「ソース・モニタリング」の版間の差分

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英語名:source monitoring  
英語名:source monitoring  


 ソース・モニタリングとは,ある特定の記憶について,その記憶がいつ,どこでどのように得られたかという情報源についての認識・記憶である。記憶の情報源は間違って判断されることも多く,そのことをソースモニタリングエラーと呼ぶ。このエラーは,情報源を符号化する際の限界,または情報源を特定する際の何らかの妨害によって,正常な知覚処理過程または参照過程が妨げられるために生じる。うつ状態やストレスレベルの高い状態,または関連する脳の領野の損傷などが,ソースモニタリングエラーの原因と考えられている。
 ソース・モニタリングとは,ある特定の記憶について,その記憶がいつ,どこでどのように得られたかという情報源についての記憶・認識である[1]。記憶の情報源は間違って判断されることも多く,そのことをソースモニタリングエラーと呼ぶ。このエラーは,情報源を符号化する際の限界,または情報源を特定する際の何らかの妨害によって,正常な知覚処理過程または参照過程が妨げられるために生じる。うつ状態やストレスレベルの高い状態,または関連する脳の領野の損傷などが,ソースモニタリングエラーの原因と考えられている。


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=== 2つの処理過程  ===
=== 2つの処理過程  ===


 一般的に,ソースモニタリングが行われる処理過程には,自動的に無意識に行われるヒューリスティック処理と,逐次的で意図的なシステマティック処理の2つの過程が存在すると考えられている。
 一般的に,ソースモニタリングが行われる処理過程には,自動的に無意識に行われるヒューリスティック処理と,逐次的で意図的なシステマティック処理の2つの過程が存在すると考えられている[1,3]。


(Johnston, 93. P4右コラム後半)  
(Johnston, 93. P4右コラム後半)  
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=== 分化(differentiation)  ===
=== 分化(differentiation)  ===


 ある情報が活性化されるほど,情報同士がまとまり,特定の記憶特徴(色,音,感情など。e.g. ジョーの声のトーンはメアリーのトーンより深い)がまとまり,定着するという考え方(Johnston, 93)。 情報は,他の情報との結びつきが弱い場合や,強く活性化していても単独の特徴しか活性化していない場合には比較的分化しにくいとされている,言い換えれば,2つ以上の特徴がまとまってある出来事と他の出来事を分けるような基盤を形作るときに分化が最大になる。より分化した情報は2つ以上の特定の特徴を含んでいるため,分化していない情報へアクセスする方が分化した情報にアクセスするよりも速いということがよくある。
 ある情報が活性化されるほど,情報同士がまとまり,特定の記憶特徴(色,音,感情など。e.g. ジョーの声のトーンはメアリーのトーンより深い)がまとまり,定着するという考え方[1]。 情報は,他の情報との結びつきが弱い場合や,強く活性化していても単独の特徴しか活性化していない場合には比較的分化しにくいとされている,言い換えれば,2つ以上の特徴がまとまってある出来事と他の出来事を分けるような基盤を形作るときに分化が最大になる。より分化した情報は2つ以上の特定の特徴を含んでいるため,分化していない情報へアクセスする方が分化した情報にアクセスするよりも速いということがよくある(Mitchell & Johnson, 2009)。  


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= 種類  =
= 種類  =


 ソース・モニタリングには大きく分けて以下の3つの種類がある。 外的ソース・モニタリング 内的ソース・モニタリング リアリティ・モニタリング どれも上記2つの判断過程を利用しており,エラーに陥りやすい。
 ソース・モニタリングには大きく分けて以下の3つの種類がある。 外的ソース・モニタリング 内的ソース・モニタリング リアリティ・モニタリング どれも上記2つの判断過程を利用しており,エラーに陥りやすい[1]。


=== 外的ソース・モニタリング    ===
=== 外的ソース・モニタリング    ===
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=== Old-new recognition  ===
=== Old-new recognition  ===


 認識記憶を検査するのに用いられる測定法。被験者はアイテムが新しいか古いかをyesかnoで答える。この時,エラーはソースモニタリングで生じるのと同様の認識プロセスで生じる。対象がとても似ているときや,情報源を想起するのが難しい環境(気が散る,ストレスなど),または何らかの理由で判断過程が機能していないときにエラーが頻繁に生じる。
 認識記憶を検査するのに用いられる測定法。被験者はアイテムが新しいか古いかをyesかnoで答える。この時,エラーはソースモニタリングで生じるのと同様の認識プロセスで生じる。対象がとても似ているときや,情報源を想起するのが難しい環境(気が散る,ストレスなど),または何らかの理由で判断過程が機能していないときにエラーが頻繁に生じる[1]。
 


=== Remember-know  ===
=== Remember-know  ===


 ”覚えているか”対”知っているか”は記憶のawarenessを評価する手続きである。覚えている場合にはその経験は追体験することができ,詳細が容易に浮かんでくる。単に知っている場合には追体験することは出来ないが親近感がわくため,誤った情報源の候補と自信を持って結びつけてしまうことが多くなる。どちらの判断を行う場合にもソースモニタリング・エラーに陥りやすい。また,DRMパラダイムなどの特定の環境下では,誤って"覚えている"という判断されることが多くなる[8]。
 ”覚えているか”対”知っているか”は記憶のawarenessを評価する手続きである。覚えている場合にはその経験は追体験することができ,詳細が容易に浮かんでくる。単に知っている場合には追体験することは出来ないが親近感がわくため,誤った情報源の候補と自信を持って結びつけてしまうことが多くなる。どちらの判断を行う場合にもソースモニタリング・エラーに陥りやすい。また,DRMパラダイムなどの特定の環境下では,誤って"覚えている"という判断されることが多くなる[8]。
=== False fame  ===
=== False fame  ===


