「ソース・モニタリング」の版間の差分

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'''側頭葉内側部'''  
'''側頭葉内側部'''  


:側頭葉内側部(Medial Temporal Lobes;以下MTL)は歯状回,海馬,鉤状回,内嗅皮質,扁桃体を含んだ領域で,一般にエピソード記憶と関係していると考えられている。ソースモニタリングにとって大事なのは特徴や特徴群を統合する過程であるが,これらの過程は,回想・親近性といった記憶と関連する感情とともに,とくに海馬や海馬傍回で生じると考えられている。
: 側頭葉内側部(Medial Temporal Lobes;以下MTL)は歯状回,海馬,鉤状回,内嗅皮質,扁桃体を含んだ領域で,一般にエピソード記憶と関係していると考えられている。ソースモニタリングにとって大事なのは特徴や特徴群を統合する過程であるが,これらの過程は,回想・親近性といった記憶と関連する感情とともに,とくに海馬や海馬傍回で生じると考えられている。
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: DRMパラダイム(Deese-Roediger-McDermott paradigm<ref name=ref8>'''H L Roediger III, K B McDermott'''<br>Creating False Memories: Remembering Words not Presented in Lists<br>''Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition,'':1995, 21(4), 803–814</ref>) などにおいて,海馬は,「覚えている」かをテストするときの方が「知っている」かをテストするときより,また既出かどうかを正しく同定できたアイテムを符号化するときの方が間違って符号化するときよりも活動が活発になることが知られている<ref name=Davachi><pubmed> 17097284 </pubmed></ref>。これは,アイテムを符号化し記憶している最中に,海馬が記憶特徴と複雑なエピソード記憶を結びつけるのに関わっていることを示している。
:DRMパラダイム(Deese-Roediger-McDermott paradigm<ref name=ref8>'''H L Roediger III, K B McDermott'''<br>Creating False Memories: Remembering Words not Presented in Lists<br>''Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition,'':1995, 21(4), 803–814</ref>) などにおいて,海馬は,「覚えている」かをテストするときの方が「知っている」かをテストするときより,また既出かどうかを正しく同定できたアイテムを符号化するときの方が間違って符号化するときよりも活動が活発になることが知られている<ref name=Davachi><pubmed> 17097284 </pubmed></ref>。これは,アイテムを符号化し記憶している最中に,海馬が記憶特徴と複雑なエピソード記憶を結びつけるのに関わっていることを示している。


:c.f. DRMパラダイム:学習時に実際には呈示されない単語であるルアー項目(例えば,太陽) の連想語(例えば,月,光)をから成り立つリスト(以下DRMリスト)を呈示する。そしてテスト時には学習項目とルアー項目,その他の未学習項目からなるDRMリストを用いて再認判断を求める。すると,ルアー項目は他の未学習項目と比較して高い確率で再認される。
:c.f. DRMパラダイム:学習時に実際には呈示されない単語であるルアー項目(例えば,太陽) の連想語(例えば,月,光)をから成り立つリスト(以下DRMリスト)を呈示する。そしてテスト時には学習項目とルアー項目,その他の未学習項目からなるDRMリストを用いて再認判断を求める。すると,ルアー項目は他の未学習項目と比較して高い確率で再認される。


:海馬の周辺に存在する海馬傍回は海馬とは異なり,新しいアイテムを既出だとしてしまう不正解やフォルス・アラームのときに活動が活発になるが,既出のアイテムをミスしてしまうときには活発にはならない。また,同じドメイン(言葉-言葉,顔-顔など)に類するアイテムをまとめるときには海馬傍回の活動が活発になっていることなどから,海馬傍回は同じドメインに所属する特徴の関連づけに関わっていると考えられる<ref name=Davachi /><ref><pubmed> 17270487 </pubmed></ref>。
: 海馬の周辺に存在する海馬傍回は海馬とは異なり,新しいアイテムを既出だとしてしまう不正解やフォルス・アラームのときに活動が活発になるが,既出のアイテムをミスしてしまうときには活発にはならない。また,同じドメイン(言葉-言葉,顔-顔など)に類するアイテムをまとめるときには海馬傍回の活動が活発になっていることなどから,海馬傍回は同じドメインに所属する特徴の関連づけに関わっていると考えられる<ref name=Davachi /><ref><pubmed> 17270487 </pubmed></ref>。
これらのMTLと回想や親近性を結びつける研究の多くは「誤った情報源の判断は親近性を反映している」という仮定を前提にしているが,この想定自体が正しいかは議論の余地が残る。さらに,記憶の想起中にfMRIでMTLの活動を記録するには技術的に難しい点もあるため,回想や親近性といった感情的なものとMTLの関係はさらに詳しく見ていく必要がある。
これらのMTLと回想や親近性を結びつける研究の多くは「誤った情報源の判断は親近性を反映している」という仮定を前提にしているが,この想定自体が正しいかは議論の余地が残る。さらに,記憶の想起中にfMRIでMTLの活動を記録するには技術的に難しい点もあるため,回想や親近性といった感情的なものとMTLの関係はさらに詳しく見ていく必要がある。


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'''前頭前野'''  
'''前頭前野'''  


