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===不安障害=== | ===不安障害=== | ||
基礎研究から、恐怖刺激における扁桃体の役割が明らかにされていたが、不安障害やうつ病患者では、顕在的、あるいは潜在的な恐怖表情刺激に対して、扁桃体の過剰賦活がみられ、この過剰賦活は、抗うつ薬治療により、改善する。多くの不安障害では、島皮質の賦活亢進も生じている<ref name=ref14>19625997<pubmed> | 基礎研究から、恐怖刺激における扁桃体の役割が明らかにされていたが、不安障害やうつ病患者では、顕在的、あるいは潜在的な恐怖表情刺激に対して、扁桃体の過剰賦活がみられ、この過剰賦活は、抗うつ薬治療により、改善する。多くの不安障害では、島皮質の賦活亢進も生じている<ref name=ref14><pubmed>19625997</pubmed></ref>。外傷後ストレス障害では、扁桃体の過剰賦活に加えて、内側前頭皮質の低活性が認められ、前頭皮質の扁桃体への抑制に欠陥が生じているようである。この内側前頭皮質の低活性は、治療により改善し、それは、症状改善とも相関する。他方、強迫性障害の神経回路は、不安障害とは異なっているようで、強迫性障害の構造画像のメタ解析<ref name=ref15><pubmed>19880927</pubmed></ref>では、両側の[[レンズ核]]の体積増大と背内側前頭/前部帯状回の体積減少が認められ、機能画像では、[[眼窩前頭前野]]と尾状核の機能亢進を示す報告が多く、[[眼窩前頭-線条体回路モデル]]が提唱されている<ref name=ref16><pubmed>18061263</pubmed></ref>。 | ||
===気分障害=== | ===気分障害=== | ||
[[気分障害関連]] | [[気分障害関連]]では、大うつ病のかなりの患者で、HPA系の機能亢進が生じていて、それは、うつ病の重症度と相関すると報告されている<ref name=ref17>'''Gelder MG, et al (edn.)'''<br>New Oxford Textbook of Psychiatry, Vol. 1, 2nd edn., Chapter 2.3.3. Neuroendocrinology (Nemeroff CB, Neigh GN), <br>Oxford University Press, Oxford, 2009.</ref>。小児期に虐待を受けた成人は、HPA系の機能亢進が持続し、ストレスに対して、感受性が高いことが示唆されている<ref name=ref8 /> <ref name=ref18><pubmed>22112927</pubmed></ref>。動物実験より、過剰のコルチコステロイドは、海馬の神経細胞に傷害的に作用することが示されているが、大うつ病患者の構造的MRI研究の[[wikipedia:ja:メタ解析|メタ解析]]<ref name=ref19><pubmed>21745692</pubmed></ref>では、海馬体積の減少が認められており、これらの関係が議論されている。また、未服薬の大うつ病患者では、血清BDNFが低下していて、抗うつ薬治療により、この低下は改善した<ref name=ref13 /> <ref name=ref20><pubmed>12842310</pubmed></ref>。これらのことから、[[うつ病の神経可塑性仮説]](neuroplasticity hypothesis)も提唱されている。近年の疫学的研究からは、[[神経症傾向]](neuroticism;傷つきやすく、神経質で、心配性)が高い人は、ストレスフルな生活上の出来事の影響を受けて、大うつ病になりやすいことが示されているが<ref name=ref21><pubmed>17015813</pubmed></ref>、この性格傾向と[[遺伝子多型]]([[5-HTトランスポーター]]遺伝子のSアリル)との関連も示されている<ref name=ref22><pubmed>12869766</pubmed></ref> <ref name=ref23><pubmed>10893498</pubmed></ref>。[[双極性障害]]の機能画像のメタ解析では、辺縁系の高活性と前頭葉の低活性が示されている<ref name=ref24><pubmed>21676596 </pubmed></ref>。 | ||
===統合失調症=== | ===統合失調症=== | ||
