「視覚系の発生」の版間の差分

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(ページの作成:「 視覚系は、眼球、視神経、視中枢(視床、中脳、大脳後頭葉)および眼球付属器(眼瞼、結膜、涙器、外眼筋)からなる。視...」)
 
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[[image:1 視覚系の発生.png|thumb|350px|'''図1.ヒト胎生4週の胚の前脳横断面'''<br>網膜は前脳から外方へ突出した眼胞から発生する。眼胞は近傍の表皮外胚葉に作用して水晶体板を誘導する。文献[6]の図を改変。]]
[[image:1 視覚系の発生.png|thumb|300px|'''図1.ヒト胎生4週の胚の前脳横断面'''<br>網膜は前脳から外方へ突出した眼胞から発生する。眼胞は近傍の表皮外胚葉に作用して水晶体板を誘導する。文献[6]の図を改変。]]


[[image:2 視覚系の発生.png|thumb|350px|'''図2.眼杯と眼茎を腹外側から見たところ(ヒト胎生6週)'''<br>眼茎の下方にある眼杯裂は次第に癒合する。文献[6]の図を改変。]]
[[image:2 視覚系の発生.png|thumb|300px|'''図2.眼杯と眼茎を腹外側から見たところ(ヒト胎生6週)'''<br>眼茎の下方にある眼杯裂は次第に癒合する。文献[6]の図を改変。]]


[[image:3 視覚系の発生.png|thumb|350px|'''図3.眼杯と眼茎の横断面(ヒト胎生6-7週)'''<br>硝子体血管が眼杯裂から水晶体胞のほうへ侵入している。文献[6]の図を改変。]]
[[image:3 視覚系の発生.png|thumb|300px|'''図3.眼杯と眼茎の横断面(ヒト胎生6-7週)'''<br>硝子体血管が眼杯裂から水晶体胞のほうへ侵入している。文献[6]の図を改変。]]


 光を感じる網膜は脳の一部として発生し、前脳から外側へ突出した膨らみである眼胞に由来する(図1)。眼胞形成の兆候はヒトで胎生第3週の中頃にすでに認められ、神経板の予定前脳形成領域に眼溝と呼ばれる浅いくぼみができ、これが眼胞形成のもととなる。眼胞は、胎生第4週のはじめに、近傍の表皮外胚葉に作用して肥厚させ、水晶体板(lens placode)を誘導する。やがて、眼胞は腹側に切れ長に陥入をおこして眼杯となり、前脳との連絡部が細くなって中腔の眼茎(がんけいoptic stalk)(眼柄「がんぺい」ともいう[2])が形成される(図2)。同時に水晶体板も陥入して、胎生第5週までに表皮外胚葉から分離して水晶体胞となる。眼杯の内層、外層の間には最初、網膜内腔(intraretinal space; 視室cavitas opticaともいう)と呼ばれる間隙が存在するが、まもなく消失する。眼杯外層は一層の網膜色素上皮に分化し、眼杯内層は偽重層上皮である神経網膜に分化する。眼杯外層の色素は、胎生第5週末頃から蓄積され始める。眼杯および眼茎の腹側部には眼杯裂 (optic fissure; 脈絡膜裂 choroid fissureともいう)と呼ばれる線状の溝が形成され、ここに硝子体血管が発生する(図2、図3)。ヒト胎生第6-7週中に眼杯裂の縁が癒合すると(図2)、硝子体血管は眼茎内に包み込まれる。硝子体血管の遠位部は最終的に退行して硝子体管を残すだけになるが、近位部は網膜中心動脈および網膜中心静脈となる。
 光を感じる網膜は脳の一部として発生し、前脳から外側へ突出した膨らみである眼胞に由来する(図1)。眼胞形成の兆候はヒトで胎生第3週の中頃にすでに認められ、神経板の予定前脳形成領域に眼溝と呼ばれる浅いくぼみができ、これが眼胞形成のもととなる。眼胞は、胎生第4週のはじめに、近傍の表皮外胚葉に作用して肥厚させ、水晶体板(lens placode)を誘導する。やがて、眼胞は腹側に切れ長に陥入をおこして眼杯となり、前脳との連絡部が細くなって中腔の眼茎(がんけいoptic stalk)(眼柄「がんぺい」ともいう[2])が形成される(図2)。同時に水晶体板も陥入して、胎生第5週までに表皮外胚葉から分離して水晶体胞となる。眼杯の内層、外層の間には最初、網膜内腔(intraretinal space; 視室cavitas opticaともいう)と呼ばれる間隙が存在するが、まもなく消失する。眼杯外層は一層の網膜色素上皮に分化し、眼杯内層は偽重層上皮である神経網膜に分化する。眼杯外層の色素は、胎生第5週末頃から蓄積され始める。眼杯および眼茎の腹側部には眼杯裂 (optic fissure; 脈絡膜裂 choroid fissureともいう)と呼ばれる線状の溝が形成され、ここに硝子体血管が発生する(図2、図3)。ヒト胎生第6-7週中に眼杯裂の縁が癒合すると(図2)、硝子体血管は眼茎内に包み込まれる。硝子体血管の遠位部は最終的に退行して硝子体管を残すだけになるが、近位部は網膜中心動脈および網膜中心静脈となる。
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[[image:4 視覚系の発生.png|thumb|350px|'''図4.神経網膜の層構造(ヒト胎生25週)'''<br>文献[6]の図を改変。]]
[[image:4 視覚系の発生.png|thumb|300px|'''図4.神経網膜の層構造(ヒト胎生25週)'''<br>文献[6]の図を改変。]]