:前頭全野(Prefrontal Cortex: PFC)は記憶(とくにエピソード記憶)の想起・符号化の両方に関わっていると考えられている。以前より,前頭全野におけるエピソード記憶の処理は左右半球で機能が非対称だと考えられてきた(hemispheric encoding/retrival asymmetry [HERA] model<ref><pubmed> 8134342 </pubmed></ref>)。
: 前頭全野(Prefrontal Cortex: PFC)は記憶(とくにエピソード記憶)の想起・符号化の両方に関わっていると考えられている。以前より,前頭全野におけるエピソード記憶の処理は左右半球で機能が非対称だと考えられてきた(hemispheric encoding/retrival asymmetry [HERA] model<ref><pubmed> 8134342 </pubmed></ref>)。
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: 近年では,想起と符号化の左右半球での非対称性についてより詳しい分析がなされている。たとえば,右の前頭前野がヒューリスティックな評価処理を,左の前頭前野,または左右両方の前頭前野がシステマティック処理を担っているとする見解<ref><pubmed> 21227255 </pubmed></ref>,左半球が記憶の想起と生成に,右半球が記憶のモニタリングに関わっているとする見解(production-monitoring hypothesis<ref><pubmed> 12676062 </pubmed></ref>)がある。どちらもより分化していない情報は右半球でモニタされ,システマティックな想起は左半球で行われているとする点は共通しているが,異なる点もあり,左右半球の非対称性については未だ議論の余地が残っている。
:近年では,想起と符号化の左右半球での非対称性についてより詳しい分析がなされている。たとえば,右の前頭前野がヒューリスティックな評価処理を,左の前頭前野,または左右両方の前頭前野がシステマティック処理を担っているとする見解<ref><pubmed> 21227255 </pubmed></ref>,左半球が記憶の想起と生成に,右半球が記憶のモニタリングに関わっているとする見解(production-monitoring hypothesis<ref><pubmed> 12676062 </pubmed></ref>)がある。どちらもより分化していない情報は右半球でモニタされ,システマティックな想起は左半球で行われているとする点は共通しているが,異なる点もあり,左右半球の非対称性については未だ議論の余地が残っている。
: また,背外側部(dorsolateral PFC)と前頭前野外側部(lateral anterior PFC)は情報源を記憶する際に,特徴によらずさまざまなカテゴリ一般の処理に関係しているのに対し,腹外側部(ventrolateral PFC)はより特定の特徴に特化した処理を行っていると考えられている<ref><pubmed> 18787230 </pubmed></ref>。
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:また,背外側部(dorsolateral PFC)と前頭前野外側部(lateral anterior PFC)は情報源を記憶する際に,特徴によらずさまざまなカテゴリ一般の処理に関係しているのに対し,腹外側部(ventrolateral PFC)はより特定の特徴に特化した処理を行っていると考えられている<ref><pubmed> 18787230 </pubmed></ref>。




'''頭頂葉と後頭葉'''  
'''頭頂葉と後頭葉'''  


:後頭葉ではエピソード記憶の符号化の際にカテゴリ特異な活動を行っていると考えられており,例えば異なる種類の材質や言葉を符号化する場合には,紡錘状回の異なる部位が活性化される。このような後頭葉の活動は前頭全野からのトップダウンの変調を受けているとされている<ref><pubmed> 16605307 </pubmed></ref>。後頭葉のいくつかの領域が符号化の際に特徴やカテゴリに選択的な活動を見せるのに対し,頭頂葉は特徴(位置,色など)に関わらず,一般に符号化や想起に関わっていると考えられている。例えば頭頂間溝(intraparietal sulcus)はいくつかの特徴を統合する際に活動が活発になる領域であるが,同時にある一つの特徴ではなくさまざまな特徴を符号化する際にも活発になることが知られている<ref><pubmed> 17088219 </pubmed></ref>。
: 後頭葉ではエピソード記憶の符号化の際にカテゴリ特異な活動を行っていると考えられており,例えば異なる種類の材質や言葉を符号化する場合には,紡錘状回の異なる部位が活性化される。このような後頭葉の活動は前頭全野からのトップダウンの変調を受けているとされている<ref><pubmed> 16605307 </pubmed></ref>。後頭葉のいくつかの領域が符号化の際に特徴やカテゴリに選択的な活動を見せるのに対し,頭頂葉は特徴(位置,色など)に関わらず,一般に符号化や想起に関わっていると考えられている。例えば頭頂間溝(intraparietal sulcus)はいくつかの特徴を統合する際に活動が活発になる領域であるが,同時にある一つの特徴ではなくさまざまな特徴を符号化する際にも活発になることが知られている<ref><pubmed> 17088219 </pubmed></ref>。
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: このような特徴一般の処理と,その他の領域で行われている特徴に特異な処理が前頭全野からどのような変調を受けているかを調べることは,ソース記憶の主観的経験の理解につながると考えられている。
:このような特徴一般の処理と,その他の領域で行われている特徴に特異な処理が前頭全野からどのような変調を受けているかを調べることは,ソース記憶の主観的経験の理解につながると考えられている。
 
 
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