阻害作用に選択性をもったSSRIやSNRIが開発されている。
 1950年代、[[wikipedia:ja:抗結核薬|抗結核薬]]の[[イプロニアジド]] (iproniazid)が使用された結核患者の中に、気分高揚や過活動を呈する患者がみられ、その後、同剤に抗うつ効果をあることが明らかになった。イプロニアジドが、MAOを阻害する薬理作用を有していたため、同様の薬理作用を持つMAO阻害薬が、抗うつ薬として開発されていった。三環系抗うつ薬の[[イミプラミン]] (imipramine)は、抗精神病作用を有する[[フェノチアジン]]系の薬剤として開発されていたが、治験段階で抗うつ効果があることが偶然発見され、その後、イミプラミンに、[[ノルアドレナリン]]や[[セロトニン]]トランスポーターの阻害作用があることが判明し、それを契機に三環系抗うつ薬が開発されていった。その後、セロトニンやノルアドレナリントランスポーターへの阻害作用に選択性をもったSSRIやSNRIが開発されている。なお、ノルアドレナリントランスポーターは、前頭葉ではドーパミンも輸送しているため、ノルアドレナリントランスポーター阻害作用を有する薬剤の投与により、前頭葉ではドーパミンも増加する。


== モノアミン仮説  ==
== モノアミン仮説  ==
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 神経間隙のモノアミンを増加させるMAO阻害薬や三環系抗うつ薬が、抗うつ効果を有することや、モノアミンを枯渇させる薬物が抑うつ状態を惹起することなどから、「うつ病では、なんらかの機序によってモノアミンの枯渇が生じ、神経伝達システムの異常をきたしている」という[[モノアミン仮説]]が登場した。しかし、抗うつ薬は投与直後から神経伝達物質を増加させるものの、臨床効果は数週間たたないと発現しないことや、うつ病患者の血液や髄液中のモノアミンは、必ずしも減少していない等の矛盾が徐々に明らかにされるようになった。  
 神経間隙のモノアミンを増加させるMAO阻害薬や三環系抗うつ薬が、抗うつ効果を有することや、モノアミンを枯渇させる薬物が抑うつ状態を惹起することなどから、「うつ病では、なんらかの機序によってモノアミンの枯渇が生じ、神経伝達システムの異常をきたしている」という[[モノアミン仮説]]が登場した。しかし、抗うつ薬は投与直後から神経伝達物質を増加させるものの、臨床効果は数週間たたないと発現しないことや、うつ病患者の血液や髄液中のモノアミンは、必ずしも減少していない等の矛盾が徐々に明らかにされるようになった。  


 そのため、うつ病の病因に関する仮説の焦点は、モノアミンなどの神経伝達物質そのものから、シナプス後神経細胞の情報伝達異常に移り,抗うつ薬の抗うつ効果は,慢性投与によって生じるシナプス後膜上の神経伝達物質の[[受容体]]のダウンレギュレーションや脱感作、また、それらに伴い生じる遺伝子発現等機能タンパク質の発現を介した神経可塑的変化が関与していると考えられるようになっている。各種抗うつ薬は、その選択性の程度に差はあるものの、セロトニン、[[ドーパミン]]、ノルアドレナリンの様々なトランスポーターや受容体に作用していることや、脳内でモノアミン伝達は相互に関与しているため、抗うつ薬の治療効果は、どのような機序によりもたらされるのか完全には特定されていないのが現状である。  
 そのため、うつ病の病因に関する仮説の焦点は、モノアミンなどの神経伝達物質そのものから、シナプス後神経細胞の情報伝達異常に移り,抗うつ薬の抗うつ効果は,慢性投与によって生じるシナプス後膜上の神経伝達物質の[[受容体]]のダウンレギュレーションや脱感作、また、それらに伴い生じる、脳由来神経栄養因子(BDNF)などの遺伝子発現増加を介した、神経可塑的変化が関与していると考えられるようになっている。各種抗うつ薬は、その選択性の程度に差はあるものの、セロトニン、[[ドーパミン]]、ノルアドレナリンの様々なトランスポーターや受容体に作用していることや、脳内でモノアミン伝達は相互に関与しているため、抗うつ薬の治療効果は、どのような機序によりもたらされるのか完全には特定されていないのが現状である。  


== 現在使用されている抗うつ薬  ==
== 現在使用されている抗うつ薬  ==

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