145
回編集
細編集の要約なし |
細編集の要約なし |
||
6行目: | 6行目: | ||
== 反応 == | == 反応 == | ||
一般に、タンパク質リン酸化は、最もよく見られるタンパク質翻訳後修飾機構である。チロシンキナーゼは、アデノシン三リン酸(ATP) | 一般に、タンパク質リン酸化は、最もよく見られるタンパク質翻訳後修飾機構である。チロシンキナーゼは、アデノシン三リン酸(ATP)の<math>¥gamma</math>位の高エネルギーリン酸基を、基質チロシン残基側鎖にある水酸基に移動させ、リン酸エステル化により共有結合させる。リン酸化に伴って、基質チロシン残基部位に負電荷が導入される。チロシン残基前後のアミノ酸配列により、チロシンキナーゼの基質特異性が決まる。チロシンフォスファターゼは、チロシンキナーゼと比較してより基質特異性が広く、リン酸化セリン・スレオニンをも基質とするものも存在する。タンパク質中のリン酸化残基の99%以上はセリンとスレオニンであるが、0.1%に満たないチロシンのリン酸化は生物学的に重要な役割を果たす。 | ||
19行目: | 19行目: | ||
1979年Tony Hunterにより、癌遺伝子産物v-Srcおよび癌原遺伝子産物c-Srcがチロシンリン酸化活性を持つことが発見された<ref><pubmed>19269802</pubmed></ref>。これが最初のチロシンキナーゼの報告例であり、以後、多くのチロシンキナーゼが同定された。Srcを含む非受容体型チロシンキナーゼは、分子構造として細胞外領域をもたず、細胞内領域にチロシンキナーゼドメインをもつ。[[受容体型チロシンキナーゼ]]と同様に、非受容体型チロシンキナーゼもキナーゼドメイン中には自己リン酸化部位およびATP結合部位を含み、自己リン酸化によりキナーゼ活性を調節している。[[受容体型チロシンキナーゼ]]と異なり、非受容体型チロシンキナーゼには、直接的に結合するリガンドはない。上位の制御因子は細胞膜上に存在する種々の受容体タンパク質であり、非受容体型チロシンキナーゼは、神経系においても様々な膜受容体と会合して、膜受容体から細胞内への情報伝達を担う。Srcファミリーチロシンキナーゼは、現在までにSrc、Yes、Fyn、Fgr、Lyn、Lck、Hck、Blk、Frkの9種が同定されており、脳では、Src、Yes、Fyn、Lyn、Lckが高発現を示す。発現部位ごとにスプライシングバリアントがみられるものもある。Srcファミリーチロシンキナーゼの場合、N末端領域にミリスチル化部位やパルミトイル化部位を有し、これらの脂肪酸結合により細胞膜に付着し、膜近辺に局在する様になる。 | 1979年Tony Hunterにより、癌遺伝子産物v-Srcおよび癌原遺伝子産物c-Srcがチロシンリン酸化活性を持つことが発見された<ref><pubmed>19269802</pubmed></ref>。これが最初のチロシンキナーゼの報告例であり、以後、多くのチロシンキナーゼが同定された。Srcを含む非受容体型チロシンキナーゼは、分子構造として細胞外領域をもたず、細胞内領域にチロシンキナーゼドメインをもつ。[[受容体型チロシンキナーゼ]]と同様に、非受容体型チロシンキナーゼもキナーゼドメイン中には自己リン酸化部位およびATP結合部位を含み、自己リン酸化によりキナーゼ活性を調節している。[[受容体型チロシンキナーゼ]]と異なり、非受容体型チロシンキナーゼには、直接的に結合するリガンドはない。上位の制御因子は細胞膜上に存在する種々の受容体タンパク質であり、非受容体型チロシンキナーゼは、神経系においても様々な膜受容体と会合して、膜受容体から細胞内への情報伝達を担う。Srcファミリーチロシンキナーゼは、現在までにSrc、Yes、Fyn、Fgr、Lyn、Lck、Hck、Blk、Frkの9種が同定されており、脳では、Src、Yes、Fyn、Lyn、Lckが高発現を示す。発現部位ごとにスプライシングバリアントがみられるものもある。Srcファミリーチロシンキナーゼの場合、N末端領域にミリスチル化部位やパルミトイル化部位を有し、これらの脂肪酸結合により細胞膜に付着し、膜近辺に局在する様になる。 | ||
タンパク質間の結合を制御する機構として、多くの非受容体型チロシンキナーゼには、SH(Src Homology)2ドメインおよびSH3ドメインとよばれるドメイン構造が存在する。SH2ドメインはリン酸化チロシン残基(pTyr)を、SH3はプロリンリッチ領域(X-Pro-X-X-Pro)を、それぞれ認識して結合することで、細胞内情報伝達系におけるタンパク質-タンパク質結合を制御する。これらのドメインは構造的に保存されたアミノ酸配列を持ち、Srcファミリーチロシンキナーゼにおいて最初に見出された。更に、Abl、Fes、Syk/Zap70、Tec、Ack、Csk、Srm、Rak等の非受容体型チロシンキナーゼや、PI3K(phosphatidylinositol-3 kinase)、PLC(phospholipase C)- | タンパク質間の結合を制御する機構として、多くの非受容体型チロシンキナーゼには、SH(Src Homology)2ドメインおよびSH3ドメインとよばれるドメイン構造が存在する。SH2ドメインはリン酸化チロシン残基(pTyr)を、SH3はプロリンリッチ領域(X-Pro-X-X-Pro)を、それぞれ認識して結合することで、細胞内情報伝達系におけるタンパク質-タンパク質結合を制御する。これらのドメインは構造的に保存されたアミノ酸配列を持ち、Srcファミリーチロシンキナーゼにおいて最初に見出された。更に、Abl、Fes、Syk/Zap70、Tec、Ack、Csk、Srm、Rak等の非受容体型チロシンキナーゼや、PI3K(phosphatidylinositol-3 kinase)、PLC(phospholipase C)-<math>¥gamma</math>等のセリン・スレオニンキナーゼ、またGrb2、Nck等のアダプタータンパク質もこれらのドメイン構造を持つことが明らかになった。SH2ドメインは、約100アミノ酸残基の領域であり、2つのアルファヘリックスと7つのベータシートから構成される。SH3ドメインは、約60アミノ酸残基の領域であり、5つないし6つのベータシートからなる典型的なベータバレル構造をもつ。 | ||
チロシンリン酸化の神経機能における役割としては、シナプス前膜側からの神経伝達物質放出の調節、様々な[[電位依存性イオンチャネル]]および[[リガンド依存性イオンチャネル]]のコンダクタンスと開口確率の制御、多くのタンパク質分子のシナプスでの局在と輸送過程の制御等が知られている。また、神経回路、神経筋接合部やミエリン構造の形成、樹状突起の形態形成や軸索伸長等の過程において、チロシンリン酸化による制御が挙げられる<ref><pubmed>21508038</pubmed></ref>。 | チロシンリン酸化の神経機能における役割としては、シナプス前膜側からの神経伝達物質放出の調節、様々な[[電位依存性イオンチャネル]]および[[リガンド依存性イオンチャネル]]のコンダクタンスと開口確率の制御、多くのタンパク質分子のシナプスでの局在と輸送過程の制御等が知られている。また、神経回路、神経筋接合部やミエリン構造の形成、樹状突起の形態形成や軸索伸長等の過程において、チロシンリン酸化による制御が挙げられる<ref><pubmed>21508038</pubmed></ref>。 |
回編集