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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0157331 柏谷 英樹]</font><br> | |||
''東京大学 大学院医学系研究科 機能生物学専攻 細胞分子生理学''<br> | |||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年8月1日 原稿完成日:2012年9月19日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/ichirofujita 藤田 一郎](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br> | |||
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英語名:zonal organization | 英語名:zonal organization | ||
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類似した神経連絡あるいは機能を持つ神経細胞が帯状(ゾーン状)に分布し、その帯状エリアがある神経領域全体を横断し、かつ隣接して複数ある時、その構造をゾーン構造と呼ぶ。哺乳類の嗅覚系や小脳系で観察される構造について用いられている。 | |||
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== 主嗅覚系に見られるゾーン構造 == | == 主嗅覚系に見られるゾーン構造 == | ||
[[Image:Hidekikashiwadani fig 1.svg|thumb|300px|''' | [[Image:Hidekikashiwadani fig 1.svg|thumb|300px|'''図1.主嗅覚系の4ゾーン・モデル'''<br>匂い分子受容体の発現パターンで規定される4つのゾーンを嗅上皮冠状断面および嗅球で模式的に表わしている。]] | ||
=== 嗅上皮におけるゾーン構造 === | === 嗅上皮におけるゾーン構造 === | ||
嗅上皮上には、ヒトで数百万個、マウスで数千万個もの[[嗅細胞]]がシート状に敷き詰められている。嗅細胞には匂い分子受容体([[嗅覚受容体]])が発現し、鼻腔に吸い込まれた匂い分子を受容する。匂い分子受容体はヒトでおよそ350種類、マウスではおよそ1000種類存在するが、個々の[[嗅細胞]] | 嗅上皮上には、ヒトで数百万個、マウスで数千万個もの[[嗅細胞]]がシート状に敷き詰められている。嗅細胞には匂い分子受容体([[嗅覚受容体]])が発現し、鼻腔に吸い込まれた匂い分子を受容する。匂い分子受容体はヒトでおよそ350種類、マウスではおよそ1000種類存在するが、個々の[[嗅細胞]]はこの多種の匂い分子受容体の中から、1種類を選択的に発現する。ある1種類の匂い分子受容体を発現する嗅細胞は、嗅上皮上で[[前後軸]]方向に伸びる帯状のエリア(ゾーン)内に存在し、そのゾーン内では偏りなく一様に分布する。複数の匂い分子受容体の発現パターンの比較から、嗅上皮は4つのゾーンに区分され、各匂い分子受容体を発現する[[嗅細胞]]はこれら4つのゾーンのうち1つのゾーンに選択的に分布する<ref><pubmed>7683976</pubmed></ref> <ref ><pubmed>8343958</pubmed></ref>(図1左)。 | ||
=== 嗅球におけるゾーン構造 === | === 嗅球におけるゾーン構造 === | ||
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== 副嗅覚系に見られるゾーン構造 == | == 副嗅覚系に見られるゾーン構造 == | ||
[[Image:Hidekikashiwadani fig 2.svg|thumb|300px|''' | [[Image:Hidekikashiwadani fig 2.svg|thumb|300px|'''図2.副嗅覚系の2ゾーン・モデル'''<br>フェロモン受容体の発現パターンで規定される2つのゾーンが鋤鼻上皮冠状断面および副嗅球側矢状断面で模式的に表わされている。]] | ||
=== 鋤鼻上皮におけるゾーン構造 === | === 鋤鼻上皮におけるゾーン構造 === | ||
主嗅覚系とは別にフェロモンを受容するための感覚系として[[副嗅覚系]](鋤鼻(じょび)嗅覚系)が存在する。[[フェロモン受容体]]を発現する[[鋤鼻神経]]は[[鋤鼻器]]の鋤鼻上皮に細胞体を持ち、その軸索を副嗅覚系一次中枢である[[副嗅球]]へ投射する。鋤鼻神経に発現するフェロモン受容体はその構造からV1RとV2Rの2群に分類される<ref ><pubmed>7585937</pubmed></ref> <ref ><pubmed>9288755</pubmed></ref> <ref ><pubmed>9292726</pubmed></ref> <ref><pubmed>9288756</pubmed></ref>。げっ歯類では、V1Rは[[三量体GTP結合タンンプ質|Gi2α]]タンパク質と共役しており、鋤鼻上皮上層ゾーン(apical zone)の鋤鼻神経に発現する。V2Rは[[三量体GTP結合タンンプ質|Goα]]タンパク質と共役しており、鋤鼻上皮基底ゾーン(basal zone)の鋤鼻神経に発現する。