「Rhoファミリー低分子量Gタンパク質」の版間の差分

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Rho family
Rhofamily
 
Rho familyは、単量体で働くRas類似の低分子量GTP結合タンパク質(分子量約21 kDa、以下低分子量Gタンパク質と略)であり、細胞形態の主な制御因子である<ref><pubmed> 12478284 </pubmed></ref>。Rasと同様、GDP(グアニンヌクレオチド二リン酸)結合型が不活性体、GTP(グアニンヌクレオチド三リン酸)結合型が活性化体であり、GDP-GTP交換反応とGTP水解反応により両者の間を往復してスイッチ機能を果たす。活性型Rhoは下流の標的分子(エフェクター)に結合することで機能を発揮する。Rho familyはすべての真核生物に存在し、細胞運動、細胞極性、細胞接着、細胞周期、細胞質分裂、転写制御などその機能は多岐に渡る。神経系においても、発生・発達段階および成熟後を通して、幅広い役割を担っている。
Rho familyは、単量体で働くRas類似の低分子量GTP結合タンパク質(分子量約21 kDa、以下低分子量Gタンパク質と略)であり、細胞形態の主な制御因子である<ref><pubmed> 12478284 </pubmed></ref>。Rasと同様、GDP(グアニンヌクレオチド二リン酸)結合型が不活性体、GTP(グアニンヌクレオチド三リン酸)結合型が活性化体であり、GDP-GTP交換反応とGTP水解反応により両者の間を往復してスイッチ機能を果たす。活性型Rhoは下流の標的分子(エフェクター)に結合することで機能を発揮する。Rho familyはすべての真核生物に存在し、細胞運動、細胞極性、細胞接着、細胞周期、細胞質分裂、転写制御などその機能は多岐に渡る。神経系においても、発生・発達段階および成熟後を通して、幅広い役割を担っている。
歴史<br>1985年にRho familyの中でRhoAが新規のRas類似タンパクとして同定された[2]。続いて1989年にRas類似タンパクとしてRac1とRac2が[3]、1990年にCdc42が同定された[4]。Rho familyの細胞内機能の解明には、Rhoを特異的にADPリボシル化して不活性化するボツリヌス菌由来の菌体外酵素C3が大いに貢献した[5, 6]。C3によるRhoの不活性化は、PC-12細胞における神経突起様突起の伸展促進[7]、血小板凝集の阻害[8]、受精卵の細胞分裂の阻害などの細胞形態変化を誘導することから[9]、細胞形態制御におけるRhoの重要性が示唆された。その後、Rhoを不活性化するC3や活性化型Rho変異体を微小注入した線維芽細胞において、Rhoの活性化がアクチンとミオシンが束状に配列したストレスファイバー構造とこれがアンカーする細胞接着斑の誘導に不可欠であることが示された[10]。一方、線維芽細胞におけるRacの活性化は、アクチン線維の網目構造からなる細胞辺縁のラメリポディア(葉状仮足)を誘導し、Cdc42の活性化はアクチン結合タンパクで架橋されたアクチン束からなるフィロポディア(糸状仮足)を誘導することが示された[11]。すなわち、Rho、Rac、Cdc42はアクチン再構築において特異的な作用を発揮することが明らかにされた。<br>
歴史<br>1985年にRho familyの中でRhoAが新規のRas類似タンパクとして同定された[2]。続いて1989年にRas類似タンパクとしてRac1とRac2が[3]、1990年にCdc42が同定された[4]。Rho familyの細胞内機能の解明には、Rhoを特異的にADPリボシル化して不活性化するボツリヌス菌由来の菌体外酵素C3が大いに貢献した[5, 6]。C3によるRhoの不活性化は、PC-12細胞における神経突起様突起の伸展促進[7]、血小板凝集の阻害[8]、受精卵の細胞分裂の阻害などの細胞形態変化を誘導することから[9]、細胞形態制御におけるRhoの重要性が示唆された。その後、Rhoを不活性化するC3や活性化型Rho変異体を微小注入した線維芽細胞において、Rhoの活性化がアクチンとミオシンが束状に配列したストレスファイバー構造とこれがアンカーする細胞接着斑の誘導に不可欠であることが示された[10]。一方、線維芽細胞におけるRacの活性化は、アクチン線維の網目構造からなる細胞辺縁のラメリポディア(葉状仮足)を誘導し、Cdc42の活性化はアクチン結合タンパクで架橋されたアクチン束からなるフィロポディア(糸状仮足)を誘導することが示された[11]。すなわち、Rho、Rac、Cdc42はアクチン再構築において特異的な作用を発揮することが明らかにされた。<br>
