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英語名:source monitoring  
英語名:source monitoring  


 ソース・モニタリングとは,ある特定の記憶について,その記憶がいつ,どこでどのように得られたかという情報源を認識して記憶を再構成することである。しばしば,記憶の情報源は間違って判断されることがあり,そのことをソースモニタリングエラーと呼ぶ。このエラーは,情報源の符号化の限界,または情報源を特定する際の何らかの妨害によって正常な知覚処理過程または参照過程が妨げられるために生じる。うつやストレスレベルの高い状態,または関連する脳の領野の損傷などが,ソースモニタリングエラーの原因と考えられている。
 ソース・モニタリングとは,ある特定の記憶について,その記憶がいつ,どこでどのように得られたかという情報源についての認識・記憶である。記憶の情報源は間違って判断されることも多く,そのことをソースモニタリングエラーと呼ぶ。このエラーは,情報源を符号化する際の限界,または情報源を特定する際の何らかの妨害によって,正常な知覚処理過程または参照過程が妨げられるために生じる。うつ状態やストレスレベルの高い状態,または関連する脳の領野の損傷などが,ソースモニタリングエラーの原因と考えられている。


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= 概要  =
= 概要  =


 ソースモニタリングの基本的な主張は,人は記憶についての情報源を特定するようなタグやラベルをそのまま直接引き出しているのではなく,記憶を引き出す際になされる意思決定過程において,記憶についてのある種の記録が活性化され,評価されて,特定の情報源と関連づけされるというものである。そのため,ソースモニタリングの精度はは記憶の記録の活性度に大きく依存する。もし,イベントが起こっているその最中に何かがその出来事の文脈的詳細のコード化を妨げれば,その記憶に関連する情報を完全に取り出すことはできず,エラーが生じる一方で,記憶表象の特徴がよく識別されていればエラーは少なくなる。
 ソースモニタリングの基本的な考え方は,人は記憶についての情報源を特定するようなタグやラベルをそのまま直接引き出しているのではなく,記憶を引き出す際の意思決定過程で,記憶についてのある種の記録が活性化され,評価されて,特定の情報源と関連づけされるというものである。そのため,ソースモニタリングの精度は,その記憶についての記録をどれほどうまく活性化できるかに大きく依存する。もしある出来事の最中に何かがその出来事についての詳細の符号化を妨げれば,後にその記憶に関連する情報を完全に想起することができないため,エラーが生じる。一方,ある記憶表象の特徴が他の特徴とはっきりと区別され,より鮮明に記憶されていればエラーは少なくなる。


=== 2つの過程 ===
=== 2つの処理過程 ===


 一般的に,ソースモニタリングが行われる過程には,自動的に無意識に行われるヒューリスティック過程と,逐次的で意図的なシステマティック過程の2つの過程が存在すると考えられている。
 一般的に,ソースモニタリングが行われる処理過程には,自動的に無意識に行われるヒューリスティック処理と,逐次的で意図的なシステマティック処理の2つの過程が存在すると考えられている。


(Johnston, 93. P4右コラム後半)  
(Johnston, 93. P4右コラム後半)  


'''ヒューリスティック過程'''  
'''ヒューリスティック処理'''  


 記憶についての量的な特徴を想起する場合のような,高速かつ無意識に行われる過程。この過程は効率的で“自動的に”処理される過程であるため,より頻繁に行われる。関連する情報がある程度の重要性を持ち,かつその記憶と生じた時間・場所が論理的におかしくなければ,情報源についての決定が行われる。
 記憶についての量的な特徴を想起する場合のような,高速かつ無意識に行われる処理。この処理は効率的で“自動的に”処理される過程であるため,より頻繁に行われる。関連する情報がある程度の重要性を持ち,かつその記憶の生じた時間・場所が論理的におかしくなければ,情報源についての決定が行われる。


'''システマティック過程'''  
'''システマティック処理'''  


 より戦略的で遅く,意図的に行われる過程。判断にはヒューリスティック過程で用いられる情報と同じものが使われることもある。この過程では記憶と関連するすべての情報が想起され,その記憶がある情報源から来ていそうかどうか意図的に調べられる。この過程は遅く,かなりの労力を食うためにそう頻繁には起こらない。
 より戦略的で遅く,意図的に行われる処理。この処理では記憶と関連するすべての情報が想起され,その記憶がある情報源から来ていそうかどうか意図的に調べられる。この処理は遅く,かなりの労力を食うため,そう頻繁には起こらない。


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=== 分化(differentiation)  ===
=== 分化(differentiation)  ===