つまりV1Rを発現する鋤鼻神経細胞とV2Rを発現する鋤鼻神経細胞は排他的な2つのゾーンを鋤鼻上皮上で形成している<ref><pubmed>8558259</pubmed></ref> <ref ><pubmed>8782871</pubmed></ref>(図2左)。 | 主嗅覚系とは別にフェロモンを受容するための感覚系として[[副嗅覚系]](鋤鼻(じょび)嗅覚系)が存在する。[[フェロモン受容体]]を発現する[[鋤鼻神経]]は[[鋤鼻器]]の鋤鼻上皮に細胞体を持ち、その軸索を副嗅覚系一次中枢である[[副嗅球]]へ投射する。鋤鼻神経に発現するフェロモン受容体はその構造からV1RとV2Rの2群に分類される<ref ><pubmed>7585937</pubmed></ref> <ref ><pubmed>9288755</pubmed></ref> <ref ><pubmed>9292726</pubmed></ref> <ref><pubmed>9288756</pubmed></ref>。げっ歯類では、V1Rは[[三量体GTP結合タンンプ質|Gi2α]]タンパク質と共役しており、鋤鼻上皮上層ゾーン(apical zone)の鋤鼻神経に発現する。V2Rは[[三量体GTP結合タンンプ質|Goα]]タンパク質と共役しており、鋤鼻上皮基底ゾーン(basal zone)の鋤鼻神経に発現する。つまりV1Rを発現する鋤鼻神経細胞とV2Rを発現する鋤鼻神経細胞は排他的な2つのゾーンを鋤鼻上皮上で形成している<ref><pubmed>8558259</pubmed></ref> <ref ><pubmed>8782871</pubmed></ref>(図2左)。 | ||
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== 小脳に見られるゾーン構造 == | == 小脳に見られるゾーン構造 == | ||
[[Image:Hidekikashiwadani fig 3.svg|thumb|300px|''' | [[Image:Hidekikashiwadani fig 3.svg|thumb|300px|'''図3.小脳の12ゾーン・モデル'''<br>小脳プルキンエ細胞への入出力を基に区分された左小脳皮質の12のゾーンを、背側尾側方向から模式的に表した図。Apps and Hawkes (2009) fig.4 より改変。]] | ||
=== 小脳におけるゾーン構造 === | === 小脳におけるゾーン構造 === | ||
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=== 小脳におけるゾーン様分子発現 === | === 小脳におけるゾーン様分子発現 === | ||
これら神経線維連絡や電気生理学的方法により同定されたゾーン構造とは別に、小脳では様々な分子の発現が前後軸に沿った帯状パターンを示す。もっともよく研究されているのは[[zebrin II]] ([[aldolase C]])の発現パターンで、zebrin II発現プルキンエ細胞によるゾーンと発現しないプルキンエ細胞によるゾーンが吻尾軸に沿って交互に並ぶ<ref><pubmed>2329190 </pubmed></ref>。zebrin | これら神経線維連絡や電気生理学的方法により同定されたゾーン構造とは別に、小脳では様々な分子の発現が前後軸に沿った帯状パターンを示す。もっともよく研究されているのは[[zebrin II]] ([[aldolase C]])の発現パターンで、zebrin II発現プルキンエ細胞によるゾーンと発現しないプルキンエ細胞によるゾーンが吻尾軸に沿って交互に並ぶ<ref><pubmed>2329190 </pubmed></ref>。zebrin IIの発現パターンと[[小脳]]入出力系の詳細な比較から、[[小脳]]吻側部ではlongitudinal zoneのC2, C3, D1, D0, D2ゾーンがそれぞれzebrin IIの発現で規定されるP4+(正中線から4番目のzebrin II陽性ゾーン), P4-(正中線から4番目のzebrin II陰性ゾーン), P5+, P5-, P6+ゾーンと一致し、ゾーン状の分子発現と解剖学的・生理学的ゾーン構造との対応が解明されてきている<ref><pubmed>15470143</pubmed></ref> <ref><pubmed>19693030</pubmed></ref>。プルキンエ細胞におけるzebrin IIの発現の有無は、その細胞の生まれた日と密接に関連していて、ゾーン特異的な神経線維連絡の形成と関連することが示唆されている<ref><pubmed>21456012</pubmed></ref>。zebrin IIの発現で区別される2つのゾーンの機能の違いはまだ明らかになっていない。しかし[[ホスホリパーゼC]]β (PLCβ)([[代謝型グルタミン酸受容体]]等[[7回膜貫通型受容体]]のシグナル伝達に重要)のサブタイプPLCβ3はZebrin II発現プルキンエ細胞に、PLCβ4はzebrin II非発現プルキンエ細胞に特異的に発現することから、zebrin IIで区分される2つのゾーンは異なるシナプス伝達特性を持つ可能性が考えられる<ref><pubmed>16566000</pubmed></ref>。 | ||
==関連項目== | ==関連項目== | ||
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