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アストロサイトの発生を考える上で、もう一つの重要な点として、アストロサイトの[[不均一性]]([[heterogeneity]])の問題が挙げられる。一般にアストロサイトと呼ばれる細胞は、灰白質に分布する原形質アストロサイトと白質に分布する線維性アストロサイトに大別される。両者は、共通のマーカー分子([[GFAP]]など)を発現するものの、形態学的には明らかに異なった特徴を有している。これら2種類のアストロサイトが同一の機能を有するのか、あるいは異なる機能を有するのか(不均一なのか)という問題が、アストロサイトの研究分野に大きなテーマとして横たわっている<ref name=ref19>'''Kimelberg HK'''<br> Astrocyte Heterogeneity or Homogeneiry?:Astrocytes in (Patho)Physiology of the Nervous System; p1-26,<br>''Springer(New York):2009</ref>。アストロサイトに不均一性が存在すると仮定した場合(多くの研究者は不均一性の存在を期待している)、原形質アストロサイトと線維性アストロサイトのそれぞれに対応する前駆細胞が存在するのか、あるいは前駆細胞の置かれる環境によって分化が方向づけられるのか、不均一性が発生のどの段階で獲得されるのか、といった疑問点が挙げられる。一例を挙げると、マウス胎生10-12日齢の脊髄は、[[転写調節因子]]の発現パターンに基づいたドメイン構造を有しており、ニューロンやオリゴデンドロサイトは固有のドメインより発生することが広く知られている。したがって、ニューロンやオリゴデンドロサイトといった細胞の多様性獲得には前駆細胞の分布する位置が重要であると考えられている。近年、アストロサイトに関しても脊髄腹側から、マーカー分子の発現様式の異なるアストロサイト(線維性アストロサイト)が生じることが報告され、アストロサイトにも複数のサブタイプが存在する可能性が示唆されている<ref name=ref20><pubmed> 18455991 </pubmed></ref>。これは、アストロサイト前駆細胞の置かれる環境が分化に重要であることを示しており、またアストロサイトの不均一性の存在を支持する結果であると考えられる。しかしながら、アストロサイトの機能的な不均一性の有無が明らかとなっていないため、これらの疑問に対する明確な答えが存在しないのが現状である。今日、アストロサイト(グリア細胞)に対する関心は日増しに高まってきているが、まだまだ未解明な問題が山積している。したがって、アストロサイト前駆細胞の概念も今後大きく変遷していくものと考えられる。 | アストロサイトの発生を考える上で、もう一つの重要な点として、アストロサイトの[[不均一性]]([[heterogeneity]])の問題が挙げられる。一般にアストロサイトと呼ばれる細胞は、灰白質に分布する原形質アストロサイトと白質に分布する線維性アストロサイトに大別される。両者は、共通のマーカー分子([[GFAP]]など)を発現するものの、形態学的には明らかに異なった特徴を有している。これら2種類のアストロサイトが同一の機能を有するのか、あるいは異なる機能を有するのか(不均一なのか)という問題が、アストロサイトの研究分野に大きなテーマとして横たわっている<ref name=ref19>'''Kimelberg HK'''<br> Astrocyte Heterogeneity or Homogeneiry?:Astrocytes in (Patho)Physiology of the Nervous System; p1-26,<br>''Springer(New York):2009</ref>。アストロサイトに不均一性が存在すると仮定した場合(多くの研究者は不均一性の存在を期待している)、原形質アストロサイトと線維性アストロサイトのそれぞれに対応する前駆細胞が存在するのか、あるいは前駆細胞の置かれる環境によって分化が方向づけられるのか、不均一性が発生のどの段階で獲得されるのか、といった疑問点が挙げられる。一例を挙げると、マウス胎生10-12日齢の脊髄は、[[転写調節因子]]の発現パターンに基づいたドメイン構造を有しており、ニューロンやオリゴデンドロサイトは固有のドメインより発生することが広く知られている。したがって、ニューロンやオリゴデンドロサイトといった細胞の多様性獲得には前駆細胞の分布する位置が重要であると考えられている。近年、アストロサイトに関しても脊髄腹側から、マーカー分子の発現様式の異なるアストロサイト(線維性アストロサイト)が生じることが報告され、アストロサイトにも複数のサブタイプが存在する可能性が示唆されている<ref name=ref20><pubmed> 18455991 </pubmed></ref>。これは、アストロサイト前駆細胞の置かれる環境が分化に重要であることを示しており、またアストロサイトの不均一性の存在を支持する結果であると考えられる。しかしながら、アストロサイトの機能的な不均一性の有無が明らかとなっていないため、これらの疑問に対する明確な答えが存在しないのが現状である。今日、アストロサイト(グリア細胞)に対する関心は日増しに高まってきているが、まだまだ未解明な問題が山積している。したがって、アストロサイト前駆細胞の概念も今後大きく変遷していくものと考えられる。 | ||
=== オリゴデンドロブラスト === | === オリゴデンドロブラスト === | ||
