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同義語:電位依存性カルシウムチャネル (Voltage-dependent calcium channel : VDCC、Voltage-gated calcium channel : VGCC)<br> | 同義語:電位依存性カルシウムチャネル (Voltage-dependent calcium channel : VDCC、Voltage-gated calcium channel : VGCC)<br> | ||
[[形質膜]]越えの[[カルシウム]]イオン (Ca<sup>2+</sup>) 流入経路として、異なる活性化機構により開口するカルシウムチャネルが知られる。 それらの中でも[[膜電位]] | [[形質膜]]越えの[[カルシウム]]イオン (Ca<sup>2+</sup>) 流入経路として、異なる活性化機構により開口するカルシウムチャネルが知られる。 それらの中でも[[膜電位]]の[[脱分極]]によって開口する[[電位依存性カルシウムチャネル]] (Voltage-dependent calcium channel : VDCC) が最も深く研究されてきた。VDCCは神経細胞や筋細胞を始めとする興奮性細胞において、様々な分子と相互作用することにより[[神経伝達物質]]放出、[[wikipedia:ja:|筋]]収縮、[[遺伝子発現]]など様々なCa<sup>2+</sup>依存性の細胞応答を制御する。 本項目では他のカルシウムチャネルについても言及したい。 | ||
== 分類、構造、発現 == | == 分類、構造、発現 == | ||
VDCCは、形質膜の脱分極を感知して活性化開口し、細胞外から細胞内へCa<sup>2+</sup>を選択的に透過させる[[イオンチャネル]]であり、細胞の電気的興奮をCa<sup>2+</sup>依存的な生理応答に変換する役割を担う。開口する電位によりVDCCは、高電位 (~−20 mV)で活性化するL型 (Ca<sub>v</sub>1)および非L型 (Ca<sub>v</sub>2) と低電位 (~−60 mV) で活性するT型 (Ca<sub>v</sub>3) に大別される<ref name="ref1"><pubmed> 6087159 </pubmed></ref><ref><pubmed>2582115</pubmed></ref><ref name="ref3"><pubmed>16382099</pubmed></ref>。高電位活性化型のVDCCは、α<sub>1</sub>、α<sub>2</sub>δ、βおよびγサブユニットから成るヘテロ4量体を形成すると考えられている (図1)。 | [[Image:Yasuomori fig 1.jpg|thumb|right|300px|<b>図1. VDCCのサブユニット構造</b><br />高電位活性化型のVDCCは、α<sub>1</sub>、α<sub>2</sub>δ、βおよびγサブユニットから成るヘテロ4量体を形成する。]] | ||
VDCCは、形質膜の脱分極を感知して活性化開口し、細胞外から細胞内へCa<sup>2+</sup>を選択的に透過させる[[イオンチャネル]]であり、細胞の電気的興奮をCa<sup>2+</sup>依存的な生理応答に変換する役割を担う。開口する電位によりVDCCは、高電位 (~−20 mV)で活性化するL型 (Ca<sub>v</sub>1)および非L型 (Ca<sub>v</sub>2) と低電位 (~−60 mV) で活性するT型 (Ca<sub>v</sub>3) に大別される<ref name="ref1"><pubmed> 6087159 </pubmed></ref><ref><pubmed>2582115</pubmed></ref><ref name="ref3"><pubmed>16382099</pubmed></ref>。高電位活性化型のVDCCは、α<sub>1</sub>、α<sub>2</sub>δ、βおよびγサブユニットから成るヘテロ4量体を形成すると考えられている (図1)。 | |||
=== α<sub>1</sub>サブユニット === | === α<sub>1</sub>サブユニット === | ||
[[Image:Yasuomori fig 3.jpg|thumb|right|300px|<b>図2. α<sub>1</sub>サブユニットの進化系統樹</b>]] | |||
{| width="856" cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" height="279" | {| width="856" cellspacing="1" cellpadding="1" border="1" height="279" | ||
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| ペースメイキング、反復性発火<br><br><br> | | ペースメイキング、反復性発火<br><br><br> | ||
|} | |} | ||
'''図3. α<sub>1</sub>サブユニットの分類とその特性'''<br>α<sub>1</sub>サブユニットには10種類のアイソフォームが存在し、その電気生理学的特性や薬理学的特性によって分類、命名されている。 | |||
