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<font size="+1">[http://researchmap.jp/ryotahashimoto 橋本 亮太]</font><br> | |||
''大阪大学''<br> | |||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年9月4日 原稿完成日:2012年11月15日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | |||
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英:endophenotype 独:Endophänotyp 仏:endophénotype | 英:endophenotype 独:Endophänotyp 仏:endophénotype | ||
同義語:[[中間表現型]](intermediate phenotype) | |||
{{box|text= | |||
エンドフェノタイプは、[[wikipedia:ja:遺伝学|遺伝学]]的な研究における[[wikipedia:ja:表現型|表現型]]である。[[統合失調症]]や[[双極性障害]]などの[[精神障害]]においては、[[wikipedia:ja:家族集積性|家族集積性]]が認められ強い[[wikipedia:ja:遺伝要因|遺伝要因]]があることから、[[wikipedia:ja:リスク遺伝子|リスク遺伝子]]や[[wikipedia:ja:原因遺伝子|原因遺伝子]]が存在することが想定されている。しかし、統合失調症や双極性障害そのものを表現型とした[[wikipedia:ja:連鎖解析研究|連鎖解析研究]]や関連解析研究において、結果が一致しないことから、病気そのものではなく、遺伝子と病気という表現型の「中間」に存在するその精神障害において認められる特徴的な神経生物学的な障害であるエンドフェノタイプを遺伝学的な表現型を用いることが有用ではないかと考えられた。 | エンドフェノタイプは、[[wikipedia:ja:遺伝学|遺伝学]]的な研究における[[wikipedia:ja:表現型|表現型]]である。[[統合失調症]]や[[双極性障害]]などの[[精神障害]]においては、[[wikipedia:ja:家族集積性|家族集積性]]が認められ強い[[wikipedia:ja:遺伝要因|遺伝要因]]があることから、[[wikipedia:ja:リスク遺伝子|リスク遺伝子]]や[[wikipedia:ja:原因遺伝子|原因遺伝子]]が存在することが想定されている。しかし、統合失調症や双極性障害そのものを表現型とした[[wikipedia:ja:連鎖解析研究|連鎖解析研究]]や関連解析研究において、結果が一致しないことから、病気そのものではなく、遺伝子と病気という表現型の「中間」に存在するその精神障害において認められる特徴的な神経生物学的な障害であるエンドフェノタイプを遺伝学的な表現型を用いることが有用ではないかと考えられた。 | ||
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なお、中間表現型(intermediate phenotype) は、元来、遺伝学用語で、不完全優生遺伝において、ヘテロ接合体が示すホモ接合体と野生型の中間的な表現型を意味する用語であり、エンドフェノタイプと重なりがある可能性はあるものの、厳密には由来の異なる概念である。しかし、現在では、同義語として用いられる場合も多い。 | なお、中間表現型(intermediate phenotype) は、元来、遺伝学用語で、不完全優生遺伝において、ヘテロ接合体が示すホモ接合体と野生型の中間的な表現型を意味する用語であり、エンドフェノタイプと重なりがある可能性はあるものの、厳密には由来の異なる概念である。しかし、現在では、同義語として用いられる場合も多い。 | ||
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== 歴史 == | == 歴史 == | ||
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2001年にWeinbergerらが、[[ドーパミン]]の代謝酵素である[[カテコールアミン#代謝分解|カテコール-''O''-メチル基転移酵素]](catechol-''O''-methyltransferase, COMT)遺伝子の機能的多型であるVal多型はMet多型と比較してCOMT酵素活性が高く、その結果、[[前頭葉]]のドーパミン量が低下し、前頭葉機能とその効率が悪くなることを[[認知機能]]と[[機能的MRI]]を用いて示し、最後に統合失調症のリスクとなるという発表を行った<ref><pubmed>11381111 </pubmed></ref>。この研究を端緒に、統合失調症の[[認知機能障害]]、脳神経画像の異常、神経生理学的異常所見を中間表現型として統合失調症のリスク遺伝子を見出す研究が実際的に開始された。本邦においては、2003年に橋本らがWeinbergerらの考えを日本に紹介した<ref>'''橋本亮太、Weinberger DR'''<br>統合的アプローチから精神疾患の病態にせまる‐ゲノム的アプローチを越えて‐エンドフェノタイプ(中間表現型)の定義<br>''実験医学 '':2003; 21: 1304-1308</ref>。 | 2001年にWeinbergerらが、[[ドーパミン]]の代謝酵素である[[カテコールアミン#代謝分解|カテコール-''O''-メチル基転移酵素]](catechol-''O''-methyltransferase, COMT)遺伝子の機能的多型であるVal多型はMet多型と比較してCOMT酵素活性が高く、その結果、[[前頭葉]]のドーパミン量が低下し、前頭葉機能とその効率が悪くなることを[[認知機能]]と[[機能的MRI]]を用いて示し、最後に統合失調症のリスクとなるという発表を行った<ref><pubmed>11381111 </pubmed></ref>。この研究を端緒に、統合失調症の[[認知機能障害]]、脳神経画像の異常、神経生理学的異常所見を中間表現型として統合失調症のリスク遺伝子を見出す研究が実際的に開始された。本邦においては、2003年に橋本らがWeinbergerらの考えを日本に紹介した<ref>'''橋本亮太、Weinberger DR'''<br>統合的アプローチから精神疾患の病態にせまる‐ゲノム的アプローチを越えて‐エンドフェノタイプ(中間表現型)の定義<br>''実験医学 '':2003; 21: 1304-1308</ref>。 | ||
[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=endophenotype Pubmedにおいてendophenotype (intermediate phenotype)で引用される論文]は、1990年前半で10編、後半で約50編、2000年前半で約400編、2000年後半で約1200編と急速に増えており<ref><pubmed>18458787</pubmed></ref>、本邦においてはこの分野の日本生物学的精神医学会年会における中間表現型の発表は概念が導入された2003年にはなかったものの2010年には口演の22%、ポスター発表の9%を占めるようになり、遺伝学的研究のみならず、[[生物学的精神医学]]研究の中心的な研究手法となりつつある(図1)<ref name="ref7">'''橋本亮太、大井一高、安田由華、福本素由己、山森英長、梅田知美、岡田武也、武田雅俊'''<br> | [http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=endophenotype Pubmedにおいてendophenotype (intermediate phenotype)で引用される論文]は、1990年前半で10編、後半で約50編、2000年前半で約400編、2000年後半で約1200編と急速に増えており<ref><pubmed>18458787</pubmed></ref>、本邦においてはこの分野の日本生物学的精神医学会年会における中間表現型の発表は概念が導入された2003年にはなかったものの2010年には口演の22%、ポスター発表の9%を占めるようになり、遺伝学的研究のみならず、[[生物学的精神医学]]研究の中心的な研究手法となりつつある(図1)<ref name="ref7">'''橋本亮太、大井一高、安田由華、福本素由己、山森英長、梅田知美、岡田武也、武田雅俊'''<br>分子遺伝学の新しいアプローチによる[[精神疾患]]解明 統合失調症の中間表現型研究の最前線<br>''日本生物学的精神医学会誌'':2012; 23: 9-14</ref>。 | ||
本邦では、中間表現型という用語がよく用いられるが、遺伝子と精神疾患の中間、健常者と患者の中間にある精神疾患を持たない患者血縁者においても認められる、といったイメージから、わかりやすいためと思われる。 | 本邦では、中間表現型という用語がよく用いられるが、遺伝子と精神疾患の中間、健常者と患者の中間にある精神疾患を持たない患者血縁者においても認められる、といったイメージから、わかりやすいためと思われる。 | ||
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認知機能を測定する多数の検査がエンドフェノタイプとされており、最も多数の検討がなされてきている。認知機能検査は、認知機能のある領域を測定することを目的に作られているが、課題達成には主な領域以外の機能も用いる必要があることを知っておく必要がある。その中でも特に、効果サイズの大きいものを以下に述べる<ref><pubmed>16166612</pubmed></ref>。 | 認知機能を測定する多数の検査がエンドフェノタイプとされており、最も多数の検討がなされてきている。認知機能検査は、認知機能のある領域を測定することを目的に作られているが、課題達成には主な領域以外の機能も用いる必要があることを知っておく必要がある。その中でも特に、効果サイズの大きいものを以下に述べる<ref><pubmed>16166612</pubmed></ref>。 | ||
* | *CPT(continuous performance [[test]])のD’ | ||
*Trails B | *Trails B | ||
*WAIS- | *WAIS-R(ウェクスラー成人知能検査:Wechsler Adult Intelligence Scale)の単語 | ||
*WMS- | *WMS-R(ウェクスラー記憶検査:Wechsler Memory Scale-Revised)の言語性記憶I | ||
* | *WCST(ウィスコンシンカード分類課題Wisconsin Card Sorting [[Test]])のPerseverative error | ||
それぞれの検査の他のスコアにおいても効果サイズの大きいものがいくつもある。 | それぞれの検査の他のスコアにおいても効果サイズの大きいものがいくつもある。 | ||