 情報が活性化されるにつれて特定の記憶特徴(色,音,感情など。e.g. ジョーの声のトーンはメアリーのトーンより深い)がまとまり,定着するという考え方(Johnston, 93)。 情報は,他の情報との結びつきが弱い場合や,強く活性化していても単独の特徴しか活性化していない場合には比較的分化しにくいとされている,言い換えれば,2つ以上の特徴がまとまってある出来事と他の出来事を分けるような基盤を形作るときに分化が最大になる。より分化した情報は2つ以上の特定の特徴を含んでいるため,分化していない情報へアクセスする方が分化した情報にアクセスするよりも速いということがよくある。  
 ある情報が活性化されるほど,情報同士がまとまり,特定の記憶特徴(色,音,感情など。e.g. ジョーの声のトーンはメアリーのトーンより深い)がまとまり,定着するという考え方(Johnston, 93)。 情報は,他の情報との結びつきが弱い場合や,強く活性化していても単独の特徴しか活性化していない場合には比較的分化しにくいとされている,言い換えれば,2つ以上の特徴がまとまってある出来事と他の出来事を分けるような基盤を形作るときに分化が最大になる。より分化した情報は2つ以上の特定の特徴を含んでいるため,分化していない情報へアクセスする方が分化した情報にアクセスするよりも速いということがよくある。  


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=== Remember-know  ===
=== Remember-know  ===


 ”覚えているか”対”知っているか”は記憶のawarenessを評価する過程である。覚えている場合にはその経験は追体験することができ,容易に詳細が浮かんでくる。知っている場合には追体験することは出来ないが親近感がわくため,情報源がそれだと(誤って)考えることが多くなる。どちらの判断を行う場合にもソースモニタリング・エラーに陥りやすい。また,DRMパラダイムなどの特定の環境下では,"覚えている"という判断がなされやすくなる。
 ”覚えているか”対”知っているか”は記憶のawarenessを評価する手続きである。覚えている場合にはその経験は追体験することができ,詳細が容易に浮かんでくる。単に知っている場合には追体験することは出来ないが親近感がわくため,誤った情報源の候補と自信を持って結びつけてしまうことが多くなる。どちらの判断を行う場合にもソースモニタリング・エラーに陥りやすい。また,DRMパラダイムなどの特定の環境下では,誤って"覚えている"という判断されることが多くなる[8]。
=== False fame  ===
=== False fame  ===


 false fame 実験では,まず有名でない名前のリストが提示され,その後,先に見せられた名前と新しい有名でない人と有名な人の名前が提示される。課題は有名人の名前を選ぶことだが,その際古い方の有名ではない名前が誤って選ばれることが多い。 前世の記憶のような普通でない出来事を信じる人たちが,ソースモニタリング・エラーに陥りやすいとする研究がいくつか行われている。このような人は普通でない出来事をを信じていない人よりもfalse fame課題でエラーを犯しやすい。前世の記憶においては,ある記憶の情報源が前世の記憶に貢献している。つまり,他人の話や映画,本,夢,想像上のシナリオが誤って前世から来た記憶だと認識される。  
 false fame 実験では,まず非著名人の名前のリストが提示され,その後,先に提示した非著名人と新たな非著名人と著名人の名前が提示される。課題は著名人の名前を選ぶことだが,その際先に提示した非著名人が誤って選ばれることが多い。[9]
前世の記憶のような普通でない出来事を信じる人たちが,ソースモニタリング・エラーに陥りやすいとする研究がいくつか行われている。このような人は普通でない出来事をを信じていない人よりもfalse fame課題でエラーを犯しやすい。前世の記憶においては,ある記憶の情報源が前世の記憶に貢献している。つまり,他人の話や映画,本,夢,想像上のシナリオが誤って前世から来た記憶だと認識される。[10]


=== 潜在記憶(?,Cryptomnesia)  ===
=== Cryptomnesia ===


 Cryptomnesiaはわざとではない剽窃のことで,ある作品や考えが,本当は以前に自分で,もしくは外的情報源によって生み出されたものなのにもかかわらず,現在自分で作り出したものだと信じていること。最初にその情報にさらされたときに何らかの妨害があったことで生じる。その情報が無意識に得られたとしても,その情報に関連する脳の領域は短時間ではあるが活性化する。そのため,外から得られた情報や既に思いついていた考えが,今新たに生まれた考えのように思えてしまう。典型的にはこの情報源判断にはヒューリスティック過程が用いられる。初めに情報に触れたときに干渉があるため,ヒューリスティック過程では 情報源を内的に生み出されたものだと判断してしまいがちになる。  
 Cryptomnesiaはわざとではない剽窃のことで,ある作品や考えが,本当は以前に自分で,もしくは外的情報源によって生み出されたものなのにもかかわらず,現在自分で作り出したものだと信じていること。最初にその情報にさらされたときに何らかの妨害があったことで生じる。その情報が無意識に得られたとしても,その情報に関連する脳の領域は短時間ではあるが活性化する。そのため,外から得られた情報や既に思いついていた考えが,今新たに生まれた考えのように思えてしまう。典型的にはこの情報源判断にはヒューリスティック過程が用いられる。初めに情報に触れたときに干渉があるため,ヒューリスティック過程では 情報源を内的に生み出されたものだと判断してしまいがちになる。  
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=== 統合失調症  ===
=== 統合失調症  ===


