「Signal Transducers and Activator of Transcription 3」の版間の差分

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 免疫系に作用するサイトカインとして同定された、L-6ファミリーサイトカイン(LIFなど)が細胞膜上のサイトカイン受容体複合体中のサイトカイン特異的結合鎖と結合することで、膜たんぱく質gp130を含む信号伝達鎖の二量体化がおこり、信号伝達鎖の細胞内領域に会合するJAKが活性化され、信号伝達鎖の細胞内領域中のチロシン残基をリン酸化する。リン酸化されたチロシン残基に、転写因子STAT3が自身のSH2(src homology 2)ドメインを介して会合、近接したJAKによりチロシンリン酸化(チロシン705)を受けることで活性化する<ref name="ref2"><pubmed> 9685167 </pubmed></ref>。チロシンリン酸化されたSTAT3分子はホモないしヘテロ二量体を形成し核へ移行した後、目的遺伝子の転写を制御する。  
 免疫系に作用するサイトカインとして同定された、L-6ファミリーサイトカイン(LIFなど)が細胞膜上のサイトカイン受容体複合体中のサイトカイン特異的結合鎖と結合することで、膜たんぱく質gp130を含む信号伝達鎖の二量体化がおこり、信号伝達鎖の細胞内領域に会合するJAKが活性化され、信号伝達鎖の細胞内領域中のチロシン残基をリン酸化する。リン酸化されたチロシン残基に、転写因子STAT3が自身のSH2(src homology 2)ドメインを介して会合、近接したJAKによりチロシンリン酸化(チロシン705)を受けることで活性化する<ref name="ref2"><pubmed> 9685167 </pubmed></ref>。チロシンリン酸化されたSTAT3分子はホモないしヘテロ二量体を形成し核へ移行した後、目的遺伝子の転写を制御する。  


== 脳内での働き①:アストロサイト分化誘導 ==
== 神経系での働き①:脳内におけるアストロサイト分化誘導 ==


 STAT3二量体は転写活性化因子として目的遺伝子、グリア線維酸性タンパク質glial fibrillary acidic protein (GFAP)のプロモーターに結合し、転写を促進する。GFAPはアストロサイトの指標であり、神経幹細胞Neural stem cell(NSC)の培養系にLIFを添加し、JAK/STAT3経路を促進することでアストロサイトへの分化が増加することが明らかとなっている<ref name="ref3"><pubmed> 10486560 </pubmed></ref>。
 STAT3二量体は転写活性化因子として目的遺伝子、グリア線維酸性タンパク質glial fibrillary acidic protein (GFAP)のプロモーターに結合し、転写を促進する。GFAPはアストロサイトの指標であり、神経幹細胞Neural stem cell(NSC)の培養系にLIFを添加し、JAK/STAT3経路を促進することでアストロサイトへの分化が増加することが明らかとなっている<ref name="ref3"><pubmed> 10486560 </pubmed></ref>。
 また、STAT3をシグナル経路下流の転写因子とするLIFなどのサイトカイン群と、smadをシグナル経路下流の転写因子とするBMP2などのサイトカイン群(TGF-βスーパーファミリー)の両者は別々の受容体システムを介し、互いに協調的にクロストークして相乗的アストロサイト分化誘導<ref name="ref4"><pubmed> 10205054 </pubmed></ref>することが明らかにされている。
 また、STAT3をシグナル経路下流の転写因子とするLIFなどのサイトカイン群と、smadをシグナル経路下流の転写因子とするBMP2などのサイトカイン群(TGF-βスーパーファミリー)の両者は別々の受容体システムを介し、互いに協調的にクロストークして相乗的アストロサイト分化誘導<ref name="ref4"><pubmed> 10205054 </pubmed></ref>することが明らかにされている。


