「迷路」の版間の差分

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244 バイト除去 、 2012年8月20日 (月)
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見かけの異なる2つの逃避台を視覚的性質の違いにより弁別させる課題である。プールの周囲をカーテンで囲み、装置外の刺激を利用できない状況下で訓練を行う。外観の異なる2つの逃避台(例えば、灰色と白黒縞模様)のうち、一方を逃避可能な正の逃避台、他方を逃避不可能な偽の逃避台に割り当てる。逃避不可能な偽の逃避台はバネや糸で底面とつながれており、動物がこれに登ることができない。スタート地点と2つの逃避台の位置関係は、試行ごとにランダムに変化する。海馬損傷やNMDA受容体阻害は視覚弁別課題の学習は妨げない<ref name=morris />
見かけの異なる2つの逃避台を視覚的性質の違いにより弁別させる課題である。プールの周囲をカーテンで囲み、装置外の刺激を利用できない状況下で訓練を行う。外観の異なる2つの逃避台(例えば、灰色と白黒縞模様)のうち、一方を逃避可能な正の逃避台、他方を逃避不可能な偽の逃避台に割り当てる。逃避不可能な偽の逃避台はバネや糸で底面とつながれており、動物がこれに登ることができない。スタート地点と2つの逃避台の位置関係は、試行ごとにランダムに変化する。海馬損傷やNMDA受容体阻害は視覚弁別課題の学習は妨げない<ref name=morris />


>br>2.3.5 遅延場所合わせ課題<br>逃避台位置が1日の複数試行においては変化しないが、翌日には異なる位置に逃避台を移して訓練を行うという課題である。各訓練日の第1試行が見本試行となり、動物は迷路内をランダムに泳ぎ、逃避台を探す。それ以降の試行が選択試行となる。各訓練日の第1試行で潜時が長いが、第2試行以降の潜時は大きく短縮される。これは、第1試行において逃避台到達後に周囲を見渡すことにより、この位置で逃避できたというイベント記憶が形成されることによる。この記憶は翌日には有効でないため、作業記憶とみなされる場合もある。第1試行と第2試行の逃避潜時の短縮の度合い(節約率)が評価される。また、第1試行と第2試行の間の試行間間隔を操作することにより、脳損傷や薬理学的処置、その他の実験的処置による記憶障害の遅延依存性について評価することができる。海馬損傷ラットでは15秒遅延条件においても障害を示すが、NMDA受容体阻害ラットは20分以上の遅延条件で障害を示すことが報告されている(Steel &amp; Morris, 1999)。  
==== 遅延場所合わせ課題 ====
逃避台位置が1日の複数試行においては変化しないが、翌日には異なる位置に逃避台を移して訓練を行うという課題である。各訓練日の第1試行が見本試行となり、動物は迷路内をランダムに泳ぎ、逃避台を探す。それ以降の試行が選択試行となる。各訓練日の第1試行で潜時が長いが、第2試行以降の潜時は大きく短縮される。これは、第1試行において逃避台到達後に周囲を見渡すことにより、この位置で逃避できたというイベント記憶が形成されることによる。この記憶は翌日には有効でないため、作業記憶とみなされる場合もある。第1試行と第2試行の逃避潜時の短縮の度合い(節約率)が評価される。また、第1試行と第2試行の間の試行間間隔を操作することにより、脳損傷や薬理学的処置、その他の実験的処置による記憶障害の遅延依存性について評価することができる。海馬損傷ラットでは15秒遅延条件においても障害を示すが、NMDA受容体阻害ラットは20分以上の遅延条件で障害を示すことが報告されている<ref><pubmed>10226773</pubmed></ref>。


