「脳神経」の版間の差分

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羅:nervus cranialis 英:cranial nerves 独:Hirnnerv 仏:Nerf crânien
羅:nervus cranialis 英:cranial nerves 独:Hirnnerv 仏:Nerf crânien


 脳神経とは、[[wikipedia:ja:脊椎動物|脊椎動物]]神経系のなかで、[[脳]]に出入りする末梢神経のことをいう。[[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]、[[wikipedia:ja:爬虫類|爬虫類]]、[[wikipedia:ja:鳥類|鳥類]]では主要なものとして左右12対ある。他に、ヒトにおいては痕跡的であるが、下級脊椎動物で発達しているものとして、第I脳神経に関連の深い、[[wikipedia:ja:終神経|終神経]] terminal nerve と[[wikipedia:ja:鋤鼻神経|鋤鼻神経]] vomeronasal nerve があげられる。脳神経は一部をのぞき、大部分は頭部の器官に分布する。脳神経に対して脊髄に出入りする末梢神経のことは脊髄神経という。 [[Image:脳神経の構成.png|thumb|400px|<b>図.脳神経の構成</b><br />文献<ref>'''R. Nieuwenhuys, J. Voogd, Chr. Van Huijzen'''<br>The Human Central Nervous System. A Synopsis and Atlas<br>''Springer-Verlag'', Berlin Heidelberg New York, 1978</ref>より改変]]  
 脳神経とは、[[wikipedia:ja:脊椎動物|脊椎動物]]神経系のなかで、[[脳]]に出入りする末梢神経のことをいう。[[wikipedia:ja:哺乳類|哺乳類]]、[[wikipedia:ja:鳥類|鳥類]]、[[wikipedia:ja:爬虫類|爬虫類]]では主要なものとして左右12対ある。他に、ヒトにおいては痕跡的であるが、第I脳神経に関連の深い[[wikipedia:ja:終神経|終神経]] terminal nerve と[[wikipedia:ja:鋤鼻神経|鋤鼻神経]] vomeronasal nerve が魚類やげっ歯類では発達している。脳神経は一部を除き、大部分は頭部の器官に分布する。脳神経に対して脊髄に出入りする末梢神経は脊髄神経という。 [[Image:脳神経の構成.png|thumb|400px|<b>図.脳神経の構成</b><br />文献<ref>'''R. Nieuwenhuys, J. Voogd, Chr. Van Huijzen'''<br>The Human Central Nervous System. A Synopsis and Atlas<br>''Springer-Verlag'', Berlin Heidelberg New York, 1978</ref>より改変]]  


== 12対の脳神経とその働き  ==
== 12対の脳神経とその働き  ==


脳の前方から後方にかけて順に現われる12対の第I~第XII脳神経(大概はローマ数字表記を用いる)は下記のように固有の名称をもつ。ここでは主にヒトを例に、哺乳動物の12対脳神経のそれぞれについて概略を述べる。
脳の前方から後方にかけて順に現われる12対の第I~第XII脳神経(大概はローマ数字表記を用いる)は下記のように固有の名称をもつ。終神経は第0脳神経と呼ばれることがある。ここでは主にヒトを例に、哺乳類の12対の脳神経について、それぞれの概略を述べる。


=== 第I脳神経  ===
=== 第I脳神経  ===
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別名:[[wikipedia:ja:嗅神経|嗅神経]] olfactory nerve  
別名:[[wikipedia:ja:嗅神経|嗅神経]] olfactory nerve  


