145
回編集
Takumitsutsui (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
Takumitsutsui (トーク | 投稿記録) 細編集の要約なし |
||
1行目: | 1行目: | ||
=== 英語:posttraumatic stress disorder、英略語:PTSD === | === 英語:posttraumatic stress disorder、英略語:PTSD === | ||
同義語:心的外傷後ストレス障害 | 同義語:心的外傷後ストレス障害 | ||
77行目: | 77行目: | ||
==== 抗アドレナリン作動薬 ==== | ==== 抗アドレナリン作動薬 ==== | ||
<pre>====抗アドレナリン作動薬====</pre> | <pre>====抗アドレナリン作動薬====</pre> | ||
抗アドレナリン作動薬にはprazosin、propranolol、clonidine、guanfacineが含まれる。このうち、guanfacineは日本国内では2005年に製造が中止されている。これらの薬剤は一般的に安全性の高い薬剤であるが血圧の低下などの可能性に留意する必要がある。prazosinは不眠と悪夢への有効性が小規模のRCTで示されている。propranololは小児を対象とした試験で過覚醒と再体験への有効性が示されている。clonidineはオープン試験で解離症状に有効である可能性が報告されている。 | 抗アドレナリン作動薬にはprazosin、propranolol、clonidine、guanfacineが含まれる。このうち、guanfacineは日本国内では2005年に製造が中止されている。これらの薬剤は一般的に安全性の高い薬剤であるが血圧の低下などの可能性に留意する必要がある。prazosinは不眠と悪夢への有効性が小規模のRCTで示されている。propranololは小児を対象とした試験で過覚醒と再体験への有効性が示されている。clonidineはオープン試験で解離症状に有効である可能性が報告されている。 | ||
==== 非定型抗精神病薬 ==== | ==== 非定型抗精神病薬 ==== | ||
<pre>====非定型抗精神病薬====</pre> | <pre>====非定型抗精神病薬====</pre> | ||
非定型抗精神病薬であるrisperidone、olanzapine、quetiapineはSSRIで症状が残存した時、治療抵抗性のPTSD患者への増強療法として複数の小規模なランダム化比較試験で有効性が報告されている。過覚醒、攻撃行動、妄想や精神病性の症状を呈するPTSD患者への効果も期待されている。 | 非定型抗精神病薬であるrisperidone、olanzapine、quetiapineはSSRIで症状が残存した時、治療抵抗性のPTSD患者への増強療法として複数の小規模なランダム化比較試験で有効性が報告されている。過覚醒、攻撃行動、妄想や精神病性の症状を呈するPTSD患者への効果も期待されている。 | ||
==== Benzodiazepine系薬 ==== | ==== Benzodiazepine系薬 ==== | ||
<pre>====Benzodiazepine系薬====</pre> | <pre>====Benzodiazepine系薬====</pre> | ||
PTSDの中核症状への効果はないとされ、単独での治療は推奨されていない。 | PTSDの中核症状への効果はないとされ、単独での治療は推奨されていない。 | ||
==== 抗けいれん薬(気分安定薬) ==== | ==== 抗けいれん薬(気分安定薬) ==== | ||
111行目: | 111行目: | ||
<pre>=====認知療法===== | <pre>=====認知療法===== | ||
</pre> | </pre> | ||
Ehlersらが考案した治療法である。週1回90分のセッションを12回実施する方法が標準とされるが、1週間連日集中的に行う方法もある。トラウマ体験の物語作りと想像での再体験を通じて、体験に対して現在では脅威にならない意味づけを与えるなど認知の再構成を重視した治療法である。 | Ehlersらが考案した治療法である。週1回90分のセッションを12回実施する方法が標準とされるが、1週間連日集中的に行う方法もある。トラウマ体験の物語作りと想像での再体験を通じて、体験に対して現在では脅威にならない意味づけを与えるなど認知の再構成を重視した治療法である。 | ||
===== 子どもへのトラウマフォーカスト認知行動療法(TF-CBT) ===== | ===== 子どもへのトラウマフォーカスト認知行動療法(TF-CBT) ===== | ||
<pre>=====子どもへのトラウマフォーカスト認知行動療法(TF-CBT)===== | <pre>=====子どもへのトラウマフォーカスト認知行動療法(TF-CBT)===== | ||
</pre> | </pre> | ||