ファミリー<br>低分子量Gタンパク質の中で最初に発見されたのはRasであることから、低分子量Gタンパク質をRas類似タンパク質と総称することがある。現在では、哺乳類において低分子量Gタンパク質は約150種類からなり、構造の類似性と主たる機能から、細胞増殖を制御するRas family、細胞骨格を制御するRho family、小胞輸送を制御するRab familyとArf family、核内輸送を制御するRan familyに分類される[12]。これらを包括してRas superfamilyと称する。<br>哺乳類のRho familyはおよそ20種類のメンバーからなり、RhoA、RhoB、RhoC、RhoD、RhoF/Rif、Rnd1、Rnd2、Rnd3/RhoE、Rac1、Rac2、Rac3、RhoG、Cdc42、RhoQ/TC10、RhoJ/TCL、RhoU/Wrch、RhoV/Chp、RhoH/TTF、RhoBTB1、RhoBTB2/DBC-2が含まれる[12]。これらのほとんどが、不活性型のGDP結合型と活性型のGTP結合型の二つの状態を取り、GDP-GTP交換反応と内在性のGTPase活性に依存したGTP水解反応により両者の間を往復してスイッチ機能を果たす[1]。しかし、Rnd1、Rnd2、Rnd3は内在性のGTPase活性に乏しく、恒常的にGTP結合型となる[13]。Rndの機能は局在や発現、リン酸化などにより制御される。
ファミリー<br>低分子量Gタンパク質の中で最初に発見されたのはRasであることから、低分子量Gタンパク質をRas類似タンパク質と総称することがある。現在では、哺乳類において低分子量Gタンパク質は約150種類からなり、構造の類似性と主たる機能から、細胞増殖を制御するRas family、細胞骨格を制御するRho family、小胞輸送を制御するRab familyとArf family、核内輸送を制御するRan familyに分類される[12]。これらを包括してRas superfamilyと称する。<br>哺乳類のRho familyはおよそ20種類のメンバーからなり、RhoA、RhoB、RhoC、RhoD、RhoF/Rif、Rnd1、Rnd2、Rnd3/RhoE、Rac1、Rac2、Rac3、RhoG、Cdc42、RhoQ/TC10、RhoJ/TCL、RhoU/Wrch、RhoV/Chp、RhoH/TTF、RhoBTB1、RhoBTB2/DBC-2が含まれる[12]。これらのほとんどが、不活性型のGDP結合型と活性型のGTP結合型の二つの状態を取り、GDP-GTP交換反応と内在性のGTPase活性に依存したGTP水解反応により両者の間を往復してスイッチ機能を果たす[1]。しかし、Rnd1、Rnd2、Rnd3は内在性のGTPase活性に乏しく、恒常的にGTP結合型となる[13]。Rndの機能は局在や発現、リン酸化などにより制御される。
活性化・不活性化の制御<br>Rho familyの活性は、各メンバーに特異的に作用する3種類の制御因子、すなわちRhoグアニンヌクレオチド交換因子 (Rho guanine nucleotide exchange factor, Rho GEF)、Rho GTPase活性化タンパク質 (Rho GTPase-activating protein, Rho GAP)、Rhoグアニンヌクレオチド解離阻害因子 (Rho guanine nucleotide dissociation inhibitor, Rho GDI) により制御される。
活性化・不活性化の制御<br>Rho familyの活性は、各メンバーに特異的に作用する3種類の制御因子、すなわちRhoグアニンヌクレオチド交換因子 (Rho guanine nucleotide exchange factor, Rho GEF)、Rho GTPase活性化タンパク質 (Rho GTPase-activating protein, Rho GAP)、Rhoグアニンヌクレオチド解離阻害因子 (Rho guanine nucleotide dissociation inhibitor, Rho GDI) により制御される。
Rho GEF<br>Rho GEFは、不活性型Rhoに結合したGDPをGTPに置換することで活性型へと移行させる[14]。多くのRho GEFは、触媒活性を有するDbl homology (DH)ドメインと隣接するPleckstrin homology (PH)ドメインを持つ[14]。しかし、Dock180など一群のRac GEFではDHドメインは存在せず、Dock homology region (DHR)-2ドメインと呼ばれる新たなGEF触媒活性領域が同定されている[15]。Rho familyを標的とするGEFはヒトでは70種類以上存在し、Rho familyの各メンバーに対する基質特異性はGEF間で大きく異なる。Rho GEFの各メンバーの機能や制御については「神経系での機能」に詳述する。