 [[嗅覚]]をつかさどる。[[wikipedia:ja:鼻腔|鼻腔]]粘膜[[嗅上皮]]にある[[嗅覚受容細胞]]表面の線毛にある[[受容体]]で[[wikipedia:ja:におい|におい]]分子をとらえる。嗅覚受容細胞は双極性の感覚細胞で、末梢側の受容体でとらえられた嗅覚情報は中枢側の[[嗅糸]]と呼ばれる神経[[軸索]]に伝搬される。嗅糸は数十本ずつ集まって一つの束をなす。嗅神経とは総称で、いくつものこれらの束すべてを指す。嗅糸は[[wikipedia:ja:頭蓋骨|頭蓋骨]]の[[wikipedia:ja:篩骨|篩骨]][[wikipedia:ja:篩板|篩板]]にある[[wikipedia:ja:篩骨孔|篩骨孔]]を通って脳の[[嗅球]]に達し、そこで[[僧帽細胞]]などに[[シナプス]]結合して、脳内の[[嗅覚中枢]]へにおい情報を伝える。  
 [[嗅覚]]をつかさどる。[[wikipedia:ja:鼻腔|鼻腔]]粘膜[[嗅上皮]]にある[[嗅覚受容細胞]]表面の線毛にある[[受容体]]で[[wikipedia:ja:におい|におい]]分子をとらえる。嗅覚受容細胞は双極性の感覚細胞で、末梢側の受容体でとらえられた嗅覚情報は中枢側の[[嗅糸]]と呼ばれる神経[[軸索]]に伝搬される。嗅糸は数十本ずつ集まって一つの束をなす。嗅神経はこれらの束すべてを指す。嗅糸は[[wikipedia:ja:頭蓋骨|頭蓋骨]]の[[wikipedia:ja:篩骨|篩骨]][[wikipedia:ja:篩板|篩板]]にある[[wikipedia:ja:篩骨孔|篩骨孔]]を通って脳の[[嗅球]]に達し、そこで[[僧帽細胞]]などに[[シナプス]]結合して、脳内の[[嗅覚中枢]]へにおい情報を伝える。  


=== 第II脳神経  ===
=== 第II脳神経  ===
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別名:視神経 optic nerve  
別名:視神経 optic nerve  


 [[視覚]]をつかさどる。眼の[[網膜]]の[[光受容体]]で受容した視覚情報は網膜内で[[神経節細胞]]に伝えられる。神経節細胞の神経軸索(ヒトで約120万本)は眼球の後部で一本に束ねられ、脳にむかう。脳に入るところ([[視交叉]])までのこの束を視神経という。神経節細胞軸索は視神経、視交叉、[[視索]]を経て脳の[[間脳]]の[[外側膝状体]]、[[視床枕]]に、さらに一部は[[上丘腕]]をも経て[[中脳]]の[[上丘]]に達する。外側膝状体、上丘において脳内の神経細胞とシナプス結合し、中枢に視覚情報を伝える。視交叉においては、ヒトでは、両眼の鼻側半球の網膜からの神経軸索が反対側の中枢に、また耳側半球の網膜からの軸索は同側の中枢につながる(この場合、半交差という。一方、たとえばウサギのように動物種によっては全交差とみなされるものもある。視交叉欠損は異常表現型として発現する。)伝統的に視神経は末梢神経に分類されてはいるが、発生学的にみると、網膜とともに脳から発生してくるものであり、脳の[[髄膜]]と[[グリア細胞]](末梢神経を被うシュワン細胞ではない)に被われているため、厳密には[[中枢神経]]系に属する構造とみなすべきものである。  
 [[視覚]]をつかさどる。眼の[[網膜]]の[[光受容体]]で受容した視覚情報は網膜内で[[神経節細胞]]に伝えられる。神経節細胞の神経軸索(ヒトで約120万本)は眼球の後部で一本に束ねられ、脳にむかう。脳に入るところ([[視交叉]])までのこの束を視神経と呼ぶ。視交差以後の神経節細胞軸索は[[視索]]と呼ばれ、そのほとんどは[[間脳]]の[[外側膝状体]]、[[視床枕]]にいたり、ごく一部は[[上丘腕]]を経て[[中脳]]の[[上丘]]に達する。外側膝状体、上丘において脳内の神経細胞とシナプス結合し、中枢に視覚情報を伝える。視交叉においては、ヒトでは、両眼の鼻側半球の網膜からの神経軸索が反対側の中枢に、また耳側半球の網膜からの軸索は同側の中枢につながる。このような視神経投射の在り方を半交差という。一方、魚類や両生類、また哺乳類であってもウサギのような動物種では、右目の視神経軸索は左脳へ、左目の視神経軸索は右脳へ投射している(全交差)。伝統的に視神経は末梢神経に分類されてはいるが、発生学的にみると、網膜とともに脳から発生してくるものであり、脳の[[髄膜]]と[[グリア細胞]](末梢神経を被うシュワン細胞ではない)に被われているため、厳密には[[中枢神経]]系に属する構造とみなすべきものである。  


=== 第III脳神経  ===
=== 第III脳神経  ===

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