[[電位センサー]]とチャネル孔を有するα<sub>1</sub>サブユニットは、おおよそ2000アミノ酸残基からなるタンパク質であり、[[wikipedia:ja:|膜貫通領域]]S1~S6の構造単位が4回繰り返す (リピートI~IV) 。S5領域とS6領域の間がCa<sup>2+</sup>を選択的に透過させるチャネル孔を形成し、S4領域が電位センサーとして働く。α<sub>1</sub>サブユニットは10種類の異なる遺伝子Ca<sub>v</sub>によりコードされて、電気生理学的特性や薬理学的特性による機能分類 (L, P/Q, N, R, T) に対応付けられている (図2)<ref name="ref4"><pubmed>21746798</pubmed></ref>。 | |||
==== Ca<sub>v</sub>1 (L型) ==== | |||
[[L型]] (Ca<sub>v</sub>1) は遅い不活性化 (<u>L</u>ong lasting) と大きな (<u>L</u>arge) 単一チャネルコンダクタンスを有することから名づけられた<ref><pubmed>6207437</pubmed></ref>。ジヒドロピリジン(Dihydropyridine, DHP)やフェニルアルキルアミン(Phenylalkylamine, PAA)、ベンゾチアゼピン(Benzothiazepine, BTZ)といった[[Ca<sup>2+</sup>拮抗薬]]の作用点である。Ca<sub>v</sub>1.1は[[wikipedia:ja:|骨格筋]]、Ca<sub>v</sub>1.2は[[wikipedia:ja:|心臓]]や[[脳]]、Ca<sub>v</sub>1.3は[[wikipedia:ja:|膵臓]]などの[[wikipedia:ja:|内分泌組織]]や脳、Ca<sub>v</sub>1.4は[[網膜]]に主に発現している<ref name="ref3" />。 | |||
==== Ca<sub>v</sub>2 (N, P/Q, R型) ==== | |||
非L型 (Ca<sub>v</sub>2) には[[N]]、[[P/Q]]、[[R型]]が含まれる。N型 (Ca<sub>v</sub>2.2) には、L型ではない (<u>N</u>on-L) 、[[神経細胞]]に発現する (<u>N</u>euronal) という意味がある<ref name="ref6"><pubmed>2410796</pubmed></ref>。ペプチド性の[[wikipedia:ja:|イモ貝]]毒[[ω-コノトキシン GVIA]]により選択的に阻害される<ref><pubmed>2438698</pubmed></ref>。P型は[[小脳]][[プルキンエ]] (<u>P</u>urkinje) 細胞においてDHPとω-コノトキシン GVIAの両方に非感受性のCa<sup>2+</sup>電流として同定された<ref><pubmed> 2545128</pubmed></ref>。クモ毒[[ω-アガトキシンIVA]]によって選択的に阻害される<ref><pubmed>1321648</pubmed></ref>。Q型は、同じ遺伝子 (Ca<sub>v</sub>2.1) の[[wikipedia:ja:|スプライスバリアント]]であると考えられており<sup>[11]</sup>、小脳顆粒細胞において初めて電流が同定された。Q型はP型よりω-アガトキシンIVAに対する親和性が低い<ref><pubmed> 7722641</pubmed></ref>。R型 (Ca<sub>v</sub>2.3) は小脳顆粒細胞においてDHP、ω-コノトキシン GVIA、ω-アガトキシンIVAによって阻害されない残りの成分 (<u>R</u>esidual) という意味で名づけられ<ref><pubmed>10321243</pubmed></ref>、[[wikipedia:ja:|タランチュラ]]毒素[[SNX-482]]によって選択的に阻害される<ref><pubmed> 9799496</pubmed></ref>。これら非L型のVDCCは広く神経系に発現している<ref name="ref3" />。 | |||
==== Ca<sub>v</sub>3 (T型) ==== | |||
[[T型]] (Ca<sub>v</sub>3) は低電位 (~−60 mV) で活性化し、早い不活性化や遅い脱活性化 (一過的: <u>T</u>ransient)、小さい (<u>T</u>iny) 単一チャネルコンダクタンスを特徴とする<ref name="ref1" /><ref name="ref6" />。T型は脳に最も豊富に発現する他、心臓の[[wikipedia:ja:|ペースメーカー細胞]]にも発現している。T型は高閾値活性化型のVDCCとは異なり、α<sub>2</sub>δ、β、γサブユニットとの相互作用が確認されていない。<br> | |||
=== 副サブユニット (α<sub>2</sub>δ、β、γ) === | |||
α<sub>2</sub>δ、βおよびγサブユニットは、チャネル本体であるα<sub>1</sub>サブユニットの発現調節、機能調節や細胞内局在に重要であり、複数の遺伝子によってコードされている<ref name="ref13"><pubmed>3037387</pubmed></ref>。 | |||
