「量子仮説」の版間の差分

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== 量子仮説  ==
== 量子仮説  ==


del CastilloとKatzらは、細胞外のカルシウム濃度を低下、マグネシウム濃度を上昇させることにより伝達物質放出の確率を低下させた条件下で、神経刺激により誘発されるEPPの大きさの変動を統計的に解析した<ref><pubmed> 13175199 </pubmed></ref>。EPPが全く発生しない場合や、最小振幅の整数倍の大きさで振幅が段階的に変動したEPPが確率的に記録されるが、これらのEPPの記録回数を振幅に対してプロットすると、ポアソン分布とよく一致する(図)。


[[Image:Katz.png|thumb|right|350px|EPPの振幅分布とmEPP
[[Image:Katz.png|thumb|right|350px|低Ca液中で記録されたEPPの振幅分布とmEPP
del Castillo,Katzより改変]]  
del Castillo,Katz<ref><pubmed> 13175199 </pubmed></ref>より改変]]  


また、その最小振幅の大きさは、mEPPの大きさとほぼ同じ大きさとなることも分かった。振幅の分布がポアソン分布でよく説明できることから、神経終末にmEPPを引き起こす単一量子(シナプス小胞)が多数存在し、活動電位の発生に応じて個々の量子が確率的にランダムに放出されるという仮説に至った。これを量子仮説と呼ぶ。 このような実験は、伝達物質放出の確率を低くした条件でなされたため、EPPの振幅とその観察頻度はポアソン分布と一致するが、生理的な条件下ではより放出確率が高いため、一回の活動電位で放出される量子数は数百個になると考えられ、二項分布に従う。なお、数学的には、二項分布は特別な条件下(ここでは放出確率が低い)において、ポアソン分布と一致する。 Katzらが行った一連の解析から、シナプス前終末における放出部位がn箇所、活動電位が起こった時の個々の放出部位での放出確率がp、1量子に対するシナプス後部での反応の大きさをqとすると、一回の活動電位に対するシナプス応答の大きさの平均値mは、 <span class="texhtml">''m'' = ''n''''p''''q''</span> と考えることができ、これら3つの変数がシナプス伝達効率を規定すると考えることが出来る。それぞれの値を導出するにはさまざまな方法が考えられるが、たとえばSilverらはシナプス応答の平均と分散から導出する方法を考案している<ref><pubmed> 9660900 </pubmed></ref>。ただし、シナプス後部の伝達物質受容体が飽和する場合には、上式よりもmは小さくなるので注意を要する。
del CastilloとKatzらは、細胞外のカルシウム濃度を低下、マグネシウム濃度を上昇させることにより伝達物質放出の確率を低下させた条件下で、神経刺激により誘発されたEPPの大きさの変動を統計的に解析した<ref><pubmed> 13175199 </pubmed></ref>。EPPが全く発生しない場合や、最小振幅の整数倍の大きさで振幅が段階的に変動したEPPが確率的に記録されるが、これらのEPPの記録回数を振幅に対してプロットすると、ポアソン分布とよく一致する(図)。
また、その最小振幅の大きさは、mEPPの大きさとほぼ同じ大きさとなることも分かった。振幅の分布がポアソン分布でよく説明できることから、神経終末にmEPPを引き起こす単一量子(シナプス小胞)が多数存在し、活動電位の発生に応じて個々の量子が確率的にランダムに放出されるという仮説に至った。これを量子仮説と呼ぶ。 このような実験は、伝達物質放出の確率を低くした条件でなされたため、EPPの振幅とその観察頻度はポアソン分布と一致するが、生理的な条件下ではより放出確率が高いため、一回の活動電位で放出される量子数は数百個になると考えられ、二項分布に従う。なお、数学的には、二項分布は特別な条件下(ここでは放出確率が低い)において、ポアソン分布と一致する。 Katzらが行った一連の解析から、シナプス前終末における放出部位がn箇所、活動電位が起こった時の個々の放出部位での放出確率がp、1量子に対するシナプス後部での反応の大きさをqとすると、一回の活動電位に対するシナプス応答の大きさの平均値mは、


<math> m = npq </math>
と考えることができ、これら3つの変数がシナプス伝達効率を規定すると考えることが出来る。それぞれの値を導出するにはさまざまな方法が考えられるが、たとえばSilverらはシナプス応答の平均と分散から導出する方法を考案している<ref><pubmed> 9660900 </pubmed></ref>。ただし、シナプス後部の伝達物質受容体が飽和する場合には、上式よりもmは小さくなるので注意を要する。
== 参考文献  ==
<references /> 金子昭道、小幡邦彦、立花政夫 共訳 ニューロンから脳へ 神経生物学入門 第2版  
<references /> 金子昭道、小幡邦彦、立花政夫 共訳 ニューロンから脳へ 神経生物学入門 第2版  


(執筆者:川口 真也、坂場 武史、担当編集委員:柚崎 通介)
(執筆者:川口 真也、坂場 武史、担当編集委員:柚崎 通介)
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