子どものPTSDに対してエビデンスが最も蓄積されているのがTF-CBTである。その構成要素はPRACTICEの頭文字で表されており、順に<u>P</u>sychoeducation and parenting skill(心理教育と親の役割の理解)、<u>R</u>elaxation(リラクゼーション)、<u>A</u>ffective expression and regulation(感情の表出と調整)、<u>C</u>ognitive coping(認知的な対処法)、<u>T</u>rauma narrative development and processing(トラウマナラティブと非機能的認知の修正)、<u>I</u>n vivo gradual exposure(トラウマ記憶への漸進的曝露)、<u>C</u>onjoint parent child sessions(親子合同セッション)、<u>E</u>nhancing safety and future development(安心と発達の強化)である。PE療法と比べてトラウマ記憶への曝露はゆるやかに行うことが特徴とされる。 | 子どものPTSDに対してエビデンスが最も蓄積されているのがTF-CBTである。その構成要素はPRACTICEの頭文字で表されており、順に<u>P</u>sychoeducation and parenting skill(心理教育と親の役割の理解)、<u>R</u>elaxation(リラクゼーション)、<u>A</u>ffective expression and regulation(感情の表出と調整)、<u>C</u>ognitive coping(認知的な対処法)、<u>T</u>rauma narrative development and processing(トラウマナラティブと非機能的認知の修正)、<u>I</u>n vivo gradual exposure(トラウマ記憶への漸進的曝露)、<u>C</u>onjoint parent child sessions(親子合同セッション)、<u>E</u>nhancing safety and future development(安心と発達の強化)である。PE療法と比べてトラウマ記憶への曝露はゆるやかに行うことが特徴とされる。 | ||
==== EMDR ==== | ==== EMDR ==== | ||
138行目: | 138行目: | ||
=== 神経生理学的知見 === | === 神経生理学的知見 === | ||
<pre>===神経生理学的知見===</pre> | <pre>===神経生理学的知見===</pre> | ||
[[Image:Tutsui file 3.jpg|right|579x347px|fear circuit]] PTSDの再体験、過覚醒症状は トラウマ体験に対する[[恐怖条件づけ]]とみなすと理解しやすく、曝露療法が有効であることも恐怖条件づけの消去現象と考えると理解しやすい。[[恐怖条件づけ]]を司る[[扁桃体]]と内側前頭前野との連絡についての解剖学的知見や内側前頭前野の破壊が恐怖の消去を阻害することを示した動物実験からの知見などが集積され、現在は[[扁桃体]]、内側前頭前野、[[海馬]]などを含んだ神経回路(fear-circuit)モデルが想定されている(図2)。神経回路モデルに関して形態学的な研究も行われている。PTSDと診断された者の[[海馬]] | [[Image:Tutsui file 3.jpg|right|579x347px|fear circuit]] PTSDの再体験、過覚醒症状は トラウマ体験に対する[[恐怖条件づけ]]とみなすと理解しやすく、曝露療法が有効であることも恐怖条件づけの消去現象と考えると理解しやすい。[[恐怖条件づけ]]を司る[[扁桃体]]と内側前頭前野との連絡についての解剖学的知見や内側前頭前野の破壊が恐怖の消去を阻害することを示した動物実験からの知見などが集積され、現在は[[扁桃体]]、内側前頭前野、[[海馬]]などを含んだ神経回路(fear-circuit)モデルが想定されている(図2)。神経回路モデルに関して形態学的な研究も行われている。PTSDと診断された者の[[海馬]]体積に差は認めないする報告<ref><pubmed>11481158</ref>もあるが、CAPS>65の重症PTSD患者の一卵性の同胞における海馬が小さいことが示され、海馬体積はPTSDの病態に影響を与えている脆弱因子である可能性が示唆されている<ref><pubmed>12379862</ref>。また、同様の一卵性双生児の研究で、PTSDの影響によるpregenual anterior cingulate cortexの体積減少の可能性も示唆されている<ref><pubmed>17825801</ref>。<br> | ||
その他、PTSDがストレス反応であるとの観点からストレスホルモンについての研究がなされている。24時間血漿コルチゾール値で夜間と早朝のベースラインレベルがうつ病患者や健常対照群と比較して有意に低く、視床下部-下垂体-副腎皮質系機能(hypothalamic-pituitary-adrenal:HPA系)の調節異常が示唆されている。また、デキサメタゾン試験によるコルチゾール分泌の過剰抑制、リンパ球グルココルチコイド受容体の数の増加と感受性亢進と視床下部におけるコルチコトロピン放出因子の分泌亢進が示唆されている。 | その他、PTSDがストレス反応であるとの観点からストレスホルモンについての研究がなされている。24時間血漿コルチゾール値で夜間と早朝のベースラインレベルがうつ病患者や健常対照群と比較して有意に低く、視床下部-下垂体-副腎皮質系機能(hypothalamic-pituitary-adrenal:HPA系)の調節異常が示唆されている。また、デキサメタゾン試験によるコルチゾール分泌の過剰抑制、リンパ球グルココルチコイド受容体の数の増加と感受性亢進と視床下部におけるコルチコトロピン放出因子の分泌亢進が示唆されている。 |
回編集