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Babinskiや Gerstmannが早くから記載しているように、主に左半身麻痺の人において、「麻痺があたかもないように振るまったり、麻痺の存在に関心を示さない」現象が観察されており、anosognosia, denial of illness, lack of insight, organic repressionなどと呼称されてきた。この現象は、健常な知的能力でも発現し、またある障害については自覚しているが、ある障害については気づかないといった選択性があることも知られている。大橋19)はanosognosieを「器質性患者による自己の身体機能欠損の否認」と定義し、左片麻痺の際の麻痺の否認や、Anton症状などの疾病否認を例示し、また関連する病態として、失語や失行の際に見られる機能欠損についての無関心anosodiaphorieや、半側無視症状などを紹介している。大橋の症例では、左片麻痺があるにもかかわらず認めようとしないが、現実に歩こうとはしない、多弁で医師に拒否的で疾病の話を受け入れない、否認を貫く間は多幸的であるなど、統合失調症と極めて相似の病識欠如の病態が示されている。 | Babinskiや Gerstmannが早くから記載しているように、主に左半身麻痺の人において、「麻痺があたかもないように振るまったり、麻痺の存在に関心を示さない」現象が観察されており、anosognosia, denial of illness, lack of insight, organic repressionなどと呼称されてきた。この現象は、健常な知的能力でも発現し、またある障害については自覚しているが、ある障害については気づかないといった選択性があることも知られている。大橋19)はanosognosieを「器質性患者による自己の身体機能欠損の否認」と定義し、左片麻痺の際の麻痺の否認や、Anton症状などの疾病否認を例示し、また関連する病態として、失語や失行の際に見られる機能欠損についての無関心anosodiaphorieや、半側無視症状などを紹介している。大橋の症例では、左片麻痺があるにもかかわらず認めようとしないが、現実に歩こうとはしない、多弁で医師に拒否的で疾病の話を受け入れない、否認を貫く間は多幸的であるなど、統合失調症と極めて相似の病識欠如の病態が示されている。 | ||
以上のように器質疾患でも観察されることから、病識欠如の成因として認知機能障害を想定することが近年行われるようになっている。 | 以上のように器質疾患でも観察されることから、病識欠如の成因として認知機能障害を想定することが近年行われるようになっている。 | ||
病識欠如という現象をセルフモニターの障害として想定する考え方がある。自分の状態を意識する(メタ表象)ためには、ある行動を行うときに一定の目標を自覚しつつ、途中経過を評価し修正することができる(現実の一次表象の照合作業)ことが前提とされ、作動記憶の中央実行系の機能であると考えられている12)。そして中央実行系が障害されると、自発性の減少、保続、場当たり的な行動の増加がおこることが知られ、両側の背外側前頭前野の関与が大きいと考えられている。Amadorら<ref name= | 病識欠如という現象をセルフモニターの障害として想定する考え方がある。自分の状態を意識する(メタ表象)ためには、ある行動を行うときに一定の目標を自覚しつつ、途中経過を評価し修正することができる(現実の一次表象の照合作業)ことが前提とされ、作動記憶の中央実行系の機能であると考えられている12)。そして中央実行系が障害されると、自発性の減少、保続、場当たり的な行動の増加がおこることが知られ、両側の背外側前頭前野の関与が大きいと考えられている。Amadorら<ref name=amador_Am_J_Psychiatry><pubmed>8494061</pubmed></ref>は、障害認識は modality-specificなものであるので、ある特定の高次連合野の障害というよりは、言語、知覚、記憶などの機能の各単位と、作動記憶のような中心的な意識野との連合が不十分ではないかと推論している。 | ||
一方、前頭前野内側部が自己の感情状態、思考、自己の性格特性など自分自身の主観的状態を含む内的表象と密接に関連していることから26)、この部位の関与も推定できる。なお Parelladaら<ref><pubmed>20884756</pubmed></ref>は初回エピソード精神病患者(統合失調症圏53例、それ以外57例)を踏査し、前頭葉および頭頂葉の灰白質の減少が2年後の精神病症状についての病識と有意に相関することを報告している。 | 一方、前頭前野内側部が自己の感情状態、思考、自己の性格特性など自分自身の主観的状態を含む内的表象と密接に関連していることから26)、この部位の関与も推定できる。なお Parelladaら<ref><pubmed>20884756</pubmed></ref>は初回エピソード精神病患者(統合失調症圏53例、それ以外57例)を踏査し、前頭葉および頭頂葉の灰白質の減少が2年後の精神病症状についての病識と有意に相関することを報告している。 | ||
これまでの実証的研究では、Youngら28)は、31例の統合失調症患者を対象に、前頭葉機能を反映すると考えられるWisconsin Card Sorting Test (WCST), verbal fluency test, trail making testを実施し、現在の症状に対する認識と誤った帰属(SUMDによる評価)とが、 WCSTの成績低下と相関していたことを報告しているなど、前頭葉機能と病識との関連を報告したものが多くみられる。 | これまでの実証的研究では、Youngら28)は、31例の統合失調症患者を対象に、前頭葉機能を反映すると考えられるWisconsin Card Sorting Test (WCST), verbal fluency test, trail making testを実施し、現在の症状に対する認識と誤った帰属(SUMDによる評価)とが、 WCSTの成績低下と相関していたことを報告しているなど、前頭葉機能と病識との関連を報告したものが多くみられる。 |