[[image:5 視覚系の発生.png|thumb|350px|'''図5.虹彩毛様体部'''<br>文献[6]の図を改変。]]
[[image:5 視覚系の発生.png|thumb|300px|'''図5.虹彩毛様体部'''<br>文献[6]の図を改変。]]


 眼杯内層すなわち神経網膜の後部5分の4を網膜視部と呼び、視室に接した領域から光受容細胞である桿体と錐体とが分化する。従って、光は光受容ニューロンに届く前に網膜のほとんどの層を通過するが、網膜は薄くて透明であるため、光に対して妨げとならない。より内側の神経網膜には、外顆粒層、内顆粒層、神経節細胞層が区別されるようになり(図4)、それぞれ桿体・錐体の核、介在ニューロン(双極細胞など)の核、神経節細胞の核が存在する層を形成する。神経網膜の最も内側には神経節細胞の軸索が走行し、眼茎の内腔を通って視中枢へ投射する。網膜細胞の分化と増殖には部位による差があり、中心部網膜の細胞から分化成熟し、周辺部網膜には細胞増殖域がある。また、網膜細胞の中で神経節細胞が最初に分化する。ヒトの網膜には中心部に黄斑部と呼ばれる陥凹した部位があり、錐体視細胞が最も多く存在する。黄斑部は胎生第8月以降に発達し始め、生後6ヶ月頃に完成する[3]。
 眼杯内層すなわち神経網膜の後部5分の4を網膜視部と呼び、視室に接した領域から光受容細胞である桿体と錐体とが分化する。従って、光は光受容ニューロンに届く前に網膜のほとんどの層を通過するが、網膜は薄くて透明であるため、光に対して妨げとならない。より内側の神経網膜には、外顆粒層、内顆粒層、神経節細胞層が区別されるようになり(図4)、それぞれ桿体・錐体の核、介在ニューロン(双極細胞など)の核、神経節細胞の核が存在する層を形成する。神経網膜の最も内側には神経節細胞の軸索が走行し、眼茎の内腔を通って視中枢へ投射する。網膜細胞の分化と増殖には部位による差があり、中心部網膜の細胞から分化成熟し、周辺部網膜には細胞増殖域がある。また、網膜細胞の中で神経節細胞が最初に分化する。ヒトの網膜には中心部に黄斑部と呼ばれる陥凹した部位があり、錐体視細胞が最も多く存在する。黄斑部は胎生第8月以降に発達し始め、生後6ヶ月頃に完成する[3]。
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[[image:6 視覚系の発生.png|thumb|350px|'''図6.ヒト胎生15週の眼の断面'''<br>文献[6]の図を改変。]]
[[image:6 視覚系の発生.png|thumb|300px|'''図6.ヒト胎生15週の眼の断面'''<br>文献[6]の図を改変。]]