Rho GEF<br>Rho GEFは、不活性型Rhoに結合したGDPをGTPに置換することで活性型へと移行させる[14]。多くのRho GEFは、触媒活性を有するDbl homology (DH)ドメインと隣接するPleckstrin homology (PH)ドメインを持つ[14]。しかし、Dock180など一群のRac GEFではDHドメインは存在せず、Dock homology region (DHR)-2ドメインと呼ばれる新たなGEF触媒活性領域が同定されている[15]。Rho familyを標的とするGEFはヒトでは70種類以上存在し、Rho familyの各メンバーに対する基質特異性はGEF間で大きく異なる。Rho GEFの各メンバーの機能や制御については「神経系での機能」に詳述する。
Rho GAP<br>Rho GAPはRhoの内在的なGTPase活性を亢進させ、活性型Rhoに結合しているGTPをGDPに加水分解することでRhoを不活性型へと移行させる[16]。すべてのRho GAPはGAP活性を有するRho-GAPドメインを持っている[16]。ヒトでは80種類以上のRho GAPが存在するが、Rho familyの各メンバーに対する基質特異性はGAP間で大きく異なる。Rho GAPの各メンバーの機能や制御については「神経系での機能」に詳述する。
Rho GAP<br>Rho GAPはRhoの内在的なGTPase活性を亢進させ、活性型Rhoに結合しているGTPをGDPに加水分解することでRhoを不活性型へと移行させる[16]。すべてのRho GAPはGAP活性を有するRho-GAPドメインを持っている[16]。ヒトでは80種類以上のRho GAPが存在するが、Rho familyの各メンバーに対する基質特異性はGAP間で大きく異なる。Rho GAPの各メンバーの機能や制御については「神経系での機能」に詳述する。
Rho GDI<br>Rho GDIはRhoからのGDPの解離およびGTPの加水分解を抑制する[17]。またRhoのC末端にあるイソプレニル基に結合することで、細胞膜への移行を阻害する[17]。無刺激下では、ほとんどのRhoはRho GDIと結合して細胞質に存在すると考えられている。哺乳類においては3種類のRho GDI(RhoGDI1、RhoGDI2、RhoGDI3)が知られている。Rho GDIの基質特異性はRho GEFやRho GAPと比べて低く、Rho familyのメンバーに広く作用する。Rho GDIの機能や制御については「神経系での機能」に詳述する。
Rho GDI<br>Rho GDIはRhoからのGDPの解離およびGTPの加水分解を抑制する[17]。またRhoのC末端にあるイソプレニル基に結合することで、細胞膜への移行を阻害する[17]。無刺激下では、ほとんどのRhoはRho GDIと結合して細胞質に存在すると考えられている。哺乳類においては3種類のRho GDI(RhoGDI1、RhoGDI2、RhoGDI3)が知られている。Rho GDIの基質特異性はRho GEFやRho GAPと比べて低く、Rho familyのメンバーに広く作用する。Rho GDIの機能や制御については「神経系での機能」に詳述する。
エフェクター<br>Rho familyの作用は活性型Rhoが下流のエフェクター分子に結合することで発揮される[1]。Two hybrid法や生化学的手法から、Rho familyのエフェクターにはアクチン核化・重合因子、タンパクリン酸化酵素、ホスホリパーゼなど、60種類以上の様々な分子が同定されてきた[1]。以下、細胞骨格制御に関わる主なRho familyのエフェクターについて概説する。
エフェクター<br>Rho familyの作用は活性型Rhoが下流のエフェクター分子に結合することで発揮される[1]。Two hybrid法や生化学的手法から、Rho familyのエフェクターにはアクチン核化・重合因子、タンパクリン酸化酵素、ホスホリパーゼなど、60種類以上の様々な分子が同定されてきた[1]。以下、細胞骨格制御に関わる主なRho familyのエフェクターについて概説する。
Rhoエフェクター<br>Rhoの活性化はアクチン重合促進とミオシン軽鎖活性化によるアクトミオシン束の形成を誘導する[18]。Rhoによるアクチン細胞骨格制御にはROCK(Rho kinase; Rho-associated kinase)とmDiaの二つのエフェクター分子が主要な役割を担う[19]。<br>ROCKは活性型Rhoにより活性化されるserine/threonine kinaseで、キナーゼ領域以外にcoiled-coil領域、Rho結合領域、PH領域からなる。数多くの基質が知られているが、このうちアクチン細胞骨格制御に関わるものはミオシン軽鎖(myosin light chain; MLC)とミオシン軽鎖脱リン酸化酵素(myosin light chain phosphatase; MLCP)である。ROCKによるMLCリン酸化はMLCを活性化し、アクトミオシン束の形成を促す[20]。また、ROCKによるMLCPのリン酸化はMLCPの酵素活性を阻害することで、間接的にMLCリン酸化を促進する[21, 22]。さらに、ROCKはLIMキナーゼ(LIM kinase)を活性化してcofilinのリン酸化を促し、cofilinによるアクチン脱重合を阻害する[23]。