 ソースモニタリング・エラーは健常者よりも統合失調症の人の間で頻繁に生じることがわかっている。この傾向を生み出すのはおそらく遺伝子の表現型で,この傾向は反抗心と関連している。研究によると,統合失調症においてソースモニタリングが困難なのは自分で作り出したものの情報源をコードすることができないため,また新しいものと以前に提示されたものの情報源を区別しにくいためであると考えられている。また,内的な刺激を現実の出来事だと近くするためだとの見解もある。患者はどこからが自分で作り出した思考かをモニタすることが出来ず,autonetic agnosia(想起失認:自分で生み出した内的な出来事を識別できないこと)に陥りやすい。
 ソースモニタリング・エラーは健常者よりも統合失調症の人に多く生じることがわかっている。これはおそらく遺伝子の表現型により生じる傾向で,この傾向は敵対心と関連している。研究によると,統合失調症においてソースモニタリングが困難なのは自分で作り出したものの情報源をコードすることができないため,また新しいものと以前に提示されたものの情報源を区別しにくいためであると考えられている。また,内的な刺激を現実の出来事だと知覚してしまいがちなためだとの見解もある[12]。患者はどこからが自分で作り出した思考かをモニタすることが出来ず,autonetic agnosia(想起失認:自分で生み出した内的な出来事を識別できないこと)に陥りやすい[13]。


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=== 加齢の影響  ===
=== 加齢の影響  ===
 ソースモニタリング・エラーに対する年齢の影響を調べるために多くの研究がなされている(McDaniel, 2000)。ソースモニタリング・エラーは高齢者や幼い子供によく見られる(Cohen, 1989)。
 ソースモニタリング・エラーに対する年齢の影響を調べるために多くの研究がなされている(McDaniel, 2000)。ソースモニタリング・エラーは高齢者や幼い子供によく見られる(Cohen, 1989)。
 ソースモニタリングが幼児で頻繁に起こるのは,彼らは現実と想像上の考えを分離することが苦手であり,これは現実性モニタリングに問題があるためだと考えられてきた。高齢者は目撃証言の際,記憶の情報源を特定するのに間違いを犯しがちである。記憶は本来のクラスに正しくししまわれているとは限らないので,現実性モニタリングはソースモニタリング・エラーを引き起こしがちである。例えば,内的な記憶が感覚情報を多分に含んでいれば,その記憶は誤って外部から想起されたものだとして思い出されてしまうこともある(Hashtroudi, 1989)。
 ソースモニタリング・エラーが幼児で頻繁に起こるのは,彼らは現実と想像上の考えを分離することが苦手である。高齢者は目撃証言の際,記憶の情報源を特定するのに間違いを犯しがちである。これらは現実性モニタリングに問題があるためだと考えられてきた。内的な記憶が感覚情報を多分に含んでいれば,その記憶は外部から想起されたものだとして誤って認識されることが多くなる(Hashtroudi, 1989)。


= 現状と今後の展望  =
= 現状と今後の展望  =
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A P Yonelinas The Nature of Recollection and Familiarity: A Review of 30 Years of Research. Journal of Memory and Language: 2002, 46; 441–517
A P Yonelinas The Nature of Recollection and Familiarity: A Review of 30 Years of Research. Journal of Memory and Language: 2002, 46; 441–517
8. Roediger III, H.L., & McDermott, K.B. (1995). Creating False Memories: Remembering Words not Presented in Lists. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 21(4), 803–814.
9. Jacoby, L.L., Kelley, C., Brown, J., & Jasechko, J. (1989). Becoming Famous Overnight: Limits on the Ability to Avoid Unconscious Influences of the Past. Journal of Personality and Social Psychology, 56(3), 326–338.
10. Peters, M.J.V., Horselenberg, R., Jelicic, M., Merckelbach, H. (2007). The false fame illusion in people with memories about a previous life. Consciousness and Cognition, 16, 162–169.
12. Vinogradov, S. et al. (1997). Clinical and Neurocognitive Aspects of Source Monitoring Errors in Schizophrenia. Am J Psychiatry, 154, 1530–1537.
13. Keefe, R.S.E. et al. (1999). Source monitoring deficits in patients with schizophrenia; a multinomial modeling analysis. Psychological Medicine, 29, 903–914.
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