 眼房には前眼房と後眼房とがある(図6)。前眼房は、発生中の水晶体と角膜との間にあり、間葉組織内に形成される間隙状の腔から発生する。一方、後眼房は、発生中の虹彩の後方で、水晶体の前部の間葉組織に形成された腔から発生する。水晶体血管膜(瞳孔膜を含む)が消失すると、前眼房と後眼房とは互いに交通し、前眼房周辺部にある強膜静脈洞(シュレム管 canal of Schlemmともいう)とも交通するようになる(図5)。シュレム管は毛様体突起から産生される眼房水を血流へ吸収させる管であり、正常に発生することで眼内圧が保たれるようになる。
 眼房には前眼房と後眼房とがある(図6)。前眼房は、発生中の水晶体と角膜との間にあり、間葉組織内に形成される間隙状の腔から発生する。一方、後眼房は、発生中の虹彩の後方で、水晶体の前部の間葉組織に形成された腔から発生する。水晶体血管膜(瞳孔膜を含む)が消失すると、前眼房と後眼房とは互いに交通し、前眼房周辺部にある強膜静脈洞(シュレム管 canal of Schlemmともいう)とも交通するようになる(図5)。シュレム管は毛様体突起から産生される眼房水を血流へ吸収させる管であり、正常に発生することで眼内圧が保たれるようになる。
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== 視神経の発生 ==
== 視神経の発生 ==


[[image:7 視覚系の発生.png|thumb|350px|'''図7.眼茎から視神経への発達(ヒト)'''<br>文献[6]の図を改変。]]
[[image:7 視覚系の発生.png|thumb|300px|'''図7.眼茎から視神経への発達(ヒト)'''<br>文献[6]の図を改変。]]


 眼茎から発生する。胎生第7週に眼杯裂が閉鎖したとき眼茎は中腔であるが(図7)、神経線維(軸索)が増えることにより内腔が次第に消失する。視神経の外面は、外方から硬膜(強膜の続き)と軟膜クモ膜(脈絡膜の続き)に包まれるようになる。ヒトの視神経は、眼球へ入るまでは髄鞘に覆われているが(有髄神経という)、眼内に入ると無髄になる。ヒト視神経の髄鞘形成は、出生時には不完全であるが、生後10週ほどで完成する[4]。
 眼茎から発生する。胎生第7週に眼杯裂が閉鎖したとき眼茎は中腔であるが(図7)、神経線維(軸索)が増えることにより内腔が次第に消失する。視神経の外面は、外方から硬膜(強膜の続き)と軟膜クモ膜(脈絡膜の続き)に包まれるようになる。ヒトの視神経は、眼球へ入るまでは髄鞘に覆われているが(有髄神経という)、眼内に入ると無髄になる。ヒト視神経の髄鞘形成は、出生時には不完全であるが、生後10週ほどで完成する[4]。
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[[image:8 視覚系の発生.png|thumb|350px|'''図8.眼形成領域は発生初期には前方神経板の正中部にあり(A)、脊索前板からのShhの作用により左右2つに分かれる (B)'''<br>ヒト胎生3週の頭部神経板を上から見たところ。文献[6]の図を改変。]]
[[image:8 視覚系の発生.png|thumb|300px|'''図8.眼形成領域は発生初期には前方神経板の正中部にあり(A)、脊索前板からのShhの作用により左右2つに分かれる (B)'''<br>ヒト胎生3週の頭部神経板を上から見たところ。文献[6]の図を改変。]]