== 脳内での働き②:神経幹細胞増殖制御 ==
== 神経系での働き②:神経幹細胞増殖制御 ==


 通常のSTAT3遺伝子欠損(ノックアウト, KO)は胎生致死に至るので、脳内におけるKOの影響は解析できない<ref name="ref5"><pubmed> 9108058 </pubmed></ref>。
 通常のSTAT3遺伝子欠損(ノックアウト, KO)は胎生致死に至るので、脳内におけるKOの影響は解析できない<ref name="ref5"><pubmed> 9108058 </pubmed></ref>。
 そこで、神経系細胞特異的にSTAT3遺伝子を欠損(コンディショナルノックアウト, cKO)するトランスジェニックマウスを用いて、解析した結果、STAT3c KOマウスの海馬歯状回におけるNSCの数が減少することが明らかになった。このことから、ニューロンに対する栄養因子活性を有する毛様体神経栄養因子ciliary neurotrophic factor (CNTF)はサイトカイン受容体と結合し、下流のJAK/STAT3経路を活性化することで、NSCの自己増殖を制御することが示された<ref name="ref6"><pubmed> 19023034 </pubmed></ref>。しかし詳細なメカニズムは明らかにされていない。
 そこで、神経系細胞特異的にSTAT3遺伝子を欠損(コンディショナルノックアウト, cKO)するトランスジェニックマウスを用いて、解析した結果、STAT3 cKOマウスの海馬歯状回におけるNSCの数が減少することが明らかになった。このことから、ニューロンに対する栄養因子活性を有する毛様体神経栄養因子ciliary neurotrophic factor (CNTF)はサイトカイン受容体と結合し、下流のJAK/STAT3経路を活性化することで、NSCの自己増殖を制御することが示された<ref name="ref6"><pubmed> 19023034 </pubmed></ref>。しかし詳細なメカニズムは明らかにされていない。
 
== 神経系での働き③:てんかん発作誘導性神経細胞死への保護作用 ==


== 脳内での働き③:てんかん発作誘導性神経細胞死への保護作用 ==
 生体マウスにおいて興奮性アミノ酸の一種、カイニン酸kainic acid (KA)投与によるてんかん誘導に際し、抗てんかん薬として知られるcarbamazepine (CBZ)を投与すると、海馬のCA3領域のニューロンの死亡の割合がKA投与のみの個体に比べ、KA+CBZの個体で低いことが分かった。また、CA3のニューロン内で、STAT3の発現レベルがmRNA、タンパク質どちらにおいても上昇し、リン酸化STAT3も増加していた。加えて、神経保護タンパク質B-cell lymphoma-extra large (Bcl-xl)の共発現レベルが高まっていることから、CBZのシグナルを受けてJAK/STAT3経路が活性化し、Bcl-xlなどの発現を上昇させることで、てんかんによるニューロンの死への保護効果を発生させていることが示唆された<ref name="ref6"><pubmed> 22772901 </pubmed></ref>。だが、具体的なメカニズムはいまだ明らかにされていない。
 生体マウスにおいて興奮性アミノ酸の一種、カイニン酸kainic acid (KA)投与によるてんかん誘導に際し、抗てんかん薬として知られるcarbamazepine (CBZ)を投与すると、海馬のCA3領域のニューロンの死亡の割合がKA投与のみの個体に比べ、KA+CBZの個体で低いことが分かった。また、CA3のニューロン内で、STAT3の発現レベルがmRNA、タンパク質どちらにおいても上昇し、リン酸化STAT3も増加していた。加えて、神経保護タンパク質B-cell lymphoma-extra large (Bcl-xl)の共発現レベルが高まっていることから、CBZのシグナルを受けてJAK/STAT3経路が活性化し、Bcl-xlなどの発現を上昇させることで、てんかんによるニューロンの死への保護効果を発生させていることが示唆された<ref name="ref6"><pubmed> 22772901 </pubmed></ref>。だが、具体的なメカニズムはいまだ明らかにされていない。


== 神経系での働き④:脊髄損傷時の反応性アストロサイト分化誘導 ==


 脊髄に損傷が起こると炎症反応が発生し、傷周辺の細胞はIL-6ファミリーなどのサイトカインを多量に分泌する。これによりJAK/STAT3経路が活性化し、損傷部で反応性アストロサイトの分化を促進する。反応性アストロサイトは集合し、グリア瘢痕を形成、損傷部の物理的な防壁となる役割を持つが、同時に損傷部に対するニューロンの分化促進を阻害し、神経回路の再形成を妨げるため、神経再生もできなくなる<ref name="ref6"><pubmed> 15048924 </pubmed></ref>。




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