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=== 神経生理機能 === | === 神経生理機能 === | ||
神経生理機能については、単純な非言語性の刺激を用いるため、年齢、人種、用いる言語に関係なく簡便に施行できるという利点がある。統合失調症では、[[プレパルス抑制テスト]](prepulse Inhibition, PPI)、[[眼球運動]]([[アンチサッケード]]課題)、[[P50]] | 神経生理機能については、単純な非言語性の刺激を用いるため、年齢、人種、用いる言語に関係なく簡便に施行できるという利点がある。統合失調症では、[[プレパルス抑制テスト]](prepulse Inhibition, PPI)、[[眼球運動]]([[アンチサッケード]]課題)、[[P50]](音刺激に対して50ミリ秒前後で発生する聴覚誘発電位)、[[ミスマッチネガティビティ]]、[[近赤外スペクトロスコピー]] (NIRS)などが用いられるが、遺伝性についても示されているものは[[プレパルス抑制]][[テスト]]と眼球運動である<ref><pubmed>17088422</pubmed></ref> <ref><pubmed>17984393</pubmed></ref>。その中でも、PPIはマウスなどの[[動物モデル]]においても同様な検査が可能であるため、汎用されており、関連する遺伝子についての知見も多い<ref>'''高橋秀俊、橋本亮太、岩瀬真生、石井良平、武田雅俊'''<br>統合失調症の中間表現型 精神生理学的指標<br>''精神科'':2011; 18: 14-18</ref>。 | ||
=== その他 === | === その他 === | ||
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== 双極性障害 == | == 双極性障害 == | ||
双極性障害のエンドフェノタイプにエビデンスは、まだ研究報告が少ないため統合失調症のそれよりも小さい。よって、双極性障害においても理想的なエンドフェノタイプは存在していないが、いくつか有力な候補について述べる。<br> 認知機能については多数の報告があるが、過去の文献をレビューすると一致度は小さい<ref><pubmed>18582942</pubmed></ref>。但し、その後、作業記憶、陳述記憶が有望であるとの報告がされている<ref><pubmed>20124116</pubmed></ref>。神経生理機能については、眼球運動、P50、PPI、[[P300]]などが有力ではあるが、すべて統合失調症と重なっている<ref><pubmed>18502737</pubmed></ref> | 双極性障害のエンドフェノタイプにエビデンスは、まだ研究報告が少ないため統合失調症のそれよりも小さい。よって、双極性障害においても理想的なエンドフェノタイプは存在していないが、いくつか有力な候補について述べる。<br> 認知機能については多数の報告があるが、過去の文献をレビューすると一致度は小さい<ref><pubmed>18582942</pubmed></ref>。但し、その後、作業記憶、陳述記憶が有望であるとの報告がされている<ref><pubmed>20124116</pubmed></ref>。神経生理機能については、眼球運動、P50、PPI、[[P300]]などが有力ではあるが、すべて統合失調症と重なっている<ref><pubmed>18502737</pubmed></ref>。脳神経画像については、前頭辺縁系の体積や情動刺激課題中の辺縁系を中心とした賦活が関与しているという報告が出始めたばかりである<ref><pubmed>21321565</pubmed></ref> <ref><pubmed>18221633</pubmed></ref>。血液細胞における[[カルシウム]]濃度や培養リンパ芽球における遺伝子発現が、遺伝子多型を反映するものとして有望とされているが、遺伝性などについてはまだ十分な検討がなされていない<ref>'''加藤忠史'''<br>精神疾患のエンドフェノタイプ 双極性障害のエンドフェノタイプ<br>''分子精神医学'':2005; 5: 145-151</ref>。 <br> | ||
== 今後の方向性と課題 == | == 今後の方向性と課題 == | ||
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=== 今後の方向性 === | === 今後の方向性 === | ||
精神障害のリスク遺伝子を見出すための一方法としてエンドフェノタイプという概念が提唱されたが、その概念は徐々に拡大しており、遺伝子と量的に測定可能な神経生物学的な表現型との関連を検討することにより、その遺伝子の機能を見出すというように広く用いられるようになってきている(図2)<ref name="ref11" /> | 精神障害のリスク遺伝子を見出すための一方法としてエンドフェノタイプという概念が提唱されたが、その概念は徐々に拡大しており、遺伝子と量的に測定可能な神経生物学的な表現型との関連を検討することにより、その遺伝子の機能を見出すというように広く用いられるようになってきている(図2)<ref name="ref11" />。その結果、[[脳神経]]画像の分野ではimaging geneticsとして、神経心理学の分野ではneurocognitive geneticsとして発展してきている<ref>'''橋本亮太、大井一高、安田由華、吉田哲彦、武田雅俊'''<br>精神疾患の脳画像解析学と分子生物学の統合 中間表現型としての脳画像解析の現状と展望<br>''分子精神医学'':2007; 7: 214-221</ref>。エンドフェノタイプと遺伝子の関連解析は、異分野の研究手法を用いて多数のサンプルサイズを必要とするため、この解析が可能な研究施設は少ないという問題点があるが、精神疾患を超えて神経科学の分野のトレンドとなることでこの問題が解決すると考えられ、今後の発展が期待される。 | ||