 これまでに眼形成領域に遺伝子発現する転写因子がPax6を含めていくつか同定されている(表2)[7]。発生初期において、これらの眼形成転写因子(Eye Field Transcription Factors: EFTFs)は、神経管形成が始まる前の前方神経板に正中部から左右に帯状に遺伝子発現する(図8)。このように眼形成領域は、発生初期には中央部に一つで、発生が進むに従い左右2つの眼原基に分かれる。眼原基を2つに分けるためのシグナル分子は、脊索前板から分泌されるソニックヘッジホッグ (Sonic hedgehog: Shh)である。Shhは、眼形成領域の中央部でPax2の発現を増加させ、Pax6の発現を低下させる。Pax2発現領域は後に眼茎となり、Pax6などEFTFs発現領域は眼杯となる。Pax6は表皮外胚葉の予定水晶体・角膜領域にも発現するがRaxは眼胞とその系譜にのみに発現するなど、EFTFsの発現領域は互いに必ずしも全て一致するわけではない。Shh遺伝子変異やShhシグナル伝達阻害により単眼症がおこることからも、正中部からのShhシグナルが単一の眼形成領域を左右2つに分けることがわかる。
 これまでに眼形成領域に遺伝子発現する転写因子がPax6を含めていくつか同定されている(表2)[7]。発生初期において、これらの眼形成転写因子(Eye Field Transcription Factors: EFTFs)は、神経管形成が始まる前の前方神経板に正中部から左右に帯状に遺伝子発現する(図8)。このように眼形成領域は、発生初期には中央部に一つで、発生が進むに従い左右2つの眼原基に分かれる。眼原基を2つに分けるためのシグナル分子は、脊索前板から分泌されるソニックヘッジホッグ (Sonic hedgehog: Shh)である。Shhは、眼形成領域の中央部でPax2の発現を増加させ、Pax6の発現を低下させる。Pax2発現領域は後に眼茎となり、Pax6などEFTFs発現領域は眼杯となる。Pax6は表皮外胚葉の予定水晶体・角膜領域にも発現するがRaxは眼胞とその系譜にのみに発現するなど、EFTFsの発現領域は互いに必ずしも全て一致するわけではない。Shh遺伝子変異やShhシグナル伝達阻害により単眼症がおこることからも、正中部からのShhシグナルが単一の眼形成領域を左右2つに分けることがわかる。
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[[image:9 視覚系の発生.png|thumb|350px|'''図9.眼杯のパターン形成と水晶体胞に分化に関わる分子の存在部位'''<br>A, 初期眼胞期; B, 後期眼胞期;C, 眼杯期。文献[6]の図を改変。]]
[[image:9 視覚系の発生.png|thumb|300px|'''図9.眼杯のパターン形成と水晶体胞に分化に関わる分子の存在部位'''<br>A, 初期眼胞期; B, 後期眼胞期;C, 眼杯期。文献[6]の図を改変。]]


 眼胞から眼杯が形成されるときに、将来、光を受容して情報処理を行う神経網膜領域と網膜色素上皮(Retinal Pigment Epithelium: RPE)の領域が決まってくる。これには、細胞非自律的な組織間相互作用によるしくみと細胞自律的なしくみの2つが関わっている。眼胞に隣接した表皮外胚葉からの線維芽細胞増殖因子(Fibroblast Growth Factor: FGF)が、神経網膜の分化を促し、眼周囲間葉から分泌される形質転換増殖因子β(Transforming Growth Factor β:TFGβ)ファミリー分子がRPEの分化を促す(図9)。これら分泌因子の作用を受けて、予定神経網膜領域にはChx10 (Vsx2と同じ)などの転写因子が遺伝子発現するようになり、一方、予定RPE領域にはMitfなどが発現するようになり、それぞれの分化が細胞自律的なしくみで進行する。Chx10はocular retardation (or) 変異マウスの原因遺伝子であり、Mitfはmicrophthalmia (mi) 変異マウスの原因遺伝子である。最近、マウスの胚性幹細胞(ES細胞)由来の上皮シートから三次元培養により眼杯が形成された[8]。培養皿で形成された眼杯において、神経網膜とRPEとが分化することが示された。このことは、眼杯のパターン形成と網膜細胞の分化が周囲の組織の介在なしに自律的に進行することを示している。
 眼胞から眼杯が形成されるときに、将来、光を受容して情報処理を行う神経網膜領域と網膜色素上皮(Retinal Pigment Epithelium: RPE)の領域が決まってくる。これには、細胞非自律的な組織間相互作用によるしくみと細胞自律的なしくみの2つが関わっている。眼胞に隣接した表皮外胚葉からの線維芽細胞増殖因子(Fibroblast Growth Factor: FGF)が、神経網膜の分化を促し、眼周囲間葉から分泌される形質転換増殖因子β(Transforming Growth Factor β:TFGβ)ファミリー分子がRPEの分化を促す(図9)。これら分泌因子の作用を受けて、予定神経網膜領域にはChx10 (Vsx2と同じ)などの転写因子が遺伝子発現するようになり、一方、予定RPE領域にはMitfなどが発現するようになり、それぞれの分化が細胞自律的なしくみで進行する。Chx10はocular retardation (or) 変異マウスの原因遺伝子であり、Mitfはmicrophthalmia (mi) 変異マウスの原因遺伝子である。最近、マウスの胚性幹細胞(ES細胞)由来の上皮シートから三次元培養により眼杯が形成された[8]。培養皿で形成された眼杯において、神経網膜とRPEとが分化することが示された。このことは、眼杯のパターン形成と網膜細胞の分化が周囲の組織の介在なしに自律的に進行することを示している。
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[[image:10 視覚系の発生.png|thumb|350px|'''図10.網膜細胞の分化に関わる様々な転写因子'''<br>マウス網膜では最初に神経節細胞が形成され(胎生11日から)、最後にミューラーグリア細胞が形成される(胎生16日から)。文献[9]の図を改変。]]
[[image:10 視覚系の発生.png|thumb|300px|'''図10.網膜細胞の分化に関わる様々な転写因子'''<br>マウス網膜では最初に神経節細胞が形成され(胎生11日から)、最後にミューラーグリア細胞が形成される(胎生16日から)。文献[9]の図を改変。]]