2.4 バーンズ迷路<br>ラットが暗い囲われた場所を好み、開けた明るく照らされた状況を嫌う性質を利用した迷路課題である(図. 5)。円形のテーブル(120 cm程度)の外周に見かけの等しい18個の穴があり、そのうちの1つのみがトンネルとなっており、暗い場所へと逃避することができる。トンネルへと続く正しい穴の場所は、装置外刺激の空間的な関係性によって識別できる。テーブル中央の小さな円筒に動物を入れ、円筒を持ち上げて試行を開始する。訓練により、動物は逃避可能な穴に直線的に向かうようになる。逃避潜時や誤反応(逃避穴以外の穴をのぞいた回数)を学習測度として用いる。Morris水迷路と同様に訓練後に全ての穴を逃避できないようにしてプローブテストを行うことも可能である。この時、逃避穴のあった位置での滞在時間を学習の測度とする。<br>この他、バーンズ迷路を用いた帰巣行動(homing)に関する研究も多い。ラットやマウスが巣穴を離れて餌を探索し、巣穴に餌を持ち帰る性質をもつ。正常なラットは目隠しをしても直線的な道筋で巣穴まで戻ってくるが、海馬損傷ラットでは帰巣方向が不正確になる(Maaswinkel, Jarrard and Whishaw, 1999)。この帰巣行動は経路統合に依存したものとみなされ、海馬において内的な運動手掛りを統合しながらルートをたどる処理が行われていると考えられている。
=== バーンズ迷路 ===
ラットが暗い囲われた場所を好み、開けた明るく照らされた状況を嫌う性質を利用した迷路課題である(図. 5)。円形のテーブルの外周に見かけの等しい18個の穴があり、そのうちの1つのみがトンネルとなっており、暗い場所へと逃避することができる。トンネルへと続く正しい穴の場所は、装置外刺激の空間的な関係性によって識別できる。テーブル中央の小さな円筒に動物を入れ、円筒を持ち上げて試行を開始する。訓練により、動物は逃避可能な穴に直線的に向かうようになる。逃避潜時や誤反応(逃避穴以外の穴をのぞいた回数)を学習測度として用いる。Morris水迷路と同様に訓練後に全ての穴を逃避できないようにしてプローブテストを行うことも可能である。この時、逃避穴のあった位置での滞在時間を学習の測度とする。<br>この他、バーンズ迷路を用いた帰巣行動(homing)に関する研究も多い。ラットやマウスが巣穴を離れて餌を探索し、巣穴に餌を持ち帰る性質をもつ。正常なラットは目隠しをしても直線的な道筋で巣穴まで戻ってくるが、海馬損傷ラットでは帰巣方向が不正確になる<ref><pubmed>10560926</pubmed></ref>。
この帰巣行動は経路統合に依存したものとみなされ、海馬において内的な運動手掛りを統合しながらルートをたどる処理が行われていると考えられている。


2.5 高架式十字迷路<br> 十字に交わる4本の走路をもつ高架式迷路である。古くは他の迷路と同様に、特定の走路に報酬を置き、その位置を学習させる場所課題の実施に用いられてきた。O’Keefe &amp; Conway (1980)は、十字迷路周辺の刺激が拡散して置かれた場合に海馬損傷動物の学習障害が生じるが、刺激が一か所にまとめられると障害が生じないという結果をもとに、海馬認知地図仮説を証明した。手掛りが分散していると、手掛り間の空間的配列を利用しなければならず、これが海馬損傷により不可能になったと考えられる。<br>近年、高架式十字迷路は不安の測定に使用されることが多い。4本のうち2本の走路は高い壁があり(closed arm)、残りの2本は壁がなく解放された走路である(open arm) (図.6)。狭く暗いところを好む齧歯類は、closed armでの滞在時間が長くなる。不安レベルが低下するとopen armへの進出が増加し、逆に不安レベルが高まるとopen armへの進出が減少する。それぞれの走路での滞在時間のほかに移動距離も測定し、活動レベルの影響を考慮しておく必要がある(Meer &amp; Raber, 2005)。  
=== 高架式十字迷路 ===
十字に交わる4本の走路をもつ高架式迷路である。古くは他の迷路と同様に特定の走路に報酬を置き、その位置を学習させる場所課題の実施に用いられてきた。この迷路を使用した初期の実験において、海馬認知地図仮説が証明された<ref>'''O'Keefe J, Conway DH'''<br>On the trail of the hippocampal engram.<br>''Physiological Psychology'':1980,8,229-238</ref>。近年、高架式十字迷路は不安の測定に使用されることが多い。4本のうち2本の走路は高い壁があり(closed arm)、残りの2本は壁がなく解放された走路である(open arm) (図.6)。狭く暗いところを好む齧歯類は、closed armでの滞在時間が長くなる。不安レベルが低下するとopen armへの進出が増加し、逆に不安レベルが高まるとopen armへの進出が減少する。それぞれの走路での滞在時間のほかに移動距離も測定し、活動レベルの影響を考慮しておく必要がある<ref><pubmed>16035954</pubmed></ref>


重要な関連語:空間記憶 認知地図 (迷路の解説で)<br>(執筆者:上北朋子、担当編集委員:入來篤史) <br><references />
重要な関連語:空間記憶 認知地図 (迷路の解説で)<br>(執筆者:上北朋子、担当編集委員:入來篤史) <br><references />
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