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'''前頭前野'''  
'''前頭前野'''  


前頭全野(Prefrontal Cortex: PFC)は記憶(とくにエピソード記憶)の想起・符号化の両方に関わっていると考えられている。以前より,前頭全野におけるエピソード記憶の処理は左右半球で機能が非対称だと考えられてきた(hemispheric encoding/retrival asymmetry [HERA] model<ref><pubmed> 8134342 </pubmed></ref>)。
 前頭全野(Prefrontal Cortex: PFC)は記憶(とくにエピソード記憶)の想起・符号化の両方に関わっていると考えられている。以前より,前頭全野におけるエピソード記憶の処理は左右半球で機能が非対称だと考えられてきた(hemispheric encoding/retrival asymmetry [HERA] model<ref><pubmed> 8134342 </pubmed></ref>)。
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近年では,想起と符号化の左右半球での非対称性についてより詳しい分析がなされている。たとえば,右の前頭前野がヒューリスティックな評価処理を,左の前頭前野,または左右両方の前頭前野がシステマティック処理を担っているとする見解<ref><pubmed> 21227255 </pubmed></ref>,左半球が記憶の想起と生成に,右半球が記憶のモニタリングに関わっているとする見解(production-monitoring hypothesis<ref><pubmed> 12676062 </pubmed></ref>)がある。どちらもより分化していない情報は右半球でモニタされ,システマティックな想起は左半球で行われているとする点は共通しているが,異なる点もあり,左右半球の非対称性については未だ議論の余地が残っている。
 近年では,想起と符号化の左右半球での非対称性についてより詳しい分析がなされている。たとえば,右の前頭前野がヒューリスティックな評価処理を,左の前頭前野,または左右両方の前頭前野がシステマティック処理を担っているとする見解<ref><pubmed> 21227255 </pubmed></ref>,左半球が記憶の想起と生成に,右半球が記憶のモニタリングに関わっているとする見解(production-monitoring hypothesis<ref><pubmed> 12676062 </pubmed></ref>)がある。どちらもより分化していない情報は右半球でモニタされ,システマティックな想起は左半球で行われているとする点は共通しているが,異なる点もあり,左右半球の非対称性については未だ議論の余地が残っている。
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また,背外側部(dorsolateral PFC)と前頭前野外側部(lateral anterior PFC)は情報源を記憶する際に,特徴によらずさまざまなカテゴリ一般の処理に関係しているのに対し,腹外側部(ventrolateral PFC)はより特定の特徴に特化した処理を行っていると考えられている<ref><pubmed> 18787230 </pubmed></ref>。
 また,背外側部(dorsolateral PFC)と前頭前野外側部(lateral anterior PFC)は情報源を記憶する際に,特徴によらずさまざまなカテゴリ一般の処理に関係しているのに対し,腹外側部(ventrolateral PFC)はより特定の特徴に特化した処理を行っていると考えられている<ref><pubmed> 18787230 </pubmed></ref>。




'''頭頂葉と後頭葉'''  
'''頭頂葉と後頭葉'''  


後頭葉ではエピソード記憶の符号化の際にカテゴリ特異な活動を行っていると考えられており,例えば異なる種類の材質や言葉を符号化する場合には,紡錘状回の異なる部位が活性化される。このような後頭葉の活動は前頭全野からのトップダウンの変調を受けているとされている<ref><pubmed> 16605307 </pubmed></ref>。
 後頭葉ではエピソード記憶の符号化の際にカテゴリ特異な活動を行っていると考えられており,例えば異なる種類の材質や言葉を符号化する場合には,紡錘状回の異なる部位が活性化される。このような後頭葉の活動は前頭全野からのトップダウンの変調を受けているとされている<ref><pubmed> 16605307 </pubmed></ref>。


後頭葉のいくつかの領域が符号化の際に特徴やカテゴリに選択的な活動を見せるのに対し,頭頂葉は特徴(位置,色など)に関わらず,一般に符号化や想起に関わっていると考えられている。例えば頭頂間溝(intraparietal sulcus)はいくつかの特徴を統合する際に活動が活発になる領域であるが,同時にある一つの特徴ではなくさまざまな特徴を符号化する際にも活発になることが知られている<ref><pubmed> 17088219 </pubmed></ref>。
 後頭葉のいくつかの領域が符号化の際に特徴やカテゴリに選択的な活動を見せるのに対し,頭頂葉は特徴(位置,色など)に関わらず,一般に符号化や想起に関わっていると考えられている。例えば頭頂間溝(intraparietal sulcus)はいくつかの特徴を統合する際に活動が活発になる領域であるが,同時にある一つの特徴ではなくさまざまな特徴を符号化する際にも活発になることが知られている<ref><pubmed> 17088219 </pubmed></ref>。
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このような特徴一般の処理と,その他の領域で行われている特徴に特異な処理が前頭全野からどのような変調を受けているかを調べることは,ソース記憶の主観的経験の理解につながると考えられている。
 このような特徴一般の処理と,その他の領域で行われている特徴に特異な処理が前頭全野からどのような変調を受けているかを調べることは,ソース記憶の主観的経験の理解につながると考えられている。




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= 今後の展望  =
= 今後の展望  =


これまで盛んに行われてきた神経イメージング法を用いた研究は,ソースモニタリングが脳のどのような領域でどのように行われているかについての知見を深めてきた。しかし,これらの研究はいまだ現象学的体験としての記憶がどのようなものかについてを解明するにいたっていない。記憶と関連する脳領域だけでなく,主観的経験と関連する領域がどこであり,記憶とどのように関係しているかが体系的に整理されることが期待される。
 これまで盛んに行われてきた神経イメージング法を用いた研究は,ソースモニタリングが脳のどのような領域でどのように行われているかについての知見を深めてきた。しかし,これらの研究はいまだ現象学的体験としての記憶がどのようなものかについてを解明するにいたっていない。記憶と関連する脳領域だけでなく,主観的経験と関連する領域がどこであり,記憶とどのように関係しているかが体系的に整理されることが期待される。
最近では,「親近性」と「回想」という,近いけれども異なった感覚を呼び起こす2つの概念が,現象学的経験への理解を深めるのに重要な概念として期待されている<ref name=Mitchell />。回想については多くの研究が進められ,どのようなプロセスにより回想の感覚が強められるかなどかなりのことが明らかとなってきている一方,親近性はより複雑な処理から生じる感覚であるため,多くのことがわかっていない。これらの概念を理解することでソースモニタリングについてのより深い知見が得られると考えられる。
最近では,「親近性」と「回想」という,近いけれども異なった感覚を呼び起こす2つの概念が,現象学的経験への理解を深めるのに重要な概念として期待されている<ref name=Mitchell />。回想については多くの研究が進められ,どのようなプロセスにより回想の感覚が強められるかなどかなりのことが明らかとなってきている一方,親近性はより複雑な処理から生じる感覚であるため,多くのことがわかっていない。これらの概念を理解することでソースモニタリングについてのより深い知見が得られると考えられる。


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