統合失調症の構造画像では、患者群で、[[側脳室]]が拡大し、前頭前野-側頭- | 統合失調症の構造画像では、患者群で、[[側脳室]]が拡大し、前頭前野-側頭-辺縁系に軽度の体積減少があることは、ほぼ一致した所見である。とくに前頭前野皮質と上側頭回の変化は、前駆期から発病後の数年間にかけて進行することが、構造的MRIで示され、後期神経発達障害(脳の成熟の障害)仮説が有力となっている<ref name=ref25>'''鈴木道雄'''<br>統合失調症における脳構造.画像診断の臨床的意義.<br>精神経誌 111: 1159-1164, 2009.</ref> <ref name=ref26>'''Sadock BJ, Sadock VA, Ruiz P'''<br>Kaplan & Sadock’s Comprehensive Textbook of Psychiatry, Vol. 1, 9th edn., Chapter 1.10. <br>Cellular and synaptic electrophysiology (Zorumski CF, et al), pp129-147; Chapter 12.7. <br>Structural brain imaging in schizophrenia (Shenton ME, Kubicki M), pp1494-1507; Chapter 12.10. <br>Neurocognition in schizophrenia (Keefe RSE, Eesley CE), pp1531-1541, <br>Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2009.</ref>。ただし、個々の変化は、健常者群との重なりが大きい。[[陰性症状]]、[[幻聴]]や[[思考障害]]と脳の形態や機能との関連も報告されている。[[言語性記憶]]、[[実行機能]]などの認知機能障害が、社会的転帰と関連することが示されている<ref name=ref26 />。統合失調症の睡眠脳波では、[[視床-皮質ネットワーク]]の同期化を反映している[[睡眠紡錘波]]と[[徐波睡眠]]の減少が指摘されている<ref name=ref26 />。 | ||
[[カテコール-O-メチル基転移酵素]](Catechol-O-methyltransferase, COMT)は、細胞質内にあり、[[ドーパミン]]などの[[カテコールアミン]]を分解する酵素である。これには、高活性と低活性の多型があり、158番目のアミノ酸が[[wikipedia:ja:バリン|バリン]](valine)のものは、高活性で、[[wikipedia:ja:メチオニン|メチオニン]](methionine)のものは、低活性である。Val-COMTでは、ドーパミンの分解が促進され、[[作業記憶]] | [[カテコール-O-メチル基転移酵素]](Catechol-O-methyltransferase, COMT)は、細胞質内にあり、[[ドーパミン]]などの[[カテコールアミン]]を分解する酵素である。これには、高活性と低活性の多型があり、158番目のアミノ酸が[[wikipedia:ja:バリン|バリン]](valine)のものは、高活性で、[[wikipedia:ja:メチオニン|メチオニン]](methionine)のものは、低活性である。Val-COMTでは、ドーパミンの分解が促進され、[[作業記憶]]課題の成績がより低いこと、そして、このvalアリルと統合失調症の関連が研究されている<ref name=ref8 />。[[wikipedia:ja:一卵性双生児|一卵性双生児]]の一致率は、約50%で、不一致組では、発症例の方に、脳の形態学的変化が認められる<ref name=ref27><pubmed>20538831</pubmed></ref>。 | ||
統合失調症の感受性遺伝子としては、メタ解析からは、ニューレグリン(neuregulin)、ディスビンディン(dysbindin)との関連が報告された。これらの遺伝子多型が、脳構造や精神生理学的指標と関連すると報告されている(例. ニューレグリンと側脳室の拡大、[[滑動性眼球運動]] | 統合失調症の感受性遺伝子としては、メタ解析からは、ニューレグリン(neuregulin)、ディスビンディン(dysbindin)との関連が報告された。これらの遺伝子多型が、脳構造や精神生理学的指標と関連すると報告されている(例. ニューレグリンと側脳室の拡大、[[滑動性眼球運動]]との関連など<ref name=ref28><pubmed>22019858</pubmed></ref> <ref name=ref29><pubmed>19058791</pubmed></ref>)。生化学的には、[[GABA]]ニューロン上の[[NMDA型グルタミン酸受容体]]の低活性仮説<ref name=ref30><pubmed>16773445</pubmed></ref>が有力である。 | ||
==臨床応用== | ==臨床応用== | ||
生物学的精神医学の研究の臨床応用としては、[[近赤外線スペクトロスコピー]](near-infrared spectroscopy, | 生物学的精神医学の研究の臨床応用としては、[[近赤外線スペクトロスコピー]](near-infrared spectroscopy, NIRS)が検討されている<ref name=ref6 />。NIRSとは、近赤外線が生体を通過する際に[[wikipedia:ja:ヘモグロビン|ヘモグロビン]]より吸収されることを利用して、生体の血液量を非侵襲的に測定する方法である。この検査を用いた言語性課題における血流変化パターンが、大うつ病、双極性障害、あるいは統合失調症において、補助診断の参考になる可能性が示唆されている。 | ||
==学会の動向== | ==学会の動向== | ||
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(執筆者:倉知正佳 担当編集委員:加藤忠史) | (執筆者:倉知正佳 担当編集委員:加藤忠史) |