エンドフェノタイプは、精神疾患における定量的に測定できる神経生物学的な表現型であることから、いわゆる生物学的な診断マーカーとしての期待が持てる。一つ一つの中間表現型(例えば、[[記憶障害]]や脳構造異常)の感度と特異度は十分ではなく、未だ生物学的な診断マーカーは見つかっていない。しかし、精神疾患の病態のうち異なる遺伝子による異常を反映すると考えられるエンドフェノタイプの組み合わせを用いることにより、診断マーカーの開発につながることが期待されている(図2)<ref name="ref11" />。 | エンドフェノタイプは、精神疾患における定量的に測定できる神経生物学的な表現型であることから、いわゆる生物学的な診断マーカーとしての期待が持てる。一つ一つの中間表現型(例えば、[[記憶障害]]や脳構造異常)の感度と特異度は十分ではなく、未だ生物学的な診断マーカーは見つかっていない。しかし、精神疾患の病態のうち異なる遺伝子による異常を反映すると考えられるエンドフェノタイプの組み合わせを用いることにより、診断マーカーの開発につながることが期待されている(図2)<ref name="ref11" />。 | ||
動物モデルの研究への応用可能性も今後期待される分野である。現在、精神疾患の診断は、多くを患者本人の主観的体験の陳述と行動の観察に頼っている。特に、[[幻聴]]や[[妄想]] | 動物モデルの研究への応用可能性も今後期待される分野である。現在、精神疾患の診断は、多くを患者本人の主観的体験の陳述と行動の観察に頼っている。特に、[[幻聴]]や[[妄想]]といった症状は、動物で定義することは不可能である。動物でも定量可能なエンドフェノタイプを用いることで、こうした問題を克服できる可能性がある。実際に、統合失調症においてはプレパルス抑制の障害をヒトと[[モデル動物]]の双方に用いて研究がなされている。また、エンドフェノタイプ概念を、ヒトで直接測定することの困難な、細胞、神経回路レベルにまで拡張できるかどうかは、今後の課題であろう。 | ||
=== 今後の課題 === | === 今後の課題 === | ||
エンドフェノタイプ研究の第一の課題は、解析手法の多様性と、それに伴うサンプル収集の困難さである。すなわち、エンドフェノタイプ研究は、精神疾患という表現型を扱う精神医学、遺伝学、エンドフェノタイプである脳神経画像学などを統合した研究であり、多分野を理解し統合することのできる研究者が、それぞれの専門家と協力するという体制をつくる必要があると言えよう。そのような困難もある中、本邦では、ヒト脳表現型コンソーシアム( http://www.sp-web.sakura.ne.jp/lab/consortium.html )が、多数のサンプルを収集してデータの提供や共同研究を行なっている<ref name="ref7" />。 | |||
次は精神疾患のリスク遺伝子を見出す上で、本当にエンドフェノタイプが有用なのかどうか、という方法論的な問題点である。エンドフェノタイプの遺伝率が、精神疾患そのものの遺伝率より低ければ、エンドフェノタイプを用いる意義が乏しくなってしまう。この点について、現時点では結論は出ていない。 | 次は精神疾患のリスク遺伝子を見出す上で、本当にエンドフェノタイプが有用なのかどうか、という方法論的な問題点である。エンドフェノタイプの遺伝率が、精神疾患そのものの遺伝率より低ければ、エンドフェノタイプを用いる意義が乏しくなってしまう。この点について、現時点では結論は出ていない。 | ||
エンドフェノタイプは、その定義から素因依存性(trait dependent, 状態によって変化しないもの)であるべきであるが、このような表現型はしばしば状態依存性(state dependent)に変化するという問題点がある。例えば、認知機能は服用している[[向精神薬]] | エンドフェノタイプは、その定義から素因依存性(trait dependent, 状態によって変化しないもの)であるべきであるが、このような表現型はしばしば状態依存性(state dependent)に変化するという問題点がある。例えば、認知機能は服用している[[向精神薬]]の影響を受けることがあり、神経生理機能である[[脳波]]やプレパルス抑制などは、[[wikipedia:ja:喫煙|喫煙]]の影響を強く受け、遺伝子発現においては死後脳では死因を強く反映する。さらに、統合失調症では、精神症状と認知機能が相関することが知られており、精神症状が悪化すると、測定することすら不可能となる。比較的安定であると思われている脳構造画像においても、近年は発症後にさまざまな部位で進行性に脳体積の減少が起こることが知られている。このように、素因だけではなく、測定時の生理的な状態、精神症状、精神疾患の進行(病期)の影響を受けるため、すべてが遺伝子で説明できるわけではないことを理解したうえで、用いていく必要があると思われる。 | ||
== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
<references /> | <references /> | ||