 神経網膜から様々な形態と機能をもった網膜細胞が分化するしくみの解明は、1980年代後半の網膜細胞系譜に関する研究にさかのぼる。すなわち、神経網膜の細胞である網膜前駆細胞retinal progenitor cells (RPCs)は、多分化能をもっており(multipotent)、全ての網膜細胞がRPCsから分化することが、レトロウイルスや蛍光物質を用いた細胞標識法により明らかにされた。網膜細胞分化には、細胞外からの因子(extrinsic factors)と細胞内の自律的なしくみ(intrinsic factors)の両方が重要であることは、他の細胞や組織の発生分化と同様である。網膜細胞分化を左右する細胞自律的なしくみとして、様々な転写調節因子が同定されている(図10)。塩基性ヘリックスループヘリックスbasic-helix-loop-helix (bHLH)、ホメオドメイン homeodomain、フォークヘッドforkheadなどのモチーフをもつものが多い。
 神経網膜から様々な形態と機能をもった網膜細胞が分化するしくみの解明は、1980年代後半の網膜細胞系譜に関する研究にさかのぼる。すなわち、神経網膜の細胞である網膜前駆細胞retinal progenitor cells (RPCs)は、多分化能をもっており(multipotent)、全ての網膜細胞がRPCsから分化することが、レトロウイルスや蛍光物質を用いた細胞標識法により明らかにされた。網膜細胞分化には、細胞外からの因子(extrinsic factors)と細胞内の自律的なしくみ(intrinsic factors)の両方が重要であることは、他の細胞や組織の発生分化と同様である。網膜細胞分化を左右する細胞自律的なしくみとして、様々な転写調節因子が同定されている(図10)。塩基性ヘリックスループヘリックスbasic-helix-loop-helix (bHLH)、ホメオドメイン homeodomain、フォークヘッドforkheadなどのモチーフをもつものが多い。
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== 網膜幹細胞・網膜前駆細胞 ==
== 網膜幹細胞・網膜前駆細胞 ==


[[image:11 視覚系の発生.png|thumb|350px|'''図11.網膜幹細胞(RSCs)と網膜前駆細胞(RPCs)'''<br>RPCsには、初期RPCsと後期RPCsとがあり、生体内での網膜細胞の発生順序を反映して(図10)、それぞれのRPCsが分化できる細胞の種類に制限がある。網膜への移入細胞による網膜細胞の分化も培養下などではおこる。文献[10]の図を改変。]]
[[image:11 視覚系の発生.png|thumb|300px|'''図11.網膜幹細胞(RSCs)と網膜前駆細胞(RPCs)'''<br>RPCsには、初期RPCsと後期RPCsとがあり、生体内での網膜細胞の発生順序を反映して(図10)、それぞれのRPCsが分化できる細胞の種類に制限がある。網膜への移入細胞による網膜細胞の分化も培養下などではおこる。文献[10]の図を改変。]]


 すべての網膜細胞に分化でき、自己複製できる細胞を網膜幹細胞 retinal stem cells (RSCs)という。これに対して、細胞分裂能があり、ある限られた種類の網膜細胞に分化できる細胞を網膜前駆細胞retinal progenitor cells (RPCs)という(図11)[9]。RSCs/RPCsの分子マーカーは、特異的なものはまだ見つかっておらず、神経幹細胞や神経前駆細胞に存在する分子と同様なものや、分化した網膜細胞にも存在する分子である(表3)[10]。
 すべての網膜細胞に分化でき、自己複製できる細胞を網膜幹細胞 retinal stem cells (RSCs)という。これに対して、細胞分裂能があり、ある限られた種類の網膜細胞に分化できる細胞を網膜前駆細胞retinal progenitor cells (RPCs)という(図11)[9]。RSCs/RPCsの分子マーカーは、特異的なものはまだ見つかっておらず、神経幹細胞や神経前駆細胞に存在する分子と同様なものや、分化した網膜細胞にも存在する分子である(表3)[10]。

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