大きな細胞外領域を有するα<sub>2</sub>δサブユニットは、単一の遺伝子にコードされるα<sub>2</sub>およびδが[[wikipedia:ja:|ジスルフィド結合]]によって結ばれた二量体で、4種類のアイソフォームが知られる (α<sub>2</sub>δ1-4)。α<sub>2</sub>δサブユニットは、α<sub>1</sub>サブユニットの形質膜への輸送に働いている<ref name="ref14"><pubmed>17403543</pubmed></ref>。α<sub>1</sub>サブユニットのリピートIとIIをつなぐ細胞内リンカーに結合するβサブユニットは、4種類のアイソフォームが知られている (β1-4)。このβサブユニットは、α<sub>1</sub>サブユニットの形質膜における機能的な発現に重要であり<ref name="ref15"><pubmed>1849233</pubmed></ref>、VDCCの活性化や不活性化を促進する<ref name="ref16"><pubmed>20959621</pubmed></ref>。各アイソフォームには複数のスプライスバリアントが存在し、発現分布やチャネル機能の調節に違いがある<ref name="ref16" />。γサブユニットは4回膜貫通のタンパク質であり、VDCCと相互作用することで不活性化曲線をシフトさせる<ref name="ref17"><pubmed>17652770</pubmed></ref>。γサブユニットには8種類のアイソフォームが存在し (γ1~8)、その中のいくつかのアイソフォームは、[[AMPA受容体]] (2-amino-3-[3-hydroxy-5-methyl-4-isoxazolyl]propionic acid receptor) の輸送や機能調節を担う主要なタンパク質[[TARPs]] (Transmembrane AMPA receptor regulatory proteins) とも呼ばれている<ref name="ref17" />。 | |||
== 機能 == | |||
異なるαサブユニット (Ca<sub>v</sub>) を含むVDCCは、神経伝達物質放出、[[シナプス可塑性]]、細胞の興奮性の調節、筋収縮、遺伝子発現など、異なる生理応答を制御する (図3)。 | |||
=== Ca<sub>v</sub>1 (L型) === | === Ca<sub>v</sub>1 (L型) === | ||
[[Image:Yasuomori fig 2.jpg|thumb|right| | [[Image:Yasuomori fig 2.jpg|thumb|right|300px|<b>図4. α<sub>1</sub>サブユニットの構造</b><br /> 膜貫通領域S1~S6の構造単位が4回繰り返す (リピートI~IV) 。各リピートのS5領域とS6領域の間がCa<sup>2+</sup>を選択的に透過させるチャネル孔を形成し、S4領域が電位センサーとして働く。VDCCのβサブユニットはリピートI-II間のループに結合する。N, P/Q型VDCCのリピートII-III間のループには、[[アクティブゾーン]]に存在するタンパク質との相互作用部位 (Synprint)が保存されている。[[カルモジュリン]](CaM)やAKAP、[[カルシニューリン]](CaN)はC末端側の細胞質領域に結合することが報告されている。]] | ||
L型は、骨格筋や心筋、[[wikipedia:ja:|平滑筋]]の収縮に始まり、ホルモンや神経伝達物質の放出、遺伝子発現まで様々な細胞応答に関わる。骨格筋の[[wikipedia:ja:|横行小管]] (T管) に発現するCa<sub>v</sub>1.1は、脱分極による構造変化を介して[[リアノジン受容体]]を直接活性化し、Ca<sup>2+</sup>放出を誘導することで筋収縮を引き起こす<ref name="ref18"><pubmed>1966760</pubmed></ref>。一方、心筋ではCa<sub>v</sub>1.2からのCa<sup>2+</sup>流入がCa<sup>2+</sup>依存的にリアノジン受容体を活性化し、筋収縮を引き起こす<ref name="ref19"><pubmed>6346892</pubmed></ref>。Ca<sub>v</sub>1.2およびCa<sub>v</sub>1.3は、膵臓のβ細胞におけるインスリン分泌も制御している<ref name="ref20"><pubmed>18511483</pubmed></ref>。また、Ca<sub>v</sub>1.3およびCa<sub>v</sub>1.4は感覚受容細胞の[[リボンシナプス]]における神経伝達物質放出に関与している<ref name="ref4" />。[[聴覚]][[有毛細胞]]ではCa<sub>v</sub>1.3が<ref name="ref21"><pubmed>9405708</pubmed></ref>、網膜の[[光受容細胞]]ではCa<sub>v</sub>1.4が神経伝達物質の放出を制御している<ref name="ref22"><pubmed>9174087</pubmed></ref>。神経細胞においては、L型は細胞体や細胞体近傍の[[樹状突起]]に局在しており、近い位置での細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度 ([Ca<sup>2+</sup>]<sub>i</sub>) 上昇の引き金となり、下流で核内の[[シグナル伝達]]、およびCa<sup>2+</sup>濃度上昇を引き起こす<ref name="ref4" />。L型は、遺伝子発現に重要なシグナル分子である[[CaM]] (calmodulin) 、AKAP (A kinase anchor protein) ファミリー、[[チロシンリン酸化]]酵素であるSrc、[[脱リン酸化酵素]]である[[CaN]] (calcineurin) などと共役して働き (図4)、[[CREB]] ([[CAMP]] response element binding protein) <ref name="ref23"><pubmed>8980227</pubmed></ref>やNFAT (Nuclear factor of activated T-cells) といった[[転写因子]]の活性を調節することが知られる<ref name="ref4" /> 。 | |||
=== Ca<sub>v</sub>2 (N, P/Q, R型) === | === Ca<sub>v</sub>2 (N, P/Q, R型) === |