また、ROCKは脱リン酸化酵素PTENの活性も増強する[24]。フォスファチジルイノシトール三リン酸PtdIns(3,4,5)P3の局在は、細胞遊走や突起伸展における細胞極性の形成に不可欠である。PTENはPtdIns(3,4,5)P3を脱リン酸化してPtdIns(4,5)P2に変換することから、細胞極性の形成におけるRho-ROCK-PTEN経路の関与が示唆される[24]。<br>mDiaは異なる遺伝子でコードされるmDia1、mDia2、mDia3の三つのアイソフォームからなり、mDia1とmDia3が脳内では強く発現する[25]。いずれもプロフィリンと結合するFH1ドメインとアクチン重合促進に必須のFH2ドメインを持つ[26]。不活性化状態ではN末端のDia inhibitory domain (DID)とC末端のDiaphanous autoregulatory domain (DAD)の間で分子内結合を形成するが、活性型RhoがDIDの近傍にあるRho結合ドメインに結合することでDID-DAD間の分子間結合が解除される。これにより、mDiaはプロフィリンと単量体アクチンの複合体に結合してアクチン重合核を形成し、さらにアクチン線維の反矢じり端(barbed end)に単量体アクチンを付加して、直鎖状のアクチン線維の重合を促す[26, 27]。<br>線維芽細胞株で見られるRho活性化によるアクトミオシン束の形成には、ROCKによるミオシン活性化とmDiaによる直鎖状アクチン線維形成の両者が不可欠である[28]。また、mDiaはアクチン線維形成に加えて、微小管の安定化や配向の制御にも関わる[29, 30]。特にmDia2は微小管のプラス端に結合するEB1やAPCに結合して、微小管の安定性を制御することが示唆されている[31]。
Rhoエフェクター<br>Rhoの活性化はアクチン重合促進とミオシン軽鎖活性化によるアクトミオシン束の形成を誘導する[18]。Rhoによるアクチン細胞骨格制御にはROCK(Rho kinase; Rho-associated kinase)とmDiaの二つのエフェクター分子が主要な役割を担う[19]。<br>ROCKは活性型Rhoにより活性化されるserine/threonine kinaseで、キナーゼ領域以外にcoiled-coil領域、Rho結合領域、PH領域からなる。数多くの基質が知られているが、このうちアクチン細胞骨格制御に関わるものはミオシン軽鎖(myosin light chain; MLC)とミオシン軽鎖脱リン酸化酵素(myosin light chain phosphatase; MLCP)である。ROCKによるMLCリン酸化はMLCを活性化し、アクトミオシン束の形成を促す[20]。また、ROCKによるMLCPのリン酸化はMLCPの酵素活性を阻害することで、間接的にMLCリン酸化を促進する[21, 22]。さらに、ROCKはLIMキナーゼ(LIM kinase)を活性化してcofilinのリン酸化を促し、cofilinによるアクチン脱重合を阻害する[23]。また、ROCKは脱リン酸化酵素PTENの活性も増強する[24]。フォスファチジルイノシトール三リン酸PtdIns(3,4,5)P3の局在は、細胞遊走や突起伸展における細胞極性の形成に不可欠である。PTENはPtdIns(3,4,5)P3を脱リン酸化してPtdIns(4,5)P2に変換することから、細胞極性の形成におけるRho-ROCK-PTEN経路の関与が示唆される[24]。<br>mDiaは異なる遺伝子でコードされるmDia1、mDia2、mDia3の三つのアイソフォームからなり、mDia1とmDia3が脳内では強く発現する[25]。いずれもプロフィリンと結合するFH1ドメインとアクチン重合促進に必須のFH2ドメインを持つ[26]。不活性化状態ではN末端のDia inhibitory domain (DID)とC末端のDiaphanous autoregulatory domain (DAD)の間で分子内結合を形成するが、活性型RhoがDIDの近傍にあるRho結合ドメインに結合することでDID-DAD間の分子間結合が解除される。これにより、mDiaはプロフィリンと単量体アクチンの複合体に結合してアクチン重合核を形成し、さらにアクチン線維の反矢じり端(barbed end)に単量体アクチンを付加して、直鎖状のアクチン線維の重合を促す[26, 27]。<br>線維芽細胞株で見られるRho活性化によるアクトミオシン束の形成には、ROCKによるミオシン活性化とmDiaによる直鎖状アクチン線維形成の両者が不可欠である[28]。また、mDiaはアクチン線維形成に加えて、微小管の安定化や配向の制御にも関わる[29, 30]。特にmDia2は微小管のプラス端に結合するEB1やAPCに結合して、微小管の安定性を制御することが示唆されている[31]。


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