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狭義の過眠症の診断には、睡眠覚醒中枢の働きを直接評価する方法がないため、二次的に日中の眠気をきたす様々な疾患を否定してから行う除外診断が原則である。まず眠気をきたす薬物使用、季節性感情障害や筋強直性ジストロフィーなど過眠を伴う精神神経疾患を除外する。次に様々な睡眠障害を順次鑑別する。睡眠表(睡眠日誌)により睡眠時間の不足や概日リズム睡眠障害を除外、そして睡眠時無呼吸症候群や周期性四肢運動障害など夜間睡眠に質的障害をもたらす疾患がないことを終夜睡眠ポリグラフ検査で確認する。ナルコレプシーは日中の居眠りの反復と情動脱力発作の存在から、除外診断を待つだけでなく積極的に臨床診断を行うことが可能である。典型的な情動脱力発作の既往の確認が診断の鍵となるが、脱力の有無ではなく、発作経過の体験として聴取すると判断しやすい。 | 狭義の過眠症の診断には、睡眠覚醒中枢の働きを直接評価する方法がないため、二次的に日中の眠気をきたす様々な疾患を否定してから行う除外診断が原則である。まず眠気をきたす薬物使用、季節性感情障害や筋強直性ジストロフィーなど過眠を伴う精神神経疾患を除外する。次に様々な睡眠障害を順次鑑別する。睡眠表(睡眠日誌)により睡眠時間の不足や概日リズム睡眠障害を除外、そして睡眠時無呼吸症候群や周期性四肢運動障害など夜間睡眠に質的障害をもたらす疾患がないことを終夜睡眠ポリグラフ検査で確認する。ナルコレプシーは日中の居眠りの反復と情動脱力発作の存在から、除外診断を待つだけでなく積極的に臨床診断を行うことが可能である。典型的な情動脱力発作の既往の確認が診断の鍵となるが、脱力の有無ではなく、発作経過の体験として聴取すると判断しやすい。 | ||
ナルコレプシーには診断に有用な3つの指標が存在する。ひとつは睡眠ポリグラフ検査上の入眠時レム睡眠の出現である。健常者では約90分の睡眠周期の後半にレム睡眠が出現するのが通常であるが、ナルコレプシー患者では夜間も日中も入眠直後にレム睡眠が出現しやすい。これは1960年Vogel(10)が報告したあと追試で確認され、入眠時レム睡眠期に一致して入眠時幻覚が出現することも確認され(11-14)、以後ナルコレプシーはレム睡眠の発現異常の疾患として注目されている。2つ目は情動脱力発作を伴うナルコレプシー患者の約90%(日本人ではほぼ100%)がHLA-DQB1*06:02遺伝子型をもつことである。1983年に日本人ナルコレプシー症例とHLA-DR2血清型との密接な関連が報告され(15, 16)、その後HLA-DQB1*06:02が人種を越えてナルコレプシーと強い連鎖を示すことが見いだされた(17)。日本人の一般人口では12-13%、白人では20-25%がこの遺伝子型をもつため疾患特異性は低いが、感度は高くHLA遺伝子型が不一致な例は診断を再考する必要がある。3つ目は、情動脱力発作を伴うナルコレプシーの約90%では脳脊髄液中のオレキシンA蛋白濃度が測定限界値以下に低下していること、この所見がナルコレプシーに疾患特異的で発症直後から明瞭な差があることである(18)。死後脳を用いた検討で視床下部に局在する覚醒性のオレキシン細胞が変性脱落することが確認され、脳脊髄液中のオレキシン低値の原因と考えられる(19, 20)。この所見は早期診断のほか身体合併症例や小児例など診断が難しい場合に有用である。 2005年の国際睡眠障害分類第2版(ICSD2)(21)(日本睡眠学会による翻訳版が入手可能(22))では、このうち入眠時レム睡眠期が生じやすい特徴を重視して、ナルコレプシーの病名を含む「情動脱力発作を伴うナルコレプシー」「情動脱力発作を伴わないナルコレプシー」「身体疾患によるナルコレプシー」を分類している。臨床的な持続性の過眠症状があり、終夜睡眠ポリグラフ検査で夜間睡眠が6時間以上で質的障害がないことを確認した上で、翌日の反復睡眠潜時検査(MSLT)で眠気の重症度(平均睡眠潜時8分以下)とレム睡眠への移行のしやすさ(入眠後15分以内にレム睡眠期が生じることが2回以上)を確認することが、ICSD2におけるナルコレプシーの基本的な概念である。明確な情動脱力発作がある場合はPSG-MSLT検査は必須ではないが、確認することが推奨されている。ICSD2の診断基準の要点を表1に示す。 | |||