前述のグリオブラストから分化し、オリゴデンドロサイト系譜に運命づけられた前駆細胞がオリゴデンドロブラスト(乏突起膠芽細胞、オリゴデンドロサイト前駆細胞)である。現在ではオリゴデンドロブラストという名称より[[オリゴデンドロサイト前駆細胞]]としての名称の方が一般的である。オリゴデンドロブラストは、[[O-2A前駆細胞]]として同定され、後にオリゴデンドロサイト前駆細胞であることが明らかにされた<ref name=ref21><pubmed> 7823144 </pubmed></ref><ref name=ref22><pubmed> 7875381 </pubmed></ref><ref name=ref23><pubmed> 11955447 </pubmed></ref>。オリゴデンドロサイトの発生には、[[Olig2転写因子]]が必須であることが報告されているが<ref name=ref2 /><ref name=ref23 /><ref name=ref24><pubmed> 11955448 </pubmed></ref><ref name=ref25><pubmed> 12121626 </pubmed></ref>、[[Nkx2-2]]、[[Sox10]]、[[MRF]]はじめとする多くの転写因子・転写制御因子とのクロストーク<ref name=ref2 /><ref name=ref26><pubmed> 17647291 </pubmed></ref>、[[HDAC]]によるエピジェネティクス<ref name=ref27><pubmed> 19503085 </pubmed></ref><ref name=ref28><pubmed> 21382543 </pubmed></ref>、リン酸化による[[翻訳後修飾]]<ref name=ref29><pubmed> 21382552 </pubmed></ref><ref name=ref30><pubmed> 19554044 </pubmed></ref>、さらに[[miRNA]]によってオリゴデンドロサイト分化は時間空間的に制御されている<ref name=ref31><pubmed> 20223197 </pubmed></ref><ref name=ref32><pubmed> 20223198 </pubmed></ref><ref name=ref33><pubmed> 22347159 </pubmed></ref>。オリゴデンドロサイト前駆細胞、及びオリゴデンドロサイトの詳細に関してはそれそれの項を参照して頂きたい。 | |||
== オリゴデンドログリオーマ == | == オリゴデンドログリオーマ == | ||
[[神経膠腫]]の一種で、オリゴデンドロブラスト(オリゴデンドロサイト前駆細胞)、またはオリゴデンドロサイトが癌化したものをオリゴデンドログリオーマと呼ぶ <ref name=ref12 /><ref name=ref13 /><ref name=ref14 />。若年者に好発するオリゴデンドログリオーマは神経膠腫の約5%を占め、成人では前頭葉を中心に発生し、約9%を占める。診断時の平均年齢は35歳である。原因は不明で、緩慢に発育し、しばしば石灰沈着を伴う<ref name=ref34><br>南山堂医学大事典 第19版<br>南山堂(東京):2006</ref>。オリゴデンドログリオーマ(グリオーマ前駆細胞)ではOlig2転写因子が発現しており、Olig2をマーカーとして免疫組織学的に判別でき、形態はオリゴデンドロサイトの特徴を示す<ref name=ref12 /><ref name=ref13 /><ref name=ref14 />。臨床的またはX線像により区別すること困難で、病理組織検査(生検検査)が確定診断の方法として用いられる。世界保健機構(WHO)のガイドライン(グレードIからIV)では、オリゴデンドログリオーマは一般的にグレードIIとグレードIIIに分類されている<ref name=ref35><pubmed> 17618441 </pubmed></ref>。治療法は手術、放射線治療、化学療法が挙げられる。近年、オリゴデンドログリオーマ(グリオーマ前駆細胞)、オリゴデンドロサイト前駆細胞において、Olig2転写因子のSer10, 13, 14のリン酸化状態がp53のアセチル化を阻害し、前駆細胞の増殖を促進することが報告され、オリゴデンドログリオーマ(グリオーマ前駆細胞)発症機構が明らかにされつつある<ref name=ref28 /><ref name=ref36><pubmed> 11498220 </pubmed></ref><ref name=ref37><pubmed> 11526205 </pubmed></ref>。 | [[神経膠腫]]の一種で、オリゴデンドロブラスト(オリゴデンドロサイト前駆細胞)、またはオリゴデンドロサイトが癌化したものをオリゴデンドログリオーマと呼ぶ <ref name=ref12 /><ref name=ref13 /><ref name=ref14 />。若年者に好発するオリゴデンドログリオーマは神経膠腫の約5%を占め、成人では前頭葉を中心に発生し、約9%を占める。診断時の平均年齢は35歳である。原因は不明で、緩慢に発育し、しばしば石灰沈着を伴う<ref name=ref34><br>南山堂医学大事典 第19版<br>南山堂(東京):2006</ref>。オリゴデンドログリオーマ(グリオーマ前駆細胞)ではOlig2転写因子が発現しており、Olig2をマーカーとして免疫組織学的に判別でき、形態はオリゴデンドロサイトの特徴を示す<ref name=ref12 /><ref name=ref13 /><ref name=ref14 />。臨床的またはX線像により区別すること困難で、病理組織検査(生検検査)が確定診断の方法として用いられる。世界保健機構(WHO)のガイドライン(グレードIからIV)では、オリゴデンドログリオーマは一般的にグレードIIとグレードIIIに分類されている<ref name=ref35><pubmed> 17618441 </pubmed></ref>。治療法は手術、放射線治療、化学療法が挙げられる。近年、オリゴデンドログリオーマ(グリオーマ前駆細胞)、オリゴデンドロサイト前駆細胞において、Olig2転写因子のSer10, 13, 14のリン酸化状態がp53のアセチル化を阻害し、前駆細胞の増殖を促進することが報告され、オリゴデンドログリオーマ(グリオーマ前駆細胞)発症機構が明らかにされつつある<ref name=ref28 /><ref name=ref36><pubmed> 11498220 </pubmed></ref><ref name=ref37><pubmed> 11526205 </pubmed></ref>。 |
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