 false fame 実験では,まず非著名人の名前のリストが提示され,その後,先に提示した非著名人と新たな非著名人と著名人の名前が提示される。課題は著名人の名前を選ぶことだが,その際先に提示した非著名人が誤って選ばれることが多い。[9]
 false fame 実験では,まず非著名人の名前のリストが提示され,その後,先に提示した非著名人と新たな非著名人と著名人の名前が提示される。課題は著名人の名前を選ぶことだが,その際先に提示した非著名人が誤って選ばれることが多い[9]
前世の記憶のような普通でない出来事を信じる人たちが,ソースモニタリング・エラーに陥りやすいとする研究がいくつか行われている。このような人は普通でない出来事をを信じていない人よりもfalse fame課題でエラーを犯しやすい。前世の記憶においては,ある記憶の情報源が前世の記憶に貢献している。つまり,他人の話や映画,本,夢,想像上のシナリオが誤って前世から来た記憶だと認識される。[10]
前世の記憶のような普通でない出来事を信じる人たちが,ソースモニタリング・エラーに陥りやすいとする研究がいくつか行われている。このような人は普通でない出来事をを信じていない人よりもfalse fame課題でエラーを犯しやすい。前世の記憶においては,ある記憶の情報源が前世の記憶に貢献している。つまり,他人の話や映画,本,夢,想像上のシナリオが誤って前世から来た記憶だと認識される[10]
 


=== Cryptomnesia ===
=== Cryptomnesia ===


 Cryptomnesiaはわざとではない剽窃のことで,ある作品や考えが,本当は以前に自分で,もしくは外的情報源によって生み出されたものなのにもかかわらず,現在自分で作り出したものだと信じていること。最初にその情報にさらされたときに何らかの妨害があったことで生じる。その情報が無意識に得られたとしても,その情報に関連する脳の領域は短時間ではあるが活性化する。そのため,外から得られた情報や既に思いついていた考えが,今新たに生まれた考えのように思えてしまう。典型的にはこの情報源判断にはヒューリスティック過程が用いられる。初めに情報に触れたときに干渉があるため,ヒューリスティック過程では 情報源を内的に生み出されたものだと判断してしまいがちになる。
 Cryptomnesiaはわざとではない剽窃のことで,ある作品や考えが,本当は以前に自分で,もしくは外的情報源によって生み出されたものなのにもかかわらず,現在自分で作り出したものだと信じていること。最初にその情報にさらされたときに何らかの妨害があったことで生じる。その情報が無意識に得られたとしても,その情報に関連する脳の領域は短時間ではあるが活性化する。そのため,外から得られた情報や既に思いついていた考えが,今新たに生まれた考えのように思えてしまう。典型的にはこの情報源判断にはヒューリスティック過程が用いられる。初めに情報に触れたときに干渉があるため,ヒューリスティック過程では 情報源を内的に生み出されたものだと判断してしまいがちになる[1]。


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= 参考文献  =
= 参考文献  =
Karen J. Mitchell and Marcia K. Johnson (2009)
Source monitoring 15 years later: What have we learned from fMRI about the neural mechanisms of source memory?
Psychol Bull. 2009 July; 135(4): 638–677.


Cohen, G., Faulkner, D. (1989). Age Differences in Source Forgetting: Effects on Reality Monitoring and on Eyewitness Testimony. Psychology and Aging, 4(1), 10–17.
Cohen, G., Faulkner, D. (1989). Age Differences in Source Forgetting: Effects on Reality Monitoring and on Eyewitness Testimony. Psychology and Aging, 4(1), 10–17.
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Hashtroudi, S., Johnson, M.K., Chrosniak, L.D. (1989). Aging and Source Monitoring. Psychology and Aging, 4(1), 106–112.
Hashtroudi, S., Johnson, M.K., Chrosniak, L.D. (1989). Aging and Source Monitoring. Psychology and Aging, 4(1), 106–112.


M L Johnson, S Hashtroudi, D S Lindsay Source Monitoring. Psychological Bulletin: 1993, 114(1); 3-28  
1. M L Johnson, S Hashtroudi, D S Lindsay Source Monitoring. Psychological Bulletin: 1993, 114(1); 3-28  


McDaniel, M.A., Lyle, K.B., Butler, K.M., & Dornburg, C.C. (2008). Age-Related Deficits in Reality Monitoring. Psychology and Aging, 23(3), 646–656.
McDaniel, M.A., Lyle, K.B., Butler, K.M., & Dornburg, C.C. (2008). Age-Related Deficits in Reality Monitoring. Psychology and Aging, 23(3), 646–656.


A P Yonelinas The Nature of Recollection and Familiarity: A Review of 30 Years of Research. Journal of Memory and Language: 2002, 46; 441–517
A P Yonelinas The Nature of Recollection and Familiarity: A Review of 30 Years of Research. Journal of Memory and Language: 2002, 46; 441–517
3. Lindsay, D.S., Johnson, M.K. (1991), Recognition memory and source monitoring. Psychological Bulletin, 29(3), 203–205


8. Roediger III, H.L., & McDermott, K.B. (1995). Creating False Memories: Remembering Words not Presented in Lists. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 21(4), 803–814.
8. Roediger III, H.L., & McDermott, K.B. (1995). Creating False Memories: Remembering Words not Presented in Lists. